Ⅰ 四聖獣編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
✴︎10✴︎トリップの謎
四聖獣との壮絶な戦いから一週間あまりがたった、清々しい朝。
「桑原~お前ん家のデッキでビデオ見させてくれ。オレん家の壊れてんだ」
皿屋敷中の問題児、浦飯幽助が桑原和真に声をかけるも…反応はない。
「ったくお前この間からどうしたんだよ」
最近元気のない桑原は、ずっとこの調子だ。
理由を聞いても答えず、かなり不可解に思っている幽助である。
「とにかく、霊界からの指令のビデオだ。放課後オメーん家行くからな」
桑原がうなずいたのを確認すると、幽助はさっそく朝のHRをサボりに出かけたのであった。
「幽助、またサボりかい?」
「なんだぼたん、またウチの学校の制服着てんのかよ」
「いいじゃないのさ、似合うんだから!」
幽助は教室を出ると、またもや学校に潜入しているぼたんと遭遇した。
「そうそう、一昨日幻海師範の家へ行ってさ、未来にちゃんとお礼言っといたよ」
「おお そうか…」
幽助は目覚めた後、虫笛を壊したのは未来であることをぼたんらに伝えたのだ。
虫笛を壊すべく空高いところから飛び降りた決死の未来の行動には、さすがの幽助も度肝を抜かれた。
「今日は未来、蔵馬と一緒にコエンマ様に会いに行く予定のはずだよ」
「コエンマに?つーか何で蔵馬も?」
「幽助は死んだ状態の時にしか霊界行ったことないから分かんないだろうけど、生身の人間…妖怪もね、が行くにはちょっと苦労するんだ」
霊界は本来死んだ者が訪れる場所。
そこに生きた者が行くのは、簡単なことではないのだ。
「だから経験者の蔵馬か飛影のどっちかに教えてもらえって未来に言っといたのさ。幻海師範はわざわざ霊界まで行くのに付き合う気はないっていうからさ…」
「ふ~ん…まあ選択肢は実質一つだよな」
飛影は頼んでも絶対に断りそうだし、第一彼は何処にいるのか不明である。
未来は蔵馬を選ばざるをえない、というわけだ。
「あ、そういえばよ…桑原の様子が最近ちょっとおかしいんだが、なんか心当たりあるか?」
「う~ん…あるとしたらアレかね」
ぼたんはためらいながらも口をひらく。
「未来にフラレたあ!?」
落ち込む桑原の理由を聞き、幽助は声を張り上げる。
「し~っ 幽助声が大きいよっ」
そんな幽助に、ぼたんは口元に人差し指を立てる。
「未来はフッたって自覚ないんだろうけどね…。どうも静流さんの発言がきっかけで失恋しちゃったみたいでさ」
「ったく情けねーなあ桑原の野郎。ハッキリ断られたわけでもねーのにあきらめちまうのかよ」
「それ、桑ちゃん本人に言っとくれ。励ましてやってよ」
もうあんな桑原の姿は見ていられない…とぼたん。
「よし、じゃあビデオ見終わった後でも桑原に喝いれといてやるか!」
「頼んだよ!」
しかし、その必要はなかった。
「うおおおお待っててください雪菜さーーん!!」
桑原、復活。
まだビデオは途中なのにもかかわらず、桑原は雪菜救出のため家を飛び出していく。
「桑原…何考えてんだアイツ」
ポカーンとする幽助は、桑原の変わり身の早さについていけない。
「新しい恋!だね~。いや~よかったよかった!」
とにかく桑原が元気になったことにぼたんは喜ぶ。
こうして、桑原はビデオの重要な部分を聞き逃すこととなる。
“雪菜は、飛影の妹だ”
コエンマのセリフは幽助とぼたんにしか届かなかった。
***
「ゆ、幽体離脱!?」
桑原が全力疾走している頃、幻海邸で未来は驚きの声を上げていた。
「霊界に行くのは、けっこう大変なんだね…。でも、やろうと思ってできるものなの?幽体離脱なんて!」
「起きながら寝るって感じですよ。後は慣れです」
「いやいや、ムリでしょ!」
簡単げに蔵馬は言うが、起きながら寝る、なんて意味不明なこと不可能だ。
そういった固定観念もあり、なかなか幽体離脱出来ない未来。
そんな彼女をじと、と見つめる幻海は苛つきがMAXに達し、
「あ~、もうじれったいね!」
ボカッと未来の頭を殴り、気絶させた。
「やり方が随分と強引ですね、師範」
「こうでもしなきゃ、あの子は一生幽体離脱なんて出来なかったよ」
確かに、と蔵馬は苦笑いをすると、霊界へ向かうため自身も“起きながら寝た”のであった。
***
「ここが霊界かあ。まさかまだ生きてる時に来ることになるとは思ってなかったよ」
幻海の荒技により無事霊界へ訪れた未来は、興味深そうに辺りを見回していた。
コエンマがいるという、大きな宮殿風の建物までの道のりを蔵馬と歩く。
「落ちないようにしなきゃ…」
道は思いのほか細く、柵も何もない。
下は一面雲に覆われていて、落ちたらどこに行き着くかはまったく見えなかった。
「そういえば蔵馬は何歳なの?私は高一だよ」
「オレも未来と同い年だ。妖狐としての時代を入れなかったらね」
「ちょっと待って…蔵馬って妖怪だったの?誰も教えてくれなかったよ」
「未来、オレを人間だと思っていたんですか?」
意表を突かれた蔵馬。
そして、人間だと思い込まれていて嫌ではなく、むしろ少し喜んでいる自分にも気付いた。
表向き人間として生きる今の自身を、気に入っている自分に。
(…妖狐の時のオレでは考えられない心境の変化だな)
すべて“あの人”の影響なのは明白だ。
「飛影も妖怪だよ。驚いた?」
「う~ん、私は蔵馬と飛影が妖怪だってことよりも、幽助と桑ちゃんが人間だってことの方が驚きだな」
霊丸だの霊剣だの出現させる彼らは、もう未来の中で化け物として認定されているといっても過言ではない。
「でも未来、貴方も人のこと言えないんじゃないですか?」
蔵馬は未来の発言にくすっと笑うと、からかうように言った。
「あ…そうかも」
聖光気とかいう気弾を出せるようになった自分も、彼らとそう変わらないことに気づかされた未来だ。
「ひとつ聞いてもいいかな?蔵馬は妖怪なのに、なんで人間界の学校に通ってるの?」
疑問に思った未来が訊ねると、しばらく黙った後、蔵馬は淡々と言葉を紡いだ。
「十五年前、盗賊だったオレは霊界のハンターに瀕死の重傷を負わされて、霊体の状態で人間界に逃げこんだんだ。そこで人間の胎児に憑依し、“南野秀一”として生きることになった」
「へ~実は妖狐の過去がある!なんて、なんかカッコいいね!」
みんなには秘密だが隠された能力を持っている、という設定に弱い未来は、蔵馬の話を聞いてテンションが上がる。
しかし…
「……蔵馬?」
浮かない顔をする蔵馬に、未来はそっと彼の名を呼ぶ。
「なんでもないよ。さあ到着だ」
蔵馬は首を横に振ると、たどり着いた霊界の宮殿の門を開けた。
(どうしたんだろ、蔵馬…)
見間違いだったのかと思えるほど、今の蔵馬の表情に先ほどの陰はない。
この時の未来は、まだ深く考えていなかった。
蔵馬が南野秀一の体に憑依した…それが何を意味するかということを。
***
宮殿の中に入ると、大勢の鬼が雑務に追われている光景が広がっていた。
「コエンマの部屋はこっちだ」
蔵馬の案内により、宮殿の奥の部屋の前まで来た未来は、緊張の面持ちで物々しい扉を見つめる。
「ここにコエンマ様って人がいるのか。会うの緊張しちゃうな」
「そんな必要全くないと思うけど」
「だってぼたんが、コエンマ様はめちゃくちゃ偉い人って言ってたから…!」
「じゃあ、実際にコエンマを見たら拍子抜けするかもね」
微笑を浮かべ、蔵馬が扉をノックする。
「蔵馬と未来か。入れ」
コエンマの許可がおりて扉を開け、部屋に入る蔵馬に未来も続く。
中にいたのは、部屋の中央の大きな机に席をついた小さな子供と、その傍らに立った青鬼が一人だった。
「未来といったな。わしが霊界のトップであるコエンマだ」
小さな子供が未来に話しかける。彼が喋る度に、おしゃぶりが上下した。
「か…かわいいーー!!」
コエンマのプリチーさにノックアウトされた未来が叫ぶ。
「ちょっとあなた! コエンマ様に向かってそのようなことを…」
青鬼が未来をたしなめるが、コエンマは満更でもない表情だ。
「まあ良いではないか!かたいこと言うなジョルジュ」
幽助には初対面で馬鹿にしたような発言をされたが、未来には“かわいい”と言われ、すっかり気をよくしたコエンマである。
「本当調子いいんだからもーっ。あ、未来さん、私はジョルジュ早乙女です」
ジョルジュは呆れながらもそれ以上つっこまず、ちゃっかり未来に自己紹介した。
「永瀬未来です。よろしくお願いします。今日は私がこの世界に来た原因やいつ自分の世界に帰れるのかということについて伺いに来ました」
「おお、そうだったな!さっそく話すとしよう」
コエンマは今一度椅子の上で姿勢を整えると、未来に向き直った。
「まずなぜお主がこの世界に来たかということだがな…はっきり言ってわからん!」
「え!?」
「コ、コエンマ様それはないでしょ~」
思わずズッコケた未来とジョルジュ早乙女。
「この世には無限に異次元の世界があると言われているが、その間を行き来するのは普通、不可能なのだ。生き物は自分の世界から出ることはなく、その世界で一生をまっとうする」
霊界の統治者らしく、威厳ある態度でコエンマは説明する。
「だから未来がトリップしたのは前代未聞の事件でな…霊界中が大騒ぎだ。もしかしたら、魔界にも未来の噂は広まっているかもしれんな」
う~む、と考えこむコエンマ。
「未来のいた世界からの移動は、魔界や霊界を行き来するのとはワケが違う。君の世界は、オレたちの世界とはまったく別の異次元だからね」
蔵馬が未来の顔を見て言った。
「私がこの世界に来る直前、トラックにひかれそうになったことも関係しているのかな」
コエンマがうなずく。
「十分それはありえるな。命の危機が迫り、未来の中にある防衛本能がトリップさせたのかもしれん。もしかして、子供を助けようとしてトラックにひかれかけたのか?」
「なんで分かるんですか!?」
「いや、幽助が死んだ時と同じかな~と思っただけだ」
「なんだ…」
子供を助けたことがトリップと何か大きな関係があるのかと無駄な期待を持たされた未来だった。
虫笛を壊したり、幽助へ霊力を分け与えたりしたことといい、未来は他人の危機に自分の身もかえりみず体が動いてしまう性質らしいと、会話を横で聞いていた蔵馬は思う。
「あの~未来さんは実はもう死んでて、意識だけがこの世界に来てるってことはありませんかね?」
「キャー!何怖いこと言ってんですかジョルジュさんっ」
「仮説ですよ仮説ぅ」
ジョルジュの一言に、未来の顔は一瞬で青ざめる。
「ハッハッハッそれはない!未来の肉体は存在しているだろう?呼吸もしているし、心臓も動いている。お主はちゃんと生きておるから安心しろ、未来」
コエンマに言われ、未来はほっと胸を撫で下ろした。
「で、私はいつ自分の世界に帰れるんでしょうか?」
一番気になっていたことを、未来はコエンマに訊ねる。
「先程この世には無限に世界があると言ったな。今、霊界はその中からお主と似たような波長を持っている生命体が存在する世界を探しておる。時間は多少かかるかもしれないが、必ずお主の世界は見つかるぞ」
「はい、ありがとうございます」
コエンマと霊界を信じようと未来は思った。
「コエンマ、その世界が見つかった時、どうやって未来を帰すつもりですか?」
蔵馬でさえ、その方法が検討もつかない。
「霊界の特殊部隊が次元に穴をあける予定だが…。異世界間に穴をあけるのはかなり至難を極めるだろう。普通不可能なことなのだからな」
コエンマの一言一言に、未来は注意深く耳を傾ける。
「異世界トリップをやってのけた未来の力にかけるしかない。霊界が小さな穴をあけきっかけを作れば、未来はきっとまたトリップして自分の世界に帰れるはずだ」
(霊界だけじゃない、自分の力も信じなくちゃいけないんだ)
そう未来が強く感じていると、切羽詰まった表情の鬼がドアを開け飛び込んできた。
「コエンマ様!たった今使い羽からの情報で、雪菜の居場所に気付いた飛影が垂金の別荘に向かっているようだと」
「な、何ィ~!」
鬼が告げた情報に、焦るコエンマが椅子から立ち上がる。
「蔵馬、すまないが飛影に垂金を殺させないように至急やつの別荘に行ってくれ!未来も能力が目覚めたんだったな!戦っている幽助たちの役に立つよう、お主も頼む!」
「雪菜…飛影が探していた氷女ですね?どういう関係かは知らないが…」
「全然展開についていけないけど、幽助たちのためなら行きますよ!」
蔵馬とともに、未来も快くコエンマの頼みを引き受けた。
幽助&桑原、蔵馬&未来、そして飛影。
雪菜救出に向け、それぞれが動き出したのであった。