26.冷めたお粥を温める
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「ありがとう。」
エースからマグカップを受け取って、礼を言う。
食器を洗い終えた後、エースが用意してくれたのは、薬用の白湯だった。
風邪を引いたのもあの日が初めてだった健康優良児のエースに、そんな気遣いが出来るのかと驚いた。
けれどすぐに、可愛い彼女の看病で覚えたのだろうと予想がつく。
胸の痛みを、苦い薬と一緒に飲み込む。
そんな私を、エースは向かい合う椅子に座った後に、片手で頬杖をついてつまらなそうに眺めていた。
「ごめんね、無理やり看病をさせちゃって。」
「あー。
あの人から聞いたのか?」
「うん。ベイからスマホに連絡が来てた。
本当にごめんなさい。無理やりお願いしちゃって…。」
「すげぇしつけぇ。」
「あぁぁ…、もう本当にごめんなさい。
エースがいいって泣きながら引き留めたんだよねっ?」
「は?」
「もうほんと、迷惑ばっかりかけて…っ。
風邪が治ったら、何かお礼をさせてください…っ。」
私は頭痛の続く頭を両手で抱えて、小さく横に振った。
今も引きずり続けている年下の元カレに、熱があるのをいいことに狂ったように泣きつくなんて、全く、信じられない。
大人としても、女としても、恥ずかしい。
「お前、何言ってんの?」
恥ずかしさとやるせなさでどうにかなってしまいそうになっていれば、エースはそんな私を見て訝し気に眉を顰めた。
首を傾げる私に、エースが言う。
「俺にしつこく看病しろって言ってきたのは、
アンタの親友だけど。」
「え?どういうこと?
私が、エースに、会いたいって電話して縋ったんでしょう?」
「はぁ?違ぇし。アンタの親友が、熱があるって連絡来たきり繋がらねぇのを心配して
どうせ暇だろって俺に様子見に行くのを頼んできたんだよ。
で、なんだかんだと俺に看病の全部を押し付けて、今。」
「・・・・・・え。」
ベイから届いていた状況把握のための連絡とはまるで違うエースの説明に、私はしばらく放心していた。
そうして、騙された恥ずかしさと共に、じわじわと怒りがこみ上げる。
(あんのタレ目美人め!!)
絶対に、私の気持ちに感づいていて、悪戯を仕掛けたのだ。
恋のキューピッドになってやろうという親友としての優しさだとは考えにくい。
だって、高熱に魘されて不細工な顔をして寝ている汗だくの私の状態をベイが分かっていなかったわけがない。
実際、さっきから自分が汗臭くて気持ち悪いのだ。
いつ、どのタイミングで、着替えようかとずっと考えている。
着替えは、寝室だ。
「なんで…。」
エースが帰ったら、すぐに着替えよう。
それまでは、出来るだけエースと距離を置くのが良い。
汗臭いと思われるのは、さすがにつらい。
「———なんで、信じたんだよ。」
「ん?何か言った?」
エースがボソッと何かを言う。
けれどその低い声は、私の耳には言葉になっては届かなかった。
「———いや、別に。
それより、俺、今日泊るから。」
「え!?…っ。」
驚いて大きな声を出してしまったせいで、頭に響いた。
思わず顔を顰めて言葉を切る。
「泊まるって…?」
「アンタのせいで終電もうねぇし、歩いて帰れってことか?」
そういうことか———。
私は、頭痛の続く頭で考えた。
「なら、タクシーを呼べば———。」
「金が勿体ねぇ。」
「お金なら、私が出すよ!
もちろん、今日のお礼とは別で!!」
「今から帰るのが面倒くせぇ。」
「面倒くさいって…そんな———。」
「とにかく、俺、そこのコンビニで必要なもん買ってくる。」
その方が面倒くさいんじゃないか———そう思った私の考えは、次にエースが発した言葉で吹き飛ぶ。
「その間に名前は着替えとけよ。
汗くせぇだろ。」
「!!」
私はどんな顔をして、何と反応したのだろう。
玄関の扉が閉まる音がしてハッとしたときにはもう、エースは部屋にはいなかった。
残ったのは、ショック死寸前の私と汗臭さだけだった。
エースからマグカップを受け取って、礼を言う。
食器を洗い終えた後、エースが用意してくれたのは、薬用の白湯だった。
風邪を引いたのもあの日が初めてだった健康優良児のエースに、そんな気遣いが出来るのかと驚いた。
けれどすぐに、可愛い彼女の看病で覚えたのだろうと予想がつく。
胸の痛みを、苦い薬と一緒に飲み込む。
そんな私を、エースは向かい合う椅子に座った後に、片手で頬杖をついてつまらなそうに眺めていた。
「ごめんね、無理やり看病をさせちゃって。」
「あー。
あの人から聞いたのか?」
「うん。ベイからスマホに連絡が来てた。
本当にごめんなさい。無理やりお願いしちゃって…。」
「すげぇしつけぇ。」
「あぁぁ…、もう本当にごめんなさい。
エースがいいって泣きながら引き留めたんだよねっ?」
「は?」
「もうほんと、迷惑ばっかりかけて…っ。
風邪が治ったら、何かお礼をさせてください…っ。」
私は頭痛の続く頭を両手で抱えて、小さく横に振った。
今も引きずり続けている年下の元カレに、熱があるのをいいことに狂ったように泣きつくなんて、全く、信じられない。
大人としても、女としても、恥ずかしい。
「お前、何言ってんの?」
恥ずかしさとやるせなさでどうにかなってしまいそうになっていれば、エースはそんな私を見て訝し気に眉を顰めた。
首を傾げる私に、エースが言う。
「俺にしつこく看病しろって言ってきたのは、
アンタの親友だけど。」
「え?どういうこと?
私が、エースに、会いたいって電話して縋ったんでしょう?」
「はぁ?違ぇし。アンタの親友が、熱があるって連絡来たきり繋がらねぇのを心配して
どうせ暇だろって俺に様子見に行くのを頼んできたんだよ。
で、なんだかんだと俺に看病の全部を押し付けて、今。」
「・・・・・・え。」
ベイから届いていた状況把握のための連絡とはまるで違うエースの説明に、私はしばらく放心していた。
そうして、騙された恥ずかしさと共に、じわじわと怒りがこみ上げる。
(あんのタレ目美人め!!)
絶対に、私の気持ちに感づいていて、悪戯を仕掛けたのだ。
恋のキューピッドになってやろうという親友としての優しさだとは考えにくい。
だって、高熱に魘されて不細工な顔をして寝ている汗だくの私の状態をベイが分かっていなかったわけがない。
実際、さっきから自分が汗臭くて気持ち悪いのだ。
いつ、どのタイミングで、着替えようかとずっと考えている。
着替えは、寝室だ。
「なんで…。」
エースが帰ったら、すぐに着替えよう。
それまでは、出来るだけエースと距離を置くのが良い。
汗臭いと思われるのは、さすがにつらい。
「———なんで、信じたんだよ。」
「ん?何か言った?」
エースがボソッと何かを言う。
けれどその低い声は、私の耳には言葉になっては届かなかった。
「———いや、別に。
それより、俺、今日泊るから。」
「え!?…っ。」
驚いて大きな声を出してしまったせいで、頭に響いた。
思わず顔を顰めて言葉を切る。
「泊まるって…?」
「アンタのせいで終電もうねぇし、歩いて帰れってことか?」
そういうことか———。
私は、頭痛の続く頭で考えた。
「なら、タクシーを呼べば———。」
「金が勿体ねぇ。」
「お金なら、私が出すよ!
もちろん、今日のお礼とは別で!!」
「今から帰るのが面倒くせぇ。」
「面倒くさいって…そんな———。」
「とにかく、俺、そこのコンビニで必要なもん買ってくる。」
その方が面倒くさいんじゃないか———そう思った私の考えは、次にエースが発した言葉で吹き飛ぶ。
「その間に名前は着替えとけよ。
汗くせぇだろ。」
「!!」
私はどんな顔をして、何と反応したのだろう。
玄関の扉が閉まる音がしてハッとしたときにはもう、エースは部屋にはいなかった。
残ったのは、ショック死寸前の私と汗臭さだけだった。