15.ダブルデートは波乱の幕開け
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遡ること1時間以上前————。
夢の国のちょうど中心にある広場には、ガーデンテーブルとチェアがランダムに並んでいる。
遊び疲れたファミリーや恋人達の憩いの場も、開園直後はまだ幾らか空席があった。その一つを選んで、私とベイは腰を降ろす。
「どうしてここ?」
「遊園地デートしてくれってうるさかったから。」
テーブルに肘をついたベイは、頬杖をつくと、投げやりに答える。
夢の世界を楽しむ気満々な人達があちらへこちらへと歩き回っているこの場で、ベイだけがテンションを間違えていた。
「そうじゃなくて。ダブルデートなんだよね?」
「そう。」
「相手は?」
「今こっちに向かってる。」
「なんで?」
「私とデートしたいから。」
「なんで現地集合?」
「他に何集合があるの?」
ベイが私の方を見る。
頭の上にハテナが浮かんでいるのが見える。
本気で言っているらしい。
「———そういうとこだよ、ベイ。」
「どういうとこよ。」
不機嫌に眉を顰めたベイは、また投げやりな様子で、夢の世界を楽しむ人達を観察し始める。
腕を組んで歩いていく恋人達もその視界に入っているはずだ。彼らを見て、ベイは何も感じないのだろうか。
デートは、デートスポットだけで楽しむものではない。
待ち合わせ場所でしきりにウィンドウに映る自分の姿を気にしては、自分が待っているのは大好きなあの人なのだと胸が熱くなるあの感じとか、一緒に目的地へ向かっているときのワクワク感。果てには、約束を漕ぎつけるまでの駆け引きもデートの醍醐味だといえるだろう。
それが、沢山のことをすっ飛ばしての〝現地集合〟。ベイがいつも『お前は俺がいなくても生きていける』とフラれている理由が、今漸く分かった気がする。
「今日のダブルデートの相手って、前にベイが言ってた年下の社員でしょ?
プライベートとは分けたいからお付き合いとかは無理って断ればよかったんじゃないの?」
いつものベイならそうしていたはずなのに———そう思いながら訊ねたけれど、ベイから返事はなかった。
テーマパーク内には常に聞き慣れたメロディーが流れているし、ちょうど若者のグループが通りかかって騒いでいたから、聞こえなかったのかもしれない。
(まぁ、いっか。)
ここに向かう途中、今日のダブルデートの相手は、ベイの会社の年下社員とその友達だと説明された。
幾つ年下かまでは興味もなくて聞いていないけれど、男日照りだった私にはちょうど良い気分転換にはなるかもしれない。
「ねぇ、名前。」
「ん~?」
バッグの中からスマホを取り出して、早速暇つぶしを始めようとしていた私は、最近お気に入りのパズルゲームのアプリを開く。
同じ色のパズルを3個以上集めて消していくというよくある単純なルールのゲームなのだけれど、ガチャで当たるキャラクターが可愛いもふもふのアニマルキャラで、とても癒されるのだ。
しかも今は、期間限定のイベントが開催されていて、難しいダンジョンをクリアすると自動的にスペシャルキャラがもらえることになっている。
正直なところ、新しい恋の相手は要らないので、モフモフキャラをゲットしたいというのが本音だ。
「私って、笑える?」
「笑えるって?」
「あのサル、私のことを笑うのよ。
この前なんて、可愛いヤツとか言いながら頭をグシャグシャにされた。」
「うわぁ、度胸あるね。半殺しにされなかった、おサルくん?」
「今日も、私にはこの夢の国のデートが一番似合うって聞かないのよ。
そんなこと言われたの初めてだわ。」
「高級ホテルでフレンチやらクルージングデート、バカンス旅行しか
デートのレパートリーがないのも珍しいけどね。」
「遊園地なんて子供の頃から振り返ったって楽しんだことなんかないって言ってんのに、
絶対に俺が楽しませてやるってうるさいの。別に楽しみたいなんて、思ってないのに。」
「へぇ~。」
私は、パズル途中のままでスマホから顔を上げた。
「素敵な彼だね。」
ベイの方を見て、ニコリと微笑む。
すぐにベイは、何かを言おうとした。
でも、ハッとした顔をした後に、逃げるように顔を逸らす。
「バカ…っ。サルよ、サル…!」
ベイの声が、少しだけ上ずる。
頬杖をつく手では隠しきれなかった頬が、赤く染まっている。
こんなに可愛いベイを見たのは、初めてかもしれない。
「そっか。」
クスクスと笑いながら、なんだか嬉しくなる。
そうか————ベイは、新しい恋を始めようとしているのか。
恋をしていないと幸せになれないとは思わない。私だって、エースと別れてから不幸続きだったのかと言われれば、そうじゃない。
友人がいて、仕事があって、家族もいる。人生は、恋がなくても進んでいく。その中に、悲しいこともあれば、楽しいことだってある。
でも、今、ベイのことが大好きで仕方がない彼は、ベイの容姿や地位ではなくて、その奥にある彼女らしさを愛おしいと思っている。
ベイもまた初めての扱いに戸惑いを感じながらも、その心は確実に動いているように見える。
それは、〝幸せ〟を運んでくれるものかもしれない。少なくとも、ベイはそう思ったから、なんだかんだとデートの許可を出したのだろう。
(いいな。)
途中のままで放置されたパズルゲームを眺めながら、心の中で呟く。
なんとなく、続ける気が起きなくなってしまって、アプリを開いたままでスマホの画面を消した。
夢の国のちょうど中心にある広場には、ガーデンテーブルとチェアがランダムに並んでいる。
遊び疲れたファミリーや恋人達の憩いの場も、開園直後はまだ幾らか空席があった。その一つを選んで、私とベイは腰を降ろす。
「どうしてここ?」
「遊園地デートしてくれってうるさかったから。」
テーブルに肘をついたベイは、頬杖をつくと、投げやりに答える。
夢の世界を楽しむ気満々な人達があちらへこちらへと歩き回っているこの場で、ベイだけがテンションを間違えていた。
「そうじゃなくて。ダブルデートなんだよね?」
「そう。」
「相手は?」
「今こっちに向かってる。」
「なんで?」
「私とデートしたいから。」
「なんで現地集合?」
「他に何集合があるの?」
ベイが私の方を見る。
頭の上にハテナが浮かんでいるのが見える。
本気で言っているらしい。
「———そういうとこだよ、ベイ。」
「どういうとこよ。」
不機嫌に眉を顰めたベイは、また投げやりな様子で、夢の世界を楽しむ人達を観察し始める。
腕を組んで歩いていく恋人達もその視界に入っているはずだ。彼らを見て、ベイは何も感じないのだろうか。
デートは、デートスポットだけで楽しむものではない。
待ち合わせ場所でしきりにウィンドウに映る自分の姿を気にしては、自分が待っているのは大好きなあの人なのだと胸が熱くなるあの感じとか、一緒に目的地へ向かっているときのワクワク感。果てには、約束を漕ぎつけるまでの駆け引きもデートの醍醐味だといえるだろう。
それが、沢山のことをすっ飛ばしての〝現地集合〟。ベイがいつも『お前は俺がいなくても生きていける』とフラれている理由が、今漸く分かった気がする。
「今日のダブルデートの相手って、前にベイが言ってた年下の社員でしょ?
プライベートとは分けたいからお付き合いとかは無理って断ればよかったんじゃないの?」
いつものベイならそうしていたはずなのに———そう思いながら訊ねたけれど、ベイから返事はなかった。
テーマパーク内には常に聞き慣れたメロディーが流れているし、ちょうど若者のグループが通りかかって騒いでいたから、聞こえなかったのかもしれない。
(まぁ、いっか。)
ここに向かう途中、今日のダブルデートの相手は、ベイの会社の年下社員とその友達だと説明された。
幾つ年下かまでは興味もなくて聞いていないけれど、男日照りだった私にはちょうど良い気分転換にはなるかもしれない。
「ねぇ、名前。」
「ん~?」
バッグの中からスマホを取り出して、早速暇つぶしを始めようとしていた私は、最近お気に入りのパズルゲームのアプリを開く。
同じ色のパズルを3個以上集めて消していくというよくある単純なルールのゲームなのだけれど、ガチャで当たるキャラクターが可愛いもふもふのアニマルキャラで、とても癒されるのだ。
しかも今は、期間限定のイベントが開催されていて、難しいダンジョンをクリアすると自動的にスペシャルキャラがもらえることになっている。
正直なところ、新しい恋の相手は要らないので、モフモフキャラをゲットしたいというのが本音だ。
「私って、笑える?」
「笑えるって?」
「あのサル、私のことを笑うのよ。
この前なんて、可愛いヤツとか言いながら頭をグシャグシャにされた。」
「うわぁ、度胸あるね。半殺しにされなかった、おサルくん?」
「今日も、私にはこの夢の国のデートが一番似合うって聞かないのよ。
そんなこと言われたの初めてだわ。」
「高級ホテルでフレンチやらクルージングデート、バカンス旅行しか
デートのレパートリーがないのも珍しいけどね。」
「遊園地なんて子供の頃から振り返ったって楽しんだことなんかないって言ってんのに、
絶対に俺が楽しませてやるってうるさいの。別に楽しみたいなんて、思ってないのに。」
「へぇ~。」
私は、パズル途中のままでスマホから顔を上げた。
「素敵な彼だね。」
ベイの方を見て、ニコリと微笑む。
すぐにベイは、何かを言おうとした。
でも、ハッとした顔をした後に、逃げるように顔を逸らす。
「バカ…っ。サルよ、サル…!」
ベイの声が、少しだけ上ずる。
頬杖をつく手では隠しきれなかった頬が、赤く染まっている。
こんなに可愛いベイを見たのは、初めてかもしれない。
「そっか。」
クスクスと笑いながら、なんだか嬉しくなる。
そうか————ベイは、新しい恋を始めようとしているのか。
恋をしていないと幸せになれないとは思わない。私だって、エースと別れてから不幸続きだったのかと言われれば、そうじゃない。
友人がいて、仕事があって、家族もいる。人生は、恋がなくても進んでいく。その中に、悲しいこともあれば、楽しいことだってある。
でも、今、ベイのことが大好きで仕方がない彼は、ベイの容姿や地位ではなくて、その奥にある彼女らしさを愛おしいと思っている。
ベイもまた初めての扱いに戸惑いを感じながらも、その心は確実に動いているように見える。
それは、〝幸せ〟を運んでくれるものかもしれない。少なくとも、ベイはそう思ったから、なんだかんだとデートの許可を出したのだろう。
(いいな。)
途中のままで放置されたパズルゲームを眺めながら、心の中で呟く。
なんとなく、続ける気が起きなくなってしまって、アプリを開いたままでスマホの画面を消した。