ひだまり
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何だかおかしいのは気付いていた。いくら忙しくたって休日に何の連絡もない事が増えていった。それを私は気付かないフリをした。傷付くのが、真実を聞くのが怖かったからだ。
2週間ぶりに会えて、もう何度も見た天井と彼の顔と劣情がこもった目が視界を埋め尽くす。自分も気持ちが昂ぶって彼の服を脱がしたところで時が止まった、ような気がした。一気に冷静になった頭で、震える声で私は言った。
「なに、これ…。キスマーク…?」
何故だか可笑しくなって、くすりと笑ってしまった。笑えた自分にさえ、可笑しいと思った。
彼はバツが悪そうな顔を一瞬して、彼自身を私の中に挿入した。そんな気分ではなかったのに、この行為に慣れたカラダは快楽へと流された。なんてバカなんだろうと頭の隅で笑った。
事が終わり、甘い雰囲気とは程遠い中、彼に再度問いかけた。沈黙が流れる。彼は目に涙を浮かべて口を開いた。
「ごめん。」
何で泣いているんだろう。私を裏切って傷付けた本人が傷付いているなんて滑稽だ。本当に泣きたいのは私なのに。狡い。心の中でしか言えない本音を繰り返し、言えない自分も狡いなと自嘲した。
「気付いてたよ。今までありがとう。ワガママたくさん言ってごめんね。その子とお幸せに。」
最後は涙より笑顔がいい、なんてよく聞くけれど。強がりでもなく、意地を張ってる訳でもなく、自然と笑みが浮かんだ。泣いている彼を横目に自分の荷物をまとめて、もう二度と訪れる事はない部屋を後にした。
帰る気にもなれない私は公園のブランコに揺られていた。遊具に座るだなんて何年ぶりだろう。子どもがとっくに帰ったそこは昼間と違い、静かな場所だった。
ひとりになると、つい考え込んでしまう。あんなバカな男でも好きだったのだ。良いところも知っている。思い出もたくさんある。でも、もう終わり。追ってこない彼が、鳴らない携帯が、それを物語っている。
ぽたり。一粒の涙が私の好きな色で彼に貰ったカバンに落ち、そこだけ色を変える。堰を切ったように流れるそれを私は止める術を知らない。一頻り泣いて、瞼に触れば腫れている事が容易にわかった。
じゃり、じゃり。砂を踏む音に急いで涙を拭き、顔を上げた。すると、目の前に好青年がいた。
「何か悲しいことがお有りですか?お嬢さん。」
お嬢さんて年齢ではないのにな、と心の中で呟いた。不審者だったら、どうしようか考えていると少し恐怖心が芽生えてきた。
すると、目の前の人物は人懐っこい笑みを浮かべて言った。
「怪しい者ではありません。危害を加える気もさらさらありません。」
じゃあ、何で、と口を開こうとすれば、スリー、ツー、ワンとカウントダウンが始まった。そしてゼロと共にポンッと弾ける音がして、先程まで何もなかった彼の手のひらには白い鳩がいて、こっちを不思議そうに見ていた。
「わあ、すごい。」
「やはり、貴女には笑顔がお似合いですよ。」
その可愛らしい目を見ていると、またポンッと音がして、白い鳩は一瞬にして赤いバラに変わっていた。そのバラを彼は私の胸ポケットへ入れたと同時に彼はへらりと笑みを浮かべた。
「なんて、格好付けるのは終わり。俺、黒羽快斗ってんだ。」
と何故か彼は名前を教えてくれた上に、右手を私に差し出している。戸惑っていると名前は?と尋ねられたから、結衣ですと答えると、眩しすぎる笑顔で私の左手を掴み結衣さんね!と言った。
これが彼との出会い。