ep.06 電波で繋がる2人の恋心
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日曜の夜が来た。
いつもよりも早めに風呂も終わらせた名前は、ベッドの中央で正座になり、息を潜めて、枕元に置いたスマホを見つめていた。
昨日の音駒高校での黒尾との再会は、ほんの少しだけ期待していた想定外だった。
予想外だったのは、連絡先を聞かれたことだ。
引っ越しが決まったことを黒尾に伝えるため、近所の公園に呼び出したあの日はなかった展開だ。
本当はあの日、新しくなった連絡先を黒尾に聞いて欲しかった。
離れても変わらない、また会える、と言って欲しかった。
でもそれは叶わずに終わり、長かった初恋は終わりを迎えるはずだったのだ。
黒尾には、メッセージアプリのIDを伝えている。黒尾のIDは知らないから、名前から連絡をすることは出来ない。
出来るのは、待つだけーーーー。
『じゃあ。日曜の夜にでも電話するわ。』
靴箱まで送ってくれた黒尾は、名前の母親に挨拶をした後、わざわざ、連絡先を聞いたことを報告した。
そして、頭を下げて、もう一度、連絡を取り合いたいのだとお願いまでしてくれた。
おかげで、名前は、わがままな恋心の思うままに連絡先を教えてしまったことを母親に叱られることもなかったし、隠れて黒尾と電話をしなくても良くなった。
(そういうところが、狡いんだよな。)
名前は、スマホをじっと見ていた目を閉じて、あの日の黒尾を思い浮かべた。
そういうところが、好きなのだ。
チャラくて、狡い男のくせに、誠実だから、すべてを信じてしまう。惹かれてしまう。
ブッ、ブブッーーーー。
バイブが震えて、驚いて肩がビクッと上がったのと同時に名前の瞼がパチっと開く。
【黒尾鉄朗】
表示された名前に、緊張が一気に天井をつけ抜けた。
黒尾からの電話にドキドキするのなんて、中学生の頃以来だ。
出なくちゃーーーーーー早くしないと黒尾が消えてしまうような不安と焦りが、名前を慌てさせる。
すぐにスマホに手を伸ばし、ドタバタと応答ボタンを押す。
その途端、どうしたらいいのか分からなくなった。
電話は繋がったはずなのに、スマホの向こうからは、息遣いすら聞こえない。
どうしよう、何か言った方がいいのだろうか。
ただじっと黙っていると、やっと小さな息遣いが聞こえた。
『おーい?繋がってる?』
「ひゃっ、ひゃイ!繋がってりゅ!」
焦りすぎて、声が上ずった。しかも、噛んでしまった。
一瞬だけ、シンとした後、スマホの向こうから聞こえてきたのは、ぶっひゃっひゃという笑い声だった。馬鹿にしたときなんかに、彼はよく腹を抱えて、そんなおかしな笑い声を上げることがある。
見覚えのある黒尾の姿が頭に浮かぶと、自然と緊張が解けていった。
「そんなに笑わなくてもいいじゃんっ。」
『いや…っ、笑わせに来てんだろっ。』
恥ずかしい声が出てしまったのも全て、恋心のせいなのに、その原因の元の黒尾は好き勝手に笑う。
本当に腹が立つ。
けれど、懐かしいはずの普段通りのやり取りを交わしていると、昨日も一昨日もこうして喋っていたような気がしてくる。
ひとしきり笑った後、漸く、普通の会話が始まった。
『今何してた?』
「ベッドの上でゴロゴロしてただけだよ。」
『俺からの電話、待ってた?』
「…っ、ちょ、ちょっとだけね!」
『へぇ。ちょっとだけね。』
意味深な言い方の後に、スマホの向こうからククッと漏らす笑い声が聞こえてくる。
きっと全てお見通しなのだろう。悔しいけれど、なんでも分かってくれるのだと思うと嬉しくもなるのも事実だ。
「鉄朗は、何してたの?」
『合宿から帰ってきて、飯食って、風呂入って、寝る準備して、今。』
「合宿はどうだった?烏野の人達、みんないい人ばっかりだったでしょ。」
『あー…、まぁ、そうだな。』
「面白いことあったー?」
『それはもちろん、研磨がーーーーーー。』
黒尾から聞く音駒高校男子バレーボール部の部員の話は、とても楽しくて、面白くて、会いたくなった。
あのまま、逃げるように帰らないで顔を出せばよかったと少しだけ後悔したけれど、互いに気まずくなるだけだろう、とすぐに考えるのをやめた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、もうそろそろ日付を跨ぐ時間に迫っていた。
流石に、明日も学校もあるし、いつまでも喋ってはいられない。
合宿から帰ってきたばかりの黒尾ならば余計に、今日は早めに寝て、身体を休めるべきだ。
時計を見なかったことにしたい気持ちをグッと堪えて、名前が、幸せな時間が終わるきっかけを作る。
「もうそろそろ寝た方がいいんじゃない?」
『あー、もうこんな時間か…。全然気づかなかったわ。』
「うん、私も。今、時計見てビックリしちゃった。」
『それじゃ、寝るか。』
「うん、電話、ありがとうね。」
『おう。』
シンと静かな時間が流れる。名残惜しい気持ちが、もしかして黒尾にもあるのだろうか。
でも、このままでは、ただただ電話が切れてしまう。
幸せな時間が終わってしまう。そう思うと、急に引き止めたくなった。
「あっ、鉄朗…!」
『ん?何?』
「えっと…、声が聞けて、嬉しかったよ。」
『あぁ、俺も。…またかけていい?』
「うん、いいよ。夜はいつもダラダラしてるだけだから。」
『ハハッ、ならよかったわ。
じゃあ、またな。』
「うん、おやすみ。」
『おやすみ。』
今度こそ、名前は通話を切った。
そして、枕に頭を乗せて横になると、そっと目を閉じる。
好きな人の「おやすみ」で眠りにつける。なんて幸せなのだろう。
引っ越しをしたタイミングで、この恋はもう終わりを迎える結末が決まったのだと思っていた。
ちゃんとさよならもして、終わらせたつもりでいた。
でも、まだ好きだ。初恋は、終わってない。
(鉄朗に会える夢が見たいなぁ。)
心の中で、甘い夢を唱える。
今はまだ遠いこの距離が、いつか触れ合い、見つめ合える日々に繋がりますようにーーーーーーー。
いつもよりも早めに風呂も終わらせた名前は、ベッドの中央で正座になり、息を潜めて、枕元に置いたスマホを見つめていた。
昨日の音駒高校での黒尾との再会は、ほんの少しだけ期待していた想定外だった。
予想外だったのは、連絡先を聞かれたことだ。
引っ越しが決まったことを黒尾に伝えるため、近所の公園に呼び出したあの日はなかった展開だ。
本当はあの日、新しくなった連絡先を黒尾に聞いて欲しかった。
離れても変わらない、また会える、と言って欲しかった。
でもそれは叶わずに終わり、長かった初恋は終わりを迎えるはずだったのだ。
黒尾には、メッセージアプリのIDを伝えている。黒尾のIDは知らないから、名前から連絡をすることは出来ない。
出来るのは、待つだけーーーー。
『じゃあ。日曜の夜にでも電話するわ。』
靴箱まで送ってくれた黒尾は、名前の母親に挨拶をした後、わざわざ、連絡先を聞いたことを報告した。
そして、頭を下げて、もう一度、連絡を取り合いたいのだとお願いまでしてくれた。
おかげで、名前は、わがままな恋心の思うままに連絡先を教えてしまったことを母親に叱られることもなかったし、隠れて黒尾と電話をしなくても良くなった。
(そういうところが、狡いんだよな。)
名前は、スマホをじっと見ていた目を閉じて、あの日の黒尾を思い浮かべた。
そういうところが、好きなのだ。
チャラくて、狡い男のくせに、誠実だから、すべてを信じてしまう。惹かれてしまう。
ブッ、ブブッーーーー。
バイブが震えて、驚いて肩がビクッと上がったのと同時に名前の瞼がパチっと開く。
【黒尾鉄朗】
表示された名前に、緊張が一気に天井をつけ抜けた。
黒尾からの電話にドキドキするのなんて、中学生の頃以来だ。
出なくちゃーーーーーー早くしないと黒尾が消えてしまうような不安と焦りが、名前を慌てさせる。
すぐにスマホに手を伸ばし、ドタバタと応答ボタンを押す。
その途端、どうしたらいいのか分からなくなった。
電話は繋がったはずなのに、スマホの向こうからは、息遣いすら聞こえない。
どうしよう、何か言った方がいいのだろうか。
ただじっと黙っていると、やっと小さな息遣いが聞こえた。
『おーい?繋がってる?』
「ひゃっ、ひゃイ!繋がってりゅ!」
焦りすぎて、声が上ずった。しかも、噛んでしまった。
一瞬だけ、シンとした後、スマホの向こうから聞こえてきたのは、ぶっひゃっひゃという笑い声だった。馬鹿にしたときなんかに、彼はよく腹を抱えて、そんなおかしな笑い声を上げることがある。
見覚えのある黒尾の姿が頭に浮かぶと、自然と緊張が解けていった。
「そんなに笑わなくてもいいじゃんっ。」
『いや…っ、笑わせに来てんだろっ。』
恥ずかしい声が出てしまったのも全て、恋心のせいなのに、その原因の元の黒尾は好き勝手に笑う。
本当に腹が立つ。
けれど、懐かしいはずの普段通りのやり取りを交わしていると、昨日も一昨日もこうして喋っていたような気がしてくる。
ひとしきり笑った後、漸く、普通の会話が始まった。
『今何してた?』
「ベッドの上でゴロゴロしてただけだよ。」
『俺からの電話、待ってた?』
「…っ、ちょ、ちょっとだけね!」
『へぇ。ちょっとだけね。』
意味深な言い方の後に、スマホの向こうからククッと漏らす笑い声が聞こえてくる。
きっと全てお見通しなのだろう。悔しいけれど、なんでも分かってくれるのだと思うと嬉しくもなるのも事実だ。
「鉄朗は、何してたの?」
『合宿から帰ってきて、飯食って、風呂入って、寝る準備して、今。』
「合宿はどうだった?烏野の人達、みんないい人ばっかりだったでしょ。」
『あー…、まぁ、そうだな。』
「面白いことあったー?」
『それはもちろん、研磨がーーーーーー。』
黒尾から聞く音駒高校男子バレーボール部の部員の話は、とても楽しくて、面白くて、会いたくなった。
あのまま、逃げるように帰らないで顔を出せばよかったと少しだけ後悔したけれど、互いに気まずくなるだけだろう、とすぐに考えるのをやめた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、もうそろそろ日付を跨ぐ時間に迫っていた。
流石に、明日も学校もあるし、いつまでも喋ってはいられない。
合宿から帰ってきたばかりの黒尾ならば余計に、今日は早めに寝て、身体を休めるべきだ。
時計を見なかったことにしたい気持ちをグッと堪えて、名前が、幸せな時間が終わるきっかけを作る。
「もうそろそろ寝た方がいいんじゃない?」
『あー、もうこんな時間か…。全然気づかなかったわ。』
「うん、私も。今、時計見てビックリしちゃった。」
『それじゃ、寝るか。』
「うん、電話、ありがとうね。」
『おう。』
シンと静かな時間が流れる。名残惜しい気持ちが、もしかして黒尾にもあるのだろうか。
でも、このままでは、ただただ電話が切れてしまう。
幸せな時間が終わってしまう。そう思うと、急に引き止めたくなった。
「あっ、鉄朗…!」
『ん?何?』
「えっと…、声が聞けて、嬉しかったよ。」
『あぁ、俺も。…またかけていい?』
「うん、いいよ。夜はいつもダラダラしてるだけだから。」
『ハハッ、ならよかったわ。
じゃあ、またな。』
「うん、おやすみ。」
『おやすみ。』
今度こそ、名前は通話を切った。
そして、枕に頭を乗せて横になると、そっと目を閉じる。
好きな人の「おやすみ」で眠りにつける。なんて幸せなのだろう。
引っ越しをしたタイミングで、この恋はもう終わりを迎える結末が決まったのだと思っていた。
ちゃんとさよならもして、終わらせたつもりでいた。
でも、まだ好きだ。初恋は、終わってない。
(鉄朗に会える夢が見たいなぁ。)
心の中で、甘い夢を唱える。
今はまだ遠いこの距離が、いつか触れ合い、見つめ合える日々に繋がりますようにーーーーーーー。