Ⅰ 四聖獣編
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✴︎6✴︎飛影最強説
白虎を倒した一行は、多数の扉が立ち並ぶ部屋に来ていた。
幽助は桑原の方を見、
「どの道行けばいいんだ?」
さも桑原に聞くのが当然というように尋ねる。
「う~む。右から二番目だな!」
「なんで分かるの!?」
さっぱり分からない未来は、自信満々に答えた桑原の姿に眉を上げて驚く。
「こー見えても迷路や罠の回避はオレの十八番だぜ」
「桑ちゃんのカンってそんなに当たるんだ!」
「よっしゃ、じゃ行こーぜ」
「本当に大丈夫なんだろうな」
幽助が右から二番目の扉に手をかけるが、イマイチ桑原を信用しきれない飛影だ。
「私は桑ちゃんを信じるよ!」
開けられた扉に、幽助と桑原に続いて未来も飛び込む。
一分の迷いもなく桑原を信頼する幽助の姿が、未来の心と体を動かした。
「オレも行きますよ」
そう言って一歩進んだ蔵馬が促すように目配せすれば、無言で飛影も扉の内へ足を踏み入れるのだった。
***
「奴らの中によほど霊感の鋭い奴がいるようですな」
「ああ。罠のない最短の道を選び我々のもとに向かってきている」
迷宮城の一室にて、水晶玉で五人の姿を監視していた青龍と朱雀が呟く。
「あの女…」
「え?」
「青龍、お前は感じないのか?あの女から水晶玉を通してでも伝わってくる“気”を」
「確かに異質な気を感じていましたが…しかしあの女にはなんの霊力もないようですし、気にする必要はないのでは?」
「オレもそう思っていた。だがあの女の発する気がこの城に入ってからだんだんと変化してきている」
朱雀は口元に手を当て、考えこむようにして述べる。
「おそらく玄武や白虎、そしてあいつら4人の強い妖気や霊気にふれたせいだろう。それがどういう意味を持つかはオレにも分からんがな…」
「まあ私が今から五人全員殺してきますから、安心して下さい朱雀様」
青龍は朱雀に敬礼し、ひとり部屋を出て行った。
***
「ん?なんだあのものものしい扉は!」
桑原が選んだ道を進んだ五人は、竜の彫刻があしらわれた部屋の前に来た。
するとゴゴゴ…と地響きのような音が鳴り、扉が動き始める。
「調子に乗るのもここまでだ。お前らの悪あがきに朱雀様はひどくお怒りだぞ。この青龍が直々にお前らを殺してやろう」
ひとりでに開いた扉の中にいたのは、青い肌をした妖怪だ。
「こいつも四聖獣のメンバーなの?見た目の凄味に欠けるっていうか…弱そうじゃない?」
青龍がただの中年のオッサンにしか見えなかった未来は、隣にいる蔵馬へ小声で耳打ちした。
「いや、青龍からは今まで以上の強い霊気を感じる」
「びゃ、白虎より上だっていうの!?あんな大きくて強かった白虎より…」
蔵馬の言葉に、未来は驚きを隠せない。
「てかさ、よく霊気だとか妖気だとか分かるよね、みんな。ほんとに“気”とか存在するんだね~」
「お前も…」
未来へ向かって何やら言いかけた飛影だったが、ズルズル…と引きずるような音が背後で聞こえ、口をつぐむ。
「た、助けてくれ~」
全身にやけどをおい、傷だらけの白虎が部屋に入ってきたのだ。
「い、生きてやがったのか」
「信じられねータフさだな」
不死身の白虎に度肝をぬかれる桑原と幽助。
「蔵馬…青龍は霊気だけじゃなくタフさも白虎より上なのかな?」
開いた口がふさがらない未来が蔵馬に尋ねる。
「…それに関してはオレも自信がないな」
恐るべし白虎、である。
「頼む妖気を少しわけてくれ…。その借りはキズが回復したら必ず…」
「わざわざ生き恥をさらしにきおって。もう貴様は目障りだ」
懇願する白虎に冷たく言い放った青龍。
「くらえ!魔闘凍霊拳!」
「ぐああああ!」
青龍は一瞬で白虎を凍らすと、蹴りをいれその体をバラバラにした。
「てめーの味方をあっさり殺しやがった…!」
眉間にしわを寄せ、不快感をあらわにした幽助が歯を食いしばる。
「どうして…?仲間なのに…」
そう言った未来の声は震えていた。
「弱者はいらん。利用価値のない負け犬はただのクズだ」
ぺっと白虎の顔に唾を吐き出した青龍。
その時、未来には凍らされたため表情を変えないはずの白虎の顔が、哀しみにゆがんで見えた。
「さっきまで戦ってたオレが妙な気分だぜ。白虎のためにもあのヤローを倒したくなってきた」
青龍の行動が許せず、桑原は拳を固く握る。
「胸くそワリー野郎だぜ。オレがぶっ殺す!」
「待て幽助!」
制止したのは、意外な人物だった。
幽助を止めた飛影の目に、皆は鋭い殺気を感じておののく。
「その怒りはとっておけ。最後の朱雀を倒すためにな」
「まさかお前までがセンチな情にほだされたというのか?非道をむねとするお前はオレ達と同じ穴のムジナだろうが」
飛影が脱ぎ捨てたマントは、白虎の頭を覆い隠した。
思わぬ飛影の言動に、青龍は薄ら笑いを浮かべている。
「初めて見る飛影だな」
呟いたのは蔵馬だ。
「以前の飛影なら青龍と同じことをしていたんじゃないかな。でも今の飛影は青龍の行為を見て明らかに不愉快になっている」
青龍が妖力を放出し辺りには風が舞い、蔵馬の髪をなびかせる。
「飛影もそんな自分自身に戸惑っているみたいだが…ただひとつ。はっきり言えることは、飛影をおおっている全身の闘気が今まで感じたことがないほど強い!」
飛影の闘気…
霊気を感じることが出来ない未来にも、それはひしひしと伝わった。
小さな彼の体にみなぎる大きな闘気は熱を帯び、未来の肌を刺すように刺激する。
「コナゴナにしてやるぞ。飛影、お前にも白虎にしたのと同じ技をお見舞いしてやろう。死ねえ!」
戦いが始まった。
そう思った瞬間には、ついさっきまで薄ら笑いを浮かべていた青龍は既にバラバラになっていた。
「貴様のツラは二度と見たくない」
飛影は後ろでに切り刻まれた青龍を振り返って言った。
「え!?もう終わり!?もう倒しちゃったの!?」
「い い いつの間に切ったか全然見えなかった」
一瞬の出来事に、呆気にとられる未来。
桑原はアンビリーバボー、といった表情である。
「オレすら初太刀以外は何度切ったか数えられなかった。飛影、何回切った?」
「十六回だ」
蔵馬に尋ねられ、飛影はさらりと答える。
「十六回いい!?うそ!たまげた…これはたまげました…!」
「すげーぜ飛影!圧倒的に強いじゃねーかよ!」
驚きすぎて未来がレポーターのような敬語調になっている傍ら、飛影の強さに興奮する幽助が破顔する。
「一瞬で玄武より白虎より強い敵を倒すなんて…」
未来の中で飛影最強説が浮上し、急速な盛り上がりをみせる。
「敵はあと一匹だな!よっしゃオレがぶっ殺してやるぜ」
じーーっと、未来は気合いの入った幽助の顔を見つめる。
(幽助ってどれくらい強いんだろ…?最強の飛影にボスは任せた方がいいんじゃ…)
「未来~オメー オレの強さを疑ってんだろ」
未来の視線に気づいた幽助がじろりと彼女を睨んだ。
「そんな!疑うだなんて!」
あながち間違ってはいないが一応全力で否定する未来。
迷宮城を訪れて以来、二人の掛け合いがコントに見えてしまう蔵馬はくすっと微笑する。
「それよりさ!さっきの飛影の闘気はすごかったな~。私でも感じちゃったもん!」
「テメー話変えんな」
幽助に言われ、ギクッとする未来。
「青龍に対しあそこまで飛影が闘気をみせるとはオレも意外だった」
そんな未来を見かねてか、蔵馬は彼女の話題にのってやる。
しかし、告げる言葉は本心だ。
「彼はここに来て変わりつつある。少しずつ幽助、君に惹かれているようだ」
「……」
白虎の頭に被せていたマントを取り、再び身につけている飛影の後ろ姿を、驚いた様子で幽助は見つめていた。