撫子色に願いを込めて
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あれでもないこれでもない、とふたりは言い合いながら次々と織物を手に取った。李凪の髪や肌にはこの色味が合うと蘭飛が言えば、もう少し華やかさがあってもいいと柳宿が口を出す。逆もまた然りである。李凪のことだから、たとえ好みの物でなくても受け取ってくれるだろう。しかし、それで納得するふたりではない。悩みに悩んだ末、柳宿から一着、蘭飛から一着の合わせて二着を贈ることにした。
「ていうか当の本人がいなきゃ採寸もなにも出来ないじゃない。なんで李凪は来なかったのよ?」
「! …えーっと…なんか終わらせなきゃいけないことがあるみたい。近いうちに一緒に来れるようにするから、ね?」
「…ふーん?なら取り置きしとくように伝えとくわ」
「いろいろありがとう、柳宿」
「いいわよ、あたしも楽しかったし。…あら、もう日が暮れるわ。楽しい時間ってあっという間ね」
柳宿の言葉に蘭飛もつられて窓の外に目をやると、橙色の夕日が差し込み一日の終わりを告げていた。気付けば昼間賑やかだった客も蘭飛と他に数人、疎らにいる程度だ。
「ね、よかったら今夜泊まっていかない?父さんと母さんも蘭飛に会いたがってたのよ」
「急に迷惑じゃない?」
「今更そんな遠慮する仲じゃないでしょ」
「確かに…じゃあお言葉に甘えようかな」
宮廷には知らせを出してくれるということで、蘭飛は久しぶりに迢家を満喫することにした。幼かった頃はよく互いの家に泊まりに行っていたもののここ数年はとんとご無沙汰で、懐かしさからつい心を弾ませてしまう。
「なんだか昔に戻ったみたいだね」
「それじゃあ今夜一緒に寝る?昔みたいに」
「ふふ、それもいいかも」
定期的に行われたお泊まり会。先に眠ってしまった康琳を起こさないようにふたりでひとつの布団に潜り込んでお喋りしたっけ、と遠い日を懐かしむ蘭飛の隣で、柳宿は大きな溜め息をついてその場で足を止めた。
「どうしたの?」
「・・・あんた、全っ然分かってない」
「え、楽しそうって話でしょ?」
「全っっ然、分かってないわ」
柳宿は呆れた様子で大袈裟に再度溜め息をついて歩き出す。自分から言い出したくせに、と蘭飛はさして気にも止めずその背を追った。
♢
「お久しぶりです」
「今日は来てくれてありがとう。会えて嬉しいわ」
「少し見ない間にすっかり大人になっちゃったなぁ」
「変態親父みたいなこと言わないで」
「っ、変態…!?断じて違うっ!!」
咎める柳宿と慌てて弁明する貞臣とのやり取りに、蘭飛は呂候や涼杏と顔を見合わせて笑った。
柳宿の両親である貞臣と涼杏は蘭飛を昔から本物の我が子のように可愛がり、時には我が子のように叱ってきた。きっと幼くして亡くした康琳を重ねているところもあるだろう、と蘭飛は心のどこかで感じていた。
終始和やかな雰囲気で夕食が終わり、各々自室へと引き上げていった。蘭飛もそれに倣い用意された客間へ向かおうとしたが柳宿からお茶のお誘いがかかり、ふたりは彼の自室へと向かった。
「っ、はぁ~…疲れたわ~」
「お疲れさま。私の相手なんてしてないで休めばいいのに」
「随分冷たいわねェ。久々に会えたんだからちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃない」
「はいはい」
蘭飛が机に突っ伏すその柔らかい髪を撫でると、ぴくりと柳宿は肩を震わせた。一瞬目が合った気がしたが構わずに続ける。しばらく心地の良い沈黙が続いた後、そういえば、と蘭飛は思い出した。
「あの子頑張ってたね。ほら、先月から住み込みで働いてくれてる」
「あら、兄貴に聞いたの?ちょっと働き過ぎなんじゃないかって思うんだけどね」
田舎から出稼ぎで来ているというあの少女は昼間は店の手伝い、朝夕は使用人の手伝いをしているらしい。現に、今ふたりが飲んでいるお茶も少女が運んできたものだった。
「少しでも多く実家に仕送りしたいんですって。体壊したら元も子もないってのに」
「…心配なんだ?」
「そりゃあ、ね。なんか放っておけないのよ」
柳宿は机上の湯呑みへと手を伸ばし、一口含んだ。
「…正直な話、父さんや母さん…もしかしたら兄貴も、康琳とあの子を重ねている時があるかもしれない。……あたしも気付かないうちに同じように思ってたのかも。康琳とあの子は別人なのに……気を付けなきゃいけないわね」
「…そっか」
いつも強気な柳宿の、久しぶりに見せた弱く脆い一面。蘭飛は堪らず手を伸ばし、彼の頭を再び撫でた。そんな彼女の行動にどこか照れくささを感じている様子の柳宿であったが、されるがまま受け入れた。
「私も出来るだけ顔出すようにするね。代わりにはなれなくても、話し相手くらいにはなるだろうし」
その言葉に反応した柳宿は、咄嗟に蘭飛へと顔を向ける。
「蘭飛、言っとくけどあたしの家族はあんたを康琳の代わりにしてるわけじゃないわよ。蘭飛が大切だから可愛がって、心配だから叱ったりしてるんだからね」
変な勘違いすんじゃないわよ、と柳宿は釘を刺す。
「……そう思ってるように見えた?」
「なんとなく」
── 蘭飛だから。その言葉で彼女は肩の荷が下りた気がした。どこか心の奥底で静かに根付いていたものが、長年の時を経て取り除かれた感覚だった。
「柳宿」
「なぁに?」
「…ありがとう」
「どういたしまして」
ふたりは離れて過ごしていた期間の話をした。
美朱が異世界から持ってきたお菓子でお茶会を開いて、初めて見る甘味に舌鼓を打ったこと。そこに他の七星も次々と混ざって、最終的にどんちゃん騒ぎになったことを聞いた柳宿は呆れたように溜め息をついた。
「優雅なお茶会がなんで酒飲みに変わるんだか…」
「ふふ、柳宿だっていたら絶対楽しんでたと思うよ」
「確かにね」
「仕事はどうだった?大変?」
「まぁね。でも一緒に選ぶの楽しいしやり甲斐の方が多いわよ」
蘭飛は昼間のことを思い出し、きっとお客さんが圧倒されるくらい次々と選ぶんだろうな、と想像して笑ってしまった。
「いいな、私も久しぶりに柳宿に選んでもらいたくなっちゃった」
何の気なしに呟いたそれを柳宿は聞き逃さなかった。
「それじゃ今から行きましょっか」
「えっ?!」
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