Ⅰ 四聖獣編
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✴︎11✴︎ヘレンちゃんの恐怖!
霊界から帰還し、幻海邸にて自分の体に戻った蔵馬と未来は、交通機関を乗り継ぎ垂金の別荘がある森に到着した。
森の中を歩く未来は、出発間際コエンマから言われた言葉を回想する。
―時間がないから説明は簡単に済ます。雪菜は氷女という妖怪でな、彼女の涙は氷泪石と呼ばれ数億円の価値がある。その宝石目当てで垂金権造は彼女を監禁しているというわけだ。さあ分かったら早く行ってくれ!雪菜救出はもちろん、絶対に飛影に垂金を殺させないように頼むぞ!いかなる理由があっても人間を殺せば飛影は極刑を免れん。―
回想しながら、自分や蔵馬と同じように今垂金の別荘を目指しているであろう飛影のことを未来は思う。
垂金を殺してしまうほど、飛影が彼を憎む理由とは…雪菜がそれだけ飛影にとって大事な存在だということだろうか。
(意外な一面だなあ。まあ私は飛影のことを全然知らないから、意外って言うのも変か)
迷宮城で未来と飛影はあまり言葉を交わさなかった。お互い相手のことがまだ掴めていない状況だ。
森を進むうちに見えてきたのは、大きな館だ。雪菜と飛影の関係は不明のまま、蔵馬と未来は別荘にたどり着いた。
「こ、この人たち死んでるの!?」
別荘に足を踏み入れるとすぐ目にはいってきたのは、大勢のスーツを着た男性が倒れている光景だった。
「いや、気絶しているだけだ。おそらく幽助たちにやられたんだろう」
未来を落ち着けるように蔵馬が言った。
「幽助や桑ちゃんはどこで戦ってるのかな。雪菜ちゃんの居場所もわかんないし…広そうな別荘だけど早く見つけなきゃね!」
意気込む未来は蔵馬と共に駆け出す。
「ああ。でも手分けして探すのはなしですよ。オレのそばを離れないように」
未来の単独行動は危険とみた蔵馬。
二人は廊下を走り続けた。
***
別荘の奥では、裏社会の金持ちがリモートで賭博を行っていた。
「いいんですか左京さん、66兆2000億円なんて大金を侵入者が勝つ方に賭けて。ワシが雇った戸愚呂兄弟は最強じゃぞ。あのヘレンちゃんを余裕で倒しおったからな!」
別荘の持ち主である垂金が顔に大量の汗を浮かべながら、モニター画面の左京に問う。
「私は朱雀や青龍を破った彼らの実力に賭けますよ」
「ほ、本当にいいんだなっ」
自信ありげな言葉とは裏腹に、垂金は万一負けた場合を想定して焦っている。
左京はそれを見抜いていた。
「だが…残念だねぇ」
煙草をふかし、呟く左京。
「浦飯たちと共に、彼らの仲間である未来も来てくれたらよかった。彼女を見てみたかったよ」
残念だ、もう一度左京は呟いた。
「未来?誰だそれは」
「垂金さん知らないんですか?けっこう我々がいる裏社会では噂になってますよ。未来という人物が異世界から来たってね」
垂金に、賭けに参加している他の金持ちが教える。
(異世界!それは面白い!必ずワシがその女を取っ捕まえて売りに出してやるぞ。66兆2000億以上の高値で売れるかもしれんな)
新しい収入の気配に、垂金は不敵に笑う。
「おお、来たか」
垂金が居る部屋にある窓ガラスからは、これから幽助、桑原と戸愚呂兄弟が戦う予定の広い競技場が見える。
その部屋に雪菜を取り押さえた垂金の部下数人が入ってきた。雪菜は不安げな面持ちで両腕を捕まれている。
「垂金様、セキュリティシステムによるとまた新たな侵入者が二人来たようですが」
部下のひとりが垂金に告げる。
「今はそいつらに構っとる暇はない!ヘレンちゃん2号を屋敷内に放しておけ。 いつか二人は喰われるじゃろ。試合が終わったら戸愚呂に逃がしたヘレンちゃんを捕獲してもらう」
「分かりました」
垂金の命令に従い、部下の男はヘレンちゃんのゲージを開ける遠隔操作のリモコンを押したのだった。
***
「幽助たちどこなの~。この屋敷広すぎるよ」
屋敷内を駆け回り、未来の持久力は底をついていた。脇腹も痛い。
「誰かの妖力が急上昇しているのを感じる。こっちだ!」
戦闘体勢に入った戸愚呂の妖気を感じた蔵馬は、その方向へ走り出し、未来もない力をふりしぼって彼についていく。
未来の持つ、体力を回復させる能力は自身には使えないのだった。
ドドドドドドドド…
すると突然、二人の背後から何やら不吉な音が聞こえてきた。
「何か来る!?」
得体のしれない音に、警戒する未来は足を止める。
「足音か…?」
蔵馬も後ろを振り返って立ち止まり、周囲に注意を払う。
「蔵馬、早く行こう。嫌な予感がする」
しかし時は既に遅く、視界に入ったライオンや虎の進化形のような恐ろしい怪物に、未来は腰を抜かす。
「な、何あれえ!」
怪物…もといヘレンちゃんは狙った獲物は逃がさない。
蔵馬と未来の姿を目にした途端、猛スピードでこちらへ向かって走ってきた。
「くそっ」
蔵馬が未来の手をひき走り出すも、チーターの遺伝子を持つヘレンちゃんにはT字路で追いつかれてしまった。
「ガルルゥ~ッ」
口を大きく開け二人に突進してきたヘレンちゃん2号。
「きゃああっ」
「未来!」
突発的に右方向に逃げた未来と、左方向に避けた蔵馬。その時、繋いでいた二人の手が離れた。
「未来、奴はオレが倒すから君はその間に出来るだけここから離れてくれ。屋敷から出るか、安全そうな部屋に入ってじっとしておくんだ」
未来に単独行動をさせたくない蔵馬だったが、今の状況ではやむをえない。
ローズウィップを取りだし、蔵馬はヘレンちゃんの注意をひく。
「蔵馬…わかった。気をつけて!」
こんな怪物を相手にする蔵馬が心配なのはやまやまだが、自分がここにいても彼の戦いの邪魔になるだけだ。
そう悟った未来は、走り出しその場から立ち去る。
「お前の相手はこっちだ」
ヘレンちゃんが未来を追いかけようとしたが、蔵馬がローズウィップをならしそれを阻止した。
(蔵馬は勝つって信じてる。でも)
ただ蔵馬をいつでも自分の能力で助けられるように戦況がわかる位置にはいたいと思った未来は、先の曲がり角で立ち止まり、顔を覗かせ様子をうかがう。
(自分だけ逃げるなんて出来るわけないよ)
玄武戦の時は逃げることも考えたが、今の未来にはそんな発想は微塵も浮かばなかった。
遠くから男の声が未来の耳に入ってきたのは、その時だった。
「よく見ろ雪菜!お前を助けようとした愚かな人間の最後を!あの時のようにな!」
未来から離れた位置にいるようだがその男はかなり大声で話しているらしく、はっきりと聞き取れた。
(今、雪菜って言ったよね?あの子がこの近くにいるんだ!)
少し様子を見てみよう、と思った未来は声がした方向に足を運ぶ。
(この部屋…?)
ちら、と覗いた部屋には、未来に背を向け窓ガラスから試合を観戦している男たちと、彼らに取り押さえられた女の子がいた。
あの子が雪菜ちゃんで間違いない、と確信した未来は蔵馬へ報告しようと、とりあえず戻ろうとする。
しかし。
(しまった!)
部屋のドアを閉める際、ギイ、と音をたててしまった。
「誰だお前は!」
「え、えと…」
ヤバいよヤバいよ!
出川哲郎風に心の中で唱える。
(私にはこいつら全部倒して雪菜ちゃん助ける力なんてないよ~)
助けて蔵馬!と叫びたい衝動に未来は駆られる。
「浦飯の仲間の女か。もしかしてお前が未来か?」
「なんで知ってるの!?」
垂金にズバリ言われ、未来は素直に驚いた。
「良い金ヅルが自分から来よった」
ニヒヒ、と笑った垂金は拳銃をとった。
銃口を向けられ、未来は固まる。
「いやっ…やめて…!」
雪菜が必死に首を横に振り、垂金に懇願する。
「安心しろ殺しはせんわい。大事な商品を死なせちゃたまらん。ただ未来を捕らえるには部下が足らんからな。逃げられないようにするだけだ」
下手に動けばその瞬間撃たれる…
未来はどうすることも出来ず、ただ震えていた。
バンッッ
「いやーー!!」
どちらの方が大きかっただろう。
冷たい銃声と雪菜の悲痛な叫び声が部屋に響いた。