♡こころの奥まで
夢小説設定
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(※恋人設定)
季節は冬。温暖な気候の紅南国も冬の夜は冷え、吐く息の白さは日ごとに増していくばかりだ。こんな日はゆっくりのんびりと湯浴みをしよう、そう決め込んでいたら予想以上の長湯になっていたらしく、湯殿を出る頃にはあっという間に夜も更けてしまっていた。
「うー、寒い…これじゃ湯冷めしちゃうわ…」
羽織の合わせをしっかりと握って余計な風を入り込ませないようにする。足早に自室に向かう途中、回廊の分かれ道でピタリと歩を止めた。
「………」
部屋に戻るにはここを右に曲がらなければならないが、意識は真っ直ぐと回廊の奥へと向かっていた。
「…まだ、起きてるかしら」
自然と足が動いたその先には蘭飛の部屋がある。寒い時に人肌が恋しくなる、なんて言い出したのは一体誰なんだろうか。約束をしているわけではないからもう眠ってしまっている可能性もあるが、それならそれで潔く諦めることにしよう。
「……蘭飛、起きてる?」
名を呼ぶ声と戸を軽く叩く音が静まり返る辺りに響いた。暫く待ってみるものの返答はなく、こういう結果があることだって覚悟していたくせに肩を落としてしまう。おやすみ、そう小さく零して自室へ戻ろうとした、その時。
「あれ、柳宿?どうしたの?」
待ち望んでいた声は部屋の中からでなく廊下の奥からやって来た。片手に灯りを持って羽織を幾重にも着込み、どこからどう見ても外にいたようにしか思えない蘭飛に声を荒らげた。
「ちょっ、アンタこんな時間にどこ行ってんのよ?!」
「なかなか寝つけなくて散歩してたの」
「ひとりで!?」
「うん」
しれっと答える蘭飛に呆れて言葉を失った。いくら宮廷だからって、こんな時間に女がひとりで出歩くなんて!なにかあったらどうするつもりよ!?…って言いたいところだけど、例え言ったとしても蘭飛には効果がないと分かりきっているもんだから、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「今日すごく月が綺麗に見えるの。一緒にどう?」
「や、あたしは寒いから遠慮しとくわ」
「そう?……もしかして柳宿、湯浴みしてきたばっかり?」
僅かに乾き切っていない髪に気付いたのか、蘭飛の手があたしの頬に触れた。伝わってくる熱の心地良さに、つい目を細めてしまう。
「温かくしないとだめだよ、風邪ひいちゃう」
「これくらい平気よ、…っくしゅ!」
「ほら!」
「…なら蘭飛が温めてよ」
だめ?と重ねて問う。
「ふふ、仕方ないなぁ。いいよ」
簡単に部屋に招き入れる蘭飛に、まさかあたし以外にもするんじゃないでしょうね…、とつい心配になった。
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとう」
寝台に並んで座り、いれてくれたお茶を受け取る。相変わらず蘭飛のいれるお茶は熱さといい濃さといいあたし好みのものだ。それが嬉しくて、いろんな意味で心の底からホッとした。
「どうやって温めればいいの?摩ればいい?」
「…あんた、それ本気で言ってる?」
蘭飛は冷たくなってしまったあたしの手を包み、甲斐甲斐しく摩ってくれた。意図とは少しズレているけど…ま、これはこれでアリかも。
「ん、だいぶ良くなったわ。ありがと」
「もう…柳宿はすぐ熱出すんだから、気を付けないと」
「いつの話してんのよ」
「急な用事がないならわざわざこんな夜中に来なくても、」
「あら。用がなきゃ恋人に会いに来ちゃいけないわけ?随分冷たいわねェ」
「う…別にそういうつもりで言ったんじゃ…」
「冗談よ、冗談」
焦った様子の蘭飛をぎゅっと抱きしめる。体温が高く柔らかくて、抱き心地がとてもいい。あまりの心地良さについ頬を擦り寄せてしまう。
「っ、冷た…!」
「あ、ごめん」
頬はまだ冷えていたようで、蘭飛はぶるりと身を震わせた。そんなに冷たいかしら、と自分の頬に手を当ててみる。…うん、確かに冷えてるわ。どうしたものかと頭を捻らせると、ひとついい案が浮かんだ。
「ね、蘭飛。チューしてよ」
「…は?!」
「いいじゃない、さっき温めてくれるって言ったんだから」
「え、あれは、」
「なによ、あたしにするの嫌なの?」
わざとむくれて見せると蘭飛は、ああ、もう!と半ばヤケになった。
「目、瞑って」
「? 開けたままじゃだめなの?」
「いいから!」
納得しないまま言われた通りに瞳を閉じる。視界を奪われたせいかいつもよりドキドキしながら、その時を待った。
「!」
頬に来るであろうと思っていた感触を、唇で受け取った。驚いて目を開けると、眼前は顔を真っ赤にした蘭飛で埋め尽くされている。触れるだけの口付けが暫くの間続いた後、名残惜しいが離れていってしまった。
「、これで文句ない…って、どうして柳宿まで顔真っ赤なの?」
「…いや、あたし、ほっぺたにってつもりで…」
「…え…」
事実を伝えると元から赤かった蘭飛の顔はこれでもかと言うほど染め上がり、手で顔を覆ったまま後ろに倒れ込んでいった。
「そうなら言ってよ…!もうやだ、穴掘って隠れる…」
「ふふ、あたしは嬉しかったわよォ?蘭飛が珍しく積極的で」
「…自分だって顔赤くしてたくせに」
「! バカ、あれは不意打ちだったからよ」
と、言いつつもニヤけそうになるのを抑えるに必死で。まさかあの蘭飛が自分から口付けしてくれるなんて…棚ぼたな出来事に、心の中でグッと拳を握りしめた。
「ん、温かい。もうお役御免だね」
少し身体を起こした蘭飛は手を伸ばし、あたしの頬へと触れ満足気に笑った。
「…だめよ。全然、だめ」
「もう充分温まってるよ?」
「全っ然、足りないわ」
「足りないって…、きゃあっ?!」
蘭飛の肩を軽く押して寝台へと押し倒すと、状況を飲み込みつつあるのか視点が落ち着かずキョロキョロと目を泳がせた。
「蘭飛は、さっきので満足した?」
「な、にが…」
「だーかーらー…」
一度目。蘭飛がしてくれたそっと触れるだけの口付けを交わす。柔らかなそれを堪能して、ちゅ、と軽く吸いつき唇を離し、潤んだ瞳と目を合わせた。
「これで満足出来るの?…あたしは、しないわよ」
二度目。有無を言わさず、先程より少々乱暴に唇を塞ぐ。閉ざされたそこに舌を割り込むように入れ、逃げる彼女のそれをつついた。舌同士が触れた瞬間、ビクリと揺れた蘭飛の腰をひと撫でする。
「…ふ、… 蘭飛、すっごく可愛い顔してる」
三度目。今にも蕩けてしまいそうな蘭飛の後頭部に手を回し、より深くそれを楽しみ、味わう。ここまでくれば蘭飛も応えてくれ、その幸福からもっともっと、と彼女を欲した。
どのくらいそうしていたんだろう。唇を離す頃にはお互い肩で息をし、夢中になっていたことへの恥ずかしさから上手く目を合わせられないでいた。すると蘭飛の濡れた唇が、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「………満足、した…?」
羞恥と期待を含んだ真紅の瞳に見つめられれば、誰だって首を縦に振ることは出来ないはずだ。…いや、蘭飛のこんな表情を見る役も、こんな表情にさせる役も、他の奴に譲るわけないのだが。
「…まだまだ足りないわ。もっと、ちょうだい?」
きっとこの感情にもこの欲にも満足する日が来ることはないだろう、そんなことを蕩けていく脳で考える。
冷えていたはずの身体はとっくに熱さを取り戻し、じんわりと汗ばみ始めていた。
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