ep.20 君に勉強を教えるのは大変
Name change
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一応、期末テスト対策として、名前は問題集を買い揃えていた。
出来れば別冊で解答付きの問題集がいい、という月島のお願いはちゃんと聞いていたようだ。
少しは中身も入っているだろうと期待したが、残念ながら、空っぽだった。
真っ白で綺麗な新品の問題集だ。
まだ1年の月島は、問題集の答えを見ながら、名前に教えることになった。
問題集の答えと解説でそれなりに理解できた月島とは違って、説明をしたときには「へぇ~!」と感心した顔をして理解したように見える名前は、いざ問題を解こうとすると思考が停止するようだった。
月島も、教えるからには、出来るだけわかりやすくかみ砕いて説明をするように心がけてはいるのだが、名前の理解力は日向や影山並みで、絶望的だ。
勉強を始めて1時間以上は経った頃、名前の集中力も途切れだし、月島もなかなか理解してもらえない疲れが出始めた。
そろそろ休憩を入れようかと月島が提案すれば、名前が嬉しそうに賛成した。
「飲み物持ってきます。何か飲みたいのありますか。
麦茶かアイスコーヒーくらいしかないけど。」
「じゃあ、麦茶がいい!アイスコーヒーって、飲んでると鬱っぽくなっちゃうんだよねぇ。」
「…よく分からないですけど、
鬱の名前さんは面倒臭そうなんで、麦茶持ってきます。」
「ありがとう。」
嫌味をさらりと聞き流すのが得意なのか。嫌味に気づいていないのか、名前が、ニコリと笑う。
月島は、ローテーブルの上を適当に片付けてから1階に降りた。
母親はいないようだ。何か言われないかと気にしていたのだが、どうやら、買い物に出掛けているようだった。ちょうど良いタイミングで休憩をとれたようでホッと一安心する。
すぐにキッチンで麦茶を用意して、2階に上がった。
部屋に戻ると、名前は数学の教科書を開いて見ていた。
伏目がちな瞳と筋の通った鼻に尖った細い顎、思わず見惚れてしまいそうになるくらいに理想的な造形の横顔。頬に落ちた髪を耳に掛け、黒いピアスを撫でる細い指。名前は、月島の目に「綺麗なお姉さん」に映った。
頭脳明晰で非の打ち所がない女性に見えるのに、実際は、絶望的なほどの馬鹿だなんて、信じられない。
「あ、おかえりー!
ねぇ、見てー!この公式さ、顔みたいに見えない?!」
月島に気づくと、名前が開いた教書を見せてきた。
そして、公式の一つを指差して楽しそうに言う。
正真正銘の馬鹿の会話だ。
「名前さんって顔と頭のバランス悪すぎですよね。」
ローテーブルの上にグラスを並べながら、月島は、ぷっと吹き出し、渾身の嫌味を込めて言った。
嫌味の意味を理解出来なかったらしい名前は、「え!?嘘!?」とショックを受けた顔をして、必死に顔と頭を触っている。
顔に対して頭が大きい、もしくは、頭が小さいと言われたと勘違いしたのだろう。
お洒落やメイクが好きだとよく話している割に、名前は、自分の顔やそのバランスの良さを鏡で見たことがないのだろうか。
名前は、たくさんの女子生徒が「羨ましい」と思ってしまうくらいに顔もスタイルも整ったバランスをしている。
「ねぇ、ぐっと押したら小顔になると思う?」
名前#が、自分の頬を両手で挟むと、思いっきり中央に押し始める。
頭に比べて顔が大きいと判断したらしい。
元々小顔なのに、これ以上小さくなってしまったら、消えてしまいそうだ。
これを嫌味ではなく、自然に言えてしまうが、天然美人なのだろうか。
「なるんじゃないですか。」
月島はハハっと笑う。
ようやく、2人は休憩に入った。
休憩と言っても、名前が思いついた話題をポンポンと話しているのを気楽に聞き流しながら、時々、相槌を打つ。いつもの2人の掛け合いに、冷たい麦茶が追加されただけだ。
気づけば麦茶も空になり、お互いにあまり乗り気にはなれないものの、ここに集まった意味を無にするわけにもいかず、仕方なくテスト勉強を再開する。
問題集を開き、名前に問題の解き方を説明する。
理解したかどうかは分からないが、とりあえず「わかったー。」と気楽に言うので、その言葉を信じたフリをして大問1を解くように伝えた。
その間、月島は自分の勉強を始める。
広げたのは、数学の問題集だ。名前に合わせたというよりも、暗記ものは1人でやった方が勉強しやすいから、数学の問題をただひたすら解くつもりだ。
問題を解きながら、チラリと名前に視線を向ける。
名前は、シャーペンを握りしめて、問題集と睨めっこしている。
一応、名前も問題を解こうと努力はしているようで、時々、シャーペンが動いていた。
何かを書いては「うーん。」と小さく唸って手を止める。そして、ハーバード大学の入試試験でも解いているかのような真面目な顔で悩みながら、必ず、耳たぶを触っている。
「それ、よくしますよね。」
ポロっと漏れた月島の声に反応して、問題集と睨めっこをしていた名前が顔を上げた。
そして、不思議そうに首を傾げる。
「それって?」
「耳、よく触ってるなと思って。」
「え、ウソ。ほんと?気づかなかった…。」
名前が少し困ったような顔をして、やっぱりまた耳を触る。いや、ピアスを触っているような気もする。
無意識だったようだ。けれど、一緒に帰っているとき、名前はよく同じ仕草をしている。
学校やバイトであった困ったことを話しているとき、数学の公式を覚えようとしているとき、問題集の問題を解いているときもだ。
月島がそう指摘すると、名前は驚いた顔をした後に、また苦笑いしてピアスを撫でた。
「直さなくちゃね。」
「別に、直すほどの癖じゃないと思いますけど。」
「ううん、直す。だから、気づいたらまた教えて。」
そこまでするほどだろうか。
違和感を覚えるくらい、名前は頑なだった。
出来れば別冊で解答付きの問題集がいい、という月島のお願いはちゃんと聞いていたようだ。
少しは中身も入っているだろうと期待したが、残念ながら、空っぽだった。
真っ白で綺麗な新品の問題集だ。
まだ1年の月島は、問題集の答えを見ながら、名前に教えることになった。
問題集の答えと解説でそれなりに理解できた月島とは違って、説明をしたときには「へぇ~!」と感心した顔をして理解したように見える名前は、いざ問題を解こうとすると思考が停止するようだった。
月島も、教えるからには、出来るだけわかりやすくかみ砕いて説明をするように心がけてはいるのだが、名前の理解力は日向や影山並みで、絶望的だ。
勉強を始めて1時間以上は経った頃、名前の集中力も途切れだし、月島もなかなか理解してもらえない疲れが出始めた。
そろそろ休憩を入れようかと月島が提案すれば、名前が嬉しそうに賛成した。
「飲み物持ってきます。何か飲みたいのありますか。
麦茶かアイスコーヒーくらいしかないけど。」
「じゃあ、麦茶がいい!アイスコーヒーって、飲んでると鬱っぽくなっちゃうんだよねぇ。」
「…よく分からないですけど、
鬱の名前さんは面倒臭そうなんで、麦茶持ってきます。」
「ありがとう。」
嫌味をさらりと聞き流すのが得意なのか。嫌味に気づいていないのか、名前が、ニコリと笑う。
月島は、ローテーブルの上を適当に片付けてから1階に降りた。
母親はいないようだ。何か言われないかと気にしていたのだが、どうやら、買い物に出掛けているようだった。ちょうど良いタイミングで休憩をとれたようでホッと一安心する。
すぐにキッチンで麦茶を用意して、2階に上がった。
部屋に戻ると、名前は数学の教科書を開いて見ていた。
伏目がちな瞳と筋の通った鼻に尖った細い顎、思わず見惚れてしまいそうになるくらいに理想的な造形の横顔。頬に落ちた髪を耳に掛け、黒いピアスを撫でる細い指。名前は、月島の目に「綺麗なお姉さん」に映った。
頭脳明晰で非の打ち所がない女性に見えるのに、実際は、絶望的なほどの馬鹿だなんて、信じられない。
「あ、おかえりー!
ねぇ、見てー!この公式さ、顔みたいに見えない?!」
月島に気づくと、名前が開いた教書を見せてきた。
そして、公式の一つを指差して楽しそうに言う。
正真正銘の馬鹿の会話だ。
「名前さんって顔と頭のバランス悪すぎですよね。」
ローテーブルの上にグラスを並べながら、月島は、ぷっと吹き出し、渾身の嫌味を込めて言った。
嫌味の意味を理解出来なかったらしい名前は、「え!?嘘!?」とショックを受けた顔をして、必死に顔と頭を触っている。
顔に対して頭が大きい、もしくは、頭が小さいと言われたと勘違いしたのだろう。
お洒落やメイクが好きだとよく話している割に、名前は、自分の顔やそのバランスの良さを鏡で見たことがないのだろうか。
名前は、たくさんの女子生徒が「羨ましい」と思ってしまうくらいに顔もスタイルも整ったバランスをしている。
「ねぇ、ぐっと押したら小顔になると思う?」
名前#が、自分の頬を両手で挟むと、思いっきり中央に押し始める。
頭に比べて顔が大きいと判断したらしい。
元々小顔なのに、これ以上小さくなってしまったら、消えてしまいそうだ。
これを嫌味ではなく、自然に言えてしまうが、天然美人なのだろうか。
「なるんじゃないですか。」
月島はハハっと笑う。
ようやく、2人は休憩に入った。
休憩と言っても、名前が思いついた話題をポンポンと話しているのを気楽に聞き流しながら、時々、相槌を打つ。いつもの2人の掛け合いに、冷たい麦茶が追加されただけだ。
気づけば麦茶も空になり、お互いにあまり乗り気にはなれないものの、ここに集まった意味を無にするわけにもいかず、仕方なくテスト勉強を再開する。
問題集を開き、名前に問題の解き方を説明する。
理解したかどうかは分からないが、とりあえず「わかったー。」と気楽に言うので、その言葉を信じたフリをして大問1を解くように伝えた。
その間、月島は自分の勉強を始める。
広げたのは、数学の問題集だ。名前に合わせたというよりも、暗記ものは1人でやった方が勉強しやすいから、数学の問題をただひたすら解くつもりだ。
問題を解きながら、チラリと名前に視線を向ける。
名前は、シャーペンを握りしめて、問題集と睨めっこしている。
一応、名前も問題を解こうと努力はしているようで、時々、シャーペンが動いていた。
何かを書いては「うーん。」と小さく唸って手を止める。そして、ハーバード大学の入試試験でも解いているかのような真面目な顔で悩みながら、必ず、耳たぶを触っている。
「それ、よくしますよね。」
ポロっと漏れた月島の声に反応して、問題集と睨めっこをしていた名前が顔を上げた。
そして、不思議そうに首を傾げる。
「それって?」
「耳、よく触ってるなと思って。」
「え、ウソ。ほんと?気づかなかった…。」
名前が少し困ったような顔をして、やっぱりまた耳を触る。いや、ピアスを触っているような気もする。
無意識だったようだ。けれど、一緒に帰っているとき、名前はよく同じ仕草をしている。
学校やバイトであった困ったことを話しているとき、数学の公式を覚えようとしているとき、問題集の問題を解いているときもだ。
月島がそう指摘すると、名前は驚いた顔をした後に、また苦笑いしてピアスを撫でた。
「直さなくちゃね。」
「別に、直すほどの癖じゃないと思いますけど。」
「ううん、直す。だから、気づいたらまた教えて。」
そこまでするほどだろうか。
違和感を覚えるくらい、名前は頑なだった。