恋をするということ
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本当に愛されるとはどういう事なんだろうか。
私は、言えば綺麗でもなく可愛くもなく、頭が良い訳でもなく、運動が出来る訳でもなく、スタイルが良い訳でもなく、至って普通の女だ。でも、笑顔と愛嬌はある。それだけだ。そのせいか、今までの男運は頗る悪い。
DV、既婚者(騙されていた)、モラハラ、ヒモ、浮気など。恋愛だけで言えば、まるでドラマのような人生だった。ここまでくれば多分というか、確実に私は都合のいい女だと思われていたと確信に近いものを感じている。自分の恋愛をネタにし書籍を出せば売れるんじゃないかと、本気で考えた事もある。今は笑い話に出来ているのが、せめてもの救いだ。過去から何も学んでいない訳じゃなかった。でも、同じ過ちを繰り返してしまうのは何故なのか。
その頃、私は一人でお酒を飲んでいた。友人がいない訳ではない。ただ、何となくひとりでいたい気分だった。そんな私の気分を知ってか知らずか、お店が徐々に人で賑わい始め密度も高くなってきた。そこまで広くないここでは、相席することは普通のことだった。
「隣いいですか?」
「はい…」
その顔を確認せずに大した興味もなかった私は、前を向きながら答えた。横に座ってから気付いた。多分、抑えてくれてはいるのだろうが強い霊圧だ。ちらり、視線を向ければそこに居たのは九番隊副隊長、檜佐木修兵さんだった。
その瞬間、血の気が引くのを感じた。何とも無礼な態度を取ってしまったのか。
「先程は檜佐木副隊長と確認せず、無礼な態度を取ってしまい、本当に申し訳ありません。」
「あー、そんなん気にすんなって。仕事中じゃあるまいし。」
「しかし…」
「じゃあ、そこまで言うなら、今日は俺に付き合って、お酌してよ。」
いつもの鋭い目付きとは違い、優しく目をして微笑む檜佐木副隊長を見て、胸が高鳴ったのをお酒のせいにした。
そう言えば、檜佐木副隊長は女遊びが激しくて有名だった。それを思い出しても、正直、檜佐木副隊長様が私如きを相手にするとは思えず、自意識過剰であったことを恥じた。
「林田さん」
「はい」
檜佐木副隊長は、私の名前を呼んでちょいちょいと手招きした。不思議に思いながらも距離を詰めれば、檜佐木副隊長の腕が腰に回された。吃驚して右を向けば、にやりと笑みを浮かべる彼が私を見ていた。
「あの、檜佐木副隊長、」
「結衣ちゃん、スキだらけ。だから、そこにつけ込まれんだよ。」
「え?どうして」
そこまで言って私は口を噤んだ。檜佐木副隊長は遊び人なのだ。私の過去の男運を知ろうが知らなかろうが、ちょちょいのちょいなのだ。
「結衣ちゃん。俺が店に来た時、他の席も空いてたんだけど、ここに座ったの何でだと思う?」
「えっと…他の席は隣が男の人だったから、ですか?」
そう言うと檜佐木副隊長は、可笑しそうに顔を歪めた。
「まあ、そういう印象だよな。林田さんと近付くチャンスだと思ったからだよ。」
それを聞いて、私は瞬時に理解した。檜佐木副隊長は私を口説いているのだ。きっと、一夜限りの後腐れない関係を望んでいる。
「つまり、それは、」
「俺と付き合ってください。」
続く言葉に私は言葉を失った。2人の間に沈黙が流れる。檜佐木副隊長は頭をがしがしと掻いて、項垂れた。机に伏せられた顔が、こっちに向いて鋭い目に捕らえられる。どうしようもなく、鼓動が早くなった。
「やっぱ、だめか?」
先程まで鋭かった目が捨てられた子犬のように力なく合わされる。彼は、女の扱いが上手い。一瞬にしてこんなにも心が奪われてしまうものなのか。
「付き合うって言ったって、お互いのこと知りませんし…」
「付き合ってからでも知れるだろ?」
「まあ、そうですけど…。好意があるかないかの問題もあります。」
「え、結衣ちゃんは俺のこと嫌いなわけ?」
「いや!嫌いな訳ではなく…」
「じゃあ、決定な。」
「え?そんな事、急に言われても困ります!大体、檜佐木副隊長は私の事を好きじゃないですよね?」
「え?好きだから、付き合ってほしいんだけど」
さらりと言われたその言葉に一瞬、時が止まったように感じた。頭で理解するよりも早く、檜佐木副隊長の言葉が耳に飛び込んできた。
「だから、問題ないよな。今日からよろしくな、林田結衣ちゃん。」
満面の笑みを私に向ける檜佐木副隊長に私は返す言葉が見つからなかった。
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