撫子色に願いを込めて
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「勝手に入っちゃっていいの…?」
「平気よ、だってあたし息子だし」
「それはそうだけど…」
柳宿に連れて行かれるがまま辿り着いたのは、営業が終了し当然の如く誰もいない店内だった。蘭飛が罪悪感から小さくなっている中、柳宿は灯りをつけて片隅に置かれていた箱の中身を取り出した。
「あったあった!蘭飛、こっちよ」
「ちょ、今度はなに…!」
鏡の前に無理やり立たされ何が何だか分からないでいると、柳宿が背後から一着の服を当ててみせた。
「!」
「ふふ、やっぱり似合うわね」
優しい撫子色を基調とした一枚の着物。白や生成りといった同系色の糸で花の刺繍が施されたそれに、蘭飛は一目で魅了された。軽く袖を通してみると柔らかな生地が肌によく馴染む。
「素敵でしょ?蘭飛に似合うと思ったのよ」
その様子じゃ気に入ってくれたみたいね、と柳宿は満足気に笑った。
「うん、すごく!ありがとう、頂くね。お代は…」
「ああ、それはあたしからの贈り物だから気にしないで」
「そんなわけにはいかないよ」
「んー…なら寂しい思いをさせちゃったお詫び、とでも言っておこうかしら」
「えっ」
着物を丁寧に畳み箱に並べながら、柳宿は視線を蘭飛へ向けた。
「なぁんかおかしいと思ったのよね。
蘭飛は柳宿の鋭い指摘に目を逸らした。この幼馴染みに隠し事は出来ない、と改めて思い知る。
「さっき宮廷に知らせを送った時、入れ違いで李凪から手紙が届いて答え合わせが出来たってわけ」
懐から一枚の紙切れを取り出し、それに目を通す柳宿の口角は上がっていた。書かれている内容をなんとなく察した蘭飛は彼から手紙を奪おうとするも、今更なんの意味も持たず。
「蘭飛、あたしがいなくて寂しかったのね?」
「! ちっ、ちちち違うの!それは李凪の勘違いで!」
「寂しがり屋の蘭飛ちゃんはどう構ってほしいのかしら?」
「だから話聞いてってば…!」
ジリジリと距離を詰める柳宿と、隅に追いやられるように後ろへ下がる蘭飛。ついに箪笥へと背中がつき、逃げ場を無くしてしまう。
「ぬ、柳宿近いから…っ」
「ふふ、耳まで真っ赤」
横髪をかけると露わになるそれに柳宿が触れると、蘭飛はぎゅっと目を瞑り体を震わせた。
「……お馬鹿」
ツン、と柳宿は人差し指で軽く蘭飛の鼻を小突いた。
「男にそんな無防備なとこ見せるんじゃないわよ」
「、ぇ…あ、うん…ごめんなさい…」
離れていく柳宿を蘭飛は拍子抜けした様子で見つめる。その視線に気付いた柳宿は悪戯な笑みを浮かべた。
「なに、期待しちゃった?」
「! なっ、そんなわけないでしょ…?!」
「なぁんだ、残念。でもね蘭飛、これは本当に受け取ってほしいのよ。仕入れで見つけた時、真っ先にあんたの顔が浮かんだんだから」
「…うん…ありがとう、嬉しい。大事にするね」
自分が柳宿のことを考えている間、もしかしたら彼もまた自分のことを考えていてくれたのかもしれない。その可能性だけで、蘭飛の心は満たされた。ぽっかりと穴が空いたかのように思えた期間だったが、たった数時間の幸福でその空虚感は上塗りされてしまったらしい。
「さ、もう遅くなっちゃったから戻りましょ。部屋まで送るわ」
柳宿は右手で箱を抱え、左手で蘭飛の手を取った。自然な流れで繋がれた手に蘭飛は戸惑ったが、そこから伝わる柳宿の熱は温かく心地良いものだった。
今日ここに来て柳宿に会えたのは李凪のおかげであり、きっと自分ひとりだったらいつまで経っても行動に出さずただ悶々としているだけはず。たまには素直になってみようかな、と蘭飛は心を決めた。からかわれるかもしれないけど、その時はその時だ。
「あのね、柳宿」
「ん?」
「…本当はすごく寂しかったの。だから今日会えて嬉しかった」
「!」
柳宿はぴたりと歩を止め、蘭飛を凝視する。てっきりなにか言ってくると思っていた蘭飛は、動かなくなってしまった柳宿を見てだんだんと恥ずかしさが込み上げてきた。
「あ、あの…柳宿、さん…?」
「~~~っ、ああっ、もうっ!」
「ええっ?!」
柳宿は手で顔を覆いながらその場に座り込んだ。思ってもいなかった反応に蘭飛もつられて腰を屈め、手の隙間から顔を覗き見た。
「…あれ…顔真っ赤?」
「……見んじゃないわよ」
シッシッと追い払われるが、蘭飛はそれを避けながら彼を見つめ続ける。居心地の悪くなった柳宿は今度は勢いよく立ち上がった。
「蘭飛、あたし明日宮廷に戻ることにしたから」
「手伝いはもういいの?」
「兄貴に確認取るけど、多分大丈夫でしょ。あたしがいなきゃ誰かさんが寂しがるからね」
「……どうせ私だけが寂しかったですよー」
「あら、誰も寂しくなかったなんて言ってないけど?」
「! 今なんて言った?」
「ふふ、内緒」
「ねえ、教えてってば!」
「知りたい?」
「うん!」
「教えなーい」
「もうっ、柳宿!」
喜んだり拗ねてみせたりとまるで幼い子どものようにころころと表情を変える蘭飛を横目に、柳宿は撫子の花言葉を思い出す。
「ほんと、蘭飛にぴったりね」
── どうか愛しい彼女の笑顔がこの先も曇らず在り続けますように。そんな密かな願いを胸に、柳宿は再び蘭飛の手を取った。
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