Q6. 私が恋人だと恥ずかしいですか?
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再び二人きりになってしまった食堂で、私と兵長さんは向かい合って座っていた。
膝の上で両手の拳を震わせて、背中を丸め縮んでいる私を、テーブルの上に両手を乗せた兵長さんが、怖い顔で睨みつけている。
まるで、事情聴取前の憲兵と極めて犯人の可能性が高い重要参考人のようだった。
「で。」
兵長さんの短い一言が、私を震え上がらせる。
肩がビクッと震えたのと同時に、言い訳が頭の中を駆け上がった。
「…あ、あの…っ、さっきは本当に申し訳ありませんでした…!
兵長さんが、私の恋人だなんて知られたら、恥ずかしい思いをさせてしまうと…っ
と、とととと咄嗟に、隠した方がいいと思いまして…っ。」
口ごもりながら、必死に言い切った。
兵長さんは、下手くそな誤魔化しを、ゲルガーさんのように簡単には受け入れてくれなかった。
しばらく、沈黙が続いた。
その間、私は恐怖で冷や汗を流し続ける。
初めて会ったときから、兵長さんのことを、気難しそうで怖い人だと思っていた。
でも、恐怖の対象だったことはない。
それが、こんな風に、目の前にいるだけで怖くなってしまったのは、彼が何を考えているのか分からないからだ。
プロポーズの理由も、結局分からないまま、なぜか無理やり恋人ということになってしまった。
無下にしたらどうなるのか、考えるだけでも怖い。
しばらくの沈黙の後、兵長さんが長いため息を吐いた。
「クソ、バカか。」
「…はい、本当に、バカなことをしました。
失礼過ぎました…。本当に…。」
「そういうことを言ってるんじゃねぇ。」
兵長さんが、少し呆れたように言って、さらにため息を重ねる。
「お前が恋人だと、どうして俺が恥ずかしい思いをすることになる。」
兵長さんは、眉を顰める。
本当に、心から疑問に思っているのが、苛立つ様子から理解できた。
きっと、身長が低いことを除けば、容姿も完璧で、戦闘力も優れていて、世界から認められている彼には、平凡な女の気持ちなんて一生分からないのだろう。
「兵長さんみたいな素敵な人には、私みたいな普通以下の女なんて
不釣り合いですから。」
別に、兵長さんに釣り合う女になりたいと思っているわけではない。
でも、自分で言いながら、とても惨めな気持ちになった。
違うのだ、兵長さんのことだけではない。
希望と信念を持って戦う人達が暮らす調査兵団の兵舎は、平凡でつまらない女のコンプレックスを泣きたいくらいに刺激するのだ。
彼らを見ていると、私はなんて虚しい人間なんだろう、と思い知らされる。
心のこもっていない言い訳を早口で捲し立てるときには上向いていた視線は、次第に落ちていった。
膝の上で情けなく握られた拳が視界に入ったとき、カタッと椅子が動いた音がした。
それからすぐに、私の隣に影が出来る。
落ちた視線の中に細く綺麗な手が入ってきたときには、私は、隣にやってきた兵長さんに、弱弱しい拳を握りしめられていた。
思わず、ビクッと震えれば、握りしめる兵長さんの手の力が強くなって、強制的に震えが止まる。
「そんなつまらねぇこと言うヤツがいたら、
俺がソイツの性根を叩きなおしてやる。」
だから———。
兵長さんはそう続けると、私の顎を指で挟んで強引に持ち上げた。
射貫くような力強い眼光が、自信のない私を見つめる。
「自分で自分を普通以下なんて
クソみてぇなことを言うんじゃねぇ。」
「は、い…。」
「分かればいい。」
そう言うと、兵長さんは、痛いくらいに強く顎を握っていた手を離した。
さっきの兵長さんの三白眼は、怒っていたと思う。
でも、怖くなかったのだ。
不思議と、恐怖心は、スーッとどころか、気づけば消えてなくなっていた。
特に優れた特技があるわけでもなければ、周囲の視線を奪えるような美しい容姿があるわけでもない私だけれど、そんな私を〝世界一の娘だ〟と愛情を注いで育ててくれた両親のおかげだ。
今目の前にいる彼が、私の為を想って叱ってくれていることに、気づけたのは———。
「それなら、今度からは意味の分からねぇジョークにしねぇで
ちゃんと恋人だと言っても——。」
「それはダメです。」
きっぱりと断れば、眉を顰めて目を細めて兵長さんが私の方を見る。
ダメだ。やっぱり私は、この人が怖い。
「だ…っ、だって…っ、ほら、ゲルガーさんも驚いて息止まってたじゃないですか…っ!」
「アレは、特別だ。」
「そ、それに…っ。調査兵さん達の健康の為に調理師としてやってきた私が、
兵長さんと恋人だなんて知られたら、風紀的にもよくないんじゃないかと…っ。」
必死に言い訳を捲し立てれば、兵長さんは漸く口を閉ざした。
そして、何度か顎をさすりながら思考を巡らせた後、ひとつ息を吐いた。
「分かった。恋人だということは、俺達だけの秘密だ。」
兵長さんの言い方は、いちいち何か違う気がする。
でも、とりあえず、他の人達にこの意味の分からない関係がバレる心配がなくなって、私はホッと息を吐いた。
膝の上で両手の拳を震わせて、背中を丸め縮んでいる私を、テーブルの上に両手を乗せた兵長さんが、怖い顔で睨みつけている。
まるで、事情聴取前の憲兵と極めて犯人の可能性が高い重要参考人のようだった。
「で。」
兵長さんの短い一言が、私を震え上がらせる。
肩がビクッと震えたのと同時に、言い訳が頭の中を駆け上がった。
「…あ、あの…っ、さっきは本当に申し訳ありませんでした…!
兵長さんが、私の恋人だなんて知られたら、恥ずかしい思いをさせてしまうと…っ
と、とととと咄嗟に、隠した方がいいと思いまして…っ。」
口ごもりながら、必死に言い切った。
兵長さんは、下手くそな誤魔化しを、ゲルガーさんのように簡単には受け入れてくれなかった。
しばらく、沈黙が続いた。
その間、私は恐怖で冷や汗を流し続ける。
初めて会ったときから、兵長さんのことを、気難しそうで怖い人だと思っていた。
でも、恐怖の対象だったことはない。
それが、こんな風に、目の前にいるだけで怖くなってしまったのは、彼が何を考えているのか分からないからだ。
プロポーズの理由も、結局分からないまま、なぜか無理やり恋人ということになってしまった。
無下にしたらどうなるのか、考えるだけでも怖い。
しばらくの沈黙の後、兵長さんが長いため息を吐いた。
「クソ、バカか。」
「…はい、本当に、バカなことをしました。
失礼過ぎました…。本当に…。」
「そういうことを言ってるんじゃねぇ。」
兵長さんが、少し呆れたように言って、さらにため息を重ねる。
「お前が恋人だと、どうして俺が恥ずかしい思いをすることになる。」
兵長さんは、眉を顰める。
本当に、心から疑問に思っているのが、苛立つ様子から理解できた。
きっと、身長が低いことを除けば、容姿も完璧で、戦闘力も優れていて、世界から認められている彼には、平凡な女の気持ちなんて一生分からないのだろう。
「兵長さんみたいな素敵な人には、私みたいな普通以下の女なんて
不釣り合いですから。」
別に、兵長さんに釣り合う女になりたいと思っているわけではない。
でも、自分で言いながら、とても惨めな気持ちになった。
違うのだ、兵長さんのことだけではない。
希望と信念を持って戦う人達が暮らす調査兵団の兵舎は、平凡でつまらない女のコンプレックスを泣きたいくらいに刺激するのだ。
彼らを見ていると、私はなんて虚しい人間なんだろう、と思い知らされる。
心のこもっていない言い訳を早口で捲し立てるときには上向いていた視線は、次第に落ちていった。
膝の上で情けなく握られた拳が視界に入ったとき、カタッと椅子が動いた音がした。
それからすぐに、私の隣に影が出来る。
落ちた視線の中に細く綺麗な手が入ってきたときには、私は、隣にやってきた兵長さんに、弱弱しい拳を握りしめられていた。
思わず、ビクッと震えれば、握りしめる兵長さんの手の力が強くなって、強制的に震えが止まる。
「そんなつまらねぇこと言うヤツがいたら、
俺がソイツの性根を叩きなおしてやる。」
だから———。
兵長さんはそう続けると、私の顎を指で挟んで強引に持ち上げた。
射貫くような力強い眼光が、自信のない私を見つめる。
「自分で自分を普通以下なんて
クソみてぇなことを言うんじゃねぇ。」
「は、い…。」
「分かればいい。」
そう言うと、兵長さんは、痛いくらいに強く顎を握っていた手を離した。
さっきの兵長さんの三白眼は、怒っていたと思う。
でも、怖くなかったのだ。
不思議と、恐怖心は、スーッとどころか、気づけば消えてなくなっていた。
特に優れた特技があるわけでもなければ、周囲の視線を奪えるような美しい容姿があるわけでもない私だけれど、そんな私を〝世界一の娘だ〟と愛情を注いで育ててくれた両親のおかげだ。
今目の前にいる彼が、私の為を想って叱ってくれていることに、気づけたのは———。
「それなら、今度からは意味の分からねぇジョークにしねぇで
ちゃんと恋人だと言っても——。」
「それはダメです。」
きっぱりと断れば、眉を顰めて目を細めて兵長さんが私の方を見る。
ダメだ。やっぱり私は、この人が怖い。
「だ…っ、だって…っ、ほら、ゲルガーさんも驚いて息止まってたじゃないですか…っ!」
「アレは、特別だ。」
「そ、それに…っ。調査兵さん達の健康の為に調理師としてやってきた私が、
兵長さんと恋人だなんて知られたら、風紀的にもよくないんじゃないかと…っ。」
必死に言い訳を捲し立てれば、兵長さんは漸く口を閉ざした。
そして、何度か顎をさすりながら思考を巡らせた後、ひとつ息を吐いた。
「分かった。恋人だということは、俺達だけの秘密だ。」
兵長さんの言い方は、いちいち何か違う気がする。
でも、とりあえず、他の人達にこの意味の分からない関係がバレる心配がなくなって、私はホッと息を吐いた。