祝いの香り(2021.BD)
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「、んぅ…?」
夜も更けた頃。眠りについていた柳宿は何かの物音で目を覚ました。目を擦りながら体を起こし音のした方 ── 部屋の扉へと注視する。気のせいだと思ったが確かにまた扉を叩く音が聞こえた。
「ったく、夜中にやめてよね…」
こんな時間になんて非常識な。眠いしこのまま無視してしまおう、そう決め込んで柳宿は再び布団にくるまった。
「…やっぱり寝てるよね…」
「!」
訪問者の正体が分かると柳宿は飛び起き、扉へと駆け勢いよくそれを開けた。そこには突然扉が開いたことに目を丸くさせる蘭飛が立っていた。
「ごめん、起こしちゃった…よね?」
「こんな時間にどうしたの?それにその格好じゃ寒いでしょ…ほら、部屋入って」
柳宿の言う通り、蘭飛は薄い寝巻き姿だった。春が近づき昼間はだいぶ暖かくなってきても、夜はまだ冷える時期だ。蘭飛を椅子へと座らせると、柳宿は体を温めるようにとお茶の支度を始めた。
「お茶なんていいよ、急に来ちゃったの私だし」
「ん~…じゃああたしが飲みたいから付き合ってくれない?ね、いいでしょ?」
そう言われてしまえば返す言葉もない。うまく言いくるめられてしまった蘭飛は大人しくするしかなかった。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「で、何かあたしに用事?」
蘭飛が一口飲んだことを確認すると、柳宿は早速本題へと入った。こんな夜中に訪ねてくるのだから、余程のことがあるはずだ。
「あー…うん、えっとね、」
「もしかして…夜這い、とか?」
にやりと笑う柳宿と、その言葉に固まる蘭飛。次第に彼女の顔は真っ赤に染まっていく。
「夜這っ…?!そんなわけないでしょ?!」
「照れなくてもいいのに」
「違うからっ!」
「だってそんな薄着一枚で来るんだもの。他の男のとこだったらとっくに食われてるわよ」
穏やかな口調だが目を鋭くさせ釘を刺すように話す柳宿。蘭飛は思わず己のいで立ちを確認し、胸部分をぎゅっと握りしめた。
「…気をつけます」
「分かればいいわ」
柳宿は満足したのか、お茶を一口含むと味を楽しみほっと息をついた。
「あー…もう、ほんとだめだな」
「なにがよ」
「ただ一番に言いたかっただけなのに、迷惑考えずにこんな時間に押しかけて、柳宿怒らせちゃって…」
蘭飛は仕切り直しと言うようにコホンと咳払いをし、柳宿に向かい合った。
「お誕生日おめでとう、柳宿。これからもよろしくね」
ふふ、と照れ笑いを浮かべる蘭飛とは対照的に、柳宿はただ目を丸くさせていた。
「…こんな夜中に、それだけを言いに来たわけ…?」
「本当は朝言おうと思ってたんだけど、どうしても一番に伝えたくて。だって柳宿も私の誕生日の時、いつも一番に祝ってくれるでしょ?」
そう思ったら寝るに寝られなくて、と続けた。
「…柳宿?」
「……見ないで」
顔を背け手で顔を覆うように隠す柳宿。微かに覗く耳は、先程の蘭飛に劣らないくらい赤くなっていた。
「あれ、照れてる?」
「当たり前でしょ!…ありがとう、とっても嬉しいわ」
「ふふ、やった。あとこれ、大したものじゃないんだけど」
蘭飛は綺麗に包装された箱をどこからか取り出し、机上へと置く。開けてみて、と促され柳宿は丁寧に包みを開いた。
「あら、綺麗な香炉ね」
「何にしようか迷ってたんだけど、それ見つけたら一目惚れしちゃって。何となく柳宿っぽいかなって思ったの」
「ありがとう、気に入ったわ。早速焚いてみてもいい?」
「もちろん!あ、よかったらこれ使って」
蘭飛が新たに取り出した袋の中には香木が入っていた。勧められるままその香木を使い焚き始める。
「この香り…」
「気付いた?」
気付くも何も、それは柳宿にとって親しみのありすぎるものだった。その香りは蘭飛が気に入っているもので、好んで使っているのをいつもそばにいる彼が知らないわけがない。
「私の好きな香り。柳宿に使ってほしかったの」
「ぷっ、あんた随分男らしいことするのね」
「そう?」
「でもあたしもこの香り、好きよ。すごく落ち着くわ」
蘭飛と同じ香りがする部屋で、愛おしい子とともに過ごす。柳宿にとってこれ以上にない幸福な時間だった。
「ん…なんか眠くなってきちゃった」
「ちょっと、そんなとこで寝たら風邪ひくわよ」
「少しだけ、目瞑らせて…そしたら部屋戻るから…」
机に伏せてあっという間に寝息を立て始めた蘭飛を、柳宿は呆れたように見つめる。そんなに自分は彼女に男として見られていないのか、と頭を抱えた。
「無防備にも程があるでしょ…」
気持ち良さそうに眠る蘭飛。その寝顔に愛おしさが込み上げてきて、つい手を伸ばしてしまう。
「、馬鹿ね…蘭飛を泣かしたくないくせに」
この子と同じ香りに酔ってしまったのかしら、そう柳宿は独り言ちた。伸ばしかけた手で蘭飛の髪をひと撫ですると、その体を抱き上げて寝台へと運ぶ。
「添い寝くらいは許されるわよね」
彼女の隣に身を転がしひとつ深呼吸をすると、ほのかに甘い香りが鼻腔を擽る。次第に心地の良い眠気が柳宿を襲った。
「おやすみ、蘭飛。今年の誕生日も幸せな一日になりそうだわ」
翌朝、蘭飛を探しにきた李凪に同じ寝台で眠っているところを目撃され暖かい目を向けられたり、二人して同じ香りをさせていることを美朱や七星士達に質問攻めにされたのは言うまでもない。
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