きみの一番に(2020.BD)
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「~♪」
「随分ご機嫌だね、柳宿」
「ふふ、そう?」
蘭飛とふたりっきりの買い物を楽しんだ帰り道。鼻歌を唄うあたしに蘭飛は、でも、と問いかけた。
「本当によかったの?」
「なにが?」
「だって…せっかくの誕生日なのに、いつもとあんまり変わらないから」
そう、今日はあたしの誕生日。数日前、蘭飛に何か欲しいものはないかと尋ねられたあたしは、一日買い物に付き合ってほしいとお願いした。そんなことでいいの?と蘭飛は首を傾げたが、あたしにとっては最高の贈り物で。だって特別な日を大切な子と一緒に過ごせるなんて、これ以上に幸せなことってないでしょう?
「もっと我儘言ってくれてもいいのに」
「我儘ねェ…あ、ならせっかくだし飲んでいかない?」
一軒の飲み屋を指差すと、蘭飛は笑顔で頷いた。
「じゃあ改めて…柳宿、誕生日おめでとう」
「ありがとう、蘭飛」
軽く音を立てて乾杯する。久し振りに店で飲むことと人々の喧騒にも近い賑やかな声が相俟って、酒がより美味しく感じた。
「外で飲むといつもより美味しく感じるよね」
「あたしも同じこと思ってた」
「ふふ、そっか」
横並びに座る蘭飛の肩が笑う度にあたしの肩にぶつかる。たったそれだけのことなのに触れた箇所からじんわりと温かくなるように感じるのは、きっとそれだけあたしがこの子を想っているという証拠だ。
「美味しい~」
そんなあたしの気も知らずにこくこくと酒を飲み続ける蘭飛に、つい溜め息が零れた。
「そんなペースで飲んでたらすぐ潰れるわよ」
「分かってるって~。ふふ、なんだか嬉しくて」
「?」
「今年もこうして柳宿の誕生日をお祝い出来たこと。昔からなんにも変わらないね」
「…そうね」
…昔から何も変わらない、か。その言葉が心にズシンと重くのしかかる。何も変わっていないなんて、ない。あたしが蘭飛に抱く感情は、確実に大きく変わっている。今日だけじゃなくて、これから先もずっと ──あんたを独り占めしたいと思っているのに。
「…あ。でも、」
不意に手を取られ、ドキリとした。
「手、大きくなってる。昔は私とそう変わらなかったのに」
「あっ当たり前じゃない。男なんだから」
「そっか…そうだよね、こんなに綺麗でも男の子だもんね」
ちょっと悔しいけど、と蘭飛は笑った。…無意識にこういうことするとこ、ホント勘弁してほしいんだけど。
「…ねェ、誰にでもこんなことやってんじゃないでしょうね?」
「まさか。柳宿だけだよ」
「(あ。完っ全に酔っ払ってるわ)」
ふにゃりと力が抜けたような笑みを浮かべた蘭飛。その前に置かれた酒瓶を持ち上げると、すでに中身はほぼ空になっていた。いくら強くない酒だからってペースが早ければ酔いが回るのも早いに決まっている。
「ほら、もう程々にしときなさいよ」
「えー…今日は誕生日だからいいの」
「あたしの、なんだけど」
「いいの!」
「はいはい」
こりゃ何言っても無駄だわ、と半ば諦め酒を呷った。いざとなれば力ずくで取り上げればいいし、何よりこんな蘭飛を見られるなんてそうそうないから貴重よね。
「……蘭飛さ、好きな人っている?」
酔っ払ってる状態の相手に聞くなんて、卑怯だって分かってる。でもこんな状況だからこそ、いつもなら聞けないことを聞きたくなる。
「んー…好きな人、かぁ……」
考え込む蘭飛の様子を横目で伺う。
「……柳宿は?」
「え?」
「柳宿は、いるの?…好きな人」
質問を質問で返され、思わずたじろいだ。真っ直ぐに見つめてくる蘭飛の瞳から目が離せない。
「(これってチャンス…?!長年の想いを告げる時が来たんじゃない?!)」
スー、ハー、と彼女に背を向けて深呼吸する。早まる鼓動が落ち着くことはないが、少しは緊張が解れた気がする。本当に気休め程度だけど。
「……蘭飛、」
意を決して向き合う。蘭飛の顔にかかる横髪を耳にかけ、顕になった頬をひと撫でした。
「………」
「…柳宿…?」
動きを止めたあたしを、不思議そうに蘭飛が見上げる。そんな彼女の頬をムニ、と軽く摘んだ。
「秘密よ、秘密」
「えー…なんだぁ、秘密かぁ……なら、」
楽しそうに鈴を転がすような声で笑うと、蘭飛は人差し指を立て唇にそっと添えた。
「私も秘密。ね?」
そう微笑む蘭飛は、悔しいほど綺麗だった。
「あーあ…チャンス、逃しちゃったかしら」
すっかり酔いつぶれて寝てしまった蘭飛を背負い、宮廷までの道をトボトボと歩く。
「でもねェ…酔っ払い相手に告るってのもやっぱり気が進まないし」
これから先いくらでも機会は巡ってくるわ、と己を奮い立たせていると、背中で眠る蘭飛がひとつ身じろいだ。
「……ん、…」
「あら、起きた?もうすぐ着くわよー」
「…柳宿ぉ…、誕生日おめでとう…」
「はいはい、ありがと」
「、んぅ……おめで、と……」
「ぷ、あんたそれ何回目よ」
一度足を止め背負い直す。すると蘭飛が、ぎゅう、ときつく抱きついてきた。
「!? 蘭飛、なに、」
「……来年も、再来年も…その先もずーっと……一番そばでお祝い、したいなぁ……誰にもあげたくない……」
「っ、?!」
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って ──!!
「ちょっ、今のって、!」
聞き返そうとするも、再び蘭飛は気持ち良さそうに眠ってしまっていた。あんたこんな大事な時に普通寝る!?
「~~~、もうっ…勘弁してよ…」
今まで感じたことないくらいの熱が顔に集中する。そうさせた張本人はすやすやと眠りの世界に漂い込んでいるし、ホントこっちの気も知らないで…!!
「…そんなの、こっちの台詞だっての」
この先訪れる様々な人生の分岐点にそばにいてほしいと思うのは、蘭飛…あんたなんだからね。もちろん、あんたのそばにあたしもいたい。どんな時も隣で寄り添って、同じ気持ちを分かち合いたいの。その役目は、他の誰にも譲れないわ。
「…なぁんてね。まずは幼馴染み卒業を目指さないと」
そう呟いたら、蘭飛が微かに笑ったような気がした。
(昨日寝ちゃってごめんね…!それに運んでくれてありがとう)
(ンフフ、いいわよ、別に♪)
(…なんだか柳宿、機嫌いい?)
(べっつにぃ~?ただ蘭飛があ~んなにあたしのこと想ってくれてたなんてね。最高の誕生日だわ)
(?! 私なに言ったの!?)
(秘密よ、ひ・み・つ♪)
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