撫子色に願いを込めて
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「……来ちゃった」
柳宿の実家であり、栄陽でも有数の衣服問屋の前に蘭飛はいた。あんなに柳宿に会いにいく必要がないと言っていた彼女が何故ここにいるのか……それは李凪のお願いが〝自分に似合う服を見立ててほしい〟だったからである。普段からあまり主張のない李凪からの貴重なお願いを蘭飛が見過ごすはずがない。それがたとえ柳宿の元へ向かわせるための方便だったとしても、だ。李凪の願いを叶えてあげられる嬉しさと、してやられたというなんとも言えぬ微妙な思いを抱きながら蘭飛は暖簾を潜った。
「わ、大盛況」
客と従業員が忙しなく行き交う店内。相変わらずの繁盛ぶりにたじろぐ蘭飛に声をかける者がいた。
「蘭飛ちゃん?」
「呂候さん!」
柳宿の兄、呂候である。
「久しぶりだね。柳娟なら奥にいるよ」
「ううん、今日は頼まれごとで来たの」
「そうなのかい?でも良かったら柳娟に会っていってくれないか、すごく頑張ってくれているから」
「けど…邪魔にならないかな?」
「まさか。それに君が来てくれたのに会わせずに帰しちゃったら、あとで柳娟に怒られてしまう」
だから頼むよ、と懇願する呂候を振り切れるわけもなく、互いの近況を報告しながら案内されるがままに後について歩く。通された先に大量の箱を軽々と運ぶ柳宿の姿があった。
「柳娟、お客さんだよ」
「あら、蘭飛じゃない!なんだか久しぶりねェ」
「ふふ、お仕事お疲れさま」
荷物をその場に置き真っ直ぐと自身の元へ来てくれる柳宿に、蘭飛は自然と笑みが零れた。
「元気だった?」
「うん、みんな変わりないよ」
そうだ、と蘭飛は先日起こった出来事を話し始めた。
「あのね、鬼宿と翼宿が飲み比べ勝負して真夜中に大騒ぎになっちゃったの。そうしたら星宿様がお叱りになられたんだけど、ふたりとも顔真っ青にさせちゃって。それがもう可笑しくて可笑しくて」
「あんたは?」
当時の様子を思い出して口元に手を当てて笑う蘭飛の言葉を遮り、柳宿が尋ねた。
「蘭飛は元気だった?」
「え、うん…元気だよ、大丈夫」
「そう、なら良かったわ」
ぽんぽんと柳宿に頭を優しく叩かれた蘭飛は不意な出来事に頬を染めた。その光景を微笑ましく見ていた呂候が口を開く。
「相変わらずふたりは仲がいいんだね」
「! ろ、呂候さんこそ、柳宿が来てくれて嬉しいんじゃないですか?」
呂候がいたことを思い出した蘭飛は見られていた恥ずかしさからか、少し言葉を吃らせた。
「兄貴は弟離れ出来ないだけよ」
「う…酷いな、柳娟」
「本当のことじゃない。それはそうと蘭飛今日はどうしたの?何か用事があって来たんでしょ?」
「そうそう、李凪が」
その時、背後で響く悲鳴と大きな物音に蘭飛は咄嗟に振り向いた。すると、ひとりの従業員が柳宿が運んでいたいくつもの箱に埋もれてしまっているではないか。
「ちょっ、大丈夫!?」
柳宿が腕を掴み引っ張り上げたのは齢十五、十六ほどの線が細い少女だった。
「も、申し訳ございません柳娟様…大切な商品を…」
「何言ってるの、あたしがこんなとこに置いてたからいけなかったのよ。怪我はない?」
「はい…本当に申し訳ございません」
何度も頭を下げる少女と、落ち着かせるように優しく声をかけ続ける柳宿。そんな二人を周囲の従業員たちが見守っている姿に、きっとよくある光景なんだなと蘭飛は察した。
「呂候さん、あの人は?」
「ああ、先月から住み込みで働いてくれている子だよ。なかなか心を開いてくれなかったんだけど、柳娟が手伝いに来てから少しずつ表情を見せてくれるようになってね」
ちょっと危なっかしいところがあるものだから柳娟が世話を焼いているんだ、と呂候は続けた。
「そうなんだ…」
「心配しなくても、柳娟は蘭飛ちゃん一筋だから大丈夫さ」
「・・・・・・はっ?!」
呂候の突拍子もない発言に、蘭飛は思わず大きな声を出して反応してしまった。
「ろ、呂候さんなにか勘違いしてるんじゃ…私たちは別に、そういう仲じゃないから…!」
「違うのかい?僕はてっきりふたりは恋人同士だと、」
「そそそっ、それ以上言わないで…!」
蘭飛は慌てて呂候の口元を塞ぐ。柳宿に万が一にも聞かれていたらどうすればいいだろう、と頭の中でぐるぐると回っていた。
「二人でなんの話してんの?」
「! 柳宿?!今の聞こえてた…?」
「今のって?」
「ううん、ならいいの」
とりあえず聞こえていなかったようで蘭飛は胸を撫で下ろした。そんな不可解な彼女を見て、柳宿は疑問符を浮かべる。
「兄貴、蘭飛になんかしたわけ?」
「いや、ちょっと意地悪しちゃっただけだよ」
「? なにそれ」
再度向けられた訝しげの視線から逃れるため、蘭飛はここに来た理由を柳宿に伝えた。もちろん李凪の真意は伏せて、である。
「李凪がお願いなんて嬉しいわね。思いっきり似合うやつ見立ててあげましょ」
意気込む柳宿に、蘭飛の心は温かくなる。自分が大切にしている李凪を彼も同様に想ってくれ、喜びを共有出来ることが嬉しく思えた。
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