ep.20 君に勉強を教えるのは大変
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あれからまた続いたテスト対策は、気づけば18時過ぎまで続いていた。
家も近いし大丈夫だと遠慮する彼女だったけれど、送ってあげなさいという母親の圧に負けた月島に連れられて、家を出た。
勉強の成果はーーーー正直、良かったとは言えない。
数字を見ると眠たくなる———という性質からどうにかしないと、テスト中に寝てしまって0点だった、と言われても驚ける自信がない。
それでも、赤点をとりたくないという気持ちは本気のようで、帰り道でも、数学の教科書を読みながらブツブツと公式を繰り返していた。
「ただいま。」
家に戻った月島は、夕飯までは部屋にいるつもりで2階に上がろうとして、足を止めた。
リビングに本を置きっぱなしにしていた。
面倒だと思いながら、リビングへ向かう。
キッチンでは、母親が夕飯の準備を始めていた。
そして、月島を見つけると少しだけ驚いたようだった。
「早かったのね。」
「近いから。」
月島はそれだけ言って、リビングのローテーブルの上にある本を手に取る。
「名前ちゃん、本当に夕飯一緒にしてくれてよかったのに。
大丈夫なの?」
「本人が平気って言ってるんだから、大丈夫なんデショ。」
心配する母親をよそに、月島はリビングのソファに座ると本を開いた。
名前の両親は、東京での仕事が多く、ほとんど家にいないのだと、月島の母親との会話の中で彼女がチラリと言っていた。
そういえば、バイト帰りに親に迎えに来てもらえないのかと月島が提案したときにも、似たようなことを言っていたような記憶がある。
兄弟はなく、一人っ子。烏野に引っ越してきたのは、母親の故郷がこちらだからなのだそうだ。偶々、仕事の関係で宮城にやって来た時に、幼い頃に憧れていた洋館が売家になっているのを知って、すぐに購入、そして家族も巻き込んで引っ越しになった。
東京での仕事が多い両親がいながら、どうして引越しの話が出ていたのか。なぜ、東京から離れた宮城に引っ越してきたのか。気になることはあった。けれど、引越しの話をした時、一瞬、辛そうに目を伏せた名前に、それ以上のことは聞けなかった。
あれこれと名前を質問責めにしていた母親が、引越しの話を早々に終わらせたのも、同じことを思ったからなのだろう。
烏野に引っ越すことになったと両親から聞いた時、名前はどうしたのだろうか。何を思ったのだろうか。
抵抗したのではないだろうか。
名前がが抱いているような『想い』を知らなくても、黒尾と離れたくなかったのだろうということくらいは、分かる。
「名前ちゃん、優しい子ね。」
「そうだね。」
月島は適当に聞き流すように返事をした。
視線と思考は、本の一小節を読むのに忙しい。
「蛍のこと、沢山話してくれた。」
「名前さんが喋るのが好きなだけデショ。」
「やっぱり、なにも分かってないのね。」
母親が、困ったように息を吐いた。
分かってない———とは何だろう、と月島が漸く本から顔を上げる。
それを待っていたように、母親が言葉を続ける。
「名前ちゃん、自分が彼女だとお母さんに勘違いされたままだと蛍が困るだろうと思ったんだと思うよ。
だから、蛍のことを沢山褒めているフリをして、自分達は恋人じゃないんですって伝えたのよ。
蛍の為に、そして、私が傷つかないように、話してくれた。」
母親が柔らかく微笑む。
そういうことか————月島は、漸く名前の気遣いに気付いた。
彼女が、ケーキを一緒に食べようと母親を誘ったのは、自分達の関係を説明するためだったのだ。
「名前ちゃん、優しい子ね。」
「…トラブルメーカーだけどね。」
月島がそう言うと、母親は面白そうに笑った。
「蛍が振り回される未来が楽しみだわ。」
母親が楽しそうに言う。
それは、絶対に御免だ——心から思った。
家も近いし大丈夫だと遠慮する彼女だったけれど、送ってあげなさいという母親の圧に負けた月島に連れられて、家を出た。
勉強の成果はーーーー正直、良かったとは言えない。
数字を見ると眠たくなる———という性質からどうにかしないと、テスト中に寝てしまって0点だった、と言われても驚ける自信がない。
それでも、赤点をとりたくないという気持ちは本気のようで、帰り道でも、数学の教科書を読みながらブツブツと公式を繰り返していた。
「ただいま。」
家に戻った月島は、夕飯までは部屋にいるつもりで2階に上がろうとして、足を止めた。
リビングに本を置きっぱなしにしていた。
面倒だと思いながら、リビングへ向かう。
キッチンでは、母親が夕飯の準備を始めていた。
そして、月島を見つけると少しだけ驚いたようだった。
「早かったのね。」
「近いから。」
月島はそれだけ言って、リビングのローテーブルの上にある本を手に取る。
「名前ちゃん、本当に夕飯一緒にしてくれてよかったのに。
大丈夫なの?」
「本人が平気って言ってるんだから、大丈夫なんデショ。」
心配する母親をよそに、月島はリビングのソファに座ると本を開いた。
名前の両親は、東京での仕事が多く、ほとんど家にいないのだと、月島の母親との会話の中で彼女がチラリと言っていた。
そういえば、バイト帰りに親に迎えに来てもらえないのかと月島が提案したときにも、似たようなことを言っていたような記憶がある。
兄弟はなく、一人っ子。烏野に引っ越してきたのは、母親の故郷がこちらだからなのだそうだ。偶々、仕事の関係で宮城にやって来た時に、幼い頃に憧れていた洋館が売家になっているのを知って、すぐに購入、そして家族も巻き込んで引っ越しになった。
東京での仕事が多い両親がいながら、どうして引越しの話が出ていたのか。なぜ、東京から離れた宮城に引っ越してきたのか。気になることはあった。けれど、引越しの話をした時、一瞬、辛そうに目を伏せた名前に、それ以上のことは聞けなかった。
あれこれと名前を質問責めにしていた母親が、引越しの話を早々に終わらせたのも、同じことを思ったからなのだろう。
烏野に引っ越すことになったと両親から聞いた時、名前はどうしたのだろうか。何を思ったのだろうか。
抵抗したのではないだろうか。
名前がが抱いているような『想い』を知らなくても、黒尾と離れたくなかったのだろうということくらいは、分かる。
「名前ちゃん、優しい子ね。」
「そうだね。」
月島は適当に聞き流すように返事をした。
視線と思考は、本の一小節を読むのに忙しい。
「蛍のこと、沢山話してくれた。」
「名前さんが喋るのが好きなだけデショ。」
「やっぱり、なにも分かってないのね。」
母親が、困ったように息を吐いた。
分かってない———とは何だろう、と月島が漸く本から顔を上げる。
それを待っていたように、母親が言葉を続ける。
「名前ちゃん、自分が彼女だとお母さんに勘違いされたままだと蛍が困るだろうと思ったんだと思うよ。
だから、蛍のことを沢山褒めているフリをして、自分達は恋人じゃないんですって伝えたのよ。
蛍の為に、そして、私が傷つかないように、話してくれた。」
母親が柔らかく微笑む。
そういうことか————月島は、漸く名前の気遣いに気付いた。
彼女が、ケーキを一緒に食べようと母親を誘ったのは、自分達の関係を説明するためだったのだ。
「名前ちゃん、優しい子ね。」
「…トラブルメーカーだけどね。」
月島がそう言うと、母親は面白そうに笑った。
「蛍が振り回される未来が楽しみだわ。」
母親が楽しそうに言う。
それは、絶対に御免だ——心から思った。