≪Armin生誕祭2019≫君を愛するために必要な時間
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兵舎に併設されている図書館にやって来た僕は、椅子には座らずに、窓際の棚の上に腰を降ろした。
兵団全体での休日だった今日は、図書館を利用している調査兵は他にはおらず、とても静かだった。
窓の向こうから聞こえてくる仲間達の笑い声が、僕の耳に心地いい音色になって届く。
図書館2階の窓から見える景色は、兵舎の訓練場だ。
普段なら、調査兵達がツラい訓練を行っているそこは、今日だけは、遊びの場になっている。
団長の許可を貰った数名の調査兵達が、大きなテーブルを幾つも用意して、立食パーティーを始めたのだ。
相変わらず壁の中に囚われているこの世界で、何か良いことがあったわけでもない。
でも、パーティーの理由なんて、大それたものは必要ないのだ。
ただ、今日も仲間が生きている。昨日、隣で笑っていた仲間が、今日も隣で笑ってくれている。
調査兵達にとって、それ以上に嬉しいことはないのだから——。
お昼になった今では、いつの間にか、調査兵のほとんどが参加し始めていて、お酒を呑みながらの、上官も部下も関係のない無礼講のバカ騒ぎにまで発展している。
エレンやミカサに誘われたけれど、午前中は終わらせておきたいレポートがあって断った。
昼食くらいは参加しようとも思ったけれど、結局、図書館に来てしまった。
持参したノートを開き、膝の上に乗せてから、ペンケースからお気に入りのペンを取り出すと、僕は、窓に背中を預けて、そっと目を閉じた。
静かな図書館と、背中越しに聞こえてくる仲間達の笑い声。
なんて穏やかで、幸せな時間だろうか。
それになにより、彼女が楽しそうに笑っているのが、嬉しい———。
たくさんの仲間達の笑い声の中から、たったひとりの声を聞き分けられるようになって、もうどれくらいが経つのだろう。
所属する班の班長であるなまえさんとの出逢いは、調査兵団に入団してすぐだった。
初めの頃、僕にとってなまえさんは憧れだった。
どんなに恐ろしい事態に陥っても、彼女は負けないのだ。
班員達を鼓舞し、危険の最前線へと自らが飛び込んでいく。
そうして、精鋭とも呼ばれる彼女は、いつも班員達を無事に壁内へと送り届けてくれた。
そして、仲間のために涙を流し、仲間のために怒り、僕の知る誰よりも優しい。
いつも明るいなまえさんの笑顔に、何度助けられただろう。
そうしているうちに、憧れは、幼い心に、違う感情を芽生えさせた。
兵舎のどこにいてもなまえさんの姿を探してしまって、訓練が終わって自室に戻ってすぐに、また会いたくなる。
目が合うと呼吸を忘れるくらいにドキドキして、笑いかけられると意識が飛びそうになった。
それが恋だと気づくのは容易くて、それからずっと、彼女のことだけを想っている。
「サシャを縛れ!!縛り上げろ!!」
不意に、窓の向こうの騒がしさの系統が変わった。
ギャーギャーと悲鳴のようなものが聞こえてくる。
どうやら、サシャがまた肉を独り占めしようとしているようだ。
わざわざ窓の向こうを覗かなくても、騒がしい声が、パーティーの状況を詳細に教えてくれていた。
聞き慣れたそのバカ騒ぎに、目を開けて、クスリと笑った僕は、ノートの一番上に昨日の日付を書いた。
そして、窓に背中を預けて寄り掛かった格好のまま、ノートにペンを走らせる。
読みやすくて綺麗だとなまえさんが褒めてくれた僕の字で綴られていくのは、昨日あったほんの些細なことばかりだ。
なまえさんと話した内容、なまえさんの初めて知ったこと、なまえさんに言ってもらえて嬉しかったこと———。
いつの間にか、僕の日記帳は、彼女のことばかりで溢れていた。
「雨だ!!」
焦った声に気がついて、僕は無意識に首を後ろに向けた。
窓の向こうで、パーティーを楽しんでいた調査兵達が、食事の乗ったテーブルを慌てて片付け始めていた。
そんな中、なまえさんは、テーブルがなくなって広くなった訓練場で、楽しそうに踊っていた。
僕は、窓の向こうが見やすいように、棚の上に脚を乗せた。
そして、脚を折り曲げると、膝を自分の胸元に引き寄せて、窓と並行になるように座る。
呆れる同期達も巻き込んで踊り始めたなまえを眺めながら、膝を台のようにしてノートを置き、今日の日付を記して、ペンを走らせた。
『なまえさんが楽しそうに踊ってる。
雨が好きなのかな?お酒で陽気になっていて楽しいのかな?』
そんなことを書きながら、またもう一つ、知りたいことが出て来た。
だから、僕はまた、ペンを走らせる。
『好きな曲とかあるのかな?聴くと笑顔になったりするのかな。
歌うこともあるのかな?』
それから———。
なまえさんのことで、知りたいことはたくさんある。
幾らでも出てくる。
きっと僕はまだ、彼女のことを何も知らないのだと思う。
こんなに毎日、彼女だけを見ている僕よりも、彼女を知っている仲間はたくさんいる。
≪ある特定の分野で成功をおさめようとするためには1万時間をかけなければならない———。≫
昔、どこかで読んだ本に、そんなことが書いてあった。
それは約3年は必要ということで、僕が彼女に恋をしてからの月日よりも長い。
だから、仕方ないんだ。
僕が彼女のことを誰よりも知らないのは、仕方のないことだ。
だからこそ僕は、彼女を知りたくて、僕を知ってもらいたくて、彼女ばかり目で追いかけている。
今では僕は、彼女が、同じシガンシナ区出身だっていうことも知っているし、彼女が、故郷が恋しくて仕方なくて、時々、コッソリ泣いてることも知ってる。
彼女の名前は、おばあさんから貰ったもので、とても誇りに思っているのだということも。
でも、僕は知らない。
どんな悲しみを胸に抱えているのか。
それでもどうして、そんなに強くいられるのか。
彼女がどんな夢を見ているのか。
(時々は、僕のこと、想ってくれたりしないかな…。)
いつの間にか雨が止んだのか、楽しそうなたくさんの笑い声が戻って来ていた。
僕は、またノートにペンを走らせる。
そこに残されていくのは、僕が忘れたくない彼女との想い出ばかりだ。
だって、ある特定の分野で成功をおさめるためには1万時間が必要なのだから、僕はなまえさんを誰よりも知るために、こうやって頑張らなきゃいけないんだ。
だから僕は、決意をノートに綴る。
『1万時間と、さらにもう1万時間を費やしたっていい。
もし、彼女の素晴らしくて、愛らしい心を学ぶのにはそれくらい必要だっていうなら。
きっと僕なんかじゃその域にまで達せないんだろう。
手も届かない人だって分かってる。
でも、頑張ってみる価値はある。
もし、1万時間、いいや、残りの人生のすべてを捧げることになったって。
僕は彼女を愛し続けるんだ。』
ノートの上を走っていたペンが、ピタリ、と止まる。
好奇心旺盛だと、昔からよく言われていた。
でも、これほどまでに、僕の心を夢中にさせるのは、海かなまえさんくらいだ。
ペンを置いて、僕は窓の向こうに目を向ける。
珍しく、僕の友人達と話しているなまえさんが、不意に視線を上げた。
ドキリとしたのは、彼女と目が合った気がしてしまったせいだ。
僕はずっと、彼女が大好きだ。
兵団全体での休日だった今日は、図書館を利用している調査兵は他にはおらず、とても静かだった。
窓の向こうから聞こえてくる仲間達の笑い声が、僕の耳に心地いい音色になって届く。
図書館2階の窓から見える景色は、兵舎の訓練場だ。
普段なら、調査兵達がツラい訓練を行っているそこは、今日だけは、遊びの場になっている。
団長の許可を貰った数名の調査兵達が、大きなテーブルを幾つも用意して、立食パーティーを始めたのだ。
相変わらず壁の中に囚われているこの世界で、何か良いことがあったわけでもない。
でも、パーティーの理由なんて、大それたものは必要ないのだ。
ただ、今日も仲間が生きている。昨日、隣で笑っていた仲間が、今日も隣で笑ってくれている。
調査兵達にとって、それ以上に嬉しいことはないのだから——。
お昼になった今では、いつの間にか、調査兵のほとんどが参加し始めていて、お酒を呑みながらの、上官も部下も関係のない無礼講のバカ騒ぎにまで発展している。
エレンやミカサに誘われたけれど、午前中は終わらせておきたいレポートがあって断った。
昼食くらいは参加しようとも思ったけれど、結局、図書館に来てしまった。
持参したノートを開き、膝の上に乗せてから、ペンケースからお気に入りのペンを取り出すと、僕は、窓に背中を預けて、そっと目を閉じた。
静かな図書館と、背中越しに聞こえてくる仲間達の笑い声。
なんて穏やかで、幸せな時間だろうか。
それになにより、彼女が楽しそうに笑っているのが、嬉しい———。
たくさんの仲間達の笑い声の中から、たったひとりの声を聞き分けられるようになって、もうどれくらいが経つのだろう。
所属する班の班長であるなまえさんとの出逢いは、調査兵団に入団してすぐだった。
初めの頃、僕にとってなまえさんは憧れだった。
どんなに恐ろしい事態に陥っても、彼女は負けないのだ。
班員達を鼓舞し、危険の最前線へと自らが飛び込んでいく。
そうして、精鋭とも呼ばれる彼女は、いつも班員達を無事に壁内へと送り届けてくれた。
そして、仲間のために涙を流し、仲間のために怒り、僕の知る誰よりも優しい。
いつも明るいなまえさんの笑顔に、何度助けられただろう。
そうしているうちに、憧れは、幼い心に、違う感情を芽生えさせた。
兵舎のどこにいてもなまえさんの姿を探してしまって、訓練が終わって自室に戻ってすぐに、また会いたくなる。
目が合うと呼吸を忘れるくらいにドキドキして、笑いかけられると意識が飛びそうになった。
それが恋だと気づくのは容易くて、それからずっと、彼女のことだけを想っている。
「サシャを縛れ!!縛り上げろ!!」
不意に、窓の向こうの騒がしさの系統が変わった。
ギャーギャーと悲鳴のようなものが聞こえてくる。
どうやら、サシャがまた肉を独り占めしようとしているようだ。
わざわざ窓の向こうを覗かなくても、騒がしい声が、パーティーの状況を詳細に教えてくれていた。
聞き慣れたそのバカ騒ぎに、目を開けて、クスリと笑った僕は、ノートの一番上に昨日の日付を書いた。
そして、窓に背中を預けて寄り掛かった格好のまま、ノートにペンを走らせる。
読みやすくて綺麗だとなまえさんが褒めてくれた僕の字で綴られていくのは、昨日あったほんの些細なことばかりだ。
なまえさんと話した内容、なまえさんの初めて知ったこと、なまえさんに言ってもらえて嬉しかったこと———。
いつの間にか、僕の日記帳は、彼女のことばかりで溢れていた。
「雨だ!!」
焦った声に気がついて、僕は無意識に首を後ろに向けた。
窓の向こうで、パーティーを楽しんでいた調査兵達が、食事の乗ったテーブルを慌てて片付け始めていた。
そんな中、なまえさんは、テーブルがなくなって広くなった訓練場で、楽しそうに踊っていた。
僕は、窓の向こうが見やすいように、棚の上に脚を乗せた。
そして、脚を折り曲げると、膝を自分の胸元に引き寄せて、窓と並行になるように座る。
呆れる同期達も巻き込んで踊り始めたなまえを眺めながら、膝を台のようにしてノートを置き、今日の日付を記して、ペンを走らせた。
『なまえさんが楽しそうに踊ってる。
雨が好きなのかな?お酒で陽気になっていて楽しいのかな?』
そんなことを書きながら、またもう一つ、知りたいことが出て来た。
だから、僕はまた、ペンを走らせる。
『好きな曲とかあるのかな?聴くと笑顔になったりするのかな。
歌うこともあるのかな?』
それから———。
なまえさんのことで、知りたいことはたくさんある。
幾らでも出てくる。
きっと僕はまだ、彼女のことを何も知らないのだと思う。
こんなに毎日、彼女だけを見ている僕よりも、彼女を知っている仲間はたくさんいる。
≪ある特定の分野で成功をおさめようとするためには1万時間をかけなければならない———。≫
昔、どこかで読んだ本に、そんなことが書いてあった。
それは約3年は必要ということで、僕が彼女に恋をしてからの月日よりも長い。
だから、仕方ないんだ。
僕が彼女のことを誰よりも知らないのは、仕方のないことだ。
だからこそ僕は、彼女を知りたくて、僕を知ってもらいたくて、彼女ばかり目で追いかけている。
今では僕は、彼女が、同じシガンシナ区出身だっていうことも知っているし、彼女が、故郷が恋しくて仕方なくて、時々、コッソリ泣いてることも知ってる。
彼女の名前は、おばあさんから貰ったもので、とても誇りに思っているのだということも。
でも、僕は知らない。
どんな悲しみを胸に抱えているのか。
それでもどうして、そんなに強くいられるのか。
彼女がどんな夢を見ているのか。
(時々は、僕のこと、想ってくれたりしないかな…。)
いつの間にか雨が止んだのか、楽しそうなたくさんの笑い声が戻って来ていた。
僕は、またノートにペンを走らせる。
そこに残されていくのは、僕が忘れたくない彼女との想い出ばかりだ。
だって、ある特定の分野で成功をおさめるためには1万時間が必要なのだから、僕はなまえさんを誰よりも知るために、こうやって頑張らなきゃいけないんだ。
だから僕は、決意をノートに綴る。
『1万時間と、さらにもう1万時間を費やしたっていい。
もし、彼女の素晴らしくて、愛らしい心を学ぶのにはそれくらい必要だっていうなら。
きっと僕なんかじゃその域にまで達せないんだろう。
手も届かない人だって分かってる。
でも、頑張ってみる価値はある。
もし、1万時間、いいや、残りの人生のすべてを捧げることになったって。
僕は彼女を愛し続けるんだ。』
ノートの上を走っていたペンが、ピタリ、と止まる。
好奇心旺盛だと、昔からよく言われていた。
でも、これほどまでに、僕の心を夢中にさせるのは、海かなまえさんくらいだ。
ペンを置いて、僕は窓の向こうに目を向ける。
珍しく、僕の友人達と話しているなまえさんが、不意に視線を上げた。
ドキリとしたのは、彼女と目が合った気がしてしまったせいだ。
僕はずっと、彼女が大好きだ。
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