28.病み上がりに君の声
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≪なぁ~、今日はサボってなまえんちのベッドでダラダラしねぇ?≫ 冷蔵庫を開けて、私が睨めっこしているのは数日前に買った苺ジャムである。 近所のカフェが販売している手作りのジャムは、大きな苺がゴロゴロ入っていてとても人気の商品だ。 昨日は、奮発して高級食パンを買ってきた。 トースターでカリッと焼いた高級食パンに、大きな苺が入ったジャムを乗せたら最高に美味しいに決まっている。 「だーめ!行けるなら学校行こ!」 少し大きめに声を張って言いながら私が冷蔵庫から取り出したのは、手作り苺ジャムではなく、コーヒー牛乳だ。コンビニで100円程度で売っている紙パックのよくあるあれだ。 寝坊した女に、高級食パンと手作り苺ジャムを楽しむ権利なんてないのである。 ≪ちぇ。寝坊したなまえのために提案してやったのにな~。≫ 冷蔵庫の扉を閉じながら、ギクリと肩を上げる。 どうやら、エースにはバレていたらしい。 でもどうして————。 早歩きでリビングに向かいながら、高級食パンだけを乗せた皿を持って、コーヒー牛乳を飲む。 「寝坊なんてしてないし~。」 適当に座って、リビングテーブルに置いたままにしていたスマホをチラりと見た。 通話中となっている画面には、エースの名前が表示され、スピーカーからは彼の馬鹿にしたような笑い声が返ってくる。 どうせ信じていないのだろう。 そもそも、私も本気でエースを騙そうとも思っていない。 「うっさいな。寝坊じゃなくて、少しギリギリだっただけ。ギリギリ寝坊じゃありません。 ん、うま。」 さすが、高級食パンだ。高いお金を出しただけある。 外はカリッと、中はモチモチのフワフワで、甘みもしっかりある。 これなら、苺ジャムを乗せなくても十分に美味しい。と、自分に言い聞かせる。 ≪はいはい。——そういえば、気分悪ぃのは治ったのかよ?≫ ひとしきり笑い終わった後、エースが私に訊ねる。 夜は長電話をすることが多いけれど、朝から連絡があるなんて珍しいと思っていた。 やはり、彼は初めから、私の体調を気にして電話をかけて来たのだろう。 昨日、私がめまいを起こして倒れたことをマルコさんから聞いたと、いつもの夜の長電話のときに知らされた。 何もわざわざエースに言わなくてもいいのに————とも思ったが、まぁ、そのおかげで心配したエースからの電話が来てギリギリ寝坊はせずに済んだし、エースとマルコさんには感謝しなければならない。 職員室で事務仕事中に立ち眩みに襲われたのは、昨日の放課後のことだ。 正直、数秒間の記憶がない。 偶々、そばにいたマルコさんがすぐに異変に気付いて支えてくれたおかげで助かったが、そうではなければ、気を失った状態で倒れていたはずだ。 倒れたときに頭を打って大怪我になった———なんて話も聞いたことがある。 その後は「どうせ暇だから。」とサッチさんが病院に連れて行ってくれ、心電図やらいろいろな検査を受けた。 とりあえず、原因は疲労やストレスが原因の立ち眩みだろうということで、昨日はそのまま帰って休ませてもらっている。 そのおかげで、久しぶりにゆっくりと睡眠時間をとることが出来た結果の寝坊に繋がる———というわけだ。 「うん、大丈夫だよ。沢山寝たら、すっかり回復したよ~。」 ≪・・・ならいいけどよ。もっと自分のことも大事にしろよな。≫ 呆れたような声色に乗せて、エースが心配をしてくれているのが伝わってくる。 大人ぶった言い方も彼らしくて、とても愛おしい。 「クスッ。わかってるよ~。」 ≪ったく。≫ ヘラヘラと笑う私に呆れたのか、エースのため息が返って来た。 エースがいるから頑張れるんだよ————本当はそう言おうとしたけれど、やめておいた。 彼はきっと照れて怒ってしまうだろうし、私もなんだか、恥ずかしかったし、いつかまた別の機会に、そういう時が来たら顔を見て言えばいい。 |