Ⅰ 四聖獣編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
✴︎1✴︎ 死んだら?オドロいた
遠い昔から決まっていた。
この世界に生まれることも。
彼らとの世界に再び交わることも。
たぐり寄せられるように、君との出会いへ近づいていく。
運命の望むまま。
***
学校に行けて、おいしいご飯が食べれて、帰る家があって。
当たり前に感じているけれど、実はすごく幸せなことなんだろうな。
ただ、単調な毎日にちょっと刺激がほしい…と思っていたのも確か。
そんな未来の平凡な日常をまるっきり覆す出来事がその日、起きた。
一月のとある晴れた日の放課後。
何の予定もなかった未来は、一人で近所をぶらぶらしていた。
目の前を小さな子供が横切る。
なんとはなしにその子供を目で追うと…
「!!危ない!」
赤信号にもかかわらず横断歩道を飛び出した子供の元へ迫るトラック。
気づいたら体が動いていて、子供を歩道へ突き飛ばしたけど。
「避けろー!」
「逃げてー!」
最後に未来が見たのは、トラックの大きなヘッドライトだった。
***
皿屋敷中近くの空き地で、なにやら深刻げに話をしている三人の男女がいた。
「つまり、早くその虫笛を奪ってこわさねーといけねーんだな?」
「そうそ!桑原くんわかってるじゃないかい」
桑原、と呼ばれたリーゼントの青年にうなずくポニーテールの女性。
「よし!早速その四聖獣って奴等を倒しに行ってやるぜ」
「待って幽助!」
「んあ?なんで止めるんだよぼたん」
今にも駆け出そうとしていた少年―幽助を、ぼたんは制止する。
「問題は四聖獣だけじゃないんだよ。どうやらついさっき、異世界から人間が一人この世界に迷い込んだらしいんだ」
「い、異世界!?」
ぼたんの発言に、幽助と桑原は声をそろえて驚く。
「霊界が空間の切れ目を発見してね、そこを生命体が通り抜けた反応があったんだよ。異世界から来た人間はその異質な気のせいで魔回虫に寄生された人間に狙われやすいらしくて…」
切羽つまった表情で、難しい顔をするぼたん。
「その人を守るってのも幽助!あんたの霊界探偵としての使命だよ」
「分かったけどよぉぼたん…どうやってその異世界の人間を探すんだ?」
「じゃーん!コレだよコレ!」
ぼたんが取り出したのは時計のような、方位磁針のようなもの。
「妖気計!?相手は人間で、妖怪じゃねえんだろ?」
「妖気計は妖気だけじゃなく、さっき言ったような“異質な気”も察知できるのさ」
ピピピ…
「おっ!反応してるぜ!」
桑原の声と同時に、三人は妖気計が指し示す方向へ足を走らせた。
***
「ここは…どこ?」
トラックに轢かれる、と思わず目をつむった。
ところが目を開けてみれば、未来は見知らぬ住宅街の中にいた。
(も、もしかして死後の世界なの…!?)
今自分が置かれている状況に動揺し、キョロキョロ辺りを見回す未来。
「ふ…ふふふ…」
「ししし…」
未来は背後から聞こえた不気味な声に振り向いた。
(何この人達、目が正気じゃないよ…!)
気持ちの悪い笑みを浮かべ、狂っているとしか思えない人間達が未来からほんの数m先に立っていた。しかも、その数はどんどん増えていく。
…まるで未来の元に集まっているかのように。
「死ねええええええ!」
「きゃああああああ!」
あまりの恐怖に震えて動くことができない未来へ狂人達が襲いかかったその時、ドカドカッと無数の鈍い音が辺りに響いた。
「へっ、てんで弱っちーじゃねーかコイツら」
未来がおそるおそる閉じていた目を開ければ、学生服を着た少年二人が涼しい顔をして立っていた。その傍らには、倒れて動かなくなった狂人達の山がある。
(あ、あんな大人数の人間を一瞬で倒したの!?)
驚きで言葉が出ず、未来は固まったまま二人の少年をまじまじと見つめる。
「オメーかよ、異世界から来た人間ってのは」
目の前で呆然としているセーラー服の少女へ、唐突に幽助が話しかけた。
(い…異世界?)
ますます未来が混乱すれば、幽助の頭をバシッとぼたんがはたく。
「いってーな!何すんだよぼたん!」
「あのねえこの子だって今の状況がわかってないんだからその言い方はないよ!」
唖然とする未来の目の前で、ギャーギャー騒ぐ幽助とぼたん。
「はじめまして。あたしは霊界案内人のぼたん!こっちの人は幽助と桑原くんね」
「あ……私は永瀬未来っていいます」
ニコッとしたぼたんの笑顔に促され、おずおずと未来も名乗る。
「あの、ここはどこですか!?まさか死後の世界!?」
「おいオレらを勝手に死人にすんじゃねーよ。ここは現実だ現実!…あだっ」
「未来ちゃん、安心して!あたしがちゃんと説明するからさ」
そう言ったぼたんを、二度叩かれた頭をさすりながら幽助はうらめしそうに見ていた。
「手短に言うとねえ、ここは未来ちゃんがいる世界とは別の世界なんだよ」
「べ、別世界…!?嘘…!」
いきなり非現実的なことをぼたんから言われ、信じられない未来。
「嘘じゃないさ。なんかの拍子に出来た空間の切れ目に入っちゃったんだよ」
「ぐふふふふ…」
「ひひひ…」
ぼたんが話す間にも、また新たな狂人達の声が近づいてきていた。
「また奴等が集まって来たな」
「未来ちゃんに反応してるんだね…」
幽助と共に冷や汗を流していたぼたんだったが、思い出したかのようにポンと手をうつ。
「おっと早く虫笛を壊さなきゃいけないんだった!幽助!時間がないよ!今すぐ未来ちゃん連れて妖魔街の迷宮城に行っとくれ!」
「オメーアホか!?なんでこいつも連れてくんだよ!これから四聖獣と戦おーっつー危険なとこ連れてくのか!?」
「今の未来ちゃんにとってはここより妖魔街の方がよっぽど安全だよ!幽助、あんたが彼女についてるならね」
「まあ…そうか…」
ぼたんの言葉に納得する幽助。
そんな二人の掛け合いを、未来は呆然としながら見ていた。
別世界、四聖獣、妖魔街…
聞き慣れない単語が二人の口から次々と飛び出し、これは夢なのだとしか思えなかった。
「つーか桑原、オメーさっきから全然しゃべってねーけどどうした…」
「未来さんっ」
幽助が言い終わる前に、桑原が未来の両手をとり、がしっと強く握った。
(え…な、何?)
未来はとられた自分の両手と、桑原の顔を交互に見つめる。
「浦飯なんかに任せておけねえ!漢・桑原!全力であなたを守ってみせます!」
「は…はあ……」
展開についていけないながらも未来は返事をする。
「さあ!行くぜえ!」
そう言って勇ましく歩き始めた桑原は、いまだかつてないほどのやる気に満ち溢れていた。
「あらら、かわいいコ見るとすぐこれだね」
「桑原…オメーなあ」
ぼたんが苦笑いを浮かべ、幽助が呆れる傍ら、未来は考える。
(夢なら痛みや感触は感じないはず。今つかまれた手…力強くて、やけにリアルだった。本当にこれは現実で、私が別世界に来たっていうのも事実なのかも…)
「あの!」
腹を括った未来は、意を決して三人に呼びかけた。
「言いそびれてたけど、さっきはありがとう。助けてくれて」
これが夢だろうが現実だろうが関係ない。
彼らにきちんと向き合うべきだと思った。
言わなければならないことは、きちんと伝えなくては。
私と、三人を含めこれから出会うたくさんのみんなとの物語は、ここから始まったんだ。
そして、私の…
運命の人との。