22.熱を出した日
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「これが…。」 駅にも負けず劣らずな豪華絢爛な屋敷を見上げた私からは、感嘆のため息が漏れた。 屋敷というよりも西洋のお城が現れたようだ。そのお城を守る城壁のような立派な門構えには、背中に羽を生やし悪魔のような顔をしたガーゴイルが左右に鎮座している。 緊張しながら、私は、鐘のカタチをした黄金の呼び鈴を鳴らした。 『————はい。』 少し待つと、インターホンの向こうから返事が返って来た。 今朝、自宅へ電話したときに聞いた母親の声ではない。どちらかというと、まだ幼い少年のような高い声だった。 サボには弟がいると聞いている。このインターホンの向こうにいるのはステリーという名のサボの弟かもしれない。 「私、白髭高等学校で2年A組の担任をしている名字名前と申します。 お母様は御在宅でしょうか?」 『どっち?』 「どっち…とは…?」 『金髪とそばかす、どっちの担任なの。』 「あぁ…!エースくんの担任です。 今日は欠席だったので、どうしたのか心配で———。」 『母親はいません。』 「え?」 『ソイツの母親はいません。お帰りください。』 「あ、あの…っ。アウトルックさんに——。」 慌てて引き留めたけれど、私の言葉を待つこともせずに返ってきたのは、無情にもインターホンを切られた冷たい音だった。 母親はいません————それは、〝今は在宅ではない〟という意味ではなく、エースの母親は〝存在しない〟と言っているように聞こえた。 エースの母親は、既に亡くなっている。そう考えれば、インターホンの向こうにいた彼の返事は、正しいのかもしれない。 無音になった呼び鈴横のインターホンは、今朝の母親との電話でのやり取りを私に思い出させた。 そして私はこの瞬間に、この大きなお城の中で、エースがどんな暮らしをしているのかが痛いほどに分かった気がしたのだ。 だから尚更、無断欠席をしたエースのことが心配になった。 でも、再度インターホンを押したところで、塩対応されるのがオチだろう。 どうしよう———。 そう思っていると、厳かな門構えの向こうに見えている大きな玄関扉が開いた。 出てきたのは、金髪の若い男性。エースの従弟であるサボくんだ。 私には、彼が、救世主に見えて仕方なかった。 「サボくん!!」 嬉しくなった私は、すぐにサボくんの名前を呼んだ。 門構えの向こうで、嬉しそうに両手を振って名前を呼ぶ私に気付いたサボくんは、ギョッとした様子で目を丸くした。 けれど、母親や弟のような塩対応はせずに、「どうしたんですか。」と言いながら当然のように門構えを開いてくれるサボくんに、私は今度こそ、ホッと息を吐く。 「今からお出かけ?」 「はい、塾に。」 「そっか。サボくんの成績は、日々のそういう努力から来てるんだねぇ。 でも本当に、ちょうどよかったよ! 今日、エースが無断欠席してて。何があったのか心配で、顔を見に来たの。」 「エースが?おかしいな。 最近は、なんだかんだ文句言いながらも楽しそうに学校に行ってたのに。」 「でしょう?学校でも楽しそうにしてるように見えてたんだけど…。 エースは、今家にいるかな?」 「あぁ…それは…。」 途端に、何か言いづらそうな顔をしたサボくんは「実は…」とエースの居場所を教えてくれた。 |