18.魔法使いが示した幸せな恋人の姿
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太陽が見えている時間の少ない冬は、あっという間に日が落ちる。
それが楽しい日なら、尚更だ。
笑う私達が存在する夢の国も赤く染まる。恋をする少女の頬のように、真っ赤に染まり始めている。
夢が終わるときが、近づいてきている————寂しくなって少しだけ下げた視線の先では、エースに握られたままの私の手がある。
そうあることが当然みたいに繋がる手を見るのも、きっとこれが、本当の本当に最後だ。
今日、1日中、エースと一緒に夢を楽しみながら、私はずっと、遠い日のデートを思い出していた。
他人の目を気にして、一緒に乗った電車ですら車両をひとつずらして、スマホで会話を交わす。禁断の恋が藻掻いて叶えた、秘密のデートだ。
あの日、雄大な海に心奪われた私達が初めてのデートに選んだのは、海岸沿いにある小さな街だった。
結局、これから海を散歩したり、隠れ家的なカフェでも探そうかと言っていたところで、受け持ちのクラスの子達が海に遊びに来ていることに気付き、すぐにデートは中止になってしまった。彼らに見つかってしまったエースだけを海に残して、1人で家に帰ることになったほろ苦い想い出だ。
スマホに届くメッセージも、帰ってからも、エースはすごく悔しがっていたし、残念がっていた。いつかリベンジデートをしたいとも言っていた。
本気で悔しがるエースが可笑しくて仕方なかった。
エースは、笑う私が気に入らないみたいで、怒っていたけれど、幸せだったのだ。
あの頃、一生懸命に考えてくれたデートプランの中に、私が存在していた。
1つ違いの車両の向こうで、世界一幸せそうな顔で車窓を眺めているエースがいた。
あの日、車窓から見えた海を今でも鮮やかに覚えてる。
太陽の日差しを乱反射させながら、キラキラと輝きを放っていた水面は、まるでダイヤモンドのようだった。心奪われたあの海を見たくて、エースと別れてから、ひとりで電車に乗ったことがある。
でも、あれからもう、海は二度と、美しくは輝かない。
エースが、私を好きでいてくれた。私は幸せだった。
それだけで私は、電車で隣に座れなくたって、手を繋いで歩けなくたって、こうやって堂々と夢の国を歩けなくたって、幸せだった。
(時間を巻き戻してほしいなんて、思わないよ。
だから、時間を止めてくれないかな…。)
夢の国なら、魔法使いのひとりやふたりいるんじゃないだろうか————そんな馬鹿なことを願いながら、辺りを見渡す。
そうして見つかるのは、私の願いを叶えてくれる魔法使いではなくて、幸せそうな恋人達の姿だった。
お城をバックに写真を撮ろうとしているようだけれど、うまく背景が映らないらしく、悪戦苦闘している。彼らは困っているのかもしれないけれど、傍から見ればそれすらも楽しそうで羨ましい。
「あ。」
エースも、写真撮影を頑張っている恋人達に気づいたらしい。
その後の彼の行動なら、考えるまでもなく想像がついた。
「よかったら、俺が撮りましょうか。」
エースが声をかけると、恋人達は一瞬驚いたような顔をした。
でもすぐに、2人はホッとした様子で顔を見合わせる。
ほとんど同時の可愛らしいリアクションが、彼らが想い合っていることを象徴しているようだった。
彼氏からスマートフォンを受け取ると、エースは、声をかけながらシャッターを押す。
頬を寄り添い合ったり、両手を広げてみたり、恋人達は楽しそうにポーズをとっていく。楽しそうな様子を、私はエースの後ろから覗くように見ていた。
数枚の写真を撮った後、エースと一緒にスマートフォンの画面を確認した恋人達は、嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございました!
次は、俺達が撮りますよ!」
彼氏の方がそう提案すれば、彼女も「そうだね!」と可愛らしく頷いた。
「ほら、彼女さんも来てくださいよ!
写真撮りますよー!」
「え!?いいですよっ、私達はそんなんじゃ——。」
「ほら、行こうぜ。」
断ろうとしていた私の腕をエースに捕まれた。
そして、さっきまで相思相愛の恋人達が立っていた場所に、私を引っ張って連れて行く。
少し離れたところで、彼氏が見覚えのあるスマートフォンを構えていた。
いつの間にか、エースは自分のスマートフォンを渡していたようだ。
「今日はただベイとドーマのデートに付き合っただけなんだし
写真なんて撮ってもらわなくても———。」
「まぁ、いいじゃん。
せっかくだし、記念に撮ってもらおうぜ。」
シャツの裾を引っ張って、まだうだうだと言っている私に、エースは見もせずに適当に答える。
「いいですかー?」
彼氏の隣に並んだ彼女が、手をあげて訊ねる。
「おっけー!
イケメンに撮ってくれよー!!」
「お兄さん、もうイケメンだから大丈夫!!」
「おー!よく分かってるじゃん!」
「じゃあ、美男美女に撮りますよー!」
「よろしく!!」
アハハとエースが楽しそうに笑う。
でも、私はどんな顔をすればいいのか分からなかった。
悲しいわけでもないし、怒ってもいない。
でも、嬉しいとも違う。
それに、笑顔なんて見せたら、泣いてしまいそうな気がした。
シャッターを押すことを教える掛け声を、彼氏がかける。
その瞬間に、エースが私の肩を抱き寄せた。
驚いているうちに、シャッター音が響く。
同じように数枚撮ると言ってくれた彼氏に、エースは1枚で十分だと答えて、スマートフォンを受け取る。
「おー!マジで美男美女に撮ってくれてるじゃん!」
「俺の写真の腕前がよかったからっすね!」
「違うでしょ。お兄さんとお姉さんがもともと美男美女カップルなの!」
「だってよ、なまえ。」
エースが意地悪く口を上げる。
でも私は、何も応えられなかった。
スマートフォンの向こう側で、楽しそうに白い歯をのぞかせて笑うエースに肩を抱かれて、驚いて目を見開く私から、目を離せなかった。
(なんで私、笑ってるの…?)
怒っているとも、悲しいとも違う。
でも、嬉しいわけじゃない。
笑ったら、泣いてしまいそうな気がしていた———そのはずだった。少なくとも私はそう感じていた。
でも、幸せそうな恋人達が撮ってくれた写真の向こうにいる私は、エースに肩を抱かれて、照れ臭そうに頬を染めながらも嬉しそうに微笑んでいたのだ。
確かに、少し驚いたように目を見開いている。でも、嬉しそうだ。
すごく、幸せそうだった。それは、目の前にいる相思相愛の2人が写真に写っていた時の姿に似ていた。
「ありがとなー!デート楽しんで!」
「お兄さんたちも!」
幸せそうな恋人達が、手を繋いで立ち去っていく。
彼らは、魔法使いだったのだろうか。
奇しくも、私とエースの一瞬は、1枚の写真の中で時間を止めたのだ。
まるで、そこでならずっと永遠に一緒にいられると喜ぶ恋人達のような笑顔を覗かせて———。
それが楽しい日なら、尚更だ。
笑う私達が存在する夢の国も赤く染まる。恋をする少女の頬のように、真っ赤に染まり始めている。
夢が終わるときが、近づいてきている————寂しくなって少しだけ下げた視線の先では、エースに握られたままの私の手がある。
そうあることが当然みたいに繋がる手を見るのも、きっとこれが、本当の本当に最後だ。
今日、1日中、エースと一緒に夢を楽しみながら、私はずっと、遠い日のデートを思い出していた。
他人の目を気にして、一緒に乗った電車ですら車両をひとつずらして、スマホで会話を交わす。禁断の恋が藻掻いて叶えた、秘密のデートだ。
あの日、雄大な海に心奪われた私達が初めてのデートに選んだのは、海岸沿いにある小さな街だった。
結局、これから海を散歩したり、隠れ家的なカフェでも探そうかと言っていたところで、受け持ちのクラスの子達が海に遊びに来ていることに気付き、すぐにデートは中止になってしまった。彼らに見つかってしまったエースだけを海に残して、1人で家に帰ることになったほろ苦い想い出だ。
スマホに届くメッセージも、帰ってからも、エースはすごく悔しがっていたし、残念がっていた。いつかリベンジデートをしたいとも言っていた。
本気で悔しがるエースが可笑しくて仕方なかった。
エースは、笑う私が気に入らないみたいで、怒っていたけれど、幸せだったのだ。
あの頃、一生懸命に考えてくれたデートプランの中に、私が存在していた。
1つ違いの車両の向こうで、世界一幸せそうな顔で車窓を眺めているエースがいた。
あの日、車窓から見えた海を今でも鮮やかに覚えてる。
太陽の日差しを乱反射させながら、キラキラと輝きを放っていた水面は、まるでダイヤモンドのようだった。心奪われたあの海を見たくて、エースと別れてから、ひとりで電車に乗ったことがある。
でも、あれからもう、海は二度と、美しくは輝かない。
エースが、私を好きでいてくれた。私は幸せだった。
それだけで私は、電車で隣に座れなくたって、手を繋いで歩けなくたって、こうやって堂々と夢の国を歩けなくたって、幸せだった。
(時間を巻き戻してほしいなんて、思わないよ。
だから、時間を止めてくれないかな…。)
夢の国なら、魔法使いのひとりやふたりいるんじゃないだろうか————そんな馬鹿なことを願いながら、辺りを見渡す。
そうして見つかるのは、私の願いを叶えてくれる魔法使いではなくて、幸せそうな恋人達の姿だった。
お城をバックに写真を撮ろうとしているようだけれど、うまく背景が映らないらしく、悪戦苦闘している。彼らは困っているのかもしれないけれど、傍から見ればそれすらも楽しそうで羨ましい。
「あ。」
エースも、写真撮影を頑張っている恋人達に気づいたらしい。
その後の彼の行動なら、考えるまでもなく想像がついた。
「よかったら、俺が撮りましょうか。」
エースが声をかけると、恋人達は一瞬驚いたような顔をした。
でもすぐに、2人はホッとした様子で顔を見合わせる。
ほとんど同時の可愛らしいリアクションが、彼らが想い合っていることを象徴しているようだった。
彼氏からスマートフォンを受け取ると、エースは、声をかけながらシャッターを押す。
頬を寄り添い合ったり、両手を広げてみたり、恋人達は楽しそうにポーズをとっていく。楽しそうな様子を、私はエースの後ろから覗くように見ていた。
数枚の写真を撮った後、エースと一緒にスマートフォンの画面を確認した恋人達は、嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございました!
次は、俺達が撮りますよ!」
彼氏の方がそう提案すれば、彼女も「そうだね!」と可愛らしく頷いた。
「ほら、彼女さんも来てくださいよ!
写真撮りますよー!」
「え!?いいですよっ、私達はそんなんじゃ——。」
「ほら、行こうぜ。」
断ろうとしていた私の腕をエースに捕まれた。
そして、さっきまで相思相愛の恋人達が立っていた場所に、私を引っ張って連れて行く。
少し離れたところで、彼氏が見覚えのあるスマートフォンを構えていた。
いつの間にか、エースは自分のスマートフォンを渡していたようだ。
「今日はただベイとドーマのデートに付き合っただけなんだし
写真なんて撮ってもらわなくても———。」
「まぁ、いいじゃん。
せっかくだし、記念に撮ってもらおうぜ。」
シャツの裾を引っ張って、まだうだうだと言っている私に、エースは見もせずに適当に答える。
「いいですかー?」
彼氏の隣に並んだ彼女が、手をあげて訊ねる。
「おっけー!
イケメンに撮ってくれよー!!」
「お兄さん、もうイケメンだから大丈夫!!」
「おー!よく分かってるじゃん!」
「じゃあ、美男美女に撮りますよー!」
「よろしく!!」
アハハとエースが楽しそうに笑う。
でも、私はどんな顔をすればいいのか分からなかった。
悲しいわけでもないし、怒ってもいない。
でも、嬉しいとも違う。
それに、笑顔なんて見せたら、泣いてしまいそうな気がした。
シャッターを押すことを教える掛け声を、彼氏がかける。
その瞬間に、エースが私の肩を抱き寄せた。
驚いているうちに、シャッター音が響く。
同じように数枚撮ると言ってくれた彼氏に、エースは1枚で十分だと答えて、スマートフォンを受け取る。
「おー!マジで美男美女に撮ってくれてるじゃん!」
「俺の写真の腕前がよかったからっすね!」
「違うでしょ。お兄さんとお姉さんがもともと美男美女カップルなの!」
「だってよ、なまえ。」
エースが意地悪く口を上げる。
でも私は、何も応えられなかった。
スマートフォンの向こう側で、楽しそうに白い歯をのぞかせて笑うエースに肩を抱かれて、驚いて目を見開く私から、目を離せなかった。
(なんで私、笑ってるの…?)
怒っているとも、悲しいとも違う。
でも、嬉しいわけじゃない。
笑ったら、泣いてしまいそうな気がしていた———そのはずだった。少なくとも私はそう感じていた。
でも、幸せそうな恋人達が撮ってくれた写真の向こうにいる私は、エースに肩を抱かれて、照れ臭そうに頬を染めながらも嬉しそうに微笑んでいたのだ。
確かに、少し驚いたように目を見開いている。でも、嬉しそうだ。
すごく、幸せそうだった。それは、目の前にいる相思相愛の2人が写真に写っていた時の姿に似ていた。
「ありがとなー!デート楽しんで!」
「お兄さんたちも!」
幸せそうな恋人達が、手を繋いで立ち去っていく。
彼らは、魔法使いだったのだろうか。
奇しくも、私とエースの一瞬は、1枚の写真の中で時間を止めたのだ。
まるで、そこでならずっと永遠に一緒にいられると喜ぶ恋人達のような笑顔を覗かせて———。