◇No.30◇これは私のコートです
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セレブ街の端にある小さなモーテルの一室、今からここが、ガリーナの調査部屋に代わります。
ガリーナの調査方法は、単純で簡単で、そして、とても彼女らしいやり方でした。
女の武器をめいっぱい使って、甘い夜の中で馬鹿な男をお喋りにさせるのです。
彼女に目をつけられたのは、山のふもとにある廃村の田舎者の若い男でした。
名前も聞いたはずですが、初めから覚える気のないガリーナは、もう覚えていません。
ターゲットの男をハートの海賊団の誰かにしようかとも考えたガリーナですが、すぐにやめました。
新聞の文字を読むだけで眉を顰めるような大事件を起こす彼らは、仲間意識だけは強く、絶対に仲間を裏切らないことを知っていたからです。
部屋に入った途端に勢いよくベッドに押し倒し、今にもコトに及ぼうとしている鼻息の荒い若い男の口をガリーナの手がそっと塞ぎます。
「まずはお喋りしましょうよ。あなたのことが知りたいわ。」
眉尻を下げて甘えるように言えば、男はまるでとろけるように鼻の下と頬を伸ばします。
「いいよ。そうしようか。俺達、出逢ったばかりだもんね。」
鼻の下が伸びきったままで言って、若い男はガリーナの背中に手をまわしそっと抱き起しました。
そして、ベッドの縁に並んで座ってお喋りを始めます。
年齢や好きな食べ物、当たり障りない話をした後、ガリーナはさりげなく本題を切り込みました。
「私、あなたが綺麗な人と一緒にいるのを見たことがあるわ。
恋人なんじゃないかなって、とても気になってたの。」
ガリーナは、若い男の腕に自分の腕を絡めて、胸を押しつけながら不安そうに言いました。
簡単に騙されて勘違いをした男は、早口で言い訳を捲し立てます。
「なまえちゃんのこと?まさか!!ありえないよ!!
だって、彼女はロボットなんだから!!」
「は?」
何言ってんだコイツ、言い訳が下手にもほどがある—。
思いも寄らない男の発言に、ガリーナは思わず素を漏らしてしまいました。
ですが、男は、そのガリーナの反応に嬉しそうな表情を浮かべました。
「ビックリだろう?詳しくは教えてもらえなかったけど、
彼女は高性能のロボットらしいんだ。それで、俺達の町が燃やされたときも助けてくれたんだよ。
どんなマグマにだって耐えられるらしくてね、それで——。」
男は、まるで自分の自慢話のように、なまえがもうすでに死んでいた廃村を火の海から救ったときの武勇伝を語り出しました。
どう見ても人間のなまえがロボットだなんて、とても信じられない話ではありましたが、男が下手な言い訳をしているというわけでもなさそうでした。
それに、山のふもとの田舎町に火を放つ計画ならば、グロスが海賊達としているのを聞いたことがあります。
半信半疑ではありましたが、ガリーナは、彼の話は嘘ではないのだろうと思っていました。
あんな若く華奢な女をローが船員にするのなら、どんなマグマにも耐えられる高性能のロボットだったから、という理由があった方がしっくりくるのも事実だったからです。
「へぇ、あの子、そんなに強いんだ。すごいね。」
「あぁ!本当だよ!!彼女は、うちの悪ガキのために自分が壊れるかもしれないのに
炎が燃え盛る家に飛び込んで行ってくれたんだから!!
彼女には、絶対に足を向けて眠れないね!俺達の命の恩人さ!」
「まるで無敵のスーパーマンね。
マグマにも耐えられちゃうなら、弱点とかもなさそう。」
「それがさ、あるんだよ。弱点!」
うまく誘導されていることも知らず、男は自慢気に指をパチンッと鳴らしました。
「彼女は無敵みたいだけど、無敵じゃないんだよ。
水が弱点なんだ。」
「水?」
「水を浴びてしまうと電子回路がショートして動かなくなってしまうんだって。
そういうのを聞くと、本当にロボットなんだなって思うよ。」
男は可笑しそうに言いながら、頬の辺りを掻きました。
そして、水に濡れないようにするために、雨の日には外に出るのを禁止されているということも教えてくれました。
それは、とても良いことを聞きました。
だって—。
「へぇ、そうなんだ。
知ってる?明日は、お昼から土砂降りだって天気予報で言ってのよ。」
ガリーナは、そう言いながら、窓の外へ視線を這わせました。
男が「そうなんだ。嫌だね。」と残念そうに言います。
ですが、ガリーナの耳には半分も入っていません。
明日の計画が頭の中で組み立てられていくのが、楽しくて仕方がないのです。
「それじゃ、そろそろ…、もういいかな?」
男が、ガリーナの両肩にそっと手を添えて優しく押し倒そうとします。
「やめてよ。貧乏人が、汚い手で気安く触んないで。」
ガリーナは、冷めた目で男を見やり、肩に触れていた手を振りほどきました。
急に態度を変えたガリーナに驚く男を無視し、ガリーナはモーテルを出ると、顔を上げて空を見上げました。
分厚い雲が南の空から流れてきています。
明日はきっと、天気予報通り、土砂降りになるのでしょう。
ガリーナは、勝利を確信していました。
いつだって、欲しいものを手に入れるのは、自分だったのです。
この世で最も欲しいものを目の前にして、負けるわけには行きません。
明日、ガリーナは、毛皮のコートとローを手に入れるつもりです。
必ず——。
ガリーナの調査方法は、単純で簡単で、そして、とても彼女らしいやり方でした。
女の武器をめいっぱい使って、甘い夜の中で馬鹿な男をお喋りにさせるのです。
彼女に目をつけられたのは、山のふもとにある廃村の田舎者の若い男でした。
名前も聞いたはずですが、初めから覚える気のないガリーナは、もう覚えていません。
ターゲットの男をハートの海賊団の誰かにしようかとも考えたガリーナですが、すぐにやめました。
新聞の文字を読むだけで眉を顰めるような大事件を起こす彼らは、仲間意識だけは強く、絶対に仲間を裏切らないことを知っていたからです。
部屋に入った途端に勢いよくベッドに押し倒し、今にもコトに及ぼうとしている鼻息の荒い若い男の口をガリーナの手がそっと塞ぎます。
「まずはお喋りしましょうよ。あなたのことが知りたいわ。」
眉尻を下げて甘えるように言えば、男はまるでとろけるように鼻の下と頬を伸ばします。
「いいよ。そうしようか。俺達、出逢ったばかりだもんね。」
鼻の下が伸びきったままで言って、若い男はガリーナの背中に手をまわしそっと抱き起しました。
そして、ベッドの縁に並んで座ってお喋りを始めます。
年齢や好きな食べ物、当たり障りない話をした後、ガリーナはさりげなく本題を切り込みました。
「私、あなたが綺麗な人と一緒にいるのを見たことがあるわ。
恋人なんじゃないかなって、とても気になってたの。」
ガリーナは、若い男の腕に自分の腕を絡めて、胸を押しつけながら不安そうに言いました。
簡単に騙されて勘違いをした男は、早口で言い訳を捲し立てます。
「なまえちゃんのこと?まさか!!ありえないよ!!
だって、彼女はロボットなんだから!!」
「は?」
何言ってんだコイツ、言い訳が下手にもほどがある—。
思いも寄らない男の発言に、ガリーナは思わず素を漏らしてしまいました。
ですが、男は、そのガリーナの反応に嬉しそうな表情を浮かべました。
「ビックリだろう?詳しくは教えてもらえなかったけど、
彼女は高性能のロボットらしいんだ。それで、俺達の町が燃やされたときも助けてくれたんだよ。
どんなマグマにだって耐えられるらしくてね、それで——。」
男は、まるで自分の自慢話のように、なまえがもうすでに死んでいた廃村を火の海から救ったときの武勇伝を語り出しました。
どう見ても人間のなまえがロボットだなんて、とても信じられない話ではありましたが、男が下手な言い訳をしているというわけでもなさそうでした。
それに、山のふもとの田舎町に火を放つ計画ならば、グロスが海賊達としているのを聞いたことがあります。
半信半疑ではありましたが、ガリーナは、彼の話は嘘ではないのだろうと思っていました。
あんな若く華奢な女をローが船員にするのなら、どんなマグマにも耐えられる高性能のロボットだったから、という理由があった方がしっくりくるのも事実だったからです。
「へぇ、あの子、そんなに強いんだ。すごいね。」
「あぁ!本当だよ!!彼女は、うちの悪ガキのために自分が壊れるかもしれないのに
炎が燃え盛る家に飛び込んで行ってくれたんだから!!
彼女には、絶対に足を向けて眠れないね!俺達の命の恩人さ!」
「まるで無敵のスーパーマンね。
マグマにも耐えられちゃうなら、弱点とかもなさそう。」
「それがさ、あるんだよ。弱点!」
うまく誘導されていることも知らず、男は自慢気に指をパチンッと鳴らしました。
「彼女は無敵みたいだけど、無敵じゃないんだよ。
水が弱点なんだ。」
「水?」
「水を浴びてしまうと電子回路がショートして動かなくなってしまうんだって。
そういうのを聞くと、本当にロボットなんだなって思うよ。」
男は可笑しそうに言いながら、頬の辺りを掻きました。
そして、水に濡れないようにするために、雨の日には外に出るのを禁止されているということも教えてくれました。
それは、とても良いことを聞きました。
だって—。
「へぇ、そうなんだ。
知ってる?明日は、お昼から土砂降りだって天気予報で言ってのよ。」
ガリーナは、そう言いながら、窓の外へ視線を這わせました。
男が「そうなんだ。嫌だね。」と残念そうに言います。
ですが、ガリーナの耳には半分も入っていません。
明日の計画が頭の中で組み立てられていくのが、楽しくて仕方がないのです。
「それじゃ、そろそろ…、もういいかな?」
男が、ガリーナの両肩にそっと手を添えて優しく押し倒そうとします。
「やめてよ。貧乏人が、汚い手で気安く触んないで。」
ガリーナは、冷めた目で男を見やり、肩に触れていた手を振りほどきました。
急に態度を変えたガリーナに驚く男を無視し、ガリーナはモーテルを出ると、顔を上げて空を見上げました。
分厚い雲が南の空から流れてきています。
明日はきっと、天気予報通り、土砂降りになるのでしょう。
ガリーナは、勝利を確信していました。
いつだって、欲しいものを手に入れるのは、自分だったのです。
この世で最も欲しいものを目の前にして、負けるわけには行きません。
明日、ガリーナは、毛皮のコートとローを手に入れるつもりです。
必ず——。