Q.8 有難迷惑なお手伝いは断ってもいいですか?
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カフェのテラスのテーブルを選んだ彼に続いて、私も席に着いた。
メニュー表に手を伸ばしたけれど、彼がひったくるように自分の手元に持っていく。
先に確認したいのならそれでもいい。
別に後からメニュー表を見たって、注文が出来ないわけじゃないのだ。
私はもう、どこか諦めているのかもしれない。
そんなことを考えていると、彼が片手を上げて近くを通りがかった若いウェイトレスのお姉さんを呼び止めた。
「ねぇ、ちょっと!注文、いいですか?」
「あっ、はい、どうぞ。」
突然呼び止められて驚いたウェイトレスさんが、慌てて胸ポケットからメモを取り出した。
でも私はたぶん、彼女より驚いていたと思う。
そして、自分だけ先に注文する彼が信じられなかった。
すると、こちらをチラリと見た彼は、なぜか嬉しそうにニヤリと口を歪めたのだ。
私は、彼が考えていることが全く分からない。
「このパスタと、こっちのサンドウィッチ
それから————。」
相当お腹が減っていたのか、彼はメニュー表を網羅するつもりなのじゃないかと疑うほどに、沢山の注文をした。
そして最後に——。
「それからさ、デザートは何がおすすめ?これ?じゃあ、これをお願い。」
そこまで言うと、彼は私を見て、フッと笑った。
「2人分ね。コイツがさ、俺が君に話しかけたから嫉妬しちゃったみたいだから。
お詫びにね。可愛い彼女を怒らせたままには出来ないからね。」
彼が、してやったりの顔でウィンクを送ってくる。
もう、返す言葉もない。
疲れ切った表情の私を見たウェイトレスさんは、不憫そうに眉尻を下げると、小さく頭を下げてからテーブルを離れた。
私の気持ちを分かってくれたのだろうかと思うと、少しだけ味方が出来たみたいで嬉しかった。
それから、テーブルには、彼が注文した料理が続々と届いた。
もちろん、私の前に置かれたのは、彼が頼んだオススメのデザートだけだ。
さすがに歩き疲れて喉が渇いていたので、お冷を頼むと『喉渇いてるなら、好きなもの頼めばいいのに。もしかしてケチ?』ととても呆れたように言われた。
もうそれでもいい。
少し前までは、うまくやろうと思っていたのだけれど、今となってはもう彼に何と思われようがどうでもいい。
「あ~…、食った!」
しばらくすると、彼が満足気に自分の腹を叩いた。
彼の前に並ぶたくさんの皿は、どれもまだ食べかけの状態で残っている。
「それ、残しちゃうの?」
「あ?あー、もう腹いっぱいだから。さすがに頼みすぎたかな~。
でも、自分が金払わなくていいと思うと、思わず頼んじまうよな~。」
「え?」
今、彼は何と言ったか———。
思わず絶句すると、彼がまた、呆れたようにため息を吐いた。
「もしかして、俺が知らないとでも思ってたの?」
「知らないって?」
「今日の買い出しの為にエルヴィン団長からお金を貰って来たんだろ。」
「そ、それはそうだけど——。」
「それは、調査兵団の金なわけ、わかる?なまえの昼飯の為でも、
なまえのショッピングの為でもなく、調査兵の為なんだよ。
だから、俺が使うべきだろ。」
「でもこれは、食材の買い出しの為に預かってきたお金で——。」
「ていうかさ、この暑い中、ずっと荷物持ちして手伝ってやったんだから
普通は、自分から、お礼に奢らせてくださいって言うもんじゃねぇの?
なまえってさ、思ったよりも気の利かない女だよな。今日だけで、10は減点されてるからな。」
これ以上減点されないように気をつけろよ——。
まるで教官のように厳しく注意をする彼の人差し指が、ビシッと私に向いた。
何の理由や権限があって、彼は私を評価して、減点までしているのか、理解が出来なかった。
でも、やっぱり私は、思ったことを言う勇気もなく、作り笑いを返す。
「うん、わかったよ。」
「分かればいいよ。」
満足気に鼻を高くして、アイスティーを口に運んだ彼は、今度は、氷が溶けて薄くなったそれに文句を言い始めた。
ウェイトレスさんを呼び止めて、嫌味を言い始めた彼を眺めながら、私は味のしない水を飲み干す。
散々文句を言った後、新しいアイスティーを無料で提供してもらったらしい彼は「最初からこうすればいいんだ、ったく。」とブツブツ言いながら、ストローに口をつけながら飲みだした。
その間に、私はバッグの中から自分の財布を取り出した。
今日は、ローゼ南商店街のセールで食材を手に入れた後は、ショッピングを楽しもうと考えていたおかげで、なんとかここの昼食代を支払える分は入っているのを確認して、ホッと息を吐く。
ここでお金を払ったら、今月、私が自分の為に使うお金はほとんどなくなるけれど、仕方がない。
エルヴィン団長から預かったお金は、別の財布に入れてある。そこから、彼の昼食代を出すわけにはいかない。
そんなことを考えながら、彼が飲み終わるのを待っていると、アイスティーが半分ほどなくなった頃、彼が口を開いた。
「なんか、デートみたいだな。」
彼はとても楽しそうに言う。
「はぁ…、そう、ですね…。」
思ってもいないことを言って、私は小さく目を伏せた。
お金を払う気もなく、彼女を減点呼ばわりするカフェでのシーンがデートだというのなら、私は一生デートなんて出来なくていい。
デートでは男性がお金を払うべきだとは思わない。
でも、お互いに相手への気遣いや思いやりは必要だと思うのだ。
まぁ、彼にとっては、荷物を持ってあげたという〝思いやり〟がそれに当てはまるのかもしれないけれど。
だから彼は、目を伏せた私を見て「恥ずかしがってんの?可愛いじゃん。」と空気の読めない勘違いをすることが出来るのだろう。
「なぁ、思ったんだけど。荷物持ち続けるの大変だから、
配送サービスをお願いしねぇ?」
突然、彼が思いついたようにそんなことを言い出した。
「え?」
「さっき、言ってたじゃん。アレお願いしようって。」
「でもそれは、買ったときにお願いするもので、
今からだともう無理だと思う…。」
「はぁ~?おかしいだろそんなの。チッ、面倒くせぇな。」
彼は、大きな舌打ちを叩くと、苛立った様子で貧乏ゆすりを始める。
数秒そうした後、とても良いことを思いついた顔をして、彼がとんでもないことを言い出す。
「有料の配送サービスにお願いすればいいじゃん!」
「え…、そんなことをしたら、せっかくセールで安くなった分が
無駄になるどころか、むしろ割高になっちゃうから…。」
「はぁ?だから、まだ俺に持ち続けろって言うのか?
自分がどれだけ薄情なこと言ってるか分かる?
また減点されてぇの?俺への礼の為に、有料サービスを払おうとか思わないわけ?」
「・・・・そう、だね…。ちょっと…、私がお金がないから…。
えっと…、じゃあ、私が持つよ。」
苦肉の策だった。
調査兵の彼が『疲れた』と言い出すくらいにたくさんの荷物だ。
ちゃんと持てるか自信はない。
でも、有料の配送サービスを利用するお金はないのだ。それ以外に、私には選択肢がなかった。
メニュー表に手を伸ばしたけれど、彼がひったくるように自分の手元に持っていく。
先に確認したいのならそれでもいい。
別に後からメニュー表を見たって、注文が出来ないわけじゃないのだ。
私はもう、どこか諦めているのかもしれない。
そんなことを考えていると、彼が片手を上げて近くを通りがかった若いウェイトレスのお姉さんを呼び止めた。
「ねぇ、ちょっと!注文、いいですか?」
「あっ、はい、どうぞ。」
突然呼び止められて驚いたウェイトレスさんが、慌てて胸ポケットからメモを取り出した。
でも私はたぶん、彼女より驚いていたと思う。
そして、自分だけ先に注文する彼が信じられなかった。
すると、こちらをチラリと見た彼は、なぜか嬉しそうにニヤリと口を歪めたのだ。
私は、彼が考えていることが全く分からない。
「このパスタと、こっちのサンドウィッチ
それから————。」
相当お腹が減っていたのか、彼はメニュー表を網羅するつもりなのじゃないかと疑うほどに、沢山の注文をした。
そして最後に——。
「それからさ、デザートは何がおすすめ?これ?じゃあ、これをお願い。」
そこまで言うと、彼は私を見て、フッと笑った。
「2人分ね。コイツがさ、俺が君に話しかけたから嫉妬しちゃったみたいだから。
お詫びにね。可愛い彼女を怒らせたままには出来ないからね。」
彼が、してやったりの顔でウィンクを送ってくる。
もう、返す言葉もない。
疲れ切った表情の私を見たウェイトレスさんは、不憫そうに眉尻を下げると、小さく頭を下げてからテーブルを離れた。
私の気持ちを分かってくれたのだろうかと思うと、少しだけ味方が出来たみたいで嬉しかった。
それから、テーブルには、彼が注文した料理が続々と届いた。
もちろん、私の前に置かれたのは、彼が頼んだオススメのデザートだけだ。
さすがに歩き疲れて喉が渇いていたので、お冷を頼むと『喉渇いてるなら、好きなもの頼めばいいのに。もしかしてケチ?』ととても呆れたように言われた。
もうそれでもいい。
少し前までは、うまくやろうと思っていたのだけれど、今となってはもう彼に何と思われようがどうでもいい。
「あ~…、食った!」
しばらくすると、彼が満足気に自分の腹を叩いた。
彼の前に並ぶたくさんの皿は、どれもまだ食べかけの状態で残っている。
「それ、残しちゃうの?」
「あ?あー、もう腹いっぱいだから。さすがに頼みすぎたかな~。
でも、自分が金払わなくていいと思うと、思わず頼んじまうよな~。」
「え?」
今、彼は何と言ったか———。
思わず絶句すると、彼がまた、呆れたようにため息を吐いた。
「もしかして、俺が知らないとでも思ってたの?」
「知らないって?」
「今日の買い出しの為にエルヴィン団長からお金を貰って来たんだろ。」
「そ、それはそうだけど——。」
「それは、調査兵団の金なわけ、わかる?なまえの昼飯の為でも、
なまえのショッピングの為でもなく、調査兵の為なんだよ。
だから、俺が使うべきだろ。」
「でもこれは、食材の買い出しの為に預かってきたお金で——。」
「ていうかさ、この暑い中、ずっと荷物持ちして手伝ってやったんだから
普通は、自分から、お礼に奢らせてくださいって言うもんじゃねぇの?
なまえってさ、思ったよりも気の利かない女だよな。今日だけで、10は減点されてるからな。」
これ以上減点されないように気をつけろよ——。
まるで教官のように厳しく注意をする彼の人差し指が、ビシッと私に向いた。
何の理由や権限があって、彼は私を評価して、減点までしているのか、理解が出来なかった。
でも、やっぱり私は、思ったことを言う勇気もなく、作り笑いを返す。
「うん、わかったよ。」
「分かればいいよ。」
満足気に鼻を高くして、アイスティーを口に運んだ彼は、今度は、氷が溶けて薄くなったそれに文句を言い始めた。
ウェイトレスさんを呼び止めて、嫌味を言い始めた彼を眺めながら、私は味のしない水を飲み干す。
散々文句を言った後、新しいアイスティーを無料で提供してもらったらしい彼は「最初からこうすればいいんだ、ったく。」とブツブツ言いながら、ストローに口をつけながら飲みだした。
その間に、私はバッグの中から自分の財布を取り出した。
今日は、ローゼ南商店街のセールで食材を手に入れた後は、ショッピングを楽しもうと考えていたおかげで、なんとかここの昼食代を支払える分は入っているのを確認して、ホッと息を吐く。
ここでお金を払ったら、今月、私が自分の為に使うお金はほとんどなくなるけれど、仕方がない。
エルヴィン団長から預かったお金は、別の財布に入れてある。そこから、彼の昼食代を出すわけにはいかない。
そんなことを考えながら、彼が飲み終わるのを待っていると、アイスティーが半分ほどなくなった頃、彼が口を開いた。
「なんか、デートみたいだな。」
彼はとても楽しそうに言う。
「はぁ…、そう、ですね…。」
思ってもいないことを言って、私は小さく目を伏せた。
お金を払う気もなく、彼女を減点呼ばわりするカフェでのシーンがデートだというのなら、私は一生デートなんて出来なくていい。
デートでは男性がお金を払うべきだとは思わない。
でも、お互いに相手への気遣いや思いやりは必要だと思うのだ。
まぁ、彼にとっては、荷物を持ってあげたという〝思いやり〟がそれに当てはまるのかもしれないけれど。
だから彼は、目を伏せた私を見て「恥ずかしがってんの?可愛いじゃん。」と空気の読めない勘違いをすることが出来るのだろう。
「なぁ、思ったんだけど。荷物持ち続けるの大変だから、
配送サービスをお願いしねぇ?」
突然、彼が思いついたようにそんなことを言い出した。
「え?」
「さっき、言ってたじゃん。アレお願いしようって。」
「でもそれは、買ったときにお願いするもので、
今からだともう無理だと思う…。」
「はぁ~?おかしいだろそんなの。チッ、面倒くせぇな。」
彼は、大きな舌打ちを叩くと、苛立った様子で貧乏ゆすりを始める。
数秒そうした後、とても良いことを思いついた顔をして、彼がとんでもないことを言い出す。
「有料の配送サービスにお願いすればいいじゃん!」
「え…、そんなことをしたら、せっかくセールで安くなった分が
無駄になるどころか、むしろ割高になっちゃうから…。」
「はぁ?だから、まだ俺に持ち続けろって言うのか?
自分がどれだけ薄情なこと言ってるか分かる?
また減点されてぇの?俺への礼の為に、有料サービスを払おうとか思わないわけ?」
「・・・・そう、だね…。ちょっと…、私がお金がないから…。
えっと…、じゃあ、私が持つよ。」
苦肉の策だった。
調査兵の彼が『疲れた』と言い出すくらいにたくさんの荷物だ。
ちゃんと持てるか自信はない。
でも、有料の配送サービスを利用するお金はないのだ。それ以外に、私には選択肢がなかった。