今、笑っているのは誰なのでしょうか
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「あの、さ。」
やっと口を開いた土方さんが、意を決したように、言葉を紡ぎだす。
首の後ろを左手でさすりながら、頬を赤く染めるその姿は、話し出すその前から、私のことをどう思っているのかを、饒舌に語っていた。
でも、私にとっては、嬉しい感情だった。
会う約束をしていれば、約束の時間には必ず会えるようにしてくれる。
どこかで待ち合わせをすることの方が多いけれど、私が真選組屯所に会いに行くこともあるし、今日のように、土方さんが家に来ることもある。
それだけじゃない。
彼は、会う約束をしていなくても、ほんの少しでも私が弱音を吐けば、駆け付けてくれる。
それは、恋人という関係になっても変わらないのだろう、と真面目で誠実な彼を見ていればよくわかるから、それが何よりも嬉しかった。
『付き合ってくれねぇか、な…?』
私の頭の中に、数秒後の土方さんの姿が映し出される。
そこまで間違ってもいないはずだ。
躊躇いがちに紡がれた先に続くのは、きっとそういった類の言葉だ。
「俺、」
勇気を出した土方さんの邪魔をするように、私のスマホがバイブを鳴らす。
緊張の糸が弾けて、思わずドキリとしてしまった。
【神楽】
着信画面に表示されているのは、可愛い友人のものだった。
電話をかけてきた理由は分かっている。
だから、出なくてもいいのに、土方さんが出てもいいというから、私の弱さが、スマホの応答ボタンを押してしまう。
「もしも———。」
≪なまえーーーーー!!早く会いに来てくれよおおお!!≫
電話に出た途端、スマホからは神楽ちゃんの悲鳴のような声が響いた。
聞こえただろうか———チラリと確認した土方さんは、僅かに眉を顰めていたから、目が合った私は困ったような笑みを返した。
「ごめんね、神楽チャン。今、お客様が来ていて———。」
≪マヨラーあるカ?≫
「それは…。」
私はまた、チラリと土方さんを見る。
幾分か落ち着いた神楽ちゃんの声が、またスマホから漏れたかどうかは分からない。
何と答えるのか、少しだけ、悩んでしまう。
神楽ちゃんのそばには、ダラダラとジャンプを読んでる天パがいるかもしれない。
「—————うん、そうなの。
だから、またかけ直すね?」
≪待ってくれヨ。本当に銀ちゃんのことはもういいあるか?
銀ちゃん、なまえに会えなくて寂しそうネ。≫
「それは、神楽ちゃんの見間違いだよ。」
私は苦笑を滲ませる。
最近、神楽ちゃんからは、似たような類の復縁を迫る連絡が来るようになった。
どうせ、部屋が散らかり放題で、作り置きのおかずもなくなって、助けを求めているのだと思ったが、どうやら違うらしい。
部屋は、新八と妙が片付けていて、作り置きのおかずは、お登勢さんが作ってくれているのだそうだ。
それでも、銀時は、私に会いたいと思ってる。
最近では、他の女に会うこともせずに、グチグチと文句をこぼしながら、遠回しに私に電話にかけるように神楽ちゃんに言っているのだ。
私の言葉は、神楽ちゃんを通して銀時に伝わって、銀時の怠惰な復縁を迫る口実は、神楽ちゃんを通して私にも伝わってくる。
神楽ちゃんを利用した私達の駆け引きは、土方さん次第で、終わりを迎える。
私は今、すごく幸せなんだってことを、きっと、銀時は聞いてるはずだ。
私も聞いてる。銀時は今、すごく後悔しているのだということを。
でも、銀時の口からは、聞いていない。
そうして、私が、銀時の怠惰を許してしまったら、何かあったときにまた、彼は言うに決まってる。
『そもそも、俺達、恋人じゃないだろ。』
聞いてもいないセリフが、私の頭の中で再生されて、心臓が握り潰されそうになった。
だから私は、もう一度、神楽ちゃんに謝って、電話を切った。
「もういいのか?」
土方さんが、気を遣うように言う。
でも、私が頷くと、彼は、すごくホッとしたように息を吐いた。
気遣いのない銀時とは、大違いだ。
本当に、笑えてしまう。
あれほど私は銀時が好きだったのに、大好きだったのに、私は今、銀時が大嫌いな土方さんと一緒にいる。
そして、これから先、彼とずっと一緒にいるのかもしれないと思っているのだ。
不思議で、すごく可笑しい。
ほんの数か月前までに、私が願っていた未来とは、まるで違う今を生きているなんて、どう考えたって、笑ってしまう。
「それで…、さっきの続きなんだが…。」
また、土方さんから、緊張が溢れだす。
土方さんは、私だけをまっすぐに見つめている。
私まで緊張してくる。ドキドキする。
あぁ、でも、正直に言えば、本当に、笑えてしまうのだ。
だって、ずっと一緒にいたって銀時がくれなかった言葉を、この数か月、一緒にいただけの土方さんが言おうとしているのだ。
土方さんが大嫌いな銀時が捨てた女に、土方さんが愛の告白をしようとしてるなんて、誰が聞いたって、きっと笑うに決まってる。
総悟くんなんて、腹を抱えて、涙を流しながら、大爆笑するに違いない。
あぁ、本当に、笑えてくる————。
「もし…、よかったら、俺と————。」
また、私のスマホがバイブを鳴らす。
どうしても、土方さんにその続きの言葉を言わせたくないらしい。
ため息を通り越して失笑しながら、スマホの画面を確認した。
【銀時】
着信画面に表示された名前を見て、緊張感の糸が一瞬で張りつめる。
私の心臓がドクンと大きく高鳴って、おずおずとスマホに伸びる手が震える。
「…!」
いきなり、土方さんに手首を掴まれて、驚いて息が止まった。
着信画面を凝視していた私の目が、ハッとして土方さんの方を向く。
彼は、何も言わなかった。
こんなときに、自分を捨てた男からの電話に出ようとしていた私を責めるでもなく、呆れるでもなく、ただ、苦し気に、眉を顰めていた。
それでも、真っ直ぐに、ただ真っすぐに、私を見つめている。
まるで、あの日の私のようで、笑えてしまう。泣けてしまうくらいにそっくりで、笑えるのだ。
あぁ、土方さんの唇が、動く。
言おうとしてる。
私と銀時を、本当に終わらせてしまう言葉を、言おうとしている。
もう時間は、待ってくれないのに、私達の味方はしてくれないのに、銀時はまだ諦めきれずに、着信音を鳴らしている。
私を呼んでいる。
あぁ、本当に笑える。
もう無理なのに。もう、遅いのに。
「好きだ。」
土方さんが、私を見つめて告げる。
「——俺の、恋人になって。」
磁力に引き寄せられているみたいに、私が頷けば、愛を語った唇が、ゆっくりと近づく。
私は瞼を降ろして、何も見えなくなる。
あぁ、本当に笑える。目を閉じているから、涙も出てこない。
本当に笑える。どうして今なんだろう。
どうして、今更なんだろう。
電話に出たくたって、出られなかった。
土方さんと唇が重なっているのに、どうやって電話に出ろというのだろう。
私はもう、やっと吹っ切れて、前を向こうとしているのに、どうして今さら私を愛そうとするのだろう。
抱き寄せられて、私も土方さんの背中に手をまわした。
ただいま電話に出ることができません。
ピーという発信音のあとにお名前とご用件をお話しください。
あー…あの、さ。ごめん。
ほんと、笑えるよな。ダサすぎて、泣けるくらい笑える。
傷つけた後に言うことじゃないのもわかってるけど、愛してるんだ。
———愛してます。
やっと口を開いた土方さんが、意を決したように、言葉を紡ぎだす。
首の後ろを左手でさすりながら、頬を赤く染めるその姿は、話し出すその前から、私のことをどう思っているのかを、饒舌に語っていた。
でも、私にとっては、嬉しい感情だった。
会う約束をしていれば、約束の時間には必ず会えるようにしてくれる。
どこかで待ち合わせをすることの方が多いけれど、私が真選組屯所に会いに行くこともあるし、今日のように、土方さんが家に来ることもある。
それだけじゃない。
彼は、会う約束をしていなくても、ほんの少しでも私が弱音を吐けば、駆け付けてくれる。
それは、恋人という関係になっても変わらないのだろう、と真面目で誠実な彼を見ていればよくわかるから、それが何よりも嬉しかった。
『付き合ってくれねぇか、な…?』
私の頭の中に、数秒後の土方さんの姿が映し出される。
そこまで間違ってもいないはずだ。
躊躇いがちに紡がれた先に続くのは、きっとそういった類の言葉だ。
「俺、」
勇気を出した土方さんの邪魔をするように、私のスマホがバイブを鳴らす。
緊張の糸が弾けて、思わずドキリとしてしまった。
【神楽】
着信画面に表示されているのは、可愛い友人のものだった。
電話をかけてきた理由は分かっている。
だから、出なくてもいいのに、土方さんが出てもいいというから、私の弱さが、スマホの応答ボタンを押してしまう。
「もしも———。」
≪なまえーーーーー!!早く会いに来てくれよおおお!!≫
電話に出た途端、スマホからは神楽ちゃんの悲鳴のような声が響いた。
聞こえただろうか———チラリと確認した土方さんは、僅かに眉を顰めていたから、目が合った私は困ったような笑みを返した。
「ごめんね、神楽チャン。今、お客様が来ていて———。」
≪マヨラーあるカ?≫
「それは…。」
私はまた、チラリと土方さんを見る。
幾分か落ち着いた神楽ちゃんの声が、またスマホから漏れたかどうかは分からない。
何と答えるのか、少しだけ、悩んでしまう。
神楽ちゃんのそばには、ダラダラとジャンプを読んでる天パがいるかもしれない。
「—————うん、そうなの。
だから、またかけ直すね?」
≪待ってくれヨ。本当に銀ちゃんのことはもういいあるか?
銀ちゃん、なまえに会えなくて寂しそうネ。≫
「それは、神楽ちゃんの見間違いだよ。」
私は苦笑を滲ませる。
最近、神楽ちゃんからは、似たような類の復縁を迫る連絡が来るようになった。
どうせ、部屋が散らかり放題で、作り置きのおかずもなくなって、助けを求めているのだと思ったが、どうやら違うらしい。
部屋は、新八と妙が片付けていて、作り置きのおかずは、お登勢さんが作ってくれているのだそうだ。
それでも、銀時は、私に会いたいと思ってる。
最近では、他の女に会うこともせずに、グチグチと文句をこぼしながら、遠回しに私に電話にかけるように神楽ちゃんに言っているのだ。
私の言葉は、神楽ちゃんを通して銀時に伝わって、銀時の怠惰な復縁を迫る口実は、神楽ちゃんを通して私にも伝わってくる。
神楽ちゃんを利用した私達の駆け引きは、土方さん次第で、終わりを迎える。
私は今、すごく幸せなんだってことを、きっと、銀時は聞いてるはずだ。
私も聞いてる。銀時は今、すごく後悔しているのだということを。
でも、銀時の口からは、聞いていない。
そうして、私が、銀時の怠惰を許してしまったら、何かあったときにまた、彼は言うに決まってる。
『そもそも、俺達、恋人じゃないだろ。』
聞いてもいないセリフが、私の頭の中で再生されて、心臓が握り潰されそうになった。
だから私は、もう一度、神楽ちゃんに謝って、電話を切った。
「もういいのか?」
土方さんが、気を遣うように言う。
でも、私が頷くと、彼は、すごくホッとしたように息を吐いた。
気遣いのない銀時とは、大違いだ。
本当に、笑えてしまう。
あれほど私は銀時が好きだったのに、大好きだったのに、私は今、銀時が大嫌いな土方さんと一緒にいる。
そして、これから先、彼とずっと一緒にいるのかもしれないと思っているのだ。
不思議で、すごく可笑しい。
ほんの数か月前までに、私が願っていた未来とは、まるで違う今を生きているなんて、どう考えたって、笑ってしまう。
「それで…、さっきの続きなんだが…。」
また、土方さんから、緊張が溢れだす。
土方さんは、私だけをまっすぐに見つめている。
私まで緊張してくる。ドキドキする。
あぁ、でも、正直に言えば、本当に、笑えてしまうのだ。
だって、ずっと一緒にいたって銀時がくれなかった言葉を、この数か月、一緒にいただけの土方さんが言おうとしているのだ。
土方さんが大嫌いな銀時が捨てた女に、土方さんが愛の告白をしようとしてるなんて、誰が聞いたって、きっと笑うに決まってる。
総悟くんなんて、腹を抱えて、涙を流しながら、大爆笑するに違いない。
あぁ、本当に、笑えてくる————。
「もし…、よかったら、俺と————。」
また、私のスマホがバイブを鳴らす。
どうしても、土方さんにその続きの言葉を言わせたくないらしい。
ため息を通り越して失笑しながら、スマホの画面を確認した。
【銀時】
着信画面に表示された名前を見て、緊張感の糸が一瞬で張りつめる。
私の心臓がドクンと大きく高鳴って、おずおずとスマホに伸びる手が震える。
「…!」
いきなり、土方さんに手首を掴まれて、驚いて息が止まった。
着信画面を凝視していた私の目が、ハッとして土方さんの方を向く。
彼は、何も言わなかった。
こんなときに、自分を捨てた男からの電話に出ようとしていた私を責めるでもなく、呆れるでもなく、ただ、苦し気に、眉を顰めていた。
それでも、真っ直ぐに、ただ真っすぐに、私を見つめている。
まるで、あの日の私のようで、笑えてしまう。泣けてしまうくらいにそっくりで、笑えるのだ。
あぁ、土方さんの唇が、動く。
言おうとしてる。
私と銀時を、本当に終わらせてしまう言葉を、言おうとしている。
もう時間は、待ってくれないのに、私達の味方はしてくれないのに、銀時はまだ諦めきれずに、着信音を鳴らしている。
私を呼んでいる。
あぁ、本当に笑える。
もう無理なのに。もう、遅いのに。
「好きだ。」
土方さんが、私を見つめて告げる。
「——俺の、恋人になって。」
磁力に引き寄せられているみたいに、私が頷けば、愛を語った唇が、ゆっくりと近づく。
私は瞼を降ろして、何も見えなくなる。
あぁ、本当に笑える。目を閉じているから、涙も出てこない。
本当に笑える。どうして今なんだろう。
どうして、今更なんだろう。
電話に出たくたって、出られなかった。
土方さんと唇が重なっているのに、どうやって電話に出ろというのだろう。
私はもう、やっと吹っ切れて、前を向こうとしているのに、どうして今さら私を愛そうとするのだろう。
抱き寄せられて、私も土方さんの背中に手をまわした。
ただいま電話に出ることができません。
ピーという発信音のあとにお名前とご用件をお話しください。
あー…あの、さ。ごめん。
ほんと、笑えるよな。ダサすぎて、泣けるくらい笑える。
傷つけた後に言うことじゃないのもわかってるけど、愛してるんだ。
———愛してます。
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