予測変換が教えてくれる私のキモチ
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ピピピ————。
遠くから聞こえている気がしていたアラームの音が、次第に近くなっていた。
それは、眉を顰めて、ゆっくりと瞼を押し上げた途端に、大音量で私の鼓膜を襲う。
朝が弱いから、耳元にスマホを置いてアラームを鳴らすようにしているのだけれど、こんなことを毎朝続けていたら、鼓膜が壊れてしまいそうだ。
「はぃはぃ、起きますよぅ…。」
ベッドで横になったまま、スマホを握りしめる。
寝惚け眼でアラームを切りながら、時間を確認すれば、時間は7時45分。30分にセットをしたはずだから、15分間、スヌーズが鳴り続けていたことになる。
待ち合わせの時間は10時、9時半には家を出れば間に合うから、だいぶ余裕がある。
「ん~…!」
ゆっくりと身体を起こしてから、思いっきり両腕を広げて伸びをする。
だいぶ懐かしい夢を見てしまった。
付き合い始めて間もない頃、珍しく銀時が甘えてくれた日のことだ。
あれからもう3年が経って、お互いにお互いがいることがあまりにも当たり前になってしまった。
今ではもう、恋人という関係に胸を弾ませるようなこともない。
最後に銀時にときめいたのなんて、いつだろう——。
「さ、起きるか!」
ベッドから降りようとして、スマホを手に取って、LINEに未読の通知がついていることに気づいた。
「誰だろ?」
LINEを開くと、銀時とのトークルームに1件の未読がついている。
【仕事が入った。】
たった一言の、無機質なメッセージ。
でもそれだけで、伝わるものが幾つもある。
今日は、会えないということ。銀時が、私に対する気遣いと優しさを忘れてしまっているということ。今日が、付き合って3年目の記念日だということを、すっかり忘れられているということ。あと、それから、もしかしたら、もう銀時は私のことを———。
【仕事終わりには?会えないの?夜とか。】
返信を送ると、すぐに既読がついた。
まだ家にいるのかもしれないし、朝早く仕事に出て、手元にスマホを置いていたのかもしれない。
万事屋で働いている銀時の就業時間は不規則だ。万事というだけあって、仕事内容もピンからキリまであって、今日の仕事というのも何をするのかは分からない。
実際、嘘が下手くそなフリをするのまで得意なズルい銀時が、浮気をするのは、凄く簡単だろう。
数分もすれば、スマホがバイブを鳴らして、銀時のメッセージを受信する。
【夜は辰馬と飲むから。】
メッセージを読んで、悲しくなるよりも先に、自分達の関係が本当にもう修復不可能なところまで来ていることを思い知らされる。
付き合いたての頃は、朝は『おはよう。』のLINEを送り合って、夜になると『おやすみ。』の長電話をして、この小さなスマホが、私達の会いたくて寂しい気持ちをなんとか繋いでくれていた。
でも今は、私達にとっての必要最低限の連絡事項を伝える為だけのツールに過ぎない。
辰馬さんが歌舞伎町に来ていたことすら、私は知らなかった。
銀時はもう本当に、私のことなんて、好きじゃないのかもしれない。
少なくとも、どんな些細なことでもいいから話したい、ほんの数分でもいいから会いたい、そう想っていた頃の気持ちは、残っていないのだろう。
銀時にあるのは、3年付き合ってきた彼女への〝情〟か。別れ話をなかなか言い出せない〝ズルさ〟か。
どちらにしろ、そのどちらかだけだ。
了解を意味するスタンプを送ると、一気に脱力する。
何を期待していたのだろう———。
スマホを握りしめる手は、呆気なく諦めて、膝の上に落ちた。
無意識に、長いため息が出る。
「もう、潮時かな。」
敢えて、勇気を出して、ポツリと呟いた。
涙は出ない。もう随分と前から、そんな気はしていた。
でも、せめて、記念日くらい、会いたかった。声を聞きたかった。
あの日みたいに、好きだとか、大好きだとか、言ってくれなくてもいい。
ただそばにいて、私を好きだという気持ちを見せて欲しかっただけなのだ。
あと少し、ほんの少し、私を失わないようにするズルい優しさが見えたらのなら、どんなに酷い裏切りを受けていたとしても、待っていられたのに———。
「寒い…。」
呟いて、後ろに倒れたら、起き上がったばかりのベッドに背中から落ちた。
おもむろに、スマホを握る手をゆっくりと持ち上げる。
そして私は、メッセージ入力の画面を開いた。
——大嫌い
そう打ちたくて、親指が『だ』を入力すれば、親切なスマホが、勝手な予測変換をする。
一番上に表示された予測変換の文字に、ついに、ずっと我慢していた涙が零れた。
———【大好き】
あなたを失う為のツールが、今このとき、この世で一番私の気持ちを知っていた
ねぇ、銀時
ん~?
私も好き。大好き————。
遠くから聞こえている気がしていたアラームの音が、次第に近くなっていた。
それは、眉を顰めて、ゆっくりと瞼を押し上げた途端に、大音量で私の鼓膜を襲う。
朝が弱いから、耳元にスマホを置いてアラームを鳴らすようにしているのだけれど、こんなことを毎朝続けていたら、鼓膜が壊れてしまいそうだ。
「はぃはぃ、起きますよぅ…。」
ベッドで横になったまま、スマホを握りしめる。
寝惚け眼でアラームを切りながら、時間を確認すれば、時間は7時45分。30分にセットをしたはずだから、15分間、スヌーズが鳴り続けていたことになる。
待ち合わせの時間は10時、9時半には家を出れば間に合うから、だいぶ余裕がある。
「ん~…!」
ゆっくりと身体を起こしてから、思いっきり両腕を広げて伸びをする。
だいぶ懐かしい夢を見てしまった。
付き合い始めて間もない頃、珍しく銀時が甘えてくれた日のことだ。
あれからもう3年が経って、お互いにお互いがいることがあまりにも当たり前になってしまった。
今ではもう、恋人という関係に胸を弾ませるようなこともない。
最後に銀時にときめいたのなんて、いつだろう——。
「さ、起きるか!」
ベッドから降りようとして、スマホを手に取って、LINEに未読の通知がついていることに気づいた。
「誰だろ?」
LINEを開くと、銀時とのトークルームに1件の未読がついている。
【仕事が入った。】
たった一言の、無機質なメッセージ。
でもそれだけで、伝わるものが幾つもある。
今日は、会えないということ。銀時が、私に対する気遣いと優しさを忘れてしまっているということ。今日が、付き合って3年目の記念日だということを、すっかり忘れられているということ。あと、それから、もしかしたら、もう銀時は私のことを———。
【仕事終わりには?会えないの?夜とか。】
返信を送ると、すぐに既読がついた。
まだ家にいるのかもしれないし、朝早く仕事に出て、手元にスマホを置いていたのかもしれない。
万事屋で働いている銀時の就業時間は不規則だ。万事というだけあって、仕事内容もピンからキリまであって、今日の仕事というのも何をするのかは分からない。
実際、嘘が下手くそなフリをするのまで得意なズルい銀時が、浮気をするのは、凄く簡単だろう。
数分もすれば、スマホがバイブを鳴らして、銀時のメッセージを受信する。
【夜は辰馬と飲むから。】
メッセージを読んで、悲しくなるよりも先に、自分達の関係が本当にもう修復不可能なところまで来ていることを思い知らされる。
付き合いたての頃は、朝は『おはよう。』のLINEを送り合って、夜になると『おやすみ。』の長電話をして、この小さなスマホが、私達の会いたくて寂しい気持ちをなんとか繋いでくれていた。
でも今は、私達にとっての必要最低限の連絡事項を伝える為だけのツールに過ぎない。
辰馬さんが歌舞伎町に来ていたことすら、私は知らなかった。
銀時はもう本当に、私のことなんて、好きじゃないのかもしれない。
少なくとも、どんな些細なことでもいいから話したい、ほんの数分でもいいから会いたい、そう想っていた頃の気持ちは、残っていないのだろう。
銀時にあるのは、3年付き合ってきた彼女への〝情〟か。別れ話をなかなか言い出せない〝ズルさ〟か。
どちらにしろ、そのどちらかだけだ。
了解を意味するスタンプを送ると、一気に脱力する。
何を期待していたのだろう———。
スマホを握りしめる手は、呆気なく諦めて、膝の上に落ちた。
無意識に、長いため息が出る。
「もう、潮時かな。」
敢えて、勇気を出して、ポツリと呟いた。
涙は出ない。もう随分と前から、そんな気はしていた。
でも、せめて、記念日くらい、会いたかった。声を聞きたかった。
あの日みたいに、好きだとか、大好きだとか、言ってくれなくてもいい。
ただそばにいて、私を好きだという気持ちを見せて欲しかっただけなのだ。
あと少し、ほんの少し、私を失わないようにするズルい優しさが見えたらのなら、どんなに酷い裏切りを受けていたとしても、待っていられたのに———。
「寒い…。」
呟いて、後ろに倒れたら、起き上がったばかりのベッドに背中から落ちた。
おもむろに、スマホを握る手をゆっくりと持ち上げる。
そして私は、メッセージ入力の画面を開いた。
——大嫌い
そう打ちたくて、親指が『だ』を入力すれば、親切なスマホが、勝手な予測変換をする。
一番上に表示された予測変換の文字に、ついに、ずっと我慢していた涙が零れた。
———【大好き】
あなたを失う為のツールが、今このとき、この世で一番私の気持ちを知っていた
ねぇ、銀時
ん~?
私も好き。大好き————。