Ⅰ 四聖獣編
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✴︎8✴︎イケメン朱雀
「ぐあああああ」
塔の最上階に、幽助の苦しむ声が響きわたる。
暗黒妖籠陣によって七人に分かれた朱雀のうちの二人に両腕を捕まれ、幽助は電撃をくらっていた。
「朱雀様~!」
「どうしたムルグ」
七人の朱雀のうち虫笛を持つ一人が、塔に飛び込んできた色鮮やかな鳥に応えた。
「あの女やはりただ者ではありませんでしたわ。 未来の手のひらから出たエネルギー弾は、当てた相手をパワーアップさせることが出来るようですの」
ムルグの言葉を聞いた朱雀は、幽助の方を見下し嘲笑う。
「浦飯幽助、お前はオレに特上のプレゼントを連れて殺られに来たようだな」
(未来にそんな能力が…?)
幽助は朦朧とする意識の中、思考を巡らせる。
「養殖人間を早く倒されても面倒だな…。それになにより、あの女は使える 」
朱雀が空に手をかざすと、黒い雷雲の一部がちぎれ、彼の元に飛んできた。
虫笛を持ったまま、朱雀はまるで筋斗雲のようなそれにまたがる。
「テメ-どこ行く気だ… 未来に何する…」
幽助を無視し、六人の自分を残して朱雀は黒い雲に乗って塔から去っていった。
***
「えいえいっ」
「こりゃ~いいぜ! 未来ちゃんサンキュー!体力も霊力も回復する」
だいぶ気のコントロールに慣れてきた未来はエネルギー弾の命中率が上がり、七割は桑原らにそれを当てることが出来るようになっていた。まあ残り三割は養殖人間にぶつけてしまうのだが。
「未来、もうやめた方がいい。君の体力もなくなってきている」
エネルギー弾を出すのはそれなりに体力を消耗するため未来はかなり疲れを感じていた。蔵馬はそんな彼女に気付いていたのだ。
「まだ大丈夫!」
みんなの役にたちたい、その一心で頑張り続ける未来。
「なんだあれ!?」
そんな中、突然桑原が頭上を見上げ指差した方向へ未来も視線をおくる。
「雲に人が乗ってる!?こっちに来るよ!」
「朱雀か!?」
空が暗いため顔はよく見えないが、おそらく飛影の言う通りだ。
朱雀と思われる人物が、養殖人間と戦う三人に向かって電撃を放つ。
「しまった!未来が!」
蔵馬が気付いた時にはもう遅かった。
「きゃあああ!」
皆が電撃に気をとられたスキに朱雀が未来をさらったのだ。
「コラ-!未来ちゃんに触るなあ!」
桑原が叫ぶも、雲は朱雀と未来の二人を乗せ空高く舞い上っていく。
霊剣やロ-ズウィップで攻撃しようにも届きそうもなく、朱雀と共にいる未来まで傷つけてしまいそうで三人はどうすることも出来ない。
「やだやだっ!降ろしてよ!」
「死にたくなかったらおとなしくしていろ」
「っ…」
涙をこらえ、キッと敵を睨みつける未来。しかし、初めて真正面で受け止めることになった朱雀の顔立ちに、未来は固まった。
「は、はあ!??」
「五月蝿い。大声を出すな」
突然素っ頓狂な声を上げた女の奇行を、若干不気味に感じつつ朱雀はイラつく。
(だって聞いてないもん!!こんなカッコいいってさ!!)
てっきり四聖獣の最後の一人も玄武や白虎のような化け物かと思っていた。ゲテモノぞろいの四聖獣の中で、朱雀の容姿は異彩を放っている。
あまりに好みにドストライクな朱雀の顔に、反則だろ!となんだか文句をつけたくなる未来であった。
「何っ!」
塔の真上に到着すると、幽助に倒されていた六人の自分を見て朱雀は狼狽した。
「幽助!大丈夫!?」
激しい戦闘のあとがうかがえる、変わり果てた幽助の姿。
ボロボロになりながらもなお立ち上がろうとしている幽助に、未来が悲痛に叫んだ。
「へへ…六人倒してやったぜ…。あとはテメ-だけだ…」
「まだオレの恐ろしさがわかっていないようだな。 言ったはずだ、七人すべてがオレだと。全員を瞬時に倒さない限りオレは何度でもよみがえる!」
未来を雲に乗せたまま、朱雀は幽助の前に降りたつと、再び七人に分裂した。
「な、七つ子じゃなかったの!?」
瞬時に七人に分裂するという仰天技をやってのけた朱雀に驚く未来が目を白黒させる。
「つーかお前、未来をどうする気だ!」
勝利への希望を見失いそうになりながらも、幽助は朱雀に問いかけた。
「この女の能力はこれから人間界に進出する際に使えそうだからな。おおいに利用してやる。そうだ、この虫笛は彼女に持っておいてもらおう」
「きゃあっ」
クックと低く笑う朱雀は霊気の輪を出現させ、未来の体を虫笛と共にキツく縛り上げた。
「浦飯幽助。あの虫笛、取れるものなら取ってみろ。二人を助けたくばな」
朱雀は未来が乗っている雲を操り、空高い位置まで移動させる。
拘束された未来はどうすることも出来ず、背中に虫笛の固さを感じながら上昇していく視界を眺めるしかなかった。
「虫笛はあの女の体にくくりつけた。霊丸で虫笛を壊そうとすれば女も死ぬぞ」
もっともお前にはもう霊丸を出す力は残っていないだろうがな、と付け加え、朱雀は幽助を嘲笑う。
「朱雀…テメーだけは倒さねえと気がすまねえ!」
螢子たちを襲わせた挙句、未来までをも戦いに利用する朱雀に幽助は頭に血がのぼっていた。
(あったぜ!まだ使ってねえオレの力…!)
いまだかつてない力が幽助の全身を覆う。
「馬鹿な、どこにそんな力が…。はっ!命…生命を燃やしているのか!死を覚悟して相討ちに持っていこうという気か!」
幽助と朱雀の力がぶつかりあい、辺りには眩しい閃光と砂埃が舞う。
「幽助、頑張って…!」
幽助にエネルギー弾を送ることも考えた未来だが、体の自由がきかないため彼を応援することしか出来ない。
(ぼたんと…あのコが螢子ちゃん!?)
ふと未来が部屋にある大きな鏡型のモニターに目を向けると、そこには魔回虫にとりつかれた人間に今にも襲われそうになっている二人の女性の姿が映っていた。
(朱雀を倒しても、私の背中にある虫笛を壊さない限り二人は助からない。上手くいく保障はないけど…成功させるしかない。迷ってる時間はない!)
未来は雲の上に立つと、そこから意を決して飛び降りた。
「未来!?」
落ちていく彼女を見、一体何を考えているのかと幽助は声を上げる。
「きゃああああ!」
気分は命綱のないバンジージャンプだ。
縛られた体でどうにか地上に向かってエネルギー弾を柱のように放った未来は、それにより自分の体を支え、落下をストップさせた。
「えいっ」
そうして地上スレスレの位置までエネルギー弾を縮めた未来が、背中を床に叩きつけ、虫笛を破壊した。
「うおおおおお!」
未来の無事と虫笛の破壊を見届け、螢子とぼたんの安全を確信した幽助はさらに力を放出させる。
「これが絆の力…か」
力尽きた朱雀に続き、燃え尽きた幽助も倒れた。
(幽助が勝った…よかった)
朱雀が死ぬと同時に、未来の体に巻き付いていた霊気の輪も消える。
未来自身もエネルギー弾を使いすぎかなり疲労を感じていたが、幽助の元によろよろと駆け寄った。
「幽助!目を覚まして!」
未来が幽助の身体をゆすり、懸命に呼び掛ける。
「浦飯!未来ちゃん!大丈夫か!?」
その時、養殖人間を全員倒した桑原ら三人が塔の最上階に到達した。
「桑ちゃん…私は大丈夫だけど幽助が…」
ピクリともしない幽助に、半泣きになる未来。
「まずい…霊力を使い果たし心臓が止まりかけている」
「オレが霊気を送る!」
「私も!」
蔵馬の言葉を聞き、迷う間もなく桑原は幽助を復活させようと動く。
間髪入れず、桑原に続いて未来もエネルギー弾を幽助へ送った。
「自殺行為だ。二人共もう体力も霊力も残っていないだろう」
蔵馬が言うも、二人は動じない。
「全く理解できんな。なぜ自分を削ってまで他人に尽くすんだ」
不可解きわまりない、という顔の飛影だ。
「しかしだからこそ朱雀に勝てた」
「…まあな」
バタバタッと力尽きた桑原と未来が幽助の隣にうつぶせに倒れると、蔵馬は彼女が背中をケガしていることに気づいた。虫笛を壊した時に傷ついたのだ。
(何があったかは後で聞くとして…とにかく彼女によく効く薬草を渡しておくべきだな)
自分の身も顧みず幽助へ力を分け与えた彼女だ。
朱雀との戦闘の中で、おそらく未来が何か無茶な行動をしたのだろうと蔵馬は思った。
「三人を人間界まで運ばなければならないようですね」
「ちっ…世話のやける奴らだ」
舌打ちをする飛影だったが、見捨てることなく幽助を担いでやっている。
棘のある言葉とは裏腹な飛影の姿に、悟られないくらい少し頬を緩めた蔵馬だった。