ひだまり
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「結衣さん、今日休みー?」
「さっき帰ってきたから、少し寝るところ。」
そう答えると彼は大袈裟に且つ不満気に声を上げた。
この部屋の住人かのように自然とそこに居たのは快斗くん。あの日から、彼は気付けばここに居る。それが迷惑だと思ったことは一度もないんだけれど。まるで、大きなワンコだ。
「結衣さん、寝ちゃうのかよー?つまんねー。」
「夜通し働いてたからお姉さんは疲れてるの。おやすみ。」
ソファに横になり目を瞑れば、すぐに睡魔がやってきた。微睡む意識の中、快斗くんがおかえりとお疲れ様とおやすみを言ってくれたような気がした。
結衣さんが帰って来て、数分後。そろそろ部屋着になった頃を見計らい、ドアを開けて中に入れば、立ちながらも寝てしまいそうな顔で、瞼を重そうに持ち上げて、俺の名前を呼ぶ結衣さん。昨日は部屋の電気点いてなかったし、夜勤だったんだろう。勿論、これから寝る事くらい知っている。でも、どうしても彼女に言いたい事があった。
「結衣さん、おかえり。夜勤お疲れ様。おやすみ、良い夢を。」
俺が結衣さんを気にかけるようになったのは、本当に些細な事だった。
『隣に引っ越してきた社会人のお姉さん』というだけで、同年代のヤツらはエロいと騒ぐ。そんな事、大して興味もなかったが、たまたま玄関先で出くわした時があった。年上と言われなければわからないほどの可愛らしい顔立ちと、幸せそうに携帯画面を見て笑う顔に、なんて幸せそうに笑うのだろうと、こっちもつられて笑ってしまった。
それから、すれ違う度に結衣さんを盗み見ていた。最初は幸せそうだった表情も、だんだんと涙を堪えるような表情になっていた。この人をこんな表情にさせるヤツにムカついた。と、同時に疑問が湧いた。ただの、隣人なのにどうして。その理由は、わからなかったけど、いつか結衣さんに話しかけようと決めたのだ。
そして、あの時、たまたま通りかかった公園で結衣さんが泣いている姿を見かけた。話しかけたいという気持ちと、笑ってほしいという気持ちだけで動いてしまったが、後悔はなかった。嬉しそうに笑う結衣さんが俺を見てくれていたからだ。