ep.21 君の後輩のひとりごと(谷地ver)
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部活の後、制服に着替えて部室を出た谷地は、階段を降りたところで、先に帰ったと思っていた名前を見つけた。
第二体育館外にある古びた長ベンチに座って、漢文帳を読んでいるようだった。
そこなら、ちょうど外灯の明かりで、暗くなっても漢文帳が読みやすいのかもしれない。
もうそろそろ期末テストが始まる。
だからこそ、日向と影山は、苦手な月島に頭を下げてまでテスト対策をしてもらっているのだ。
きっと彼女も期末テストの勉強をしているのだろう。
(美しい…。)
漢文帳を読むために俯いている名前が、落ちてきた長い髪を耳をかけた。
すると、部活中も時々見えていた黒いピアスが外灯の明かりに反射してキラッと光る。
影を落とす長い睫毛も、真剣な横顔も、すごく綺麗だ。
きっと、勉強もできるんだろう。運動神経だって抜群に違いない。
神様は、名前を完璧に作ったに違いないと妙な確信めいたものが胸に湧き上がる。
「あ、ごめん。見えなかった。」
ドンッと肩がぶつかって驚いた谷地の頭上から、謝罪と失礼なセリフが聞こえてきた。
顔を上げれば、謝った当人とは思えないような飄々とした表情の月島がいた。
どうやら、今日も彼は日向と影山のテスト対策の付き合いを早々に終わらせて、部室から出てきたようだ。
男子バレーの部室から、聞こえないはずの日向と影山の嘆きが聞こえてくるような気がした。
「ううん、こっちこそごめん…!ボーッとしてて…!」
「…それじゃ。」
慌てて謝る谷地に、月島は素っ気なく答える。
初めて会ったばかりの頃は、あまりに冷たい彼の態度に、何か嫌なことをして嫌われてしまったのではないか———と心配した谷地だったが、最近あれは彼の通常運転なのかもしれないと思い始めている。
明るくハツラツ、どちらかと言えば騒がしいタイプが多いバレー部の中で、月島は誰に対しても、バレーに対しても、クールだ。
(今日も月島君は月島君だったな。)
日向と影山とは少しだけれど距離が近づいた気がしている。
けれど、月島とはいつまでもこのままなのだろう———そんな変な自信を抱き、なんとなく眺めていた月島の背中は、正門の方へは向かわなかった。
彼が真っ直ぐに向かったのは、第二体育館の方だった。
忘れ物でもしたのだろうか————谷地がそう思ってすぐに、月島は外灯が照らすベンチの後ろで足を止める。
そして、名前の後ろから、彼女が真剣に読んでいる漢文帳を覗き込んだ。
「名前さんでも勉強するんですね。意外だ~。」
開口一番、月島は意地悪く言った。
月島が来たことに全く気付いていなかったらしい名前が、ビクッと肩を跳ねさせた。
部活中、名前に声をかける部員はよくいた。特に、西谷や日向は彼女に懐いているようだった。
でも、月島と名前が話しているのは一度も見ていない。
だから、彼が名前に声をかけたのは意外で、谷地はすごく驚いた。
「私だってやればできるんだよ。」
名前が顔だけを上に向けて言い返した。
「へぇ。じゃあ、僕が問題出してあげますよ。」
悔し気な彼女の手から、月島が漢文帳を取り上げた。
「あ!勝手にとらないでよ!」
名前が立ち上がり、月島から漢文帳を取り返そうと手を伸ばす。
けれど、長身の彼はヒョイッと手を上に伸ばして、小柄な彼女から遠く放してしまう。
「間違えずに答えられたら、返してあげますよ。」
「絶対、意地悪な問題出すんでしょ!」
「さぁ、問題行きますよ。」
「あ、待ってよ!」
さっさと歩き始めてしまった月島を名前が追いかけるようにして、小走りで彼の隣に並ぶ。
そして、漢文帳を取り返そうとピョンピョンと跳ねている。
けれど、月島は、意地悪く手を高く上げては、彼女をからかっている。
「かかってきなさい!満点なんだから!」
「へぇ、じゃあ、1問でも間違ったらどうします?」
「ショートケーキをかけて勝負だ!」
「またですか、それ名前さんが食べたいだけデショ。」
長身の月島と小柄な名前の凸凹な後姿が、薄暗くなった校舎裏の向こうに小さくなっていく。
(月島君が楽しそうだ…。)
月島の楽しそうな表情を見るのは、初めてだった。
悪戯に歪む口元も、飛び跳ねる名前を見下ろす眼鏡越しの瞳も、楽しそうに笑っていた。
意地悪をするのが楽しいなんて、いい性格をしている。
「あれ、仁花ちゃん、まだ帰ってなかったの?
何かあった?」
階段を降りてきた清水が、谷地に声をかけてきた。
だから、谷地は勢いよく振り返って、彼女に驚きの疑問をぶつけた。
「月島君はあの美女様の恋人なのですか…!?
あ!だから…!だから、名前さんはバレー部のマネージャーのお手伝いをしていたんですね!?」
爆発するような勢いでぶつけられた疑問に、清水が目を丸くする。
何事か———という顔をした清水の瞳が、2人並んで帰って行く月島と名前の後姿をとらえた。
それで、谷地の疑問の出所を察したようだった。
「そう見えるよね。私も最初はそう思っちゃった。」
清水が困ったように笑う。
「では、違うということですか?」
「違うみたいだよ。家が近いから、一緒に帰ってるだけなんだって。」
清水の答えは、谷地にとって意外過ぎた。
だって、並んで歩く姿はとてもお似合いで、ふたりとも楽しそうで———。
「今はまだ…てことですか?」
「んー。どうなんだろう。今はまだ、なのかな。」
清水の答えに、谷地はやっと納得した。
そうか。部活を始めるということは、青春にどっぷり浸かるということにもつながるのかもしれない。
恋愛————それは谷地にとって小説や映画の中の話だった。
それが、目の前で繰り広げられるのか。もしかしたら、自分も———少しだけ、ドキドキして、明日はもっと楽しくなるような、そんな予感がした。
第二体育館外にある古びた長ベンチに座って、漢文帳を読んでいるようだった。
そこなら、ちょうど外灯の明かりで、暗くなっても漢文帳が読みやすいのかもしれない。
もうそろそろ期末テストが始まる。
だからこそ、日向と影山は、苦手な月島に頭を下げてまでテスト対策をしてもらっているのだ。
きっと彼女も期末テストの勉強をしているのだろう。
(美しい…。)
漢文帳を読むために俯いている名前が、落ちてきた長い髪を耳をかけた。
すると、部活中も時々見えていた黒いピアスが外灯の明かりに反射してキラッと光る。
影を落とす長い睫毛も、真剣な横顔も、すごく綺麗だ。
きっと、勉強もできるんだろう。運動神経だって抜群に違いない。
神様は、名前を完璧に作ったに違いないと妙な確信めいたものが胸に湧き上がる。
「あ、ごめん。見えなかった。」
ドンッと肩がぶつかって驚いた谷地の頭上から、謝罪と失礼なセリフが聞こえてきた。
顔を上げれば、謝った当人とは思えないような飄々とした表情の月島がいた。
どうやら、今日も彼は日向と影山のテスト対策の付き合いを早々に終わらせて、部室から出てきたようだ。
男子バレーの部室から、聞こえないはずの日向と影山の嘆きが聞こえてくるような気がした。
「ううん、こっちこそごめん…!ボーッとしてて…!」
「…それじゃ。」
慌てて謝る谷地に、月島は素っ気なく答える。
初めて会ったばかりの頃は、あまりに冷たい彼の態度に、何か嫌なことをして嫌われてしまったのではないか———と心配した谷地だったが、最近あれは彼の通常運転なのかもしれないと思い始めている。
明るくハツラツ、どちらかと言えば騒がしいタイプが多いバレー部の中で、月島は誰に対しても、バレーに対しても、クールだ。
(今日も月島君は月島君だったな。)
日向と影山とは少しだけれど距離が近づいた気がしている。
けれど、月島とはいつまでもこのままなのだろう———そんな変な自信を抱き、なんとなく眺めていた月島の背中は、正門の方へは向かわなかった。
彼が真っ直ぐに向かったのは、第二体育館の方だった。
忘れ物でもしたのだろうか————谷地がそう思ってすぐに、月島は外灯が照らすベンチの後ろで足を止める。
そして、名前の後ろから、彼女が真剣に読んでいる漢文帳を覗き込んだ。
「名前さんでも勉強するんですね。意外だ~。」
開口一番、月島は意地悪く言った。
月島が来たことに全く気付いていなかったらしい名前が、ビクッと肩を跳ねさせた。
部活中、名前に声をかける部員はよくいた。特に、西谷や日向は彼女に懐いているようだった。
でも、月島と名前が話しているのは一度も見ていない。
だから、彼が名前に声をかけたのは意外で、谷地はすごく驚いた。
「私だってやればできるんだよ。」
名前が顔だけを上に向けて言い返した。
「へぇ。じゃあ、僕が問題出してあげますよ。」
悔し気な彼女の手から、月島が漢文帳を取り上げた。
「あ!勝手にとらないでよ!」
名前が立ち上がり、月島から漢文帳を取り返そうと手を伸ばす。
けれど、長身の彼はヒョイッと手を上に伸ばして、小柄な彼女から遠く放してしまう。
「間違えずに答えられたら、返してあげますよ。」
「絶対、意地悪な問題出すんでしょ!」
「さぁ、問題行きますよ。」
「あ、待ってよ!」
さっさと歩き始めてしまった月島を名前が追いかけるようにして、小走りで彼の隣に並ぶ。
そして、漢文帳を取り返そうとピョンピョンと跳ねている。
けれど、月島は、意地悪く手を高く上げては、彼女をからかっている。
「かかってきなさい!満点なんだから!」
「へぇ、じゃあ、1問でも間違ったらどうします?」
「ショートケーキをかけて勝負だ!」
「またですか、それ名前さんが食べたいだけデショ。」
長身の月島と小柄な名前の凸凹な後姿が、薄暗くなった校舎裏の向こうに小さくなっていく。
(月島君が楽しそうだ…。)
月島の楽しそうな表情を見るのは、初めてだった。
悪戯に歪む口元も、飛び跳ねる名前を見下ろす眼鏡越しの瞳も、楽しそうに笑っていた。
意地悪をするのが楽しいなんて、いい性格をしている。
「あれ、仁花ちゃん、まだ帰ってなかったの?
何かあった?」
階段を降りてきた清水が、谷地に声をかけてきた。
だから、谷地は勢いよく振り返って、彼女に驚きの疑問をぶつけた。
「月島君はあの美女様の恋人なのですか…!?
あ!だから…!だから、名前さんはバレー部のマネージャーのお手伝いをしていたんですね!?」
爆発するような勢いでぶつけられた疑問に、清水が目を丸くする。
何事か———という顔をした清水の瞳が、2人並んで帰って行く月島と名前の後姿をとらえた。
それで、谷地の疑問の出所を察したようだった。
「そう見えるよね。私も最初はそう思っちゃった。」
清水が困ったように笑う。
「では、違うということですか?」
「違うみたいだよ。家が近いから、一緒に帰ってるだけなんだって。」
清水の答えは、谷地にとって意外過ぎた。
だって、並んで歩く姿はとてもお似合いで、ふたりとも楽しそうで———。
「今はまだ…てことですか?」
「んー。どうなんだろう。今はまだ、なのかな。」
清水の答えに、谷地はやっと納得した。
そうか。部活を始めるということは、青春にどっぷり浸かるということにもつながるのかもしれない。
恋愛————それは谷地にとって小説や映画の中の話だった。
それが、目の前で繰り広げられるのか。もしかしたら、自分も———少しだけ、ドキドキして、明日はもっと楽しくなるような、そんな予感がした。