Ⅰ 四聖獣編
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✴︎4✴︎伸縮自在!霊剣の力
「それにしても蔵馬にはビックリしたよ。薔薇をムチにしちゃうんだもん」
「未来ちゃん、オレだってすげー技持ってるんだぜ。ほら!」
一行が迷宮城内の廊下を歩く道すがら。
蔵馬に対抗し、桑原は手のひらからオレンジ色に光る霊気の剣を出現させた。
「すごい! 桑ちゃん!」
「ほう…ただのでくの棒じゃなかったわけだ」
「死ぬかコラ!?」
ぱちぱち手を叩き、感嘆する未来。
素直に誉めない飛影の言い方に桑原はイラつく。
「ちっまあいいや…これからがオレの研究の成果よ。剣よ 伸びろ!」
桑原の声に従って霊剣はヤリのように伸び、天井を貫いた。
「そんな武器があるなら安心だね!」
「おうよ!さっきはいきなり化け物を見てびびっちまったが、もう心の準備もOKだ。次の相手はオレに任せてもらおう!」
少し明るい兆しが見えてきたか…?と笑顔をみせた未来に頷き、桑原は自信満々に胸を張るが。
「うっ…今の霊気の放出でかなり疲労が…」
「じゃ、やんな!戦う前に!」
頭をおさえる桑原に、幽助のもっともなツッコミが入る。
(ありゃりゃ…大丈夫かなこりゃ?)
未来が苦笑いをした矢先、ヴオオオオオ…!!とこの世のものとは思えないほど恐ろしく、大きな声が轟いた。
「なんなのこの叫び声!?」
「白虎の雄叫びだ。彼はどうやら相当ごきげんななめらしい」
怯える未来に蔵馬が説明する。
「こっちだ!」
幽助を先頭に声のする方へ走り、たどり着いた先に四聖獣のうちの一匹、白虎がいた。巨大な虎のような、猫のような妖怪である。
白虎の前には円形の競技場があり、一本の橋で幽助たち五人がいる所へと繋がっていた。
「わざわざオレ様にまで足を運ばせやがってクソ虫どもが。使い走りの玄武を倒したくらいでいい気になるなよ」
蔵馬の言った通り、白虎はかなり機嫌が悪いようだ。
「でけぇ…! 三m以上あるんじゃねーか!?」
「あんな怪物と戦える人なんていないよ…!」
冷や汗をかく幽助。
大砲を撃っても死にそうにない白虎に、未来は震える。
「いいかゴミども!てめぇらは全員オレ様のエサだ!五人一口で食い殺してやるわ!」
聞いているだけで腹の中をえぐられそうな白虎の声により、城の一部までもが崩れはじめた。
「ヤロォ 好き勝手言いやがって」
握り拳を作り一歩前に出た桑原に、意外そうに飛影が片眉を上げる。
「口だけじゃなく本当にひとりでいく気か」
「たりめーだ!タイマンはケンカの常識よ!」
「足のふるえは武者ぶるいかオイ」
桑原のツッコミ役がだいぶ板についてきた幽助である。
「桑ちゃん、本当に戦えるの…?」
神妙な面持ちで未来が問う。
「未来ちゃん心配しないでくれ! 何てったってオレには霊剣があるからな!」
「でも、言ってたじゃない」
未来は迷宮城に来るまでの幽助、桑原との会話を思い出していた。
「桑ちゃんは、無類の猫好きだって…」
「へ!?」
思いもよらなかった未来の発言に、拍子抜けする桑原。
「そうだぜ桑原!オメー白虎と戦うなんざあ、あのなんとか吉っつー猫とかぶって出来ねえんじゃないのか!?」
「アホかあ! 永吉はあの化け物猫と似ても似つかんわ!」
今度は桑原が幽助へツッコむ番である。
「あ、やっぱりそういう反応?」
「フッ…」
テヘペロする未来。
腹の傷をおさえながら、小さく蔵馬が吹き出す。
「おいふざけている場合か」
心底アホらしい、という表情で冷静に飛影が言った。
「は~でもまあ今ので緊張がとれたぜ。一応サンキュー。おい白虎! オレ様が相手だ!」
桑原は単身で橋を渡り、円形競技場へと足を踏み入れた。
「くくく。 貴様などオレが手を下すまでもないわ。そらよ!」
白虎が自らの髪の毛を四本抜き、競技場に放つ。
すると…
「なにィ!?奴の毛がケモノに変わりやがった!」
突然現れた四頭の猛獣に桑原は目を丸くする。
「オレ様の分身妖獣だ。さあお前達じわじわと切り刻んで殺してやれ!オレ様に刃向かった無謀さを死んでも後悔するようにな!」
舌なめずりをする白虎が高らかに叫んだ。
(大丈夫かな…)
妖獣に囲まれる桑原を見、不安が募る未来。
先ほどはふざけたようなことを言ったが、猫好きという理由を持ち出してでも桑原を止めたかったのが本音だった。
かといって桑原以外の誰に行かせるのかと問われれば誰も行かせたくないのだが…
「ギギギギギー!」
「うおっ」
襲い掛かる妖獣に、桑原は必死に霊剣で応戦する。
「話にならんな。あの程度の太刀さばきではなぶり殺されるのは時間の問題」
「そんな…」
冷たく言い放った飛影の言葉に、背筋が凍る未来。
「桑原!オレと代われ!相手が大勢ならオレの散弾式霊丸でなんとかなるかもしれねえ!離れて戦えねえオメーじゃ不利だ!」
「ふざけんじゃねえ!アイツを同じ土俵に引きずり出さないうちにオメオメと代われるか!余計な手出ししやがったら白虎の前にテメーをぶっ殺すぞ」
説得を試みた幽助だったが、桑原はテコでもきこうとしない。
「よし妖獣どもよ、やつの手足を一本ずつ喰いちぎれ。頭と胴体はオレが喰うからな!」
「く、くそ…。! そうだ!」
何か策を思いついた様子の桑原は、競技場から出て、幽助たちがいる場所へ繋がる細い一本道を走る。
「ようやく恐怖に目覚め仲間のところに逃げ出したか。だがもう遅い!そっちにいる仲間もろとも喰い殺してやれぃ!」
「誰が逃げてるって!?剣よ のびろ!」
桑原を追って一本道を走っていた妖獣は、四頭まとめて霊剣に串刺しにされた。
「バカが ひっかかったぜ!こいつらを一直線に並ばすためにわざと狭い道におびきよせたんでェ!」
「桑ちゃんナイス!」
見事妖獣を倒してみせた桑原へ、未来が叫んだ。
「ぬうう、しかしワシの分身妖獣はその程度で死ぬほどヤワではないぞ。そのまま奴に喰らいつけ!」
「!?うおおおおお!おりゃあ! これでどうだあ!」
霊剣に貫かれてもまだピンピンしていた妖獣に追いかけられ、桑原が走る。
桑原は丸い柱に沿って妖獣を並ばせると、霊気を結んで身動きをとれなくさせた。
「元が白虎の毛じゃ焼いても煮ても喰えねーな」
「ぜっったいまずいよね」
壁側に身を避けていた幽助と未来は、気持ちの悪い妖獣の姿に思いっきり顔を顰めた。
「オラ デカぶつ!次こそテメーの番だ、かかってこい!」
「このオレ様を…本当に怒らせよった!おのれ調子にのりおって!オレ様が自らの手で直々に殺してくれる!」
キレる白虎が、命じられるまま桑原がいる競技場へ降りてくる。
「先に言っておく。キサマの霊剣ではオレは倒せん!」
「んだとおお!?おりゃ~!」
白虎の挑発にイラついた桑原が勢いよく霊剣を振り回していく。
「…おかしいな」
「ああ」
「え、何が!?」
「明らかに桑原がおしてるじゃねーかよ」
蔵馬と飛影の発言に、不思議そうな顔をする未来と幽助。
「戦っているふたりを見てみろ。 確かにヤツの方がペースを掴んでいるが…しかし圧倒的に桑原の方が疲労している!」
飛影に続いて、未来もあることに気づかされた。
「白虎が一回り大きくなってる!しかも…桑ちゃんの剣が小さくなっている!?」
「そうかわかったぞ!白虎は桑原くんの霊気を吸っているんだ!そしてそれを自分のエネルギーにしている!」
「ふはははは蔵馬だってか?やっと気づいたようだな。だがどうする?剣を捨てて素手で戦うか?」
「ふざけんじゃねえええ!」
なりふりかまわず白虎に向かっていく桑原だが、かなりの霊気を吸い取られもうフラフラだ。
「ああ!霊剣が…もう短刀ぐれーしか残ってねえ!」
幽助の顔が青くなる。
「桑ちゃんが死んじゃうよお!」
「いや、まだ手はあります!」
取り乱す未来に、蔵馬が言った。
「白虎の体があの状態から大きくなってない。それに桑原くんが気づいていれば…だが残された方法はまさに自殺行為とも言える最後の手段。失敗すれば桑原くんの命はない!」
(あれだけオレの霊気を喰ったのにヤツの体は横に太っただけだ。まさか…!)
覚悟した桑原は、白虎の腹に霊剣を突き刺す。
「狂ったか桑原!自分から敵に力を与えてどうする!」
幽助の声が聞こえたのかそうでないのか…力尽きた桑原は倒れた。
「くくくトチ狂ったな。最後の霊気までオレに与えてくたばるとは。…!? うっ!?むおおおおおお!!」
高笑いしていた白虎だったが、急に口元をおさえ苦しそうに呻き出すと、破れた風船のように飛んでいった。
「桑原くんの霊気の量が白虎の体の許容量をわずかに超えたんだ」
「ギャハハハ 史上最低の食あたりだぜバーカ!ザマーみやがれ!」
「うまいこと言うねえ、幽助」
ありったけの霊気を白虎に食わせた桑原の作戦勝ちというわけだ。
ドカーーン!!と大きな音を響かせ城にぶつかった白虎を見て幽助がケタケタ笑い、未来にも笑顔がもどる。
「ふう~死ぬ寸前だったんだぜ。ヤツからもれた霊気を少しでも吸収しねーと」
「桑原、大丈夫か!?」
「ああ、なんとかな」
ボロボロの桑原に、幽助が肩をかす。
しかし、安心したのもつかの間だった。
「ううう~~!」
瓦礫の中から白い巨体がゆらりと立ち上がる。
なんと、白虎は生きていたのだ。
「正直いって感心したぞ。捨て身の戦法おそれいったわ。敬意を表してオレ様の部屋に案内しよう。地獄の部屋にな!」
五人に向かって叫んだ白虎。
恐怖の闘いは、まだまだ終わっちゃいない。