ep.20 君に勉強を教えるのは大変
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土曜、月島はリビングのソファに座って本を読んでいた。
先週、バレー部の2年は田中の家に集まってテスト対策の勉強会をしたらしい。
日向と影山に自分達も勉強を教えて欲しいとお願いされた月島だったが、せっかくの休日まで他人に潰されたくなくて本気で拒否した。
久々の休日だ。読もうと思って買っていた本がやっと読めると、こっそり楽しみにしていたのだ。
だが、予定は予定であって、うまくいかないものだ。
月島は、本を読んでいた顔を上げて、壁掛けの時計を見た。
時間は14時少し前、そろそろ約束の時間だ。
『今週の土曜、学校の知り合いが、勉強しに来るから。』
水曜のうちに、母親にはそう伝えておいた。
やって来る知り合いは、名前だ。
どうしても土曜日も月島に勉強を見てほしいと騒がしい日向と影山をなんとか追い払ったというのに、結局は似たようなことになってしまった。
名前が、月島の家に勉強をしに来たい理由は、日向と影山と同じだ。
期末テストで赤点以上をとり、補習を免れたいのだ。
『今度の期末、数学のテストで赤点取ったら、
夏休みは毎日補習だって言われちゃったの。あんまりだと思わない?』
名前は泣きそうな顔をしていた。
確かに、せっかくの夏休みを毎日補習で潰されたらたまったものじゃない。
でもそれもこれも、授業中に居眠りをして、宿題のプリントには落書きをして出すだけの名前の自業自得だ。
とうとう教師も堪忍袋の緒が切れたのだろう。
それに、さすがにこのまま赤点が続けば、卒業だって危ぶまれる。
大切な生徒のためにも、教師は必要に駆られて鬼になったのだと思う。
『僕が勉強を見ましょうか。
これくらいなら、答えのある問題集さえ用意してもらえたら
僕でも教えられると思うけど。」
放っておけば良いのに、気づけば、そんな余計なことを言ってしまっていた。
始まってもいないのに夏休みが終わってしまったーーーーと、名前があまりにも絶望的に落ち込んでいるから、同情してしまったのだ。
「14時だったわよね?部屋で勉強するの?」
「そう。」
母親が家事をしていた手を止めて、壁掛けの時計を見た。
月島は続きの文章に目を通しながら答えた。
名前が来るまで、読めるところまで読んでおくつもりだ。
期末テスト前だということは母親も知っている。
今までも、勉強しなさいと口うるさく言うタイプの親ではなかったし、言われなくてもテスト勉強をしていたのが月島だ。
月島が誰かを家に呼んだこともほとんどない。
珍しいとは思っているかもしれないが、テスト勉強ということであれば、特に言うこともないのだろう。
あわよくば、やってくるのが女子生徒だということに気付かれないままでいたい———無理だと分かっていても、そう願ってしまうのが男子である月島の本音だ。
それからすぐに、インターホンが鳴った。
「蛍、お友達来たみたいよ!」
「今行く。」
母親に急かされた月島は、閉じた本をローテーブルに置くと玄関へ向かった。
ちょうど、母親は洗濯物を取り込んでいるところだった。
その間に名前が2階に上がれば、顔を合わさずに済む。
だから、インターフォンの映像は確認したけれど、敢えて出なかった。
名前の声が母親にも聞こえてしまう可能性を排除したのだ。
無意識に、月嶋の足が早くなる。
「はい。」
月島が玄関を開けると、少し距離を開けて名前が立っていた。
さっきはインターフォンの映像をチラッと見ただけだったから、気づかなかった。
当然だけれど、名前は私服だった。
細身のジーンズ、黒のインナーにオーバーサイズのアイボリー色のカーディガンを羽織っている。カジュアルな装いだけれど、胸元で揺れるネックレスやブレスレットが雰囲気を大人っぽくしているように見えた。
合わせているバッグは、大きめのベージュの普通のトートバッグだった。勉強道具が入っているのだろう。
東京に行った時のデート服とは正反対の装いだ。これが、名前の本当の普段着なのだろう。
「おお、月島君が普段着だ。ラフだ。」
「…家ですからね。」
名前が大きな瞳をさらに見開いた。
どうやら、お互いに感じたのは同じことだったらしい。
当然と言えば当然だ。家に招いたのも、招かれたのも、互いに初めてなのだ。
「じゃ、どうぞ。」
「はい、では…!お邪魔します!
…なんかドキドキしちゃうね。」
そう言う名前だったけれど、どちらかというと月島にはワクワクしているように見えた。
スニーカー風のサンダルを脱いだ名前は、玄関の端に並べ直す。
そこへ、母親がやって来てしまった。
「蛍~、飲み物は冷蔵庫にあるから好きなのを勝手に———。」
声をかけながらやって来た母親は、家に上がったばかりの名前を見て固まった。
口が開いたまま、やって来たときのままの格好で目を丸くしている。
だから、嫌だったのだ————。
「急にお邪魔してしまってすみませんっ。
烏野高校3年の名字名前です。」
名前は軽くお辞儀をすると、親好きしそうな可愛らしい笑みを見せた。
そこでやっと母親の時間が動き出す。
「女の子なんて聞いてなかったからビックリしちゃってっ。
まぁまぁ、そうだったの!蛍ったら、私に何も話してくれないからっ。」
「別に母さんが期待してるような話もないからだけど。」
月島はボソッと言い返したのだけれど、興奮する母親は全く聞いていない。
まぁまぁ、と繰り返しては嬉しそうに名前を見ている。
完全に勘違いしている。後で誤解を解かなければならないのかと思うと、月島の心は一層憂鬱になる。
「名前ちゃん、だったかな。」
「はい!」
「3年生なのね。通りで大人っぽくて綺麗な子だと思ったわ~。
今日はお勉強するのよね、3年生の彼女がいるなら安心だわ。
名前ちゃん、蛍の勉強をよくみてあげてね。」
「見るのは僕なんだけどね。」
「そう~、年上なのね~。綺麗系なのね~。」
母親が、意味ありげな笑みを月島に向けてくる。
今ここで何か言ったところで、浮かれている母親には何も届かない気がする。
月島は、大きなため息を吐いた。
「これ、お邪魔させて頂くお礼です。
皆さんで食べてください。」
名前は、大きなトートバッグの後ろに隠されていた紙袋を母親に渡した。
どうやら、土産を持ってきていたらしい。
今まで、友達が家に遊びに来ることはほとんどなかった。あっても、山口くらいだ。
一緒にゲームをしたり、漫画を読んだら、バレーの話をするだけだったし、もちろん彼が、わざわざ土産を持ってくることもない。
名前の行動は、月島にとって、新鮮な驚きだった。
「まぁまぁ!嬉しいわ、わざわざありがとうね。
あら、ここのケーキ、家族みんな大好きなのよ。」
「本当ですか!よかった~。」
名前が、胸に手をあてるとホッとしたように息を吐いた。
少しだけ、笑顔も柔らかくなった気がする。
「もういい?
いつまでもここで喋ってたら、勉強時間なくなるし。
それでもいいなら、僕は別にいいけど。」
月島が口を挟む。
放っておいたらここで女子トークを始めそうな危機を感じた。
先週、バレー部の2年は田中の家に集まってテスト対策の勉強会をしたらしい。
日向と影山に自分達も勉強を教えて欲しいとお願いされた月島だったが、せっかくの休日まで他人に潰されたくなくて本気で拒否した。
久々の休日だ。読もうと思って買っていた本がやっと読めると、こっそり楽しみにしていたのだ。
だが、予定は予定であって、うまくいかないものだ。
月島は、本を読んでいた顔を上げて、壁掛けの時計を見た。
時間は14時少し前、そろそろ約束の時間だ。
『今週の土曜、学校の知り合いが、勉強しに来るから。』
水曜のうちに、母親にはそう伝えておいた。
やって来る知り合いは、名前だ。
どうしても土曜日も月島に勉強を見てほしいと騒がしい日向と影山をなんとか追い払ったというのに、結局は似たようなことになってしまった。
名前が、月島の家に勉強をしに来たい理由は、日向と影山と同じだ。
期末テストで赤点以上をとり、補習を免れたいのだ。
『今度の期末、数学のテストで赤点取ったら、
夏休みは毎日補習だって言われちゃったの。あんまりだと思わない?』
名前は泣きそうな顔をしていた。
確かに、せっかくの夏休みを毎日補習で潰されたらたまったものじゃない。
でもそれもこれも、授業中に居眠りをして、宿題のプリントには落書きをして出すだけの名前の自業自得だ。
とうとう教師も堪忍袋の緒が切れたのだろう。
それに、さすがにこのまま赤点が続けば、卒業だって危ぶまれる。
大切な生徒のためにも、教師は必要に駆られて鬼になったのだと思う。
『僕が勉強を見ましょうか。
これくらいなら、答えのある問題集さえ用意してもらえたら
僕でも教えられると思うけど。」
放っておけば良いのに、気づけば、そんな余計なことを言ってしまっていた。
始まってもいないのに夏休みが終わってしまったーーーーと、名前があまりにも絶望的に落ち込んでいるから、同情してしまったのだ。
「14時だったわよね?部屋で勉強するの?」
「そう。」
母親が家事をしていた手を止めて、壁掛けの時計を見た。
月島は続きの文章に目を通しながら答えた。
名前が来るまで、読めるところまで読んでおくつもりだ。
期末テスト前だということは母親も知っている。
今までも、勉強しなさいと口うるさく言うタイプの親ではなかったし、言われなくてもテスト勉強をしていたのが月島だ。
月島が誰かを家に呼んだこともほとんどない。
珍しいとは思っているかもしれないが、テスト勉強ということであれば、特に言うこともないのだろう。
あわよくば、やってくるのが女子生徒だということに気付かれないままでいたい———無理だと分かっていても、そう願ってしまうのが男子である月島の本音だ。
それからすぐに、インターホンが鳴った。
「蛍、お友達来たみたいよ!」
「今行く。」
母親に急かされた月島は、閉じた本をローテーブルに置くと玄関へ向かった。
ちょうど、母親は洗濯物を取り込んでいるところだった。
その間に名前が2階に上がれば、顔を合わさずに済む。
だから、インターフォンの映像は確認したけれど、敢えて出なかった。
名前の声が母親にも聞こえてしまう可能性を排除したのだ。
無意識に、月嶋の足が早くなる。
「はい。」
月島が玄関を開けると、少し距離を開けて名前が立っていた。
さっきはインターフォンの映像をチラッと見ただけだったから、気づかなかった。
当然だけれど、名前は私服だった。
細身のジーンズ、黒のインナーにオーバーサイズのアイボリー色のカーディガンを羽織っている。カジュアルな装いだけれど、胸元で揺れるネックレスやブレスレットが雰囲気を大人っぽくしているように見えた。
合わせているバッグは、大きめのベージュの普通のトートバッグだった。勉強道具が入っているのだろう。
東京に行った時のデート服とは正反対の装いだ。これが、名前の本当の普段着なのだろう。
「おお、月島君が普段着だ。ラフだ。」
「…家ですからね。」
名前が大きな瞳をさらに見開いた。
どうやら、お互いに感じたのは同じことだったらしい。
当然と言えば当然だ。家に招いたのも、招かれたのも、互いに初めてなのだ。
「じゃ、どうぞ。」
「はい、では…!お邪魔します!
…なんかドキドキしちゃうね。」
そう言う名前だったけれど、どちらかというと月島にはワクワクしているように見えた。
スニーカー風のサンダルを脱いだ名前は、玄関の端に並べ直す。
そこへ、母親がやって来てしまった。
「蛍~、飲み物は冷蔵庫にあるから好きなのを勝手に———。」
声をかけながらやって来た母親は、家に上がったばかりの名前を見て固まった。
口が開いたまま、やって来たときのままの格好で目を丸くしている。
だから、嫌だったのだ————。
「急にお邪魔してしまってすみませんっ。
烏野高校3年の名字名前です。」
名前は軽くお辞儀をすると、親好きしそうな可愛らしい笑みを見せた。
そこでやっと母親の時間が動き出す。
「女の子なんて聞いてなかったからビックリしちゃってっ。
まぁまぁ、そうだったの!蛍ったら、私に何も話してくれないからっ。」
「別に母さんが期待してるような話もないからだけど。」
月島はボソッと言い返したのだけれど、興奮する母親は全く聞いていない。
まぁまぁ、と繰り返しては嬉しそうに名前を見ている。
完全に勘違いしている。後で誤解を解かなければならないのかと思うと、月島の心は一層憂鬱になる。
「名前ちゃん、だったかな。」
「はい!」
「3年生なのね。通りで大人っぽくて綺麗な子だと思ったわ~。
今日はお勉強するのよね、3年生の彼女がいるなら安心だわ。
名前ちゃん、蛍の勉強をよくみてあげてね。」
「見るのは僕なんだけどね。」
「そう~、年上なのね~。綺麗系なのね~。」
母親が、意味ありげな笑みを月島に向けてくる。
今ここで何か言ったところで、浮かれている母親には何も届かない気がする。
月島は、大きなため息を吐いた。
「これ、お邪魔させて頂くお礼です。
皆さんで食べてください。」
名前は、大きなトートバッグの後ろに隠されていた紙袋を母親に渡した。
どうやら、土産を持ってきていたらしい。
今まで、友達が家に遊びに来ることはほとんどなかった。あっても、山口くらいだ。
一緒にゲームをしたり、漫画を読んだら、バレーの話をするだけだったし、もちろん彼が、わざわざ土産を持ってくることもない。
名前の行動は、月島にとって、新鮮な驚きだった。
「まぁまぁ!嬉しいわ、わざわざありがとうね。
あら、ここのケーキ、家族みんな大好きなのよ。」
「本当ですか!よかった~。」
名前が、胸に手をあてるとホッとしたように息を吐いた。
少しだけ、笑顔も柔らかくなった気がする。
「もういい?
いつまでもここで喋ってたら、勉強時間なくなるし。
それでもいいなら、僕は別にいいけど。」
月島が口を挟む。
放っておいたらここで女子トークを始めそうな危機を感じた。