15.ダブルデートは波乱の幕開け
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「聞いてねぇぞ。」
夢の国の中心で、エースは不満をこぼしていた。
正月に久しぶりに顔を合わせたドーマから、夢の国で遊ぼうと誘いの電話があったのは今朝だ。いきなりの誘いに面倒だと思わなかったわけでもないけれど、肯定の返事をしたのは、この頃溜まりまくっていたストレスを発散するのにちょうど良いと思ったからだ。
夢の国で思う存分楽しんで、嫌なことを忘れるつもりだった。
だから、男同士で何やってんだと思いながらも、お揃いのネズミ耳のカチューシャをつけて、ポップコーンを抱えることを選んだのだ。
男同士だからこそ、馬鹿みたいに楽しめると思っていた。
少なくとも、エースはそのつもりだった。
ドーマが、メスネズミ耳のカチューシャを買っているのを見たときに不思議には思ったけれど、誰かへの土産か、気分次第で使い分けるのかと思っていた。
まさか途中で女と合流する予定だからだなんて、想像もしていなかった。
しかも、待ち合わせ場所という憩いの広場に向かっている途中で突然報告するなんて、ほとんど事後報告だ。詐欺だ。許せない。
「だって、先に言ってたら、お前来なかっただろ。」
「ったり前だろ。」
エースは、言いながらクルッと踵を返した。
やってられない———それが、エースの正直な気持ちだ。
今までも、ただの飲み会だと言われて行ったら合コンだったなんてことが何度もあった。友人達は一様に『エースが来るなら合コンしてくれるって言われたんだよ。友達のためだと思って付き合ってくれよ。』と、逃げられないところまで追いつめてから、勝手なことを言うばかりだ。
今回もどうせその類なのだろう。
今までは、それならそれで仕方ないと楽しんだし、良い思いもしてきた。
でも、今日はそんな気分じゃない。
それなら、夢の国でひとりで現実逃避してる方がずっとマシだ。
だが———。
「待てって!!」
すぐにドーマが追いかけて来て腕を掴まれる。
痛いくらいに握りしめられて、エースはキレ気味に振り返った。
言い足りない文句なら幾らでもある。だが、それをぶつける暇もなく、ドーマが夢の国の真ん中で土下座をしたのだ。
目を丸くするエースに、ドーマは半泣きで懇願する。
「1年かけて口説いて、やっとデートの許しが出たんだよ!
でも、ダブルデートじゃねぇと行きたくねぇって言われて…っ。
お願いだよ!お前じゃねぇと頼めねぇんだ…っ。」
「———とりあえず立て。」
周囲の目を気にしながら、エースはドーマの腕を掴んで引き上げる。
そして、うなだれているドーマに質問を続ける。
「どうして俺じゃねぇとダメなんだよ。」
「だってお前…年上はタイプじゃねぇだろ。」
「は?」
「めっちゃ美人なんだ。俺の未来の嫁さん。」
「…へぇ。」
1年かけて口説いて、やっと出たデートもダブルデートじゃないと許してもらえなかった彼女を〝未来の嫁〟と呼べるメンタルに言葉が出なかった。
必死な姿に少しだけ同情した自分を、呆気なく後悔する。
「クール系のお姉さんで、なんでもそつなくこなしてるように見えて
本当はすっげぇ努力家で、ドジなところもあってさぁ。可愛いんだ、世界一!」
言いながら照れ臭くなったのか、指で掻いた頬が赤く染まっている。
ニシシと笑うドーマが、誰かに似ている気がした。
「———で?その世界一可愛いお姉さんとのダブルデートの相手が俺じゃなきゃいけねぇ理由は?」
なんとなく、ドーマを見ていたくなくて———いや、ドーマの向こうに霞んで映る誰かを見たくなくて、エースは目を逸らしながら訊ねた。
「エースは、年下ボインちゃんにしか興味ねぇだろ。」
「はぁ?」
「彼女に惚れられたら困るだろ。その点、エースなら絶対に惚れねぇから安心だしな!」
「なんだよそれ。」
「俺の友達、イケメンばっかだから、ダブルデートの相手を考えるのも一苦労よ。
類は友を呼ぶって、マジだよなぁ。」
いろんな勘違いをこじらせているドーマを前に、訂正する気すら失せる。
エースは、隠す気もなくため息を吐く。
「俺を騙すために現地集合なのかよ。」
呆れたように言いながら、エースは返したばかりの踵を、もう一度待ち合わせ場所へ向かわせた。
その途端に、瞳をキラキラと輝かせたドーマが「大好きだぁ!」と抱き着いてくる。
「ベイさんを誘ったら、現地集合だって言われたんだよ。」
エースに鬱陶しそうに引き剥がされながら、ドーマが答える。
「変な人だろ?」
アハハと笑うドーマの目は、初めて見るくらいに優しくて、とことん惚れてるのだろうと予想がつく。
でも、だからと言って、応援しよう———とは思わない。
仕方なくデートに付き合ってくれるだけの年上のその人が、ドーマと恋人になる可能性は低そうだし、そもそもエース自身が年上の女に良い想い出がない。
ただ、ドーマの頑張りは、分かる気がしたのだ。
必死に背伸びして、必死に追いかけて、隣に並ぼうとしているドーマの頑張りだけは、どうしても無視できなかった。
それを認めなかったから、あの日の自分をなかったことにしてしまうみたいで———。
「ベイさんの親友がダブルデートの相手なんだけど、ずっと男日照りで
可哀想な人らしいから、タイプじゃなくたって優しくしてやれよ。」
「面倒くせぇ。」
「お前が女癖の悪い最低な奴だってわかったら俺のイメージまで悪くなるから、マジでお願い。」
腹が立ったので、エースはドーマの鳩尾に拳をめり込ませた。
夢の国の中心で、エースは不満をこぼしていた。
正月に久しぶりに顔を合わせたドーマから、夢の国で遊ぼうと誘いの電話があったのは今朝だ。いきなりの誘いに面倒だと思わなかったわけでもないけれど、肯定の返事をしたのは、この頃溜まりまくっていたストレスを発散するのにちょうど良いと思ったからだ。
夢の国で思う存分楽しんで、嫌なことを忘れるつもりだった。
だから、男同士で何やってんだと思いながらも、お揃いのネズミ耳のカチューシャをつけて、ポップコーンを抱えることを選んだのだ。
男同士だからこそ、馬鹿みたいに楽しめると思っていた。
少なくとも、エースはそのつもりだった。
ドーマが、メスネズミ耳のカチューシャを買っているのを見たときに不思議には思ったけれど、誰かへの土産か、気分次第で使い分けるのかと思っていた。
まさか途中で女と合流する予定だからだなんて、想像もしていなかった。
しかも、待ち合わせ場所という憩いの広場に向かっている途中で突然報告するなんて、ほとんど事後報告だ。詐欺だ。許せない。
「だって、先に言ってたら、お前来なかっただろ。」
「ったり前だろ。」
エースは、言いながらクルッと踵を返した。
やってられない———それが、エースの正直な気持ちだ。
今までも、ただの飲み会だと言われて行ったら合コンだったなんてことが何度もあった。友人達は一様に『エースが来るなら合コンしてくれるって言われたんだよ。友達のためだと思って付き合ってくれよ。』と、逃げられないところまで追いつめてから、勝手なことを言うばかりだ。
今回もどうせその類なのだろう。
今までは、それならそれで仕方ないと楽しんだし、良い思いもしてきた。
でも、今日はそんな気分じゃない。
それなら、夢の国でひとりで現実逃避してる方がずっとマシだ。
だが———。
「待てって!!」
すぐにドーマが追いかけて来て腕を掴まれる。
痛いくらいに握りしめられて、エースはキレ気味に振り返った。
言い足りない文句なら幾らでもある。だが、それをぶつける暇もなく、ドーマが夢の国の真ん中で土下座をしたのだ。
目を丸くするエースに、ドーマは半泣きで懇願する。
「1年かけて口説いて、やっとデートの許しが出たんだよ!
でも、ダブルデートじゃねぇと行きたくねぇって言われて…っ。
お願いだよ!お前じゃねぇと頼めねぇんだ…っ。」
「———とりあえず立て。」
周囲の目を気にしながら、エースはドーマの腕を掴んで引き上げる。
そして、うなだれているドーマに質問を続ける。
「どうして俺じゃねぇとダメなんだよ。」
「だってお前…年上はタイプじゃねぇだろ。」
「は?」
「めっちゃ美人なんだ。俺の未来の嫁さん。」
「…へぇ。」
1年かけて口説いて、やっと出たデートもダブルデートじゃないと許してもらえなかった彼女を〝未来の嫁〟と呼べるメンタルに言葉が出なかった。
必死な姿に少しだけ同情した自分を、呆気なく後悔する。
「クール系のお姉さんで、なんでもそつなくこなしてるように見えて
本当はすっげぇ努力家で、ドジなところもあってさぁ。可愛いんだ、世界一!」
言いながら照れ臭くなったのか、指で掻いた頬が赤く染まっている。
ニシシと笑うドーマが、誰かに似ている気がした。
「———で?その世界一可愛いお姉さんとのダブルデートの相手が俺じゃなきゃいけねぇ理由は?」
なんとなく、ドーマを見ていたくなくて———いや、ドーマの向こうに霞んで映る誰かを見たくなくて、エースは目を逸らしながら訊ねた。
「エースは、年下ボインちゃんにしか興味ねぇだろ。」
「はぁ?」
「彼女に惚れられたら困るだろ。その点、エースなら絶対に惚れねぇから安心だしな!」
「なんだよそれ。」
「俺の友達、イケメンばっかだから、ダブルデートの相手を考えるのも一苦労よ。
類は友を呼ぶって、マジだよなぁ。」
いろんな勘違いをこじらせているドーマを前に、訂正する気すら失せる。
エースは、隠す気もなくため息を吐く。
「俺を騙すために現地集合なのかよ。」
呆れたように言いながら、エースは返したばかりの踵を、もう一度待ち合わせ場所へ向かわせた。
その途端に、瞳をキラキラと輝かせたドーマが「大好きだぁ!」と抱き着いてくる。
「ベイさんを誘ったら、現地集合だって言われたんだよ。」
エースに鬱陶しそうに引き剥がされながら、ドーマが答える。
「変な人だろ?」
アハハと笑うドーマの目は、初めて見るくらいに優しくて、とことん惚れてるのだろうと予想がつく。
でも、だからと言って、応援しよう———とは思わない。
仕方なくデートに付き合ってくれるだけの年上のその人が、ドーマと恋人になる可能性は低そうだし、そもそもエース自身が年上の女に良い想い出がない。
ただ、ドーマの頑張りは、分かる気がしたのだ。
必死に背伸びして、必死に追いかけて、隣に並ぼうとしているドーマの頑張りだけは、どうしても無視できなかった。
それを認めなかったから、あの日の自分をなかったことにしてしまうみたいで———。
「ベイさんの親友がダブルデートの相手なんだけど、ずっと男日照りで
可哀想な人らしいから、タイプじゃなくたって優しくしてやれよ。」
「面倒くせぇ。」
「お前が女癖の悪い最低な奴だってわかったら俺のイメージまで悪くなるから、マジでお願い。」
腹が立ったので、エースはドーマの鳩尾に拳をめり込ませた。