第四話.太極山へ
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「……ねェ、太一君。蘭飛の能力ってなんなの?」
「柳宿は蘭飛の幼馴染みじゃったの。…本人に直接聞かんのか?」
「だってあの子、聞いてもきっと教えてくれないだろうしィ?太一君に聞いた方が手っ取り早いと思って」
「……あたしも知りたい」
二人の会話に美朱も加わった。その手は、先程自身で深く突き刺したはずの左胸に添えられている。
「もっと酷い傷のはずだもん、自分で刺したから分かるよ。…蘭飛が、何かしてくれたんでしょ?」
「〝移す〟…と言っていたな」
「蘭飛が本物の守護星なら、俺達の仲間だよな?味方の能力は知っていた方がいいだろ」
更に星宿と鬼宿も加わり、皆の視線を受けた太一君は息をひとつついた。
「──〝転移術〟。言葉の通り、対象の傷や病を自身に移すことが出来るのじゃ。美朱の傷が塞がりかかっているのも、蘭飛が己の身体に転移させたからじゃろうな」
「蘭飛に怪我してる様子なんて…」
「術を使えば制御可能じゃ。もちろんその間は痛みも苦しみも感じまい。そして能力を使用した際は、ここで治療する決まりにしておる」
それを聞いて美朱は胸を撫で下ろした。知らなかったとはいえ罪悪感があったのだろう。しかし、同時に疑問を抱く者もいた。
「…痛みを感じていないなら、わざわざ術を解いてまで治療させることないんじゃない?普通の怪我と一緒で、時間が経てば治るんでしょう?」
柳宿の尤もな質問に、皆が太一君からの回答を待った。
「──戒めじゃよ」
「! 戒めって…」
物騒な言葉に誰もが息を飲む。
「…ふん、戒めはちと言い過ぎたかの。無闇矢鱈に使い過ぎないよう、わしが蘭飛に与えた罰なだけじゃよ」
「…本当に?」
「疑り深い奴じゃのう。お主も蘭飛の性格は知っておるはずじゃろ?」
「よぉく知ってるから言ってるのよ」
確かに幼馴染みの柳宿から見ても、蘭飛は馬鹿がつくほどのお人好しだ。本人は誰に対しても優しくしているわけではない、と主張しているが、柳宿はそう思ったことは一度もない。もしも目の前で怪我や病で苦しんでいる者がいれば、きっと能力を使うことも厭わないはず。…だからこそ、余計に不思議に思うのだ。馬鹿がつくほどお人好しの蘭飛なら、たとえ自分が痛い思いをすることになっても誰彼構わず他者を助けようとするのではないか、と。なのに、今まで蘭飛が能力を使うところを見たことを……むしろ、その存在すら知らなかった。罰と銘打って、蘭飛に能力を使わせない
その疑問に、太一君が答える。
「なに、そもそも蘭飛の能力自体をわしが制御し、本来の力を出せないようにしておったのじゃ。守護星の能力は巫女と七星士のためにあるからの」
〝───
「柳宿は蘭飛から何も聞いてなかったの?」
「ええ。…でも話を聞いて黙ってた理由も大体見当がついたわ」
「? それって…」
「お待たせしまい申し訳ございません」
治療を終えて戻ってきた蘭飛に全員の視線が集まると、一瞬たじろぐ様子はあったものの、普段通りの穏やかな笑みを浮かべた。
「蘭飛、あたしのせいでごめんなさい…」
「? どうして美朱様が謝られるんですか?」
「あたしが影なんかに負けなかったら、こんな傷出来てなかったし…蘭飛も痛い思いしなくて済んだんだよね?」
太一君が能力について話したことを悟ると、蘭飛はゆるりと首を振って美朱の発言を否定した。
「私は守護星としての使命を果たしているだけです。なので美朱様が気に病む必要はありません」
「でも…っ」
「もう傷は塞がっていますし…これでも結構頑丈なんです、私」
ほら、と力こぶを作ってみせる蘭飛から嘘偽りは感じられず、美朱はそれ以上何も言えなくなった。
「──さて、そろそろ本題に入るとするかの」
そう、太極山に来たのは美朱を元の世界へ帰すため。ここまでいろいろあったがようやくあちらの世界へ帰れるんだ、と期待に胸を膨らませる美朱だったが、続く太一君の言葉に微かに動揺を見せた。
「良いか、美朱。お前はこの世界に長くいすぎた。よって初めの頃のように、道が開いただけでは簡単に帰れぬのだ」
太一君によれば、美朱が元の世界へ帰るために必要な物は二つ。一つ目は、こちらの世界と向こうの世界とを繋ぐ〝媒介〟。二つ目は、深く繋がり合う強い意志と感情だ。
「本来なら朱雀七星士が全員揃っておれば簡単なのじゃが…これだけの人数で、しかも柳宿以外は怪我人じゃ。相当な精神力がいるぞ」
「? 蘭飛は数に入らないの?」
「私は朱雀七星士ではありませんので…お役に立てず申し訳ございません」
「そうなんだ…」
「…大丈夫、やれるさ」
「…ああ…やれる。必ず帰らせてやるよ」
「安心しなさいよ、美朱!」
「っ、うん!」
鬼宿、星宿、そして柳宿の頼もしい姿に美朱は大きく頷いた。
「── では始める」
皆が美朱を囲むように座り、太一君の言葉を合図に胸の前で手を組んだ。
「皆は美朱に〝気〟を集中させよ。美朱、お主は自分の世界を心に描き精神集中しろ」
「────…」
太一君の後ろに控えてその様子を見守っていた蘭飛は、美朱の気の乱れに逸早く気付いた。おそらく鬼宿と星宿に怪我を負わせてしまったことへの罪悪感が、元の世界へ帰ろうとする思いを邪魔しているのだろう。
「馬鹿者!気を散らすでない!!」
太一君の叱咤の声が響く。しかし蘭飛に出来ることは何もなく、ただただ祈るばかりだった。元の世界のことを、帰りを待っているであろう家族や友人のことを、美朱が思い出せるように…と。
──すると。蘭飛の祈りが…否、美朱の想いが通じたのか、眩いほどの赤い光が彼女を包み込んだ。その身体が透けて消えゆく一瞬、蘭飛は美朱と目が合った。その瞳には確かに感謝の意が込められていて、蘭飛は口元を緩めると両の手をついて頭を下げた。
「──行ってらっしゃいませ、美朱様」
この瞬間、ひとりの少女が世界から姿を消した。
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