◇No.39◇幾千の愛が降る夜
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白い翼の生えたなまえが、ローを連れて来たのは、ポーラータング号のマストの頂上でした。
並んで腰を降ろした2人の足元で、海賊旗が、冷たい夜の風にハタハタと揺れています。
「大好きな人は、見えましたか?」
なまえに訊ねられて、ローは夜空を見上げました。
相変わらず、星は遠く、どんなに必死に手を伸ばしたところで届きそうにはありません。
どこに、コラソンがいるのかも分からないままです。
ですが———。
ローは、隣に座るなまえの方を向きました。
返事を待っていたらしいなまえと視線が重なります。
夜の風が、なまえの綺麗な髪と長い睫毛を靡かせていました。
夜の闇の中で白く透き通る肌は、まるで夜空に輝く星のようでした。
「あぁ、見えてる。」
「それならよかったです。」
なまえが満足そうに言いました。
ローは小さくクスリと笑って、また夜空を見上げました。
海賊なんていつ死ぬか分からない生業につきつつも、この世になんとかとどまっている自分には、コラソンの姿は見えません。
ですが、高い夜空から見下ろす彼には、この姿が見えているのでしょう。
遮るものがなにもない今は、きっといつもよりも見えやすいはずです。
一体、彼には、今の自分はどんな風に映っているのだろう——。
ふ、とそんなことを考えていたローの身体を、冷たい夜風が撫でて逃げて行きます。
思わず身震いをしたローは、上着を取りに戻らなかったことを、ここにきて本気で後悔しました。
寒さに震えたのをなまえも気づいたようでした。
「寒いですか?」
「少しな。これくらいなんてことねぇ。」
ローの強がりを、なまえが見抜いたのかどうかは分かりません。
恐らく、機械の彼女には、人間の強がりも、その理由も、理解は出来ないのでしょう。
だからきっと、なまえなりに考えて、起こした行動だったはずです。
彼女は、強がったローの身体を、左腕越しに抱きしめたのです。
抱きしめたというよりも、華奢なその身体では、抱き着いた———と表現する方がしっくりくるかもしれません。
ですが、彼女なりに、ローを抱きしめてやったつもりでした。
突然のそれに驚いたローに、彼女が言います。
「コートは私のなので貸せません。
これでいいですか?」
なまえに訊ねられて、ローは、抱きしめられた理由を理解しました。
確かに、ふわりと包んだ彼女の高い体温が、凍えていたローの身体をじんわりと温めています。
「よくねぇ。」
ローが意地悪く言うと、なまえは目線を下げました。
自分が着ているコートを見下ろしたようです。
お気に入りのコートを脱いで、大好きなローに貸してあげるか——。
でもこれは、私のコートだ———。
きっと、彼女なりに葛藤しているのでしょう。そんな彼女の声が聞こえてきそうでした。
ですが、ローが欲しかったのは、彼女が着ている暖かそうなコートではありません。
ローは、なまえの顎に手を添えると、そっと上を向かせました。
外れた視線がまた絡みます。
お互いの瞳の中に、自分を見つめる瞳を見つけます。
「暖まるには、こっちだと教えたはずだ。」
ローは、そう言って、唇を近づけながら言います。
ゆっくりと閉じていく瞼の向こうで、なまえがそっと目を閉じたのが、最後に見えました。
柔らかくて温かい感触がローの唇に触れて、そこから、頭の先からつま先、果てには心まで、温まっていくようでした。
一度、そっと唇を離したローは、何も言わずに、愛おしそうになまえの髪を撫でました。
ローの身体を抱きしめたまま、なまえが訊ねます。
「暖まりましたか?」
「いや、まだ…。」
どこか、心ここにあらずで言って、ローはなまえの唇に、もう一度自分の唇を重ねました。
なまえの腰を抱き寄せると、角度を変えては、何度も触れるだけのキスを繰り返します。
冷たい風は、諦めずに、ローの身体を撫でては凍えさせようとしていました。
夜空には、数えきれない星が輝いています。
そのどこにコラソンがいるのか、ローにも、なまえにも、この世の誰にも分かりません。
ですが今夜、幾千の星を降らすような絶え間ないキスが、ローの心を温めます。
コラソンの誕生日はいつも、ローが孤独を思い知る日でした。
ですが今夜、この世で、自分が一番、孤独から遠い場所にいるような、そんな錯覚をしてしまいそうでした。
少なくとも今夜は、彼がこの世から去って初めて、ローが寂しさを忘れて過ごせた夜だったのです。
『愛してるぜ!!』
遠い空の上から、懐かしいコラソンの声が、聞こえた気がしました。
並んで腰を降ろした2人の足元で、海賊旗が、冷たい夜の風にハタハタと揺れています。
「大好きな人は、見えましたか?」
なまえに訊ねられて、ローは夜空を見上げました。
相変わらず、星は遠く、どんなに必死に手を伸ばしたところで届きそうにはありません。
どこに、コラソンがいるのかも分からないままです。
ですが———。
ローは、隣に座るなまえの方を向きました。
返事を待っていたらしいなまえと視線が重なります。
夜の風が、なまえの綺麗な髪と長い睫毛を靡かせていました。
夜の闇の中で白く透き通る肌は、まるで夜空に輝く星のようでした。
「あぁ、見えてる。」
「それならよかったです。」
なまえが満足そうに言いました。
ローは小さくクスリと笑って、また夜空を見上げました。
海賊なんていつ死ぬか分からない生業につきつつも、この世になんとかとどまっている自分には、コラソンの姿は見えません。
ですが、高い夜空から見下ろす彼には、この姿が見えているのでしょう。
遮るものがなにもない今は、きっといつもよりも見えやすいはずです。
一体、彼には、今の自分はどんな風に映っているのだろう——。
ふ、とそんなことを考えていたローの身体を、冷たい夜風が撫でて逃げて行きます。
思わず身震いをしたローは、上着を取りに戻らなかったことを、ここにきて本気で後悔しました。
寒さに震えたのをなまえも気づいたようでした。
「寒いですか?」
「少しな。これくらいなんてことねぇ。」
ローの強がりを、なまえが見抜いたのかどうかは分かりません。
恐らく、機械の彼女には、人間の強がりも、その理由も、理解は出来ないのでしょう。
だからきっと、なまえなりに考えて、起こした行動だったはずです。
彼女は、強がったローの身体を、左腕越しに抱きしめたのです。
抱きしめたというよりも、華奢なその身体では、抱き着いた———と表現する方がしっくりくるかもしれません。
ですが、彼女なりに、ローを抱きしめてやったつもりでした。
突然のそれに驚いたローに、彼女が言います。
「コートは私のなので貸せません。
これでいいですか?」
なまえに訊ねられて、ローは、抱きしめられた理由を理解しました。
確かに、ふわりと包んだ彼女の高い体温が、凍えていたローの身体をじんわりと温めています。
「よくねぇ。」
ローが意地悪く言うと、なまえは目線を下げました。
自分が着ているコートを見下ろしたようです。
お気に入りのコートを脱いで、大好きなローに貸してあげるか——。
でもこれは、私のコートだ———。
きっと、彼女なりに葛藤しているのでしょう。そんな彼女の声が聞こえてきそうでした。
ですが、ローが欲しかったのは、彼女が着ている暖かそうなコートではありません。
ローは、なまえの顎に手を添えると、そっと上を向かせました。
外れた視線がまた絡みます。
お互いの瞳の中に、自分を見つめる瞳を見つけます。
「暖まるには、こっちだと教えたはずだ。」
ローは、そう言って、唇を近づけながら言います。
ゆっくりと閉じていく瞼の向こうで、なまえがそっと目を閉じたのが、最後に見えました。
柔らかくて温かい感触がローの唇に触れて、そこから、頭の先からつま先、果てには心まで、温まっていくようでした。
一度、そっと唇を離したローは、何も言わずに、愛おしそうになまえの髪を撫でました。
ローの身体を抱きしめたまま、なまえが訊ねます。
「暖まりましたか?」
「いや、まだ…。」
どこか、心ここにあらずで言って、ローはなまえの唇に、もう一度自分の唇を重ねました。
なまえの腰を抱き寄せると、角度を変えては、何度も触れるだけのキスを繰り返します。
冷たい風は、諦めずに、ローの身体を撫でては凍えさせようとしていました。
夜空には、数えきれない星が輝いています。
そのどこにコラソンがいるのか、ローにも、なまえにも、この世の誰にも分かりません。
ですが今夜、幾千の星を降らすような絶え間ないキスが、ローの心を温めます。
コラソンの誕生日はいつも、ローが孤独を思い知る日でした。
ですが今夜、この世で、自分が一番、孤独から遠い場所にいるような、そんな錯覚をしてしまいそうでした。
少なくとも今夜は、彼がこの世から去って初めて、ローが寂しさを忘れて過ごせた夜だったのです。
『愛してるぜ!!』
遠い空の上から、懐かしいコラソンの声が、聞こえた気がしました。