撫子色に願いを込めて
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「(蘭飛様が珍しく不機嫌だ…)」
李凪は主の変化をいち早く察知した。何か気に障ることがあっただろうかとこれまでのことを思い返すも、思い当たる節は特にない。本人に尋ねていいものかと更に頭を悩ませていると、忍ばせていた視線に気付いた蘭飛と目が合った。
「どうかしましたか?李凪」
「いえ、なんでもございません」
勿論李凪に強く当たったりするわけではない。しかしにこやかな笑顔の裏に見え隠れする、そこはかとなく暗い何かを李凪は感じていた。おそらく他の者は違和感すら抱かないであろう蘭飛の些細な変化を察することが出来たのは、李凪の洞察力や二人が築き上げてきたものがあってのことだった。
「蘭飛様、お茶の支度が整いました」
「ありがとうございます。李凪も一緒にいかがですか?」
「…それではお言葉に甘えて」
少しでも気が晴れれば、と主人のお気に入りの甘味とお茶を準備するにも関わらず、やはりその表情は明るくない。いよいよ怪しく思えてきた李凪は、隅々まで思考を巡らせた。
「(── あ。)」
辿り着いたひとつの答えに、どうやら事を難しく捉え過ぎていたらしい、と李凪は己の不甲斐なさを痛感した。しかし確証を得ていない李凪は一か八かの鎌をかけてみることにする。
「いつお戻りになるのでしょうか」
ぴくりと僅かにだが蘭飛が肩を震わせたのを見逃すはずがない。やはりそうだったのか、と推測は確信へと変わった。
「さぁ、どうでしょう。柳宿の家も忙しいみたいだから、まだかかるのかも」
「蘭飛様。私は〝柳宿様〟とは申しておりません」
「! …謀りましたね、李凪」
柳宿が家業である衣服問屋の手伝いに出てから、既に半月が経っていた。その間実家に寝泊まりしているようで一度も宮廷に戻ってきてはいない。蘭飛の不機嫌の原因は、どうやらそこにあるらしい。
「そんなに気になるのでしたら、一度会いに行かれてはいかがですか?」
「べっ、別に私は柳宿のことなんて気にしてなんて、な…ぃ…」
だんだんと小さくなる声に、失礼だと思いながらも李凪は笑みを零す。笑われたことが恥ずかしかったのか、蘭飛は赤くなった顔を隠すように机に伏せてしまった。
「申し訳ありません。どうかお顔をお上げになってくださいませ」
「…いやです。また笑うんでしょう?」
「もう笑ったりなんてしません」
様子を窺いながら渋々と顔を上げた蘭飛。李凪が笑っていないことを確認すると、コホンとひとつ咳払いをし居住まいを正した。
「と、とにかく。李凪が思っているようなことはありませんからね」
「と、言いますと?」
「だから、その、……柳宿がいなくて寂しい、と私が思っているってことです」
「ふふ、私はそこまで申していませんよ」
「りっ、李凪…!」
笑いを堪えきれなくなった李凪に、蘭飛は思わず声を上げた。
「蘭飛様が愛らしくて、つい」
「もう…」
乱れた気持ちを落ち着かせるためにお茶へと手を伸ばした蘭飛を見守りながら、李凪は柳宿の元へ向かわせる方法を思いついた。それも自然で、蘭飛が決して断らないような方法を。
「…蘭飛様、折り入ってお願いがあるのですが ──」
素直になれない主の背中を押すべく、李凪は最強の武器を振りかざした。
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