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Ⅴ 飛影ルート

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✴︎93✴︎Missing



「ただのケンカしようぜ。国なんかぬきでよ」

国家解散し、皆がただの一人に戻る。
くじで組み合わせを決めてトーナメント形式で試合を行う。
最後まで勝ち残った者が大将!

幽助が黄泉に提案したのは、なんともシンプルで分かりやすい、魔界統一トーナメントの開催だった。

「あいつらしいな。実にバカだ」

移動要塞・百足の背に立ち、一部始終を軀が仕掛けた盗聴虫と邪眼で見ていた飛影が笑う。

「飛影。皆に伝えてくれ。今日から軀はただの妖怪だとな」

「お前、気に入ったぜ」

迷いなく幽助の提案にのった軀を横目で見やり、口角を上げる飛影。彼だってもちろん幽助に賛同だ。

「のった」

「あー!オメーら何でェ!?」

ふすまを開けて現れた蔵馬、陣、凍矢、酎、鈴駒、鈴木、死々若丸といった懐かしい面々の登場に、幽助は顔を輝かせる。

「黄泉…悪いが今からオレはただの蔵馬だ。ただし幽助の案にお前が応じなければこの場でオレたちは幽助につく」

「蔵馬、貴様っ…」

時を同じくして軀の本隊接近中の情報が入り、黄泉は幽助の案をのまざるをえなくなる。
蔵馬に反旗を翻された今、黄泉に他の選択肢は残されていなかったのだ。

「よォ!元気かよ!」

「幽助ー!」

陣や酎と肩を組み再会を喜び合っている幽助の姿に、また小さく笑った飛影だったが。

「相変わらず突拍子もねーこと考える奴だっちゃ!早く帰って未来に教えてやるだ!きっと心配してるはずだべ」

ドクンと胸が大きく跳ねる。
出るはずのない名前を述べた、陣の台詞に耳を疑った。

未来!?未来って言ったか今!?どういうことだ!?」

「ちょうど三カ月前に未来が戻ってきたんだべ。今は幻海師範の家で一緒に暮らしてるだ」

「えー!マジか!よっしゃ!未来、またこっち来れたんだな!」

仲間の帰還を知り、興奮気味の幽助が破顔する。

「幽助、今からオレたちと一緒に一度人間界に帰るか?未来に会いに」

「んー……いいや。親父のことで、まだオレこっちにいなきゃなんねーし」

雷禅が死んで間もない国を留守にできないのは嘘じゃない。
しかし、蔵馬の誘いを断った本当の理由は他にあった。
人間界に帰って一番に会う人物は、螢子であるべきだと幽助は考えたのだ。

「そうか。まあきっとトーナメントの日に会えるよ。未来も絶対に観に行くってきかないと思うから」

「またな、幽助!トーナメントでオメーと当たるの楽しみにしてるべ!」

「おう。未来とばーさんによろしくな!」

蔵馬たち七人は、幽助に別れを告げ幻海邸へ帰っていった。

「あーあ、行っちまったな。よかったのか?頼めばお前も人間界へ連れていってもらえたかもしれないぜ」

呆然としていた飛影は、横から投げられた声に振り向く。

「知っていたのか?」

たしか軀は、偵察のために人間界や霊界にも使い魔を送っていたはずだ。

「知っていたも何も、オレは親切に未来を要塞へ招待までしてやったじゃないか」

「何だと?」

「たった一か月前のことをもう忘れたのか」

“喜べよ、オレがお前のために未来を連れてきてやったんだぜ”
まさか、あの台詞は嘘ではなかったというのだろうか。

「貴様、未来に何をした」

「安心しろよ、何もしてねェ。未来は無傷のまま帰したさ」

「何が目的だった」

「言ったろ、お前に会わせてやろうと考えたんだ」

しかし、軀に未来の来訪を信じさせる気があったとは、本当に会わせる気があったとは飛影は到底思えなかった。
そんな飛影の胸中を察したのか、軀が続ける。

「飛影、オレに怒りを向けるならお門違いだ。これはお前と未来の選択の結果だぜ。オレの言葉を嘘と決めつけたお前と、お前に会わず帰ることを選んだ未来のな」

お前に会わず帰ることを選んだ。
この部分で、ピクリと飛影の眉が動き、瞳が揺れたのを軀は見逃さなかった。

「ショックなのか?また未来に選ばれなかったと知って」

あっさり帰った未来にガッカリしたのは軀の方だった。
そして今は、性懲りもなく動揺している目の前の飛影に怒りを感じている。

「心底お前が不憫だよ飛影。無様だな。またお前は未来にかき乱され振り回されている」

三カ月前、望み通りの死を迎えかけた飛影。
あれがまた繰り返されるかと思うと虫唾が走る。

「哀れな野郎だ」

バッサリと、軀は飛影へ言い放ったのだった。

飛影は何も答えない。
無表情で、ただ真っ直ぐ軀を見つめている。

「どうした?何か言えよ飛影」

これだけ罵倒されても飛影が動じず落ち着いていて、怒ってもいないことは軀を苛つかせていた。

「……軀。お前、羨ましいんだろう」

癌陀羅の妖気計の針が振り切れた。
ようやく口を開いた飛影の一言で、感情を逆撫でにされた軀。

ありえない。
どうしてオレがあんな小娘を。
ふざけるな!

「オレが」

しかし、続く飛影の言葉で軀は毒気を抜かれた。

「……は?」

らしくもなく間抜けな声が出る。

意味が分からない。
自分が飛影をだって?

堪えきれず、軀は吹き出した。

「冗談も大概にしろよ。どうやったらオレがお前を羨ましがるなんて話になるんだ?」

肩を震わせ笑っていた軀だったが、真剣な表情を崩さない飛影を見、次第に笑い声を小さくしていく。

(飛影。何を考えている?)

過去の記憶を共有した。
何もかも理解し分かったような気でいた相手。

けれど、今は飛影の考えていることが軀にはさっぱり分からない。

「安心しろ。変な気は起こさん。あの時のお前の言葉で目が覚めた。時雨と戦った後のな」

困惑している軀に、口の端を小さく上げて飛影が告げる。

「トーナメントでは勝つために戦う。会場を死場にはせん」

変な気を起こさない、とは時雨戦の時のように死に方を探してはいないという意味だったのだと、ここで軀は気づいた。

「もうオレは中に戻るぜ」

さっそく鍛錬でも始めるのだろうか、百足の背部につけられた出入り口の扉を開けた飛影は、軀を残し中へと消えたのだった。

***

百足内の自室へ戻り、パタンと戸を閉めた飛影はしばらくその場で立ち尽くしていた。そうして戸の壁に背中を預けて寄りかかると、ズルズルと滑り落ちてゆく。
足を投げ出し床に座る飛影は、ぼうっと未来のことを考えていた。

未来は帰ってきていたらしい。
陣たちと同居しているらしい。
軀がここへ呼んでいたらしい。
自分の顔も見ないで帰ったらしい。

諸々の事実が頭で渦巻く。
この状態は軀の言う通り、自分はショックを受けているのだろう。
自分の知らないところで陣たちに囲まれている未来を、蔵馬の隣で笑っている未来を想像して、胸がジリリと焦げつく。

蔵馬なら未来を手に入れる方法を知っている。
蔵馬なら未来を幸せにすることができるだろう。
―飛影が今まで何度か思ってきたことだ。

蔵馬が動いていないはずがない。
もうとっくの昔に未来を自分のものにしているのかもしれない。
だって、蔵馬なら分かっていただろうから。

“飛影。お前は間違っている。未来と出会ってお前が得たのは生きる目的と死ぬ理由だけか?”
“お前が未来のために出来ることは本当にもう何もないのか?忘れるな飛影。お前がどうして変われたかを”

あんな事わざわざ軀に言われなくても、蔵馬は分かっていただろうから。
六人をS級妖怪にまで育て上げたのがその証拠だ。

(それでも)

呟いて、飛影はゆっくりと目を閉じる。
瞼の裏に、未来、幽助、蔵馬、桑原といった、飛影が見てきたいつもの四人の姿が自然と描かれる。

未来に会いたい)

それでも飛影は、やっぱり未来に会いたかった。

ショックを受けるより先に、飛影は嬉しいと思ったのだ。
未来が帰ってきたと知って、飛影はとても…震えるくらい嬉しかった。

確か四次元屋敷へ呼ばれた日に、未来は言っていた。
仲間とは、ただ会いたいという理由が通用する間柄なのだと。

ならば、今抱いているこの感情もきっと肯定されるはずだ。
蔵馬によると、おそらくトーナメント会場に未来は訪れるらしい。

立ち上がった飛影は、鍛錬場へ向かうため自室の戸を開けた。

勝つために戦う。
軀に告げたその台詞に、嘘は一分も含まれていなかったから。

***

幽助によって魔界統一トーナメントの開催が宣言された翌日、皿屋敷市内のレストランにて。

「明日自分の世界に帰る!?」

突然立ち上がって大声で叫んだリーゼントの青年に、周りの客たちが何事かと振り返る。

「うん。闇撫の力磨いて、もうあっちの世界と自由に行き来できるようになったから」

「サラッとだいぶすげーこと言ってるって気づいてるか?」

フルーツパフェをつつきつつ、あっけらかんと述べた未来に桑原は多大な衝撃を受けている。

「へー。全然そんな才能があるようには見えないのにね」

「すごいな。修行を始めてからまだ三カ月足らずだろ?」

これまたサラッと失礼な発言をする天沼に、感嘆する御手洗。

今日は以前約束した通り、桑原と御手洗の合格祝賀会を未来が開いたのだ。ちゃっかり天沼も同席している。

「鈴木はもちろん、うーちゃんのおかげもおっきいんだ!」

とっくに師匠・鈴木を追い越し、闇撫としての能力を開花させていた未来が誇らしげに胸を張る。

「うーちゃん?」

「樹のホラ、裏男とかいうペットいたろ。あれの女バージョンの妖怪が未来ちゃんに懐いててよ、裏女だから名前はうーちゃんだと」

小首をかしげた御手洗に桑原が囁く。
あの気味悪い妖怪には全く似合わない可愛い名前だというのが、正直な桑原の感想である。

「すっごい可愛くて優しくて、良い子なんだよ」

「今その妖怪どこいんの?」

裏男を知らない天沼は、未来の言葉で可愛らしい妖精のような容姿を想像してしまっているようだ。

「次元の狭間を散歩中か、お昼寝でもしてるんじゃないかな」

「えー、見てみたい!」

今ここに呼んでよ!と天沼にせがまれ、困り顔の未来

「お店でうーちゃん呼んだら周りのお客さんビックリさせちゃうよ」

「どうやって呼ぶんだ?」

この何気ない御手洗の質問が、店に大パニックを起こすことになる。

「簡単だよ。うーちゃんおいで!って言うだけで…」

瞬間、ずおっと大きな影が四人を、いや店全体を包んだ。
キャーッと甲高い女性客の叫び声と、あちこちで皿やコップを落とす音が響く。

「こ、これが…」
「うーちゃん…ね」

想像とは正反対の容姿に、天沼の顔は引きつっていた。なんとなく予想はできていた御手洗も圧倒されている。

「うーちゃん!今のは呼んだんじゃないの…!ごめんね、早く戻って!」

焦る未来が手を合わせれば、裏女はすぐさまその姿を消した。なんとも出来た僕である。
跡形もなく怪物の姿がいなくなり、客たちは今のは幻?と狐につままれたような顔をしている。

「あのよ…未来ちゃん、あっちの世界に帰る時、あいつも連れてくのか?」

店内が落ち着くと、恐る恐る桑原が訊ねる。

「そのつもりだよ。うーちゃんが寂しがっちゃうもん」

「またこんな風にあっちでパニック起こすんじゃねーのか!?」

「私の家や次元の狭間で過ごさせるから大丈夫だよ」

不安の残る桑原だったが、まあ未来がそう言うならと何も反論しないでおく。

「私が異世界に行ってたって話みんな半信半疑だったけど、さすがにうーちゃん見たらお母さんたち信じるでしょ!」

家族にだけは全てを打ち明けていた未来
裏女を同行させるのは、異世界や妖怪の存在を家族に信じさせるためでもある。

「お母さんたち、すごく心配してるだろうし。そろそろ復学しないと、本格的に私の将来ヤバいからね。早く帰らないと」

「で、ちゃんとこっちに戻ってくるんだろーな?」

「当たり前でしょ!」

ジロリと訝しむような視線を桑原から送られ、間髪いれず未来が答える。

「次来るのは魔界統一トーナメントの日になると思う」

未来も観戦に行くのか」

約百日後に魔界全土を巻き込んだトーナメントが開催されると、先ほど桑原と未来から御手洗も聞いていた。

「なんたって飛影が出場するもんな!観に行かないわけにはいかねーよな!」

広い魔界で飛影を探すのは不可能に近い。
しかし、飛影なら絶対にトーナメントに参加するはずだ。
つまりトーナメント開催日に会場に行けば、飛影との再会は実現する。

飛影と未来の感動の再会の日は近いと、確信する桑原が彼女を茶化す。

「…まあね」

未来の返答に少し含みがあったことに、秘めた思惑に。
桑原も、その場にいた誰も気づかなかった。

***

時は過ぎ、百日後。
魔界統一トーナメント当日。

抽選会場の元癌陀羅に、6272名の大会参加者と多くの観客が押し寄せていた。

「幽助!やっと見つけたぜ!」

妖怪でごった返している会場で、やっとこさ幽助の姿を見つけて駆け寄ったのは酎、陣、凍矢の三人だ。

「聞いたか?まず予選で大部分落とすらしいぜ」

「え、マジ?」

「お前主催者の一人なのに何も知らないのか」

呆れ顔の凍矢によれば、参加者を49人ずつのブロックに分けて予選を行い、本選に出場できるのは各ブロック一人だけだという。

「てことは本選に残れるのはえーと…87人くらいか」

「128人ですよ」

幽助の間違いを訂正し、颯爽と現れたのは蔵馬だ。

「おー蔵馬!元気だったか?」

「まあね。幽助は聞くまでもなく元気そうだ」

変わらない彼にふふっと蔵馬が笑っていると、ガシッと力強く何者かに腕を掴まれた。

「……未来は」

蔵馬を見上げて訊ねたその人物は急いできたのだろうか、珍しく息を切らしている。

「一年ぶりに会って開口一番の台詞がそれですか。……飛影」

盛大にため息をついて、蔵馬が唯一無二の仲間であり…恋敵でもあった彼の名を呼んだ。

未来、絶対に来るって言ってただ。会場のどっかにはいるはずだべ」

陣がきょろきょろ辺りを見回すも、この妖怪の多さだ。見つけるのは困難を極める。

「飛影!久しぶりだな!オメーも未来が帰ってきたって知ってたのか」

飛影は幽助を一瞥すると、またすぐ蔵馬へ向き直る。

未来はどこだ。邪眼でも見つからん」

「一緒に来たわけじゃないから知りませんよ。まあ、選手ばかりいるここを一生懸命探していても見つからないと思いますよ」

息切れしている飛影の様子からに、既に会場内を探し回ってきたのだろうと察した蔵馬が告げる。

「上の観客席にいるんじゃないですか」

どこまでお人よしなんだと自嘲しながら蔵馬がアドバイスを送れば、観客席に向かい走り出そうとする飛影。

「飛影!」

その背中を、蔵馬が呼び止める。

「もう未来を泣かせないでくださいね」

泣かせた?
寝耳に水の飛影が勢いよく振り向く。

蔵馬の眼光は鋭く、彼が至極真剣であることが分かり飛影は息をのんだ。

未来の気持ちを尊重するにも限界があるんだ」

バレンタインデーのあの日、未来と飛影がすれ違ってしまったことは蔵馬も知っていた。

ショックだっただろうに、気丈に振る舞い飛影にまた会いに行きたいと修行に打ち込む未来の姿に蔵馬は胸を痛めたものだ。
同時に、飛影は何をやっているんだと憤りと怒りを感じた。

オレにすればいいのに。
何度も未来にそう告げたくなった。

「これ以上未来を振り回すなら、オレも黙ってない」

今までは飛影が好きな未来の気持ちを尊重し見守っていたが…また飛影が未来を泣かすなら、蔵馬にも考えがあるというものだ。

未来はオレがもらう」

「お前にはやらん」

ヒューッと口笛を吹いた酎の脇腹を凍矢が肘で小突く。

「せいぜい予選でオレに当たらんよう祈っておくんだな。大会主催者と元軍事総長が予選落ちなんて笑い話にもならんぜ」

幽助と蔵馬へ捨て台詞を吐くと、今度こそ観客席方面に駆け出した飛影の姿は人混みに消えてゆく。

「やれやれ…手のかかる」

肩をすくめる蔵馬の隣で、ポカーンと幽助は呆気にとられていた。

「オイオイ…なんだこれ!?蔵馬も飛影も未来を…え!?マジか!?」

「お前チームメイトなのに把握してなかったのか」

激しく狼狽している幽助に凍矢がツッコむ。

「にしても未来、どこにいるんだべ?」

「寝坊でもしたんじゃねーか?」

やはり未来はまだ会場に到着していないのだろうかと、首を捻る陣と酎なのだった。

***

お前にはやらん。
気づけばそう口走っていた。

性懲りもなく未来が欲しいなんて思っている、紛れもない自分の本心に気づかされる。
全貌はよく見えてこなかったが、どうやらまだ蔵馬は未来を手に入れてはいないようだ。

ただ、ただ飛影は走る。
未来未来未来
人ごみをかき分けて、辺りを見回しながら彼女を探し続けた。

観客の中に見知った姿をとらえ、飛影は迷わずその腕を掴む。

「おい」

「ひっ!!」

突然飛影に腕を掴まれ、下から睨まれたタキシード姿の男が飛び上がる。

「なんだ飛影か、おどかすな!」

「あれ~、飛影じゃないか!」

寿命が縮んだ気がしたコエンマが吠え、ぼたんが相変わらず大きな声を上げる。

未来は一緒じゃないのか」

おそらく変装のつもりなのだろう、二人は奇妙な服装をしていたが、その点には触れず飛影が訊ねる。

未来?一緒に観戦したいと思ってあたしたちもさっきから未来を探してるんだけどさ、見かけないねぇ」

「絶対に行くと言っておったから、もう到着していてもおかしくない頃だが」

「あっ!飛影、あたしたちがここへ来てることは内緒だよ!」

「そうだぞ飛影!霊界トップがこんな場所に来ておるとバレたら…!」

「もういい。わかった」

話が脱線しそうな気配を感じた飛影は、ぼたんとコエンマに背を向け駆け出した。

本当に未来はどこにいるのだろう。
邪眼でも見つからないということは、まだ会場に来ていないのだろうか。
しかし、自分は未来の一年前の気しか知らない。未来の妖気が変わっているため見つけられない可能性も飛影は考えていた。

それとも、未来はトーナメント観戦をやめ、もう来ないつもりなのだろうか。
…こんなに会いたいと思っているのは、自分だけなのだろうか。

『それではこれより魔界統一トーナメント予選抽選会を行います。クジ引きのため選手の皆さんは全員集まって下さい』

時間切れだ。
選手招集のアナウンスが会場内で流れ、ひとまず未来探しの中断を余儀なくされた飛影だった。

***

抽選会で選手は49人ずつ全128ブロックに分けられた。本戦出場できるのは各ブロック一人のみ。

予選は超巨大植物・億年樹の上で行われた。一ブロック49名の選手が一斉に放たれ、最後の一人になるまでこの上で戦い続けるのだ。
選手それぞれの首につけられたリングを奪われた者、あるいは場外に落ちた者は失格となる。

5ブロックの飛影は難なく予選を通過し、蔵馬や幽助をはじめ注目の選手も順当に勝ち残っていった。
ちなみに74ブロックは他の選手が全員棄権したため軀の不戦勝だった。

幻海邸で修行を重ねた六人も、めでたく本選出場の切符を手にしていた。

「いよいよあと2ブロックで予選が終わるな!」

予選の様子を映すモニターの前で、本選前の高揚感に浸りつつバトルマニアの酎が叫ぶ。

「オイラ8ブロックだったからさ、待ちくたびれたよ」

「早くまた試合したいべ」

「予選じゃ生ぬるかったからな」

鈴駒、陣、死々若丸も、本選に向けまだ力が有り余ってるようだ。

「てゆーか未来、もうさすがに会場来てたかな?オイラの予選での雄姿、ちゃんと見てくれてたらいいなァ」

観客席の方を見上げ、鈴駒が呟いた。

「次の127ブロックは猛者はいないようだな」

「これはなかなか決着がつかないんじゃないか?」

億年樹の上に並ばされた127ブロックの面々が映し出され、分析する凍矢と鈴木。
見たところ強い妖気を持った者はいないようで、団栗の背比べ。試合は長引くだろうと予測される。

ところが彼らの予想に反して、127ブロックは瞬く間にして本選出場代表選手が決まることになる。

『それでは127ブロック、試合を始めてください!』

「うおおおー!!!」

暗黒武術会の名実況・小兎のアナウンスと同時に、やる気十分の127ブロックの選手たちは一斉に雄叫びをあげた。

「うおっ!?」

しかし、突然足元に現れた空間の切れ間に、大多数の選手たちは次々と落ちていく。

「すげー、たまげただ!」

予想外の展開と珍しい技に、陣だけでなく会場中からどよめきが起こる。

『おーっと、これは驚きです!突如足元の空間が切り裂かれ、その穴に飛び込んだ大勢の選手たちが消えてしまいました!彼らはどこに…あー!いました!』

億年樹から外れた空中で穴が開き、地上に落とされた選手たちを見つけた小兎。

『場外!場外です!ワタクシこのような技を見たのは初めてで、大変興奮しております!』

『どうやら仕掛けたのは鏑選手のようですな』

小兎の隣でマイクを握る元黄泉の側近で解説の妖駄が、技を繰り出した選手の名を述べる。

鏑(かぶら)という選手は顔を覆面で隠し、身体の至る所に呪符をつけていた。
加えて全身をマントで覆っており、見えるのは技を出すため真っ直ぐ前にのばした白い右腕だけである。

「あいつか!」
「もうさっきの技は通用しねえぞ!」

先ほどの技をとっさに回避し、残った数名の選手が億年樹の端っこにポツンと立っていた鏑めがけて拳を振り上げる。

「なっ…!?」

ところが、大きな手にドンと背中を強く押され、彼らは全員場外へ落とされてしまった。
突然出現し、またすぐに消えたゴツい怪物のような手に会場中が再度どよめく。

『鏑選手、圧倒的な強さで勝ち抜きです!127ブロック、代表は鏑選手!本選出場決定です!解説の妖駄さん、先ほどの技は何でしょう?』

『あれは“影ノ手”ですな。おそらく鏑選手は次元を操る妖怪、闇撫でしょう』

『闇撫…!絶滅したと噂もされた希少種族ですね!?次元を自由に移動できる、影ノ手を持つ妖怪…!』

滅多にお目にかかれない妖怪の出場とあって、小兎の実況の声も熱くなる。

「すげー!やっぱあいつ闇撫かあ!未来の能力に似てんな~と思ったべ」

「たしかに妖気もなんとなく似ているな。美しい勝利だった」

「トーナメント開催とあって上京してきたんだろうぜ。あんな奴も魔界にいたんだなァ」

「すごかったよなー、さっきの技!」

「フン。お前ら、あいつの致命的な弱点に気づかなかったのか?」

鏑を称賛する陣や鈴木、酎、鈴駒たちを一蹴したのは死々若丸だ。

「あいつは勝負を急いでいた。敵に近づかれては負けると自分で分かっていたからだろう。あの細身と小さな妖気では、肉弾戦・接近戦にひどく弱いな」

敵との接近を避け、全員を場外に落とすやり方で勝利を手にした鏑の弱点を、死々若丸は見抜いていた。

「あんなのオレたちの敵じゃないぜ」

死々若丸の意見に、皆もまあそうか…と納得する。
鏑が予選を通過したのは、たまたま面子が雑魚妖怪ばかりで運が良かったのも大きい。
技自体は他の妖怪では身に付けることのできない素晴らしいものではあるが、かといって鏑に本選を勝ち上がる実力があるとは思えなかった。

「まあ死々若の言うことは最もだが、あの技なかなか手強いとは思うけどなァ」

「ああ、油断すると場外へ落とされてしまう」

「凍矢、どうしただ?難しい顔して」

「…いや、何でもない」

考え事をしているのかずっと黙ったまま顎に手を当て、何やらそわそわした様子の凍矢だったが、陣に訊かれて首を横に振る。

こうして、予選は残すところ一ブロックのみとなったのだった。

***

『128ブロック、代表は九浄選手!以上で本選に出場する128名が決定いたしました』

128ブロックの試合が終わり、予選は全て終了した。
しばらくして、本選の組み合わせが発表されるという。

「あ、あれ」

モニター横のソファに座って六人が駄弁っていると、一人で歩いている鏑の姿を鈴駒が発見した。

「話しかけに行ってくる!」

「ちょ待てよ!鈴木!」

立ち上がった鈴木は、キムタク風に止めてみた鈴駒の声もきかず鏑の方へ向かう。

「待ってくれ!」

覆面に隠れて顔は見えないが、びくんと肩を跳ねさせ驚いた様子で鏑は鈴木の呼びかけに振り向いた。

「突然すまない。実はオレの弟子が闇撫でな、闇撫の師匠を探しているんだ!たぶんもう会場に来てる!ぜひ会ってもらいたいんだが……あ、おい!」

ぶんぶん首を横に振ると、鏑はぴゅーっと走って逃げ出してしまった。

「あーあ、鈴木、フラレちゃったね。でもいいんじゃない?あんな風に全身隠してさ、相当ヤバい奴だよきっと。そんな変な奴、未来に近づけたくないし」

「いや…でも、紫外線にとんでもなく弱い体質なのかもしれないぞ?オレはまた奴に会った時に、もう一度頼んでみようと思う!せっかく見つけた闇撫の妖怪なんだ」

「泣かすなァ、弟子思いの師匠だぜまったく」

「弟子といってもとっくに未来に抜かれてるだろ」

「死々若、鈴木は闇撫じゃねーんだからそれは仕方ないべ!」

「そうそう、未来もオレにはすごく感謝していると言ってくれて…ん、どうした凍矢?」

会話に入らず、じっと鏑が去った方を見つめている凍矢に鈴木が気づいた。

「いや…」

「凍矢、さっきから変だべ?本選前に緊張してるんか?」

「あ…ああ、そうかもな」

頭に浮かんでいる仮説を、ありえないと払拭する。

(まさか、な)

胸の内で人知れず呟いた凍矢なのだった。

しばしの休憩時間の後、本選の組み合わせが発表され、選手たちは掲示板の前に集まった。

『本選の組み合わせが決定しました。選手の皆様ご確認下さい』

A~Dの四ブロックに分けられたトーナメント表の組み合わせに、あちこちから悲鳴があがる。

「おいおいおい、まじかこりゃ」

「こりゃちょっと幽助と戦うのは難しそうだなー」

「いーなー、凍矢はクジ運に恵まれたな!」

「それは分からんさ、隠れたすごい奴がいるかもしれん」

「悲惨なのは酎だな。近所に軀と飛影がいる」

酎や陣、鈴駒、凍矢、鈴木も、口々に組み合わせの感想を言い合う。

「軀と飛影だけじゃないぜ」

死々若丸がDブロックのトーナメント表を顎でしゃくり、皆がそこへ視線を注げば。

「あー!鏑もいる!」

Dブロックの上から三番目。
酎と棗という選手の名前の下に、鏑を見つけ鈴駒が叫ぶ。

「今度はあいつ、運がなかったようだな。よほどの馬鹿でなければ棄権するだろう。命が惜しくないなら別だがな」

「あちゃー、鏑もついてないね。酎と鏑の試合、見てみたいけどこれはまー百パー無理だろうなァ」

鏑の下に刻まれた名前を見て、せせら笑う死々若丸と残念がる鈴駒である。



Dブロック一回戦
第二試合、鏑vs軀

この対決は鏑にとって凶とでるか、いやひょっとして吉とでるのだろうか?


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