Ⅰ 四聖獣編
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✴︎5✴︎地獄の部屋
「オレの部屋に招待するって…白虎の部屋ってどんなのだろ?意外にもピンク系の家具で埋めつくされてたら笑えるよね」
その中にいる白虎を想像して吹き出す未来。
「地獄の部屋っつーんだからそれはねーだろ。あのデカネコ、招待すんなら茶と菓子ぐれー出すつもりなんだろうな」
「…バカどもが」
未来と幽助を見て飛影が呟く。
「ここか!」
たどり着いた白虎の部屋は、まさに“地獄”だった。
ぐつぐつ煮えたぎる赤い液体の湖の中に、点々と設けられた円形の足場。少しでも足を踏み外せば落ちてしまいそうだ。
「こんな部屋じゃ全然くつろげないでしょ。こんなのが自室なんて、なんか白虎がかわいそうだよ…」
地獄の部屋に衝撃を受けすぎて思考回路がおかしくなった未来。
「げ…こりゃマジで地獄の釜だぜ」
「落ちたらひとたまりもねえな…」
衝撃を受けたのは幽助や桑原も同じようで、顔を引き攣らせている。
「ここがオレ様の遊戯室だ。いい眺めだろう?下は見ての通り落ちれば骨になるまで溶かされる濃獄酸の風呂だ。さあ度胸のある奴から降りて戦えい!」
足場のひとつに乗った白虎が呼び掛ける。
「ヤロー死にぞこないがふざけた部屋に案内しやがって。オレがとどめさしてやんぜ!」
「だ、だめだよ!」
降りようとした幽助の腕を、未来は掴んだ。
「そうだぜ浦飯!ヤツの相手はオレだろーが」
「桑ちゃんだってダメだってば!」
もう片方の手で未来は桑原の腕も掴む。
「しょうがないな…じゃあオレが行こう」
「くくく蔵馬もダメ!」
もう両手がふさがっているため、焦る未来が大声で制止した。
一生懸命な彼女の様子に、蔵馬はくすりと笑う。
「飛影もダメだからね!」
今まさに動こうとしていた飛影へ、先手を打って未来が叫ぶ。
何故お前に指図をされなければならんのだと、手鼻を挫かれた飛影が大いに顔を顰めた。
「でも未来、誰かが行かないと先に進めませんよ」
「そうなんだけど…」
蔵馬に指摘され、未来は俯く。
白虎らを倒さなければ、虫笛は壊せず、街は救えない。分かっているのだが、こんな恐ろしく危険な場所で皆に戦ってほしくなかった。
「未来ちゃん、手ー離してくれ」
「桑ちゃん…」
「アイツの相手はオレだ。タイマンは野球じゃねえ。リリーフ・エースにゲタあずけてベンチで麦茶なんてワケにはいかねーんだよ。てめーのケツぐれーてめーでふくぜ!」
桑原の内にみなぎる漢の勝負へのこだわりを聞き、未来は彼の腕から手を離した。
命を危険にさらす。それを承知で四人は迷宮城へ来ているはずだ。
(本気で戦っているみんなを止める権利は私にはないね…)
そう悟ったのだった。
「どうした遅いな。怖じけづいたか」
「うるせーな今行くから待ってろボケ。そりゃ!」
白虎に対し強気な桑原が一番近くにあった足場へと降りる。
しかし。
「おお!?」
乗った途端崩れ落ちた足場。
なんとか桑原は壊れなかった部分につかまり助かった。
「やべーやべー。戦う前に死ぬとこだったぜ」
「桑原くん代わろうかー?」
「うるせー演出だ演出!」
幽助にキビしい言い訳をする桑原である。
「貴様に見せてやろう。オレ様の最大奥義をな。こおおおおお…かぁ!!」
白虎が口からエネルギーの塊のようなものを吐き出した。
「けっこんな玉、霊剣をバットにして打ち返してやるぜ」
「は!その球にさわるな!そこから逃げろ!とび移るんだー!」
「? なんだってんだ一体」
疑問に思いながらも、桑原は蔵馬の言葉に従い、隣の足場へ移る。
「な!?」
シュアアアア…と溶かされる音が恐怖をあおる。
なんと、さっきまで桑原がいた足場が跡形もなく消え去っていたのだ。
「見たかこれぞ鳴虎衝壊破!触れた物をチリと化す超振動の雄叫びよ。この技からは逃げるしか術がないぞ!」
そう言うと白虎はどんどん足場を壊していき、遂には桑原を孤立させた。
ほかの足場に桑原が移ることは、距離的に不可能だ。
「ふっふっふ…死ね!」
絶体絶命の桑原に向かって、容赦なく白虎は鳴虎衝壊破を放つ。
「うおおおおおーっ」
「あいつ…死ぬ気か」
届きそうもない遠くの足場へ跳ぼうとする桑原に、飛影が目を見開く。
「桑原ーー!!」
幽助の叫びが哀しく響いたその時。
「なに!?」
目の前に現れた敵の姿に、意表を突かれた白虎がたじろぐ。
桑原は霊剣を棒がわりにして飛距離をのばし、白虎がいる足場まで勢いよく跳んできたのだ。
「ただやられるワケにはいかねえ、テメーも道連れだ!オレと一緒に地獄におちろ!」
ドボオオォン…と桑原は殴った白虎と共に濃獄酸の中へ落ちていった。
「桑原アーーッ!ちっちくしょう…!くわばら…死んだら…死んだら元も子もねーじゃねーかよ…!」
ガク、と膝を曲げ、地面に手をつく幽助が悔しがる。
「いや待てあそこを見ろ!」
「早く助けてくれ~」
飛影が指差した先には、サラシが足場に引っ掛かり急死に一生を得た桑原の姿があった。
「く…桑原~〜!」
一目散に桑原のところへ駆ける涙目の幽助に、飛影も続いた。
「あ…あのお~」
その場に残っている蔵馬に、未来は恐る恐る声をかける。
「手を貸そうか」
未来の言わんとすることがわかった蔵馬だ。
「本っ当~に申し訳ないんだけど向こうまで連れていってくれませんか…?」
未来には足場をつたって跳んでいくことなど出来ない。
「いいよ。のって」
「ごめんね、重いよね!?」
申し訳なさでいっぱいになりながらも、未来は蔵馬に背負われる。
「いきますよ」
蔵馬はひと一人おぶっているにもかかわらずスムーズに足場を跳び移っていく。
未来は跳ぶ度に蔵馬の背中で振動を感じながら、
(蔵馬って薔薇の香りがする…)
なんてことを考えていた。
「おどかしやがってこのヤロー!死んだかと思っただろーがボケ!」
「いててててバカ落ちるだろ!喜んでんのか殺す気かどっちだテメーは!」
ポカポカ桑原を殴って幽助がせっかく生きのびた仲間を殺しかけた後、飛影を加えた三人はさらに足場を跳び移り向こう岸へたどり着いた。
そこで蔵馬と未来も合流する。
「蔵馬ありがとう。なんか迷惑かけ続けててごめんね…。重かったでしょ!?」
女と勘違いした上に、玄武戦でも助けてもらい…
蔵馬が自分にうんざりしてるのではないかと心配になる未来。
「どうってことないよ」
驚異的な身体能力を持つ蔵馬にとって未来は重さを感じないほど軽かったし、彼は懐の狭い男ではない。
「未来おんぶすんなんて蔵馬、ギックリ腰は確実だぜ。一週間は動けなくなるから覚悟しとけよ」
「地味に傷つくからそれ!」
幽助の言葉に軽くショックを受ける未来である。
「つーか未来、オメー桑原と白虎の戦闘中珍しくずっと黙ってたな」
これまでの未来は戦いの最中、ずっとビビったり驚いたり心配したりしていたので、幽助は意外だった。
「私も色々と思うところがあって今回は黙って見てたのー!心の中では超ハラハラしてたよ。ほんと桑ちゃんが助かってよかったよ。あんな捨て身の作戦実行しちゃって…死んじゃったかと思ったもん」
桑原の漢のボリシーに触れ、おとなしく固唾をのみながら戦いを見守っていた未来だった。
「漢・桑原!未来ちゃんを残して死にません!」
「本当調子いいなオメー」
呆れ気味の幽助が冷ややかな視線を桑原へおくる。
「ま これで一度は死んだ身だ。次も同じ手で戦えばもう一匹倒せるな」
「あんな怖いマネ二度とできるかーーっ!」
鬼畜な飛影の発言に桑原は激しくツッコんだ。
四聖獣も残りあと二匹。
五人は無事に迷宮城をあとにすることができるのだろうか…?