Q19.私にはもう会いたくないですか?
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あの日から1週間が経つけれど、あれから、裏庭には一度も行っていない。
指輪のことを思うと辛くなるから、裏庭が見える廊下すらも避けている。
でも、そうやって逃げていても、大切な指輪のことを忘れられるわけではない。
リヴァイ兵長を突き放してしまった事実は、残っている。
その証拠に、あの日からずっと、リヴァイ班の人たちに避けられているのを感じるのだ。
きっと、リヴァイ兵長が、部下であるペトラさん達に「なまえと会いたくない」と言ったのだろう。
だから彼らは、私とリヴァイ兵長が出くわさないように工夫しているーーーーそんな風に感じるのだ。
「はぁ…。」
仕事を終えて部屋に戻った私は、カーテンを開いて窓を開ける。
お気に入りの椅子に座ると、無意識に大きなため息が出た。
調査兵団の兵舎で働かせてもらえるようになってから、大変でも充実した日々を過ごしていた。
元々、料理は好きだし、栄養について学ぶのも苦だと思ったことはない。
けれど、ここ最近は、久しぶりに仕事が憂鬱だ。朝起きて、逃げ出したくなる。
コンコンーーー。
扉が叩かれた音がした。
思い出したのは、ノックすらせずに、我が物顔で私の部屋に入って来ていたリヴァイ兵長のことだった。
ズキン、とまた胸が痛む。
私はすぐに首を左右に振って、立ち上がり扉へと向かう。
きっと、ハンジさんだろう。この部屋に来るのなんて、彼女くらいしかいない。
要件は、仕事のことだ。
「はい、どうされました?」
扉を開けて、驚いた。
立っていたのは、ペトラさんだった。私を避けていると思っていたリヴァイ班のメンバーだ。
驚く私に、ペトラさんは躊躇いがちに口を開く。
「急に来てごめんね。休んでたよね。」
「ううん、特にすることもなくぼんやりしてただけだから、大丈夫だよ。」
「リヴァイ兵長に頼まれて、コレを持ってきたの。」
リヴァイ兵長ーーーという言葉に、思わず身体が固まった。
そんな私の目の前に差し出されたのは、真っ白いハンカチだった。
綺麗に畳んであるその白いハンカチを、ペトラさんがゆっくりと丁寧に開いていく。
そして出てきたのは、指輪だった。
もう二度と戻ってはこないと諦めていた両親の形見の指輪だ。それが、真っ白いハンカチの中央で、まるで新品のようにキラキラと輝いている。
いや、そんなはずはない。
両親の肩身の指輪はもう古く、黒ずんでもいた。綺麗なものではなかった。
「なまえさんの大切な指輪なんでしょう?」
「…でもこれは…。」
言葉にはできなかった。
けれど、あの指輪は、池の中に落ちて消えてしまった。
「リヴァイ兵長が見つけたの。」
「え?リヴァイ兵長が…?」
あの日、私が突き飛ばした時に、リヴァイ兵長が池の中からたまたま見つけたということなのだろうか。
どういうことなのかわからず、私は訝しげに首を傾げる。
「ここ一週間ずっと、任務が終わってから、
リヴァイ兵長が裏庭の池の中を探してたの。」
ペトラさんの言葉に、私は驚きすぎて声を失った。
まさか、どうしてーーー。
大嫌いだと突き放した女が失くした指輪をリヴァイ兵長が探してくれたなんてことが、ありえるだろうか。
しかも、リヴァイ兵長は、あの指輪が、亡くなった両親の形見だとは知らない。昔の男が贈ったものだと勘違いしているのだ。
しかも、異常なほどの潔癖症のリヴァイ兵長が、自らあの汚い池の中に入るなんて想像も出来ない。
「やっと見つかったのに、自分は、なまえにひどいことを言ってしまって、
あわせる顔がないから、代わりに持っていってくれって頼まれちゃって。」
ペトラさんはそう言うと、私の手を取った。
そして、真っ白いハンカチごと、私の手に指輪を握らせる。
ふわり、と香ってきたのは、石鹸と紅茶が混ざったような優しい香り。リヴァイ兵長の香りだ。
一瞬、ここにはいないリヴァイ兵長が、まるで目の前にいるような気がして、きゅっと胸が締め付けられる。
思わず、ハンカチごと指輪をギュッと握りしめて、胸元にそっと寄せる。
ペトラさんが、少しだけ眉尻を下げて悲しげに微笑んだ。
「2人の間に何があったのかは、私には分からないけど…
大切なものは失くさないようにしてね。」
ペトラさんは、私が胸元に寄せた指輪を見つめて言う。
いや、違う。彼女は、私の胸の内を見つめていたのではないだろうか。
ふ、とそんなことを思ったのは、私の本心がずっと迷子になっていることを自覚していたからかもしれない。
「うん、ありがとう。」
私がそう言えば、ペトラさんは安堵したように息を吐いた。
ペトラさんが帰って、私はまたお気に入りの椅子に腰を下ろした。
拳を作った手を広げると、白いハンカチがハラリと開いて、指輪が現れる。
柔らかい月明かりに照らされるそれを、中指を親指でそっと摘んで持ち上げる。
その途端、ほんの一瞬、石鹸の香りがツンと鼻を刺激した。
「綺麗…。」
綺麗だった。
無意識に、声が出た。
綺麗だったのだ。私が知ってるよりも、ずっと、綺麗だった。
ヘドロの様な池の中に落ちたはずなのに、ほんの少しの汚れさえない。
両親の形見だったそれには、黒ずんだ汚れや擦り傷があった。色もくすんでいた。
でも、今、月明かりを浴びる指輪は、堂々と輝いている。
まるで新品みたいだ。
念の為、指輪の内側の刻印を確認してみた。確かに、両親のイニシャルだ。そして、父が母に贈った愛の言葉が刻まれている。
これはきっと、彼らだけの、2人だけの大切な言葉だ。
リヴァイ兵長が、見つからない指輪を“見つかったこと“にするために、同じ指輪を調達したのだろうかーーーー悲しそうなペトラさんの顔を見てもまだ、私はそんなことを考えていた。リヴァイ兵長のことを疑っていた。
でも、私の両親のイニシャルは知れても、愛し合う恋人同士の愛の言葉までは、偽れない。
きっとこれは、本当に両親の形見の指輪なのだろう。
そして、リヴァイ兵長が、あの地獄のような池の中から見つけ出してくれたというのも、事実。
それなら、これはーーーー。
「磨いてくれたんだ…。」
それも、石鹸の香りが染み付くほど時間をかけて、丁寧に。
そのおかげで、黒ずんでいた汚れや傷までなくなっている。
一体、どれくらいの時間をかけて、磨いてくれたのだろう。
そうではなくても、任務や訓練で忙しい人なのに。
指輪を磨く時間を確保するために、食事を抜いたりしていないだろうか。
リヴァイ兵長にとって、食事は、優先順位が低すぎる。
身体が資本の仕事をしているというのにーーーーーー。
気づいたら、私は部屋を飛び出していた。
指輪のことを思うと辛くなるから、裏庭が見える廊下すらも避けている。
でも、そうやって逃げていても、大切な指輪のことを忘れられるわけではない。
リヴァイ兵長を突き放してしまった事実は、残っている。
その証拠に、あの日からずっと、リヴァイ班の人たちに避けられているのを感じるのだ。
きっと、リヴァイ兵長が、部下であるペトラさん達に「なまえと会いたくない」と言ったのだろう。
だから彼らは、私とリヴァイ兵長が出くわさないように工夫しているーーーーそんな風に感じるのだ。
「はぁ…。」
仕事を終えて部屋に戻った私は、カーテンを開いて窓を開ける。
お気に入りの椅子に座ると、無意識に大きなため息が出た。
調査兵団の兵舎で働かせてもらえるようになってから、大変でも充実した日々を過ごしていた。
元々、料理は好きだし、栄養について学ぶのも苦だと思ったことはない。
けれど、ここ最近は、久しぶりに仕事が憂鬱だ。朝起きて、逃げ出したくなる。
コンコンーーー。
扉が叩かれた音がした。
思い出したのは、ノックすらせずに、我が物顔で私の部屋に入って来ていたリヴァイ兵長のことだった。
ズキン、とまた胸が痛む。
私はすぐに首を左右に振って、立ち上がり扉へと向かう。
きっと、ハンジさんだろう。この部屋に来るのなんて、彼女くらいしかいない。
要件は、仕事のことだ。
「はい、どうされました?」
扉を開けて、驚いた。
立っていたのは、ペトラさんだった。私を避けていると思っていたリヴァイ班のメンバーだ。
驚く私に、ペトラさんは躊躇いがちに口を開く。
「急に来てごめんね。休んでたよね。」
「ううん、特にすることもなくぼんやりしてただけだから、大丈夫だよ。」
「リヴァイ兵長に頼まれて、コレを持ってきたの。」
リヴァイ兵長ーーーという言葉に、思わず身体が固まった。
そんな私の目の前に差し出されたのは、真っ白いハンカチだった。
綺麗に畳んであるその白いハンカチを、ペトラさんがゆっくりと丁寧に開いていく。
そして出てきたのは、指輪だった。
もう二度と戻ってはこないと諦めていた両親の形見の指輪だ。それが、真っ白いハンカチの中央で、まるで新品のようにキラキラと輝いている。
いや、そんなはずはない。
両親の肩身の指輪はもう古く、黒ずんでもいた。綺麗なものではなかった。
「なまえさんの大切な指輪なんでしょう?」
「…でもこれは…。」
言葉にはできなかった。
けれど、あの指輪は、池の中に落ちて消えてしまった。
「リヴァイ兵長が見つけたの。」
「え?リヴァイ兵長が…?」
あの日、私が突き飛ばした時に、リヴァイ兵長が池の中からたまたま見つけたということなのだろうか。
どういうことなのかわからず、私は訝しげに首を傾げる。
「ここ一週間ずっと、任務が終わってから、
リヴァイ兵長が裏庭の池の中を探してたの。」
ペトラさんの言葉に、私は驚きすぎて声を失った。
まさか、どうしてーーー。
大嫌いだと突き放した女が失くした指輪をリヴァイ兵長が探してくれたなんてことが、ありえるだろうか。
しかも、リヴァイ兵長は、あの指輪が、亡くなった両親の形見だとは知らない。昔の男が贈ったものだと勘違いしているのだ。
しかも、異常なほどの潔癖症のリヴァイ兵長が、自らあの汚い池の中に入るなんて想像も出来ない。
「やっと見つかったのに、自分は、なまえにひどいことを言ってしまって、
あわせる顔がないから、代わりに持っていってくれって頼まれちゃって。」
ペトラさんはそう言うと、私の手を取った。
そして、真っ白いハンカチごと、私の手に指輪を握らせる。
ふわり、と香ってきたのは、石鹸と紅茶が混ざったような優しい香り。リヴァイ兵長の香りだ。
一瞬、ここにはいないリヴァイ兵長が、まるで目の前にいるような気がして、きゅっと胸が締め付けられる。
思わず、ハンカチごと指輪をギュッと握りしめて、胸元にそっと寄せる。
ペトラさんが、少しだけ眉尻を下げて悲しげに微笑んだ。
「2人の間に何があったのかは、私には分からないけど…
大切なものは失くさないようにしてね。」
ペトラさんは、私が胸元に寄せた指輪を見つめて言う。
いや、違う。彼女は、私の胸の内を見つめていたのではないだろうか。
ふ、とそんなことを思ったのは、私の本心がずっと迷子になっていることを自覚していたからかもしれない。
「うん、ありがとう。」
私がそう言えば、ペトラさんは安堵したように息を吐いた。
ペトラさんが帰って、私はまたお気に入りの椅子に腰を下ろした。
拳を作った手を広げると、白いハンカチがハラリと開いて、指輪が現れる。
柔らかい月明かりに照らされるそれを、中指を親指でそっと摘んで持ち上げる。
その途端、ほんの一瞬、石鹸の香りがツンと鼻を刺激した。
「綺麗…。」
綺麗だった。
無意識に、声が出た。
綺麗だったのだ。私が知ってるよりも、ずっと、綺麗だった。
ヘドロの様な池の中に落ちたはずなのに、ほんの少しの汚れさえない。
両親の形見だったそれには、黒ずんだ汚れや擦り傷があった。色もくすんでいた。
でも、今、月明かりを浴びる指輪は、堂々と輝いている。
まるで新品みたいだ。
念の為、指輪の内側の刻印を確認してみた。確かに、両親のイニシャルだ。そして、父が母に贈った愛の言葉が刻まれている。
これはきっと、彼らだけの、2人だけの大切な言葉だ。
リヴァイ兵長が、見つからない指輪を“見つかったこと“にするために、同じ指輪を調達したのだろうかーーーー悲しそうなペトラさんの顔を見てもまだ、私はそんなことを考えていた。リヴァイ兵長のことを疑っていた。
でも、私の両親のイニシャルは知れても、愛し合う恋人同士の愛の言葉までは、偽れない。
きっとこれは、本当に両親の形見の指輪なのだろう。
そして、リヴァイ兵長が、あの地獄のような池の中から見つけ出してくれたというのも、事実。
それなら、これはーーーー。
「磨いてくれたんだ…。」
それも、石鹸の香りが染み付くほど時間をかけて、丁寧に。
そのおかげで、黒ずんでいた汚れや傷までなくなっている。
一体、どれくらいの時間をかけて、磨いてくれたのだろう。
そうではなくても、任務や訓練で忙しい人なのに。
指輪を磨く時間を確保するために、食事を抜いたりしていないだろうか。
リヴァイ兵長にとって、食事は、優先順位が低すぎる。
身体が資本の仕事をしているというのにーーーーーー。
気づいたら、私は部屋を飛び出していた。