独り占めさせて
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺は、CLOSEDという文字に絶望させられた。
彼女が踊るあの酒屋に定休日があるなんて知らなかったのだ。
マルコは、別の店で飲むと言っていたけれど、俺はどうしてもそんな気になれず、行く宛てもなく見慣れない島を彷徨い歩いていた。
そして、気づけば、辿り着いたのは夜の砂浜だった。
海賊の俺は、結局、海へ戻って来てしまうらしい。
ザザザーーー、と静かな音を立てて打ち寄せる波打ち際を歩きながら、俺は、彼女が歌っていた歌を口ずさんでいた。
すると、不意に、俺の口ずさむ歌が、聞き覚えのある澄んだ歌声と重なった。
思わず立ち止まった俺が見つけたのは、波打ち際の大きな岩に腰かけて座る彼女の姿だった。
幻だと、思った。
でも、彼女の美しい歌声が、やっぱり確かに聞こえるのだ。
彼女は、どこか愛おしそうに月を見上げていた。
あぁ、たぶん、俺は頭がおかしいんだと思う。
だって、彼女に見つめられているあの月にすら、嫉妬してしまったのだ。
彼女の綺麗な瞳を、独り占めにしているなんて、許せない———。
「アンタ、歌がうまいな。」
声を掛けると、ピタリ、と彼女の歌声が止んだ。
その瞬間に、俺は声を掛けたことを後悔する。
彼女の唇から零れ落ちる歌にすら嫉妬をしていたくせに、その歌声を聴けなくなるのは、とても残念だった。
「こんばんは、エースさん。」
彼女は俺を見つけると、柔らかく微笑んだ。
その瞬間に、俺は呆気なく、落ちた。
だって、彼女が——。
彼女の唇が————。
「俺の名前、知ってたのか。」
「もちろんですよ。有名な海賊さんですもん。
いつもお店に来てくれて、ありがとうございます。」
彼女がふわりと微笑んだ。
「アンタだけ名前を知ってるのはズルくないか?」
意地悪く言うと、彼女は少しだけ意表を突かれたように目を見開いた後、おかしそうにクスクスと笑った。
「そうですね。ズルいですね。」
「だろ?名前、何て言うんだ?」
彼女の隣に座って訊ねた。
「なまえです。」
「なまえか。いい名前だな。」
「そうですか?」
彼女はやっぱり、おかしそうにクスクスと笑う。
ステージで踊っているときの妖艶な姿とは全く違う、無邪気なその笑みは、俺を釘づけにして、心を奪った。
あぁ、やっぱり、どうしても彼女が欲しい。
「今日も店に行ったんだ。」
「そうだったんですか。週の初めは、定休日なんです。」
「そうみたいだな。
休みの日は、いつもここで歌ってるのか?」
「いいえ。いつもは家でのんびりしてますよ。」
「なら、今日はどうしてこんな遅い時間に、
こんなとこで歌ってたんだ?」
俺は、不思議に思って訊ねた。
月明かりだけが頼りの砂浜は、女が1人で平気で歩きってもいいような場所じゃない。
おかしな男が彼女を見つけてしまったら、もう二度とあの美しい歌声が聞けなくなってしまうところだった。
彼女を見つけたのが俺で、本当によかった。
そんなことを考えていれば、なまえが少しだけはにかみながら、教えてくれた。
「海を眺めながら歌えば、エースさんに聴こえるかなって思ったんです。」
「俺?」
「はい。毎晩、歌を聴きに来てくれていたから。
もしかしたら、歌を聴きたいと思ってくれてるかなと思って。」
「…そんなこと、他の男にもしてるのか。」
俺は、眉を顰めた。
ジリジリと胸が焦げる音がした。
「いいえ、初めてです。」
「それなのに、俺の為に歌ってたのか。
他にも、お前の歌を聴きに来る奴はたくさんいるだろ?」
俺は期待していたんだ。
彼女の答えと、彼女の気持ちに。
「いつもは、皆さんのために歌ってますよ。
でも、今夜は、エースさんの為だけに歌を歌っていました。」
だからとっても高いですよ———。
彼女が冗談めかして笑う。
でも、俺を見つめる彼女の瞳は、熱を帯びていた。
さっきまで、彼女の視線を独り占めしていた月は、今は、俺に嫉妬をしているはずだ。
だって、彼女が見ているのは、俺だから———。
彼女が踊るあの酒屋に定休日があるなんて知らなかったのだ。
マルコは、別の店で飲むと言っていたけれど、俺はどうしてもそんな気になれず、行く宛てもなく見慣れない島を彷徨い歩いていた。
そして、気づけば、辿り着いたのは夜の砂浜だった。
海賊の俺は、結局、海へ戻って来てしまうらしい。
ザザザーーー、と静かな音を立てて打ち寄せる波打ち際を歩きながら、俺は、彼女が歌っていた歌を口ずさんでいた。
すると、不意に、俺の口ずさむ歌が、聞き覚えのある澄んだ歌声と重なった。
思わず立ち止まった俺が見つけたのは、波打ち際の大きな岩に腰かけて座る彼女の姿だった。
幻だと、思った。
でも、彼女の美しい歌声が、やっぱり確かに聞こえるのだ。
彼女は、どこか愛おしそうに月を見上げていた。
あぁ、たぶん、俺は頭がおかしいんだと思う。
だって、彼女に見つめられているあの月にすら、嫉妬してしまったのだ。
彼女の綺麗な瞳を、独り占めにしているなんて、許せない———。
「アンタ、歌がうまいな。」
声を掛けると、ピタリ、と彼女の歌声が止んだ。
その瞬間に、俺は声を掛けたことを後悔する。
彼女の唇から零れ落ちる歌にすら嫉妬をしていたくせに、その歌声を聴けなくなるのは、とても残念だった。
「こんばんは、エースさん。」
彼女は俺を見つけると、柔らかく微笑んだ。
その瞬間に、俺は呆気なく、落ちた。
だって、彼女が——。
彼女の唇が————。
「俺の名前、知ってたのか。」
「もちろんですよ。有名な海賊さんですもん。
いつもお店に来てくれて、ありがとうございます。」
彼女がふわりと微笑んだ。
「アンタだけ名前を知ってるのはズルくないか?」
意地悪く言うと、彼女は少しだけ意表を突かれたように目を見開いた後、おかしそうにクスクスと笑った。
「そうですね。ズルいですね。」
「だろ?名前、何て言うんだ?」
彼女の隣に座って訊ねた。
「なまえです。」
「なまえか。いい名前だな。」
「そうですか?」
彼女はやっぱり、おかしそうにクスクスと笑う。
ステージで踊っているときの妖艶な姿とは全く違う、無邪気なその笑みは、俺を釘づけにして、心を奪った。
あぁ、やっぱり、どうしても彼女が欲しい。
「今日も店に行ったんだ。」
「そうだったんですか。週の初めは、定休日なんです。」
「そうみたいだな。
休みの日は、いつもここで歌ってるのか?」
「いいえ。いつもは家でのんびりしてますよ。」
「なら、今日はどうしてこんな遅い時間に、
こんなとこで歌ってたんだ?」
俺は、不思議に思って訊ねた。
月明かりだけが頼りの砂浜は、女が1人で平気で歩きってもいいような場所じゃない。
おかしな男が彼女を見つけてしまったら、もう二度とあの美しい歌声が聞けなくなってしまうところだった。
彼女を見つけたのが俺で、本当によかった。
そんなことを考えていれば、なまえが少しだけはにかみながら、教えてくれた。
「海を眺めながら歌えば、エースさんに聴こえるかなって思ったんです。」
「俺?」
「はい。毎晩、歌を聴きに来てくれていたから。
もしかしたら、歌を聴きたいと思ってくれてるかなと思って。」
「…そんなこと、他の男にもしてるのか。」
俺は、眉を顰めた。
ジリジリと胸が焦げる音がした。
「いいえ、初めてです。」
「それなのに、俺の為に歌ってたのか。
他にも、お前の歌を聴きに来る奴はたくさんいるだろ?」
俺は期待していたんだ。
彼女の答えと、彼女の気持ちに。
「いつもは、皆さんのために歌ってますよ。
でも、今夜は、エースさんの為だけに歌を歌っていました。」
だからとっても高いですよ———。
彼女が冗談めかして笑う。
でも、俺を見つめる彼女の瞳は、熱を帯びていた。
さっきまで、彼女の視線を独り占めしていた月は、今は、俺に嫉妬をしているはずだ。
だって、彼女が見ているのは、俺だから———。