25.夢の続きを選ぶ
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うっすらと開いた瞳の向こうにいるエースを見つめていた。
どうやら、エースは私の横で眠っているようだった。
同じベッドの上、1枚の掛布団に包まれて、私達は向かい合っている。
エースの寝顔を見るなんて、久しぶりだ。
切れ長の瞳は閉じた瞼に隠されていて、癖のある長い前髪も少しだけかかっていた。
相変わらず、長い睫毛はとても綺麗だ。
男の人らしい骨格に通った鼻筋、チャームポイントのそばかす。
大人びて見えるエースも、眠ると幼くなる。
そんなところも変わらない。
(・・・・・・夢かな。)
そうだとしたら、とても嬉しくて、そしてとても切ない夢だ。
私の部屋のベッドでエースと眠る日々は、もう二度と帰ってこない。
だから私は、ぼんやりとした意識の中で、目の前に現れたエースの寝顔をただじっと見つめていたのだ。
けれど、それが夢だと分かっていても、見つめるだけではなく触れてみたいと欲が出て来てしまう。
触れた途端に泡のように消えてしまう———ほんの一瞬、そんな儚い夢の結末が頭を過る。
それでも、欲には敵わず私はエースに触れようとして、何かに右手を包まれていることに気付いた。
少しだけひんやりしているその感覚には身に覚えがあった。
アパートの廊下で誰かが私の額に触れたときの手の温度に似ている。
(あれ…?そういえば、私、どうやって部屋に戻って来たんだろう?)
瞳だけを左右に動かして、ここが寝室のベッドの上であることを改めて確認し直した。
けれど、記憶を辿ってみても、どうやって部屋に戻って来たのかが思い出せない。
なんとなく覚えている記憶は、何かを買いに行こうとして家を出た後に、高熱がツラ過ぎて廊下で座り込んでしまったところまでだ。
夢で、誰かが助けに来てくれたような気はする。
でもあれは夢のはずだ。
だって、その〝誰か〟は、エースだった———。
(まさか・・・ね。)
エースが私を助けに来てくれた————そんな自分勝手なことを想像してしまった。
夢の国で見たその場限りの幸せを、私はまだ忘れられないのだろう。
あの日のエースが優しかったのは、恋をする友人の為と夢の国の魔法のせいだ。
夢の国から出た途端に、その魔法は解けてしまった。
だからこれは夢だ———そう自分に言い聞かせながら、私は期待する心を胸の奥に押し込んだ。
繋がる右手はそのまま、左手をエースに伸ばす。
そして、確かめるようにエースの頬に触れた。
「…!」
確かに感じた人間の体温に驚いて、思わず触れた指先をエースの頬から離す。
それでも、もう一度確かめたくて、私は離れたばかりの指先をおずおずとエースの頬に近づけていく。
触れるまでの数秒が、永遠のように感じた気がする。
一瞬だったようにも思う。
けれど確かに、私の指先が触れたエースの体温は、本物だった。
「・・・・え?」
夢と夢が、目の前にある寝顔と繋がった。
寝起きと熱でぼんやりとしていた私の意識が、漸く浮上し始めたというのもあるのかもしれない。
もしかして、これは現実なんだろうか———そう思った途端に、不安と恐怖に襲われた。
確かめるのが怖いのに、期待もしている。
勇気を出して、私は右手を握りしめてみた。
分厚い皮の感触がしっかりと手に伝わってくる。それが、これは夢ではないと私に教えてくれる。
そして、まるでダメ押しみたいに、握りしめたエースの手が、私を握り返したのだ。
眠っているエースにとっては、ただの条件反射だったのかもしれない。
でも私には、涙が出そうになるくらいに嬉しかった。
高熱で心細いときに、エースがそばにいてくれた————理由や事情は分からなくても、それだけが今の私に考えられるすべてだったのだ。
(もう少しだけ…。)
エースを起こして事情を聞くことも考えた。
けれど、まだもう少しだけそばにいて欲しくて、私は夢から覚めた意識をまた閉じ込めることを選ぶ。
狡くて勝手なことは百も承知だ。
けれど誰だって、熱があって身体がきついときは、誰かの温もりを求めるものではないだろうか。人恋しくなって、そばにいてくれる誰かに甘えたくなる。
少なくとも、私はそうだ。
だから私は、瞼を下ろすと、今だけだと自分に言い訳をして、エースの肩の辺りに額をあてて距離を縮めた。
今度こそ本当に、時が止まればいいのに———そう願いながら。
どうやら、エースは私の横で眠っているようだった。
同じベッドの上、1枚の掛布団に包まれて、私達は向かい合っている。
エースの寝顔を見るなんて、久しぶりだ。
切れ長の瞳は閉じた瞼に隠されていて、癖のある長い前髪も少しだけかかっていた。
相変わらず、長い睫毛はとても綺麗だ。
男の人らしい骨格に通った鼻筋、チャームポイントのそばかす。
大人びて見えるエースも、眠ると幼くなる。
そんなところも変わらない。
(・・・・・・夢かな。)
そうだとしたら、とても嬉しくて、そしてとても切ない夢だ。
私の部屋のベッドでエースと眠る日々は、もう二度と帰ってこない。
だから私は、ぼんやりとした意識の中で、目の前に現れたエースの寝顔をただじっと見つめていたのだ。
けれど、それが夢だと分かっていても、見つめるだけではなく触れてみたいと欲が出て来てしまう。
触れた途端に泡のように消えてしまう———ほんの一瞬、そんな儚い夢の結末が頭を過る。
それでも、欲には敵わず私はエースに触れようとして、何かに右手を包まれていることに気付いた。
少しだけひんやりしているその感覚には身に覚えがあった。
アパートの廊下で誰かが私の額に触れたときの手の温度に似ている。
(あれ…?そういえば、私、どうやって部屋に戻って来たんだろう?)
瞳だけを左右に動かして、ここが寝室のベッドの上であることを改めて確認し直した。
けれど、記憶を辿ってみても、どうやって部屋に戻って来たのかが思い出せない。
なんとなく覚えている記憶は、何かを買いに行こうとして家を出た後に、高熱がツラ過ぎて廊下で座り込んでしまったところまでだ。
夢で、誰かが助けに来てくれたような気はする。
でもあれは夢のはずだ。
だって、その〝誰か〟は、エースだった———。
(まさか・・・ね。)
エースが私を助けに来てくれた————そんな自分勝手なことを想像してしまった。
夢の国で見たその場限りの幸せを、私はまだ忘れられないのだろう。
あの日のエースが優しかったのは、恋をする友人の為と夢の国の魔法のせいだ。
夢の国から出た途端に、その魔法は解けてしまった。
だからこれは夢だ———そう自分に言い聞かせながら、私は期待する心を胸の奥に押し込んだ。
繋がる右手はそのまま、左手をエースに伸ばす。
そして、確かめるようにエースの頬に触れた。
「…!」
確かに感じた人間の体温に驚いて、思わず触れた指先をエースの頬から離す。
それでも、もう一度確かめたくて、私は離れたばかりの指先をおずおずとエースの頬に近づけていく。
触れるまでの数秒が、永遠のように感じた気がする。
一瞬だったようにも思う。
けれど確かに、私の指先が触れたエースの体温は、本物だった。
「・・・・え?」
夢と夢が、目の前にある寝顔と繋がった。
寝起きと熱でぼんやりとしていた私の意識が、漸く浮上し始めたというのもあるのかもしれない。
もしかして、これは現実なんだろうか———そう思った途端に、不安と恐怖に襲われた。
確かめるのが怖いのに、期待もしている。
勇気を出して、私は右手を握りしめてみた。
分厚い皮の感触がしっかりと手に伝わってくる。それが、これは夢ではないと私に教えてくれる。
そして、まるでダメ押しみたいに、握りしめたエースの手が、私を握り返したのだ。
眠っているエースにとっては、ただの条件反射だったのかもしれない。
でも私には、涙が出そうになるくらいに嬉しかった。
高熱で心細いときに、エースがそばにいてくれた————理由や事情は分からなくても、それだけが今の私に考えられるすべてだったのだ。
(もう少しだけ…。)
エースを起こして事情を聞くことも考えた。
けれど、まだもう少しだけそばにいて欲しくて、私は夢から覚めた意識をまた閉じ込めることを選ぶ。
狡くて勝手なことは百も承知だ。
けれど誰だって、熱があって身体がきついときは、誰かの温もりを求めるものではないだろうか。人恋しくなって、そばにいてくれる誰かに甘えたくなる。
少なくとも、私はそうだ。
だから私は、瞼を下ろすと、今だけだと自分に言い訳をして、エースの肩の辺りに額をあてて距離を縮めた。
今度こそ本当に、時が止まればいいのに———そう願いながら。