第四話.太極山へ
▽名前変換!
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日が暮れ始めたため各々が野宿の準備を進める中、蘭飛は寝床を整える柳宿の隣に腰を下ろした。
「ね、美朱様と鬼宿ってずっとあんな感じなの?」
「そうなのよ。ほんと焦れったいっつーか鬱陶しいっつーか…」
相変わらずぎこちなさを残している二人に対し、それも仕方ないかと蘭飛も納得しかけたが、ふと違和感を覚える。あの朝の記憶を手繰り、あっ、と呟いた。
「そういえば…あの日は朝からなんだか二人の雰囲気がおかしくなかった?」
「……蘭飛は知らなかったのね」
「? 何を?」
「あの晩…耳飾りの一件があった後…」
柳宿にしては真剣な面持ちにつられ、蘭飛はゴクリと息を呑んで続きを待った。
「陛下が美朱に求婚なさったのよ…!」
「っ、きゅ…っ?!」
堰を切ったようにおいおいと泣き出した柳宿に、他の三人からもなんだなんだと視線が集まる。
「どうかした?」
「なっ、なんでもありません!ちょっと気分転換にその辺りを歩いてきますね。ついでに水も調達してきます」
「あたしも行こうか?」
「慣れない馬の移動でお疲れでしょうし、美朱様はゆっくりお休みになってください」
蘭飛は柳宿の腕を掴むと足早に歩き、離れた木陰へと身を潜めた。
「朱雀を呼び出して全てが終わったら、美朱を正妃にするおつもりなのよ…!」
「本当の話なの?何かの勘違いじゃ…」
「この耳で確かに聞いたわ!鬼宿も一緒にいたから聞いてみなさいよっ」
「仮に事実だとしても、美朱様がお慕いしてるのは鬼宿だもん。だから泣かないで、ね?」
「……」
「それにいくら陛下でも強引に婚姻は結んだりしない、……と思う。…きっと、うん」
「………ふふっ、そこはちゃんと言い切りなさいよね」
自信なさげに語尾を弱めた蘭飛に、柳宿は呆れたように笑った。その表情は先ほどと較べると晴れやかなものになっている。
「さぁて!とっととあの二人を仲直りさせて、陛下が憔悴したところをお慰めするわよ!」
いつもの調子に戻った柳宿に、蘭飛はほっと胸を撫で下ろした。
「蘭飛には美朱を林の奥の泉まで誘導してほしいの。鬼宿はあたしが呼び出すから」
「泉?」
「身体つらそうじゃない、あの子。その泉に入ると病気を治してくれるって話だし、丁度いいでしょ」
美朱の体調の変化には蘭飛ももちろん気付いており、水汲みも薬と共に渡すために申し出たのである。しかし柳宿も気付いていたとは、と改めて幼馴染みの視野の広さを思い知った。
「……それって信じても大丈夫?」
「失礼ね、当たり前よ。同じことを何回もするほど腐っちゃないわ」
「ふふ、冗談だよ」
♢
「ただいま戻りました」
「! おかえり、蘭飛」
笑みを浮かべるその顔は夜闇と言えど血色が悪く、やはり無理をしていることが窺える。蘭飛は少し躊躇ったものの、水の入った筒だけを美朱に渡した。
「…お身体の具合はいかがですか?」
「! …ありゃ、もしかしてバレてた?うまく隠してたつもりだったんだけどなぁ」
「この林の奥に治癒の効力がある泉があるそうです。疲れにも効くとのことですので、ぜひ入ってみてはどうでしょうか」
「本当?そうするね、ありがとう!」
泉へと駆けていく美朱の背中を見送りながら、蘭飛は嘘をついてはいないのに何故か騙しているような罪悪感に苛まれてしまう。しかしこれも二人を仲直りさせるため、と己に言い聞かせて柳宿との合流地点を目指した。
「蘭飛!こっちよ、こっち」
声のする方を見上げると、すでに到着していたらしい柳宿が木の上から蘭飛を見下ろしていた。まさかあそこから覗くつもりなんじゃ、と懸念を抱きつつ差し出された手を取ってその隣へと身体をおさめる。並んで座ると肩がぶつかるくらいには手狭だったが、生い茂った木々が美朱たちの姿を隠しながら声だけを鮮明に届けてくれた。
「そこ!そこで押し倒せっ!!」
「鬼宿はそんなことしないと思うけど…」
「甘いわねェ、キメる時はちゃんとキメる男じゃないと。あんたも恋人作る時はきっちり見極めんのよ」
「はいはい、私の話はいいから」
「人がせっかくアドバイスしてあげてるってのに冷めてるわね」
「今は美朱様と鬼宿のことが優先。…でも良かった、無事に仲直り出来たみたい」
これまで家族を養うことだけを考えてきた鬼宿は異性から向けられる好意にどうやら戸惑ってしまい、美朱に対してあんな態度を取っていたらしい。そんな微笑ましい理由に、蘭飛はつい口元を綻ばせた。
「他人の心配も結構だけど、自分のこともちゃんと考えなさいよ。もういい歳なんだからさぁ」
「なにそれ、康琳だって同い歳でしょう?……それに、私だって別に何もないわけじゃないんだから」
「! ちょっとどういう意味?!あたしなんにも聞いてないんだけどっ」
独り言のつもりで呟いた言葉も柳宿の耳はしっかりと拾っていたらしく、蘭飛にずいと勢いよく詰め寄った。
「な、なんでもないから!ほら鬼宿も戻ったみたいだし私たちももう休もうよ、ね?」
「嘘おっしゃい!絶対何か隠してるでしょ!」
「ちょっ、落ち着いて…!」
「ほら!とっとと白状なさい!」
「本当に危ないから…っ!」
──バキッ、と響いた不吉な音に柳宿と蘭飛は顔を見合わせたがもう時すでに遅し。虚しくも二人は為す術もなく、折れた枝とともに地面へと落下した。
「ッ、痛ぁ……」
「もう…っ、康琳が木の上で暴れたりするから…!」
「あんたが意味深なコト言うからじゃないっ」
「だからって、っ!」
「柳宿!それに蘭飛も…二人ともそんなところで何してるの?」
わあわあと言い合っている最中、蘭飛は背後から聞こえた声にピタリと動きを止めた。誰がどう見てもただの覗きに違いないのだが、そう馬鹿正直に伝えるわけにもいかないと躊躇いを感じていた蘭飛に美朱が飛びついた。
「ありがとう!」
どうやら自分と鬼宿を仲直りさせるために仕組まれた策だと気付いたらしい美朱は、蘭飛同様柳宿にも抱きついて感謝をその身で表した。
「ちょっ…ちょっと放しなさいよ!」
「だって!」
「美朱様!どうか落ち着きになられてください…!」
美朱が抱きついたせいで柳宿の服はどんどんと崩れていく。更には先程まで泉に浸かっていた美朱は当然の如く裸であり、この状況に蘭飛は動揺と焦りを隠せずにいた。いっそのこと力ずくで剥がすしかないかと思ったものの決意虚しく、柳宿の服は完全に肌蹴てしまい胸元が露わになってしまった。女性であればそこにあっていいものが、柳宿には無い。それを意味することは、つまり ──。
「おっ…男!!!」
あまりの衝撃に言葉を失った美朱。蘭飛は自身の上着を一枚脱ぐと、固まってしまったその身を包んだ。
「バっ…バレたらしょうがないなぁっ!私は男!それがどうしたっていうの?!」
「、もしかして…オカマ…!?…っ男のくせに星宿が好きなの?!しかも鬼宿にキスまでして!」
「愛のためなら男の道をも踏み外すわ!」
「蘭飛もどうして教えてくれなかったの!?」
「も、申し訳ございません…」
「この子が人の秘密をペラペラ喋るわけないでしょうが」
「頭痛くなってきた…あたしこれから先、無事に太一君の所まで行けるかな…」
頭をおさえる仕草をする美朱の手を蘭飛は力強く握った。
「大丈夫、きっと太一君も朱雀の巫女である美朱様にお会いしたいとお思いになっているはずです」
「蘭飛…!」
その言葉に安心して手を握り返す美朱だったが、その視線は徐に蘭飛の胸元へと下がっていく。
「…蘭飛も男だったり……?」
「っ、しません!!」
_
