想いの伝え方
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夕食後、柳宿の部屋へ行ってみると中からカタン、と小さな物音が聞こえた。
「(…あ、帰ってきてる)」
いざ戸を叩こうとするも、今までになく緊張して心臓の音がバクバクしているのが分かる。大丈夫、いつも通りにすれば何も分からないんだから…そう何度か深呼吸して、戸を叩いた。
「はーい…あら、蘭飛じゃない」
「おかえりなさい。今戻ったの?」
「ええ、ついさっき。お茶入れようと思ってたんだけど、飲んでいくでしょ?」
「うん、いただきます」
何回も訪れている部屋なのに、今日はいやに落ち着かない。促された椅子に腰掛け、用意する柳宿の横顔をそっと覗き見た。
「用事は終わった?」
「なんとかね。用事ったって、大量に仕入れた商品を運ぶにいいように使われただけよ」
「柳宿、得意分野だから。頼りにされてるんだよ」
「ならいいんだけど」
どうぞ、と差し出されたお茶を受け取る。しつこくない優しい香りに、ほっと心が安らいだ。
「ホント、うちの家族は人使い荒いんだから。おかげで忙し過ぎてご飯食べ損なっちゃったわ」
「! だったら…」
この機会を逃すわけにいかない。隠し持っていた包みを差し出すと、柳宿は目を丸くさせ微かに驚いたような表情を浮かべた。
「これは…?」
「美朱様と作ったの。いつもお世話になってるから、そのお礼」
「…ありがとう、嬉しいわ」
「どういたしまして」
核心は隠しつつ、どうにか渡せたことに内心胸を撫で下ろした。まるで大層な仕事を完了させたかのような達成感に満ち足りて、入れてもらったお茶が尚更美味しく感じた。
「蘭飛、手出して」
「なに?」
「あげる」
え、と声を零すと同時に、手のひらに置かれたものに目を奪われた。華奢な作りだが逆にそれが上品に見える、先に紅い石のついた耳飾りだった。
「小物屋の前通ったら見つけてね。あんたに似合いそうだったから」
「でも、なんの日でもないのに…」
「なによ、人がせっかく見立てて買ってきたんだからありがたく受け取りなさい」
「…うん、ありがとう」
ちょっと貸して、と柳宿は耳飾りを取り、自身が座っている椅子をこちらへ寄せると、私の横髪をそっと耳へとかけた。
「柳宿、」
「じっとして」
耳に柳宿の指が触れる度、くすぐったさからピクリと体を震わせてしまう。近くに感じる彼の気配に、自ずと顔に熱が集中していった。
「ん、やっぱりよく似合ってる」
手渡された鏡を覗くと、耳元でシャラリと美しい音を立てて紅い石が飾りと共に揺れていた。綺麗…、そう私が呟くと嬉しそうに笑う彼を見て、思わず目を逸らしてしまった。今日柳宿がこの耳飾りを私に贈ったのは、偶然のこと。異世界に伝わる行事を彼が知るはずがない、そう分かっているのに。もしかしたら…とどこか期待してしまう自分は、なんて都合のいい人間なんだろう …── でも。
『柳宿、ありがとう。大切にするね』
…この気持ちはいつかもっと自分に自信を持てた時に、直接言葉にして伝えたい、そう思った。
「あたしもこのお菓子、食べていい?」
「もちろん!自信作なんだよ」
「あら、ホント美味しい」
「ふふ、よかった」
「…ね、蘭飛」
「ん?」
「…前に、美朱から聞いた話なんだけど。異世界には、日頃の感謝や想いを込めて相手に贈り物をするっていう行事があるんですって」
「!」
ドキリ、とうるさいくらいに胸が高鳴った。もしかして、と震える唇を開く。
「それって…バレンタインのこと…?
「そうそう、確かそんな名前だったわ」
やっぱり美朱に聞いてたのね、と柳宿は続けた。まさか柳宿がバレンタインのことを知っていたなんて…!美朱様、そんなこと一言も言っていなかったのに…!
「いつも本当にありがとうね、蘭飛。これからもよろしく」
「ううん、…こちらこそありがとう」
柳宿は私の言葉を聞き頷くと、お菓子を一口頬張った。…あれ…?この様子だと、柳宿はバレンタインのもうひとつの意味までは知らない…?安心したような少し残念なような、そんな複雑な気分に襲われた。
「それで…って、なんで不機嫌そうなのよ」
「別に。なんでもない」
「なんでもなくないでしょ」
「本当になんでもないもん」
「…あのねェ、」
ぐいと力強い腕に引かれ体勢を崩した瞬間、柳宿の唇が揺れる耳飾りを掠めた。突然の出来事に咄嗟に飛び退き、微かに彼のそこが触れた耳をおさえる。
「…あたしだってバレンタインのもうひとつの意味くらい、知ってンのよ?」
「っ、?!」
ちょっと、待って。それってつまり、私の想いは柳宿に知られていたってこと?待って待って、じゃあ柳宿が耳飾りをくれたのって …──。全てを把握してこれでもかというくらい顔が紅くなった頃には、私はすでに彼の腕の中にいた ──。
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