Q.9 私の一日に大金積むほどの価値はありますか?
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「ま、待ってください…っ。」
先を大股で歩く兵長さんを追いかけて、私はカフェを出た。
さっきまで私がよろけそうになりながらなんとか抱えていた荷物を、兵長さんは軽々と両手で持ち上げている。
支払いも、兵長さんがおつりが出る程にテーブルに叩きつけたお札のおかげで、私の財布が痛むことはなかった。
でも、水一杯すら飲んでいない兵長さんに、支払いをさせるなんて理不尽だ。
「あぁ、悪い。」
追いかけてきた私の声に気づいて、兵長さんが振り返る。
申し訳なさそうに謝った彼だったけれど、眉間の皴は深く刻まれたままで、苛立ちはまだまだおさまらない様子だ。
「あのクソ野郎から、出来る限り早くお前を引き剥がさねぇと
ぶん殴りそうだった。」
ガリッと歯を噛んで、兵長さんが吐き捨てる。
思わぬ物騒な言葉に「へ?」と間抜けな声が漏れれば、兵長さんはハッとしたように言葉を続けた。
「何もされなかったか。嫌なことはなかったか。」
沢山の荷物を片手に持ち変えた後、兵長さんは私の頭に触れると、心配そうに顔を覗き込む。
まるで母親が子供にするようなそれに、遠い日が蘇らされそうで、涙が溢れるほどに胸が苦しくなりそうだったから、私は敢えて、笑うことにした。
「大丈夫ですよ。兵長さんが優しいと、面白いですね。」
ケラケラと笑う私に、兵長さんは少しだけ眉を顰めた。
そして、笑い続ける私を訝し気にジロジロと見た後に、悔し気に「チッ。」と舌打ちをして目を逸らす。
「笑える余裕があるなら、いい。」
兵長さんはそう言うと、また一人で勝手に歩きだす。
だから、慌てて追いかけて、彼の隣に並んだ。
「あの…、さっきは、助かりました。
本当にありがとうございました。お金は必ずお返ししますっ。」
隣で頭を下げて礼を言う私を、兵長さんはチラリと見た後に「要らねぇ。」と一言だけ短く返した。
いつの間にか両手に持ち変えている荷物は、相変わらず軽々と持っているように見える。
さすが日々訓練をしている兵士だと感心もするけれど、だからと言って、それは彼に持ってもらうべきものではない。
「そんなことは出来ませんっ。
お金もお返ししますし、その荷物も私がちゃんと持ちますっ。」
兵長さんの前に回り込んだ私は、両手を前に出して〝荷物を渡せ〟と全力でアピールする。
進行方向すぐに人間が立ちはだかった為に、仕方なく立ち止まるしかなかった兵長さんは、私の頑固な表情を観察するようにじっと見た後、大きな息を吐いた。
空気を読むのは下手くそなくせに、意思を曲げないということを察してくれたようだ。
「金は要らねぇ。お前に荷物を持たせる気もねぇ。」
兵長さんは、少し不機嫌そうにしながらも、キッパリと告げた。
分かってくれた———そう思ったのに、何も分かってもらえてなかったようだ。
「ダメです、そんな———。」
「その代わり、今日は一日俺に付き合え。」
「…付き合う?」
「お前の一日を買おうと思えば、大金積んでも足りねぇのは分かってる。
だが、今日は特別に、特大セールで買ったことにする。」
「・・・・何を仰ってるんですか?」
本気で意味が分からず訊ねる私に、兵長さんは、自分がおかしなことを言ってることを、急に理解したようだった。
ボッと音が出そうな程の勢いで、一瞬のうちに顔を真っ赤に染めたのだ。
「と、とにかく!今日のお前の一日は俺のものだ。
俺に従え。分かったな…!」
少しだけ頬が染まったのを誤魔化すように、兵長さんは、眉間に思いきり皴を寄せて、怒ったように歩き出した。
でも、数歩先の何もないところで、なぜか躓いて転びかける。
さすがの身体能力でなんとか持ちこたえた兵長さんは、勢いよく後ろを振り返った。
そして、目を丸くしている私を見て、転びかけたところを見られたのを察したらしく、さらに顔を赤くする。
「おい!いつまでボーッとしてやがる!早く来い!
勿体ねぇじゃねぇか!」
勝手に転びかけたくせに、勝手に怒っている兵長さんは、正直とても面白い。
それでも、今日に限っては、助けてくれた彼に恩もある。
それに、男としてのプライドを砕くのは、趣味でもない。
「はい…っ。」
なんとか必死に笑いを堪えながら、私は駆け足で彼の元へと向かった。
私が隣に並べば、彼は「クソが。」だとか「顔が笑ってる。」だとかブツブツと小さな声で文句を言う。私に言っているというよりも、自分自身への怒りの声が漏れているようだった。
「何が勿体ないんですか?」
兵長さんが怒りながら言った言葉を思い出して訊ねると、彼は、そんなことも分からないのか、とバカにしたような顔でこちらを向いた。
「お前と一緒にいられる休日は、絶対にあっという間に過ぎるんだぞ。
ダラダラ過ごしたら勿体ねぇじゃねぇか。」
「へ?」
「お前、信じてねぇな。言っておくが、
ほんの一瞬でも気を抜いたら、あっという間に夜だ。
俺が保証するから、間違いねぇ。」
兵長さんが、とても真面目な顔で断言する。
あぁ、やっぱり、今日の兵長さんも何を言ってるのか全く分からない。
きっとこの人はちょっとどころか、だいぶ頭がおかしいのだ。
でも、さっきまでの私を苛つかせるばかりの俺様男を思い返せば、私を笑わせてくれる意味不明な思考回路の俺様が、頭を撫でてあげたくなるくらいに可愛く見える。
「そうですね。勿体ないから、大切に過ごさなくちゃ。」
さすがに、人類最強の兵士の頭を撫でてやることは出来ないから、私は、子供に向けるように優しい笑みで兵長さんを見つめた。
「…っ。わ、分かればいい…!」
ほんの一瞬、驚いたように目を見開いた兵長さんは、私から目を逸らすと、また怒ったように言う。
でも、眉間に皴を寄せている横顔が、なんだか嬉しそうに緩んでいたことに、隣で微笑む私は気づいていた。
先を大股で歩く兵長さんを追いかけて、私はカフェを出た。
さっきまで私がよろけそうになりながらなんとか抱えていた荷物を、兵長さんは軽々と両手で持ち上げている。
支払いも、兵長さんがおつりが出る程にテーブルに叩きつけたお札のおかげで、私の財布が痛むことはなかった。
でも、水一杯すら飲んでいない兵長さんに、支払いをさせるなんて理不尽だ。
「あぁ、悪い。」
追いかけてきた私の声に気づいて、兵長さんが振り返る。
申し訳なさそうに謝った彼だったけれど、眉間の皴は深く刻まれたままで、苛立ちはまだまだおさまらない様子だ。
「あのクソ野郎から、出来る限り早くお前を引き剥がさねぇと
ぶん殴りそうだった。」
ガリッと歯を噛んで、兵長さんが吐き捨てる。
思わぬ物騒な言葉に「へ?」と間抜けな声が漏れれば、兵長さんはハッとしたように言葉を続けた。
「何もされなかったか。嫌なことはなかったか。」
沢山の荷物を片手に持ち変えた後、兵長さんは私の頭に触れると、心配そうに顔を覗き込む。
まるで母親が子供にするようなそれに、遠い日が蘇らされそうで、涙が溢れるほどに胸が苦しくなりそうだったから、私は敢えて、笑うことにした。
「大丈夫ですよ。兵長さんが優しいと、面白いですね。」
ケラケラと笑う私に、兵長さんは少しだけ眉を顰めた。
そして、笑い続ける私を訝し気にジロジロと見た後に、悔し気に「チッ。」と舌打ちをして目を逸らす。
「笑える余裕があるなら、いい。」
兵長さんはそう言うと、また一人で勝手に歩きだす。
だから、慌てて追いかけて、彼の隣に並んだ。
「あの…、さっきは、助かりました。
本当にありがとうございました。お金は必ずお返ししますっ。」
隣で頭を下げて礼を言う私を、兵長さんはチラリと見た後に「要らねぇ。」と一言だけ短く返した。
いつの間にか両手に持ち変えている荷物は、相変わらず軽々と持っているように見える。
さすが日々訓練をしている兵士だと感心もするけれど、だからと言って、それは彼に持ってもらうべきものではない。
「そんなことは出来ませんっ。
お金もお返ししますし、その荷物も私がちゃんと持ちますっ。」
兵長さんの前に回り込んだ私は、両手を前に出して〝荷物を渡せ〟と全力でアピールする。
進行方向すぐに人間が立ちはだかった為に、仕方なく立ち止まるしかなかった兵長さんは、私の頑固な表情を観察するようにじっと見た後、大きな息を吐いた。
空気を読むのは下手くそなくせに、意思を曲げないということを察してくれたようだ。
「金は要らねぇ。お前に荷物を持たせる気もねぇ。」
兵長さんは、少し不機嫌そうにしながらも、キッパリと告げた。
分かってくれた———そう思ったのに、何も分かってもらえてなかったようだ。
「ダメです、そんな———。」
「その代わり、今日は一日俺に付き合え。」
「…付き合う?」
「お前の一日を買おうと思えば、大金積んでも足りねぇのは分かってる。
だが、今日は特別に、特大セールで買ったことにする。」
「・・・・何を仰ってるんですか?」
本気で意味が分からず訊ねる私に、兵長さんは、自分がおかしなことを言ってることを、急に理解したようだった。
ボッと音が出そうな程の勢いで、一瞬のうちに顔を真っ赤に染めたのだ。
「と、とにかく!今日のお前の一日は俺のものだ。
俺に従え。分かったな…!」
少しだけ頬が染まったのを誤魔化すように、兵長さんは、眉間に思いきり皴を寄せて、怒ったように歩き出した。
でも、数歩先の何もないところで、なぜか躓いて転びかける。
さすがの身体能力でなんとか持ちこたえた兵長さんは、勢いよく後ろを振り返った。
そして、目を丸くしている私を見て、転びかけたところを見られたのを察したらしく、さらに顔を赤くする。
「おい!いつまでボーッとしてやがる!早く来い!
勿体ねぇじゃねぇか!」
勝手に転びかけたくせに、勝手に怒っている兵長さんは、正直とても面白い。
それでも、今日に限っては、助けてくれた彼に恩もある。
それに、男としてのプライドを砕くのは、趣味でもない。
「はい…っ。」
なんとか必死に笑いを堪えながら、私は駆け足で彼の元へと向かった。
私が隣に並べば、彼は「クソが。」だとか「顔が笑ってる。」だとかブツブツと小さな声で文句を言う。私に言っているというよりも、自分自身への怒りの声が漏れているようだった。
「何が勿体ないんですか?」
兵長さんが怒りながら言った言葉を思い出して訊ねると、彼は、そんなことも分からないのか、とバカにしたような顔でこちらを向いた。
「お前と一緒にいられる休日は、絶対にあっという間に過ぎるんだぞ。
ダラダラ過ごしたら勿体ねぇじゃねぇか。」
「へ?」
「お前、信じてねぇな。言っておくが、
ほんの一瞬でも気を抜いたら、あっという間に夜だ。
俺が保証するから、間違いねぇ。」
兵長さんが、とても真面目な顔で断言する。
あぁ、やっぱり、今日の兵長さんも何を言ってるのか全く分からない。
きっとこの人はちょっとどころか、だいぶ頭がおかしいのだ。
でも、さっきまでの私を苛つかせるばかりの俺様男を思い返せば、私を笑わせてくれる意味不明な思考回路の俺様が、頭を撫でてあげたくなるくらいに可愛く見える。
「そうですね。勿体ないから、大切に過ごさなくちゃ。」
さすがに、人類最強の兵士の頭を撫でてやることは出来ないから、私は、子供に向けるように優しい笑みで兵長さんを見つめた。
「…っ。わ、分かればいい…!」
ほんの一瞬、驚いたように目を見開いた兵長さんは、私から目を逸らすと、また怒ったように言う。
でも、眉間に皴を寄せている横顔が、なんだか嬉しそうに緩んでいたことに、隣で微笑む私は気づいていた。