Ⅰ 四聖獣編
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✴︎2✴︎ 裏切りの門
一時間後。
幽助、桑原、未来の三人は四聖獣のアジトである迷宮城を目前としていた。
「へ~。オレが一度死んだ時と状況が似てンな」
「その一度死んだって話、ほんとにほんとなの?」
迷宮城に着くまでに、三人は自己紹介も兼ねてお互いのことについて話していた。
幽助は未来に四聖獣のことや、霊界探偵になった経緯について説明した。
桑原は自分のケンカの日々や、愛猫である永吉のことなど。
今はちょうど未来が、自分が異世界トリップする直前に起こった出来事を述べたところだ。
「ケケケケ」
「くせー。くせーぞ」
「ひひひ。人間のにおいだ」
気づけば腐餓鬼に囲まれていた三人。
「また変なのがでてきた~」
「くそ!大量だな」
「このままじゃやられちまう!」
幽助と桑原は未来をかばいながら戦うが、腐餓鬼の数の多さに苦戦を強いられる。
そのとき。
「おい!こんな奴等にてこずってる様じゃ城に入ることすらできないぞ!」
突然現れた二人組が簡単に大勢の腐餓鬼を片付けてしまった。
(これと似たような光景を一時間前にも見たような…)
未来はデジャヴ感に襲われる。
「く、蔵馬と飛影じゃねーか!なんでおめーら!?」
二人の顔を確認した幽助が叫んだ。
「いわゆる社会復帰のための奉仕活動ってとこかな。君達に協力することで免罪も可能ということになっている」
「そっか!コエンマもイキな事してくれるじゃねーか」
(なんかよくわかんないけど、とにかくこの二人も一緒に四聖獣を倒してくれるみたい)
すこぶる強い新たな二人組の登場に面食らいつつ、未来は幽助らの会話を聞いて思った。
「紹介すんぜ!蔵馬と飛影だ」
「よろしく」
幽助に紹介され、蔵馬が会釈する。長髪長身の、えらく顔立ちの整った人物だ。
「桑原和真だ。よろしくな」
「永瀬未来です。戦いはできないんですけど邪魔にならないようにするので、よろしく…」
先程蔵馬と飛影の強さを見せつけられ、なんの戦力にもならない自分が場違いに思えた未来は控えめに挨拶した。
「未来さんは異世界から来たんすよね!」
「うん。自分でも信じられないけどね」
「で、皿屋敷にいると危険だっつーんでここに連れてきたんだよな。ま、詳しい話は後だ!」
幽助が話を切り上げ、一同は迷宮城の入口へ向かった。
(異世界から来ただと…!?魔界や霊界を行き来するのとは訳が違う。確かに彼女からは妖気でも霊気でもない“気”を感じるな…)
蔵馬は入口へ足を運ばせながら考えを巡らせていた。
「おい。言っておくがな」
そこで、今まで黙っていた小柄な吊り目の少年―飛影が初めて口を開く。
「蔵馬はどうか知らんがオレが興味あるのは四聖獣が持つ宝や妖具だ。貴様らに協力する気なんかまったくないからな!」
「なんだコイツは?ああ!?背丈の割にゃやけに態度でけーなコラ」
「死にたいのか貴様?」
「なにおォコラてめーやんのかオイ!?」
「ちょ、ちょっと今けんかしてどうするの!?」
出会って早々言い争いを始めた飛影と桑原の二人に、未来は焦る。
「やめろ飛影。 揉め事はこの仕事が終わった後だ」
蔵馬の一言でなんとかその場はおさまったが、またすぐいさかいを起こしそうな二人に未来はハラハラする。
(大丈夫かなあ。このメンバー…)
これからの戦いに一抹の不安を覚えつつ、未来たちは迷宮城の入口に到着した。
「ここが入口かあ。かなり長いトンネルみたいな門だね…って、な、何あれ!?」
トンネル型の門を進んでいると、前方から一つ目のコウモリのような生き物が飛んできた。
「ようこそ迷宮城へ。私はこの門の番人です。この城に入らんとする者達は裏切りの門の審判を受けなければなりません」
そう言って門番が奥の壁にあるレバーを下げると、ゴゴゴゴゴ…と低い音を轟かせ五人の頭上へ天井が降りてきた。
「くっ!」
「うおお!」
「…っ」
押し潰されそうになりながらも、五人は必死で天井を支える。
「その門は支えている者の力を読み取って、ギリギリ堪え得る重さで重圧をかけます。ひとりでも力を抜けば残りの者は全て潰されますよ。かと言って誰も逃げようとしなければ、最後には力尽きて全員死ぬでしょうねえ…」
おかしくてたまらないとでもいうように、門番はその一つしかない目を細める。
「ううっ くそ…どうすりゃいいんだ」
歯を食いしばって、幽助は重さに堪える。
「みんな…ごめん…私もう無理かも…」
ほかの四人とは比べものにならないほど体力も筋力もない未来の体は、押しかかる重さに悲鳴をあげていた。あまりのつらさに視界もぼやけてくる。
「なっおい!堪えろ!みんな潰されんだろーが!」
幽助の言葉も空しく、未来は天井から手を離しバタッとその場に倒れた。増加するであろう圧力を覚悟する一同だが。
「なあ桑原…重さ変わったと思うか?」
「いや、キツイのに変わりはねーが…。未来さん、大丈夫すか!?」
「ん…」
一瞬気を失っていた未来が目を覚ます。
「あれ!?潰されてない…。みんな大丈夫なの!?」
「いっいいから早くレバー上げに行ってくれ!」
幽助に言われ、未来はトンネル型の門からはい出てレバーを上げに向かう。
「きゃあっ! キモすぎ!来ないでよお!」
しかし、行く手を阻もうとするようにパタパタと門番が未来へ向かって飛んできた。
「オイそんなのにかまわねーで早くしろ!」
「未来さん頼む早く…」
「くっ…」
「貴様オレを怒らせたいのか?…うっ!」
限界が近づく幽助、桑原、蔵馬、飛影の四人。
「や、やめてーっ!こっち来ないで!」
「ホホホホホホ…」
バサバサと羽をはためかせる門番に追いかけられ、半泣きの未来が逃げる。
(みんな死んじゃう!早くしなきゃ!)
気味の悪い門番に阻まれながらも、必死に未来はレバーへ近づこうとする。
「ぐっ…待ってられねえ!飛影!」
このままでは未来がレバーにたどり着く前に皆の力が尽きてしまうと、幽助が飛影へ叫ぶ。
「レバーを上げに行ってくれ!この中で一番すばやいのは飛影、オメーだ!」
思いもよらない幽助の言葉に、飛影はその大きな三白眼をさらに見開く。
「バカヤロ浦飯!血迷ったか!?そいつは信用できねー!オマエが行け!」
「オレが全霊気を放出すれば短い間ならオメーの分も支えられる!行ってくれ飛影!」
桑原に咎められても、一分も幽助は動じない。
自分を無条件に信頼してきたおかしな男を、汗をかく飛影が信じられないものを見るような目で見つめる。
「まかせたぜ!」
他者から初めて受ける真っ直ぐな眼差しが、飛影の心を揺さぶった。
「み、みんなお待たせ!」
飛影が天井からその手を離しかけた時、やっと未来がレバーにたどり着く。
「止まった!」
門番に触れないよう細心の注意をはらって未来がレバーを引き上げると同時、天井は重圧をかけるのをやめた。
「ごめんね、すぐレバー上げれなくて…」
めでたく四人がトンネル型の門から出てくると、開口一番に未来が謝った。
「いいんすよ未来さん!!悪いのは全部あの一つ目のコウモリみてーなヤローですから!!」
申し訳ないと落ち込む未来に、滅相もないと桑原。
「あのままレバー上げられなくても、飛影が行ってくれてただろーしな」
「……」
ニッと笑った幽助に小突かれた飛影は、黙ったままじっと未来の方へ顔を向ける。
(や、やっぱ怒ってる!?)
未来は再度謝ろうと口を開いたが…
「…フン」
ザシュッと歯切れのよい音がしたかと思えば、飛影が刀で門番を真っ二つに切り裂いていた。
…どうやら怒りの矛先が未来ではなく門番に向いたらしい。
「ギエェエェ…」
門番は悶え苦しみながら、どこかへ去っていった。
「でもよ、一人でも力を抜くと潰されんじゃなかったのか?あの門番のハッタリかよ?」
不思議そうに幽助が言う。
「もしかして私の力が弱すぎたから、圧力に差がつかなかったのかな?」
「なるほど…」
未来の仮説に納得する幽助と桑原。
表情から察するに、蔵馬だけはこうなることが予測できていたようだ。
「貴様の無能さが逆に役に立ったな」
「なっ…」
不躾な飛影の言い草に、言葉を失う未来。
ごもっともとはいえ、初対面の相手にストレートな暴言を吐かれ動揺した。
「気にしないでくれ。彼なりの礼のつもりなんだ」
「そうなの…?」
蔵馬のフォローが入り、まだ腑に落ちない未来だが、それ以上追及するのはやめることにする。
(それにしても…くらまちゃん綺麗な顔してるなあ。超美少女!憧れちゃうよ)
ある重大な勘違いをしたまま、未来は四人と共に迷宮城内を進んで行ったのであった。