第三話.導き
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「鬼宿!市内で一体何があったのだ!?事によったらお前でもただではおかぬぞ!」
医官の診察が終わり寝台で横になる美朱様の元へ陛下が駆けつけ、鬼宿に強い口調で尋ねた。言葉を詰まらせる鬼宿を見て、咄嗟に二人の間へ身を滑らせる。
「陛下、今回のことは美朱様の異変に気が付かなかった侍女である私の責任でございます。罰ならば全て私がお受けいたします。…七星士様同士で争いになるのは、どうかお控えくださいませ」
陛下は私の姿を認めると、先程にも増して眼光を鋭くさせた。
「〝この宮廷に神 蘭飛という侍女は存在しない〟と侍女頭より報告が入っている。……そなた、何者だ。何が目的で身分を偽ってまで美朱に近付いた」
陛下の発言に、背後の鬼宿が息を飲む音が聞こえた。室内に緊張が走り皆の視線を一身に受ける中、今はまだ真実を言う時ではないと判断する。
「お答えすることは出来かねます…と申し上げた場合、私の処分はどのように?」
「無論、解雇だ。本来ならば然るべき処罰を致すところだが…池に入ったところをそなたに助けられたと美朱から聞いている」
扉が開き、文官と武人が一人ずつ部屋の中へと入ってきた。暴れるつもりなんてないのだけれどと苦笑が漏れそうになるのを堪え、促されるまま二人の後について歩く。その途中僅かに眉を顰めた康琳と目が合ったが、大丈夫、と音は出さずに口の動きだけで伝えた。
「おい、早くしろ」
「はい」
文官に急かされ、いまだ納得出来ていない様子の幼馴染みを残して部屋を後にした。
♢
「なぜ皇帝陛下に本当のことをお伝えにならなかったのですか?」
後宮にある自室にて事の顛末を話し終えた後、李凪からそう疑問を投げかけられた。
「んー…特に深い意味はありません。美朱様が起きられている時に直接お話したいなって思いまして。それだけの理由です」
「しかし…今回は運が良かっただけであって、もしも蘭飛様が何かしらの処罰を受けることになっていたらと思うと、私は…」
李凪は声を震わせ、ギュッと自身の手を握りしめた。不安にさせてしまって申し訳ないと思うと同時に李凪の〝運が良かった〟という発言にも、確かにその通りだと肯ける。
「…もしかしたら、私たちは導かれているのかもしれませんね」
「導き、ですか?」
「朱雀の巫女出現の噂話に居合わせたことや巫女の侍女役に就けたこと、そうしてほぼ丸一日、近くでその人となりに触れることが出来たこと。この短期間で七星士が三人も集結していることを踏まえても、そう考えれば合点がいくかなと」
偶然がただ重なっただけと言われてしまえばそうかもしれないが、それにしては事が上手くいき過ぎている気もする。きっと目には見えない〝何か〟が作用したのだろう。……と、そこまで口にしてから、そんな不明瞭で不確かなことを信じている自分がどこか恥ずかしくなり、曖昧に笑って誤魔化した。
「……蘭飛様は巫女に仕えるとお決めになられたのですね。もう一度宮廷へ向かわれますか?」
「いえ、それは頃合いを見て。きっと報せが届くはずです」
報せ?と首を傾げる李凪だったが、数日後に届いた一通の手紙を読んで意味を理解したようだった。手紙の差出人は康琳で、最初から正直に身分を明かしておけば良かったのに、とお怒りの文から始まっていた。しかしその文字からは心配してくれている様子が窺え、幼馴染みの不器用な優しさを嬉しく思ってしまう。手紙の続きには美朱様が快復されたことや、私が侍女を解雇されたことを知って落ち込みになられている旨が記されていた。そうして最後に綴られている内容に、なぞる指をピタリと止める。
「いかがされましたか?」
「美朱様たちが明日、〝太極山〟に向け宮廷を発つようです」
太極山。そこは天帝・太一君が住まう場所である。どうやら心身ともに疲弊した美朱様を異世界に帰すため、太一君に会いにいくことになったらしい。そうとなれば私も同行したいところだが… 現時点で私の心象は良くないのだから、きっと話を聞いてもらうことすら叶わないだろう。さて、どうしようか。
「……まぁ、なんとかなるよね」
今さら悩んだところで、やるべきことはひとつなのだから。
── 翌日。李凪に見送られ後宮から宮廷へ通ずる門に向かう途中、穏やかに吹いた風が髪をさらった。普段は結い上げた髪を解き、煌びやかな衣装も動きやすい軽装なものにするとやはりこちらの方がしっくりくるらしく、なんとなく心まで軽くなったように思えた。
「……綺麗…」
見上げた空はいつもよりも青く澄み渡っていた。
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