29.引越し先
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最寄り駅を降りて、アパートへの道を寄り道もせずに真っ直ぐに歩いた。
そして、漸く目の前にアパートが現れて、やっと帰り着いたと一息つきたい私の隣に、エースはまだいた。
途中までは「近所なんだね。」なんて軽く考えてお喋りのネタにしていたのだけれど、ここまで来ると何が何だか分からずに混乱している。
どうして、エースは私と同じアパートに入ろうとしているのだろうか。
「帰んねぇの?」
先にエントランスを抜けようとしていたエースが振り返り、立ち尽くしていた私に訊ねる。
帰るのだ。もちろん、帰る。
私は今すぐにでも帰りたいし、さっさとお風呂に入って寝たい。
でも、その前に確認したいことがある。
「エースの引っ越し先、このアパートなの?」
「だから、ここにいんだろ。」
エースは、至極当たり前だろうという顔をしている。
エースにエースの名前を訊ねてしまったような気分だ。
あんなにも私のことを毛嫌いしていて、目が合う度に怖い顔で睨んで来ていたエースが、なぜ引っ越し先を私と同じアパートに選んだのか。何が何だか全く分からない。
「え?でも、このアパート、今はどの部屋も埋まってて空きなんてなかったはず———。」
「なぁー、早く帰りてぇんだけどー。」
エースが私を呼ぶ。
絶対に、何かがおかしいーーーーーーそう思っているうちに、至極当然に振る舞うエースに流されていた。
そうして気づいた時には、私の寝室のクローゼットにエースの服が並べられていた。洗面所には、エースの歯ブラシや洗顔、その他諸々の洗面道具が並んでいる。
大学で使うノートパソコンや資料なんかは、私の机の上に乗っている。
とにかく、生活に必要だと思われるエースの私物が、キャリーケースから取り出される度に、私の部屋の至る所に散りばめられるのだ。
リビングの真ん中で呆然としていると、寝室でゴソゴソと何かをしていたエースが、扉から顔を出した。
「なぁ、おれの下着、入れるところねぇんだけど。
このカゴ使っていい?」
「あ、うん、それは使ってないやつだから別に大丈夫。
…って、そうじゃないよ。なんで?」
あまりにも当然のようにエースが振る舞うから、流され続けるところだった。
ハッとして、寝室へと走る。
寝室は、かろうじて、私の見覚えのある姿のままだった。けれど、壁のハンガーにエースのジャケットがかかっていて、コルクボードには、私の思い出の写真の横にエースとルフィの写真が飾られている。
「お礼がしたいって言ったのは、アンタだろ。」
エースが言う。
お礼ーーーという言葉には、身に覚えがあった。だけれど、そのお礼と今の状況は、重ならない。
訝しげに首を傾げる私に、説明不足を理解したのか、エースが付け足す。
「家に帰れなくなって困ってる俺を
お礼がしたいって言ってた名前先生は、助けてくれると思ったんだけど?」
長身のエースが、私を見下ろす。
「優しくて生徒想いだって有名な名前先生は、
元生徒の俺を見捨てたりしないで、この家に置いてくれるよな?」
片方の口角だけ上がって、口元はニヤリと意地悪く歪んでいた。
そして、漸く目の前にアパートが現れて、やっと帰り着いたと一息つきたい私の隣に、エースはまだいた。
途中までは「近所なんだね。」なんて軽く考えてお喋りのネタにしていたのだけれど、ここまで来ると何が何だか分からずに混乱している。
どうして、エースは私と同じアパートに入ろうとしているのだろうか。
「帰んねぇの?」
先にエントランスを抜けようとしていたエースが振り返り、立ち尽くしていた私に訊ねる。
帰るのだ。もちろん、帰る。
私は今すぐにでも帰りたいし、さっさとお風呂に入って寝たい。
でも、その前に確認したいことがある。
「エースの引っ越し先、このアパートなの?」
「だから、ここにいんだろ。」
エースは、至極当たり前だろうという顔をしている。
エースにエースの名前を訊ねてしまったような気分だ。
あんなにも私のことを毛嫌いしていて、目が合う度に怖い顔で睨んで来ていたエースが、なぜ引っ越し先を私と同じアパートに選んだのか。何が何だか全く分からない。
「え?でも、このアパート、今はどの部屋も埋まってて空きなんてなかったはず———。」
「なぁー、早く帰りてぇんだけどー。」
エースが私を呼ぶ。
絶対に、何かがおかしいーーーーーーそう思っているうちに、至極当然に振る舞うエースに流されていた。
そうして気づいた時には、私の寝室のクローゼットにエースの服が並べられていた。洗面所には、エースの歯ブラシや洗顔、その他諸々の洗面道具が並んでいる。
大学で使うノートパソコンや資料なんかは、私の机の上に乗っている。
とにかく、生活に必要だと思われるエースの私物が、キャリーケースから取り出される度に、私の部屋の至る所に散りばめられるのだ。
リビングの真ん中で呆然としていると、寝室でゴソゴソと何かをしていたエースが、扉から顔を出した。
「なぁ、おれの下着、入れるところねぇんだけど。
このカゴ使っていい?」
「あ、うん、それは使ってないやつだから別に大丈夫。
…って、そうじゃないよ。なんで?」
あまりにも当然のようにエースが振る舞うから、流され続けるところだった。
ハッとして、寝室へと走る。
寝室は、かろうじて、私の見覚えのある姿のままだった。けれど、壁のハンガーにエースのジャケットがかかっていて、コルクボードには、私の思い出の写真の横にエースとルフィの写真が飾られている。
「お礼がしたいって言ったのは、アンタだろ。」
エースが言う。
お礼ーーーという言葉には、身に覚えがあった。だけれど、そのお礼と今の状況は、重ならない。
訝しげに首を傾げる私に、説明不足を理解したのか、エースが付け足す。
「家に帰れなくなって困ってる俺を
お礼がしたいって言ってた名前先生は、助けてくれると思ったんだけど?」
長身のエースが、私を見下ろす。
「優しくて生徒想いだって有名な名前先生は、
元生徒の俺を見捨てたりしないで、この家に置いてくれるよな?」
片方の口角だけ上がって、口元はニヤリと意地悪く歪んでいた。