第三話.導き
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「鬼宿たち、どこまで行くのかなぁ」
鬼宿と柳宿を尾行してやって来た市街は相変わらずの賑わいだった。はぐれないため無礼を承知で美朱様の服の端をしっかりと握り、人波を縫うようにして進む。外を歩くには異世界の服は目立ち過ぎるため着替えを用意すると提案したのだが、着替える時間が勿体無い!とその辺にあった布を纏った美朱様は、逆に人々の注目を集めていた。
「たまちゃん、あの子あれで変装してるつもりよ?」
「ほっとけよ」
「あら冷たい!」
先を歩く康琳の視線を感じ、これじゃあ気付くに決まってるよねと苦笑を零す。尾行に気付かれていることに気付いていない美朱様をお守りすべく、周囲に目を光らせた。
「さあさあ!聞いてくんな、皆の衆!」
よく通った鬼宿の声に、道行く人々は足を止める。
「噂の〝朱雀の巫女〟のことは承知だね?朱雀の巫女ってのはまるで別世界から来た娘なんだ。これが服装も持ち物もこの世とは大違い!そこでだ!巫女の持ってきたすげェ代物を特価で売ろうじゃねェか!」
鬼宿は懐から取り出した物を高く掲げるが、残念ながらここからではそれが何かは判別出来ない。
「あっ!あれあたしがあげたチューイングガム!」
「ちゅーいんぐ、がむ?」
初めて耳にする音の響きに首を傾げると、あとで教えるね!と美朱様はおっしゃった。きっと私が到底想像出来ないような代物に心躍らせていると、人々の騒めきが大きくなった。なぜお前が朱雀の巫女の持ち物を持っているのか、と疑惑の声が上がり、挙句には詐欺だと言う者も出始める。まあそれは至極当然なことだ。あそこに立つ彼が朱雀七星士の〝鬼宿〟だなんて、ここにいる人々は誰も知らないんだから。さてどうするつもり?と暢気に構えている、と。
「……嘘じゃない…」
「…美朱様?」
隣に立つ美朱様が怒気を放っていることに気付いた時には、もう遅かった。
「鬼宿はそんなことする人じゃないわ!そのガムはちゃんとあたしが彼にあげたのよ!!」
そう声を荒らげる美朱様に、誰もが注目した。布がはらりと地に落ちたことにより覗かせたまるで異世界を思わせる服と、自身が〝朱雀の巫女〟と言わんばかりのその発言に、人々は大きく目を見開かせる。
「み…巫女だ…」
「まさか、本当に…朱雀の巫女…?!」
「っ、美朱様!」
「「「本物の朱雀の巫女だ!!」」」
── 遅かった。美朱様の腕を掴んだまでは良かったが、押し寄せる人の波でその手は虚しくも離れてしまう。その上、鬼宿の持っていた品が本物と分かるとそちらにも大勢の人が駆け寄り、ますます美朱様との距離が広まっていくばかりだ。慌てて伸ばした腕は別の何者かに強い力で掴まれ、引かれるままに脇道へと抜け出した。
「馬鹿ね、あんなとこでもたもたしてたらあっという間に潰されちゃうわよ」
「……康琳…」
「あら、何よその顔は。あたしが人助けしちゃ可笑しい?」
「そういうわけじゃ、」
「…ま、別にいいけど。鬼宿と美朱も上手く抜け出せたみたいだし、早く合流しましょ」
掴んでいた手を離し、康琳は二人が向かったであろう方向へと歩き出した。遅れて歩き、幾分か高い幼馴染みの後頭部を見つめる。いつも向けられる瞳が今は無いことに、チクリと胸が痛んだ気がした。
「……怒ってる…?」
窺いながらそう尋ねると、少しの間を置いて康琳はゆるりと振り向いた。
「怒ってるのは蘭飛じゃないの」
「それはそうだけど…それだけじゃなくて哀しかったって言うか…」
「ハイハイ、大切な巫女サマに意地悪して悪うございました」
「っ、康琳!」
拗ねたまままた先を行こうとする背中に向かって、その名前を呼ぶ。
「ちゃんと聞いて。耳飾りのことはやり過ぎだって正直頭に来た、それは本当。でももう美朱様と話をしたんでしょう?私が言いたいのは美朱様に何かあった時、康琳は絶対自分を責めるから…自分を傷つけるようなことはしないでほしいってこと」
「! …ふーん、あんたそれで怒ってたわけね」
「え、あの…どうして嬉しそうなの?」
袖を当てて隠された口元は見ることは出来ないものの、目元は緩く弧を描いていた。
「べっつに~?ほら、さっさと二人を追いかけるわよ」
「……変な康琳」
鼻歌でも始めるんじゃないかと思うくらいの上機嫌さに首を傾げつつ、先程とは違い横並びになって歩幅を合わせて歩く康琳に自然と笑みが零れた。
「……仕えることに決めた?」
「そうねェ…ただの甘ちゃんならお断りだったけど、あの子案外根性あるみたいだし」
「ふふ、やっぱり美朱様のこと気に入ったんだね」
「お馬鹿、そんなんじゃないわよ」
そう口では言っているが、今の康琳から昨日のような毒気は感じられない。良かった、関係はしっかりと好転しているみたい。
「! 蘭飛、あれ見て」
康琳の指差す方向を辿ると、複数の男たちに囲まれた二人を発見した。その中には先程鬼宿の商売に文句をつけていた者もいて、見るからに穏やかではない雰囲気である。美朱様が捕らわれてしまったため加勢しようと一歩踏み出したところ、康琳に首根っこを掴まれて物陰へ逆戻りとなってしまった。
「仮にも侍女の振りしてるんだったらホイホイ出ていかないの」
「でもっ、」
「心配しなさんなって。あんな連中にやられるほど、あの二人はヤワじゃないでしょ」
悠長なこと言ってられない、と抵抗しても康琳の力からは逃れられるはずもない。手立てを考えていると何やら鈍い音と男の呻き声が聞こえた。どうやら美朱様が男を殴ったらしく、虚をつかれた他の男たちも鬼宿により次々と倒されていった。
「正義感が強いのは結構だけど、女のコなんだからやたらと首突っ込むんじゃないわよ。そもそも子どもの頃道場に通ってたのだってあたしは反対だったんだから」
あの時だってねェ、とネチネチと昔のことを掘り返す康琳の話は適当に聞き流しながら、美朱様の雰囲気が少し変わったことが気になった。
「ちょっと!ちゃんと聞いてんの!?」
「しーっ!静かに…!」
「なんで…なんであたしのためにそこまでするの?!答えてよ!」
聞こえてきた美朱様の悲痛な声に、思わず康琳と顔を見合わせる。
「いーじゃん、別に」
「良くない!だって…あたし、あんたのこと好きだもん!」
「……悪いな、俺そういう感情ねェから。── お前が〝朱雀の巫女〟だから護ってるだけだ」
懸命な告白を鬼宿は冷たく突き放した。居ても立ってもいられず駆け寄ろうとしたその時、いつの間にか降り出した雨の中、美朱様は泥濘んだ地へと倒れ込んでしまった。
「っ、美朱様!」
すぐさま身体を起こし額に手を当てると、掌にじんわりと熱が伝わってくる。
「蘭飛?!それに柳宿も!お前らなんで…」
「そんなことよりも美朱様を宮廷へ。すごい熱です…医官に早く診せなければなりません」
その言葉に目を見開かせた鬼宿は美朱様を抱き上げ、脇目も振らずに宮廷へ走り出した。その姿を見て再び康琳と顔を見合わせた。
「…あの様子ならさっきのアレも本心じゃない、かな?」
「まったく…素直じゃないんだから」
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