◇No.30◇これは私のコートです
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ガリーナは、着飾る貴婦人ばかりのセレブ街中に目を光らせて歩いていました。
絶対にあの毛皮のコートを見つけ出すつもりです。
欲しいものは、どんな手段でも手に入れるのが、ガリーナ流なのです。
だから、毛皮のコートを手に入れた後は、あのダサい女からローも奪い返す気でいました。
どう考えても自分の方が魅力的だし、ローの隣が似合うと、ガリーナには揺るぎない自信があったのです。
それは、過去の経験上、自惚れなんかなはずはありませんでした。
(絶対に私のものにするんだから!)
あの毛皮のコートは、普通の金持ちで買えるような値段ではないことはガリーナも理解していました。
ですから、超金持ちが来るのはカジノに決まっている、と考えてセレブ街の中心にデンと構えている巨大カジノへやって来たのです。
そしてすぐに、ガリーナは毛皮のコートを着ている女を見つけました。
「見~つけた。」
ガリーナは、ねっとりとした声をわざとらしく踊らせました。
毛皮のコートを着ている女は、カジノの中には入らずに入口近くの大きな噴水のそばに立っていました。
まるで花火のように水を噴き出す噴水には、口から水を流すライオンの置物が幾つも置かれています。
とてもド派手なその噴水のそばに立っていても、あの毛皮のコートは、それにも負けない存在感を放っていました。
さすが、世界的なデザイナーが集結して作った世界に7点しかない毛皮のコートです。
他人のものになってしまった途端に、もっと欲しくなった毛皮のコートが、もっともっと欲しくなりました。
それこそ、どんなに恐ろしい手段を使ってでも手に入れて見せると自分に誓うほどには、絶対に手に入れるつもりです。
ガリーナは、毛皮のコートを着ている女に近寄りました。
女は背中を向けていて、顔は見えません。
でも、顔が見えようが見えまいが、関係ありません。
服というのは、着る人を選びます。
そして、どんな服だって、世界で一番可愛い自分に着て欲しいに決まっているというのがガリーナの持論でした。
間違っているつもりもありません。
「ねぇ、あなた。」
ガリーナは、毛皮のコートを着ている女に声をかけ、肩に手を乗せました。
長い毛は柔らかくて、フワフワです。
きっと着心地も最高なのでしょう。
「はい、何ですか?」
毛皮のコートを着た女が振り返りました。
ガリーナは、とても驚きました。
振り返ったその女は、昨日、自分のことを『ローの大好きな人』だとふざけたことを言ったあの若い女でした。
「どういうことよ!?なんで、アンタがそのコートを着てんのよ!?」
ガリーナは、思わず怒鳴りました。
許せませんでした。
自分は、その毛皮のコートが欲しくて欲しくて、必死に街を歩き回っていていたというのに、その間、大嫌いなこの若い女が毛皮のコートを着ていたなんて、許せるわけがありませんでした。
「私のコートだからです。」
若い女は平然と答えます。
それがまた、ガリーナの怒りを買いました。
女の両肩を掴むと、強引に前後に揺さぶりながら怒鳴りつけます。
「だから、なんでアンタのコートになってんのよ!?
そのダッサいセーターとロングスカートに、そのコートが似合ってるとでも思ってんの!?
ふっざけんじゃないわよ!!」
「これは、ローが買ってくれました。
なので、私のものになりました。」
「・・・・・は!?」
ガリーナは、驚きと怒りで頭がおかしくなりそうでした。
確かにローは、欲しいと言えば、なんでも買ってくれました。
でも、どうして、普通には買えないようなありえない値段のするコートを、自分ではなくて目の前の女に買ってやったのか。
自分は、高すぎるからとグロスに買ってもらえなかったのに——。
まるで、自分の市場価値は、彼女よりも下だと言われているようで、屈辱的でした。
「とにかく、脱ぎなさいよ!!ローが買ったなら、それは私のコートよ!!」
「ダメです。これは、ローが私に買ってくれました。
大事にしろと言われたので、あなたにはあげられません。」
「うっさいわね!!これは私の!!絶対に私の!!
ローだって私のものなんだから!!」
「このコートは、ローが私に買ってくれました。私のものだと言われました。
そして、ローはものではないので、あなたのものでもありません。」
ガリーナは、女の髪やコートに掴みかかりながら、喚き散らしました。
ですが、彼女は、小さな子供がじゃれているくらいにしか思っていないような涼しい顔で、平然と言い返してきます。
熱くなっているのは自分だけだというのが、まるで馬鹿にされているようで、ガリーナの腸は煮えくり返りそうでした。
「調子に乗るんじゃないわよ!!」
ガリーナが右手を振り上げました。
頬でもぶっておかなければ、この怒りはおさまらなかったのです。
いいえ、頬をぶったところで、沸騰しきった怒りがおさまるとは思えませんでしたが、それくらいしないと気が済まなかったのです。
ですが——。
「おっと~。そこまでなー。」
振り落とそうとした右手の手首を、誰かに掴まれました。
その瞬間に、ガリーナの右腕はピクリとも動かなくなりました。
右斜め後ろから聞こえてきた男の声は、とても軽い言い方だったのに、手首を掴んだ手は、手加減を忘れたみたいに力づくで握りしめています。
このまま手首が千切れてしまいそうな痛みに、ガリーナは悲鳴を上げてしまいそうでした。
でも、大嫌いな女の前で弱いところは絶対に見せたくないというプライドでなんとか堪えます。
それでも、痛みに顔を歪め、ガリーナは、首だけを動かして右斜め後ろを見ました。
(やっぱり。)
PENGUINと描かれた帽子の下から覗く切れ長の目でガリーナを冷たく見下ろしていたのは、ハートの海賊団の幹部で、ローの右腕であるペンギンでした。
声を覚えていたわけではありませんでしたが、目の前の女がローと一緒にいたことを考えれば、彼女を守るように自分の手を掴んできたのが誰かなんて、考えるのも簡単すぎました。
ペンギンの後ろには、あの頃と変わらず、シャチとベポも一緒でした。
相変わらず、2人と1匹は一緒にいるようです。
でも、こうして、ローの右腕まで出て来て守られる姿まで目の当たりにしてしまうと、目の前の女がハートの海賊団の海賊達にお姫様のように扱われているようで、さらに腹も立ちます。
「あれ?お前、どっかで見たことある顔だな…。誰だっけ?
ペンギンは分かるか?」
「さぁ、知るか。」
「えー、どっかで見たことあると思うんだけどな~。」
シャチが、ガリーナの顔を覗き込んで首を傾げました。
自分は顔と名前を憶えているのに、どうでもいい男に自分が忘れられているというのは、ガリーナの高いプライドが許しません。
最低な屈辱でした。
「なまえ~っ!大丈夫だった!?
なんで、人間のメスに殴られそうになってたんだ!?」
ベポが心配そうに言って、女を抱きしめました。
白い熊の毛並みに毛皮のコートが埋もれると、まるで熊同士がじゃれ合っているみたいです。
大きな腕に抱きしめられたまま、女は首を傾げながら口を開きました。
「分かりません。ベポ達が来るのを待っていたら、
彼女からこのコートはどうしたのかと聞かれたので、
ローに買ってもらったと答えました。そしたら、怒られました。」
「コート?」
ベポが首を傾げました。
「は…っ、なしてよ…!!」
ガリーナが、強引に腕を振りほどこうとして怒鳴ると、ペンギンはあっさり手を離しました。
なまえと呼ばれた女は、ベポが抱きしめているからもう大丈夫だと判断したのでしょう。
それもまた、ガリーナを腹立たしくさせました。
「まぁ、なんでもいいけど。俺達の仲間に手を出したら、
女でもただじゃおかねぇからな。覚えてろよ。」
ペンギンが、ガリーナを見下ろして言いました。
ですが、ガリーナはピクリと片眉を上げます。
だって今、ペンギンは、この女のことを、キャプテンの恋人だとか女とかではなく、『仲間』だと呼んだのです。
「素敵なコートを着てたから少しからかっただけよ。
もしかして、そんなに華奢な彼女も海賊さんなの?」
ガリーナは、少し上目遣いで困ったように眉をハの字に曲げました。
伊達に最悪の世代の海賊の船で長年航海をしてきたわけではないペンギン達には、ガリーナの誤魔化しが効くわけがありませんでした。
そんなことは百も承知です。
ガリーナの目的は、もっと他のところにありました。
「なまえは俺達の仲間だ!俺の後輩なんだ!!」
ベポが威張ったように言いました。
ペンギンとシャチも、それを否定することはしませんし、他に説明を付け加える素振りもありません。
普通の船員なら、わざわざ、船長の恋人だと教えることはしないかもしれませんが、正直なベポや空気を読まないシャチなら口を滑らせそうです。
それがないということは、本当に、彼女は“ただの”ハートの海賊団の船員に過ぎないのでしょう。
ローの大好きな人、なんて大嘘だったか、もしくは彼女の大きな勘違いだったということです。
「へぇ~、そうなんだ。」
仲間同士で帰っていく背中を眺めながら、ガリーナは顎を擦り、口の端をニヤリと上げました。
欲しいものは、どんな手段を使っても手に入れるのがガリーナの生き方でした。
そして今、ガリーナが一番欲しいのはあの毛皮のコートで、人生で最も欲しいのが、ローです。
(待っててね、ロー。)
ガリーナは、自分を抱きしめるローを想い、恍惚の笑みを浮かべました。
絶対にあの毛皮のコートを見つけ出すつもりです。
欲しいものは、どんな手段でも手に入れるのが、ガリーナ流なのです。
だから、毛皮のコートを手に入れた後は、あのダサい女からローも奪い返す気でいました。
どう考えても自分の方が魅力的だし、ローの隣が似合うと、ガリーナには揺るぎない自信があったのです。
それは、過去の経験上、自惚れなんかなはずはありませんでした。
(絶対に私のものにするんだから!)
あの毛皮のコートは、普通の金持ちで買えるような値段ではないことはガリーナも理解していました。
ですから、超金持ちが来るのはカジノに決まっている、と考えてセレブ街の中心にデンと構えている巨大カジノへやって来たのです。
そしてすぐに、ガリーナは毛皮のコートを着ている女を見つけました。
「見~つけた。」
ガリーナは、ねっとりとした声をわざとらしく踊らせました。
毛皮のコートを着ている女は、カジノの中には入らずに入口近くの大きな噴水のそばに立っていました。
まるで花火のように水を噴き出す噴水には、口から水を流すライオンの置物が幾つも置かれています。
とてもド派手なその噴水のそばに立っていても、あの毛皮のコートは、それにも負けない存在感を放っていました。
さすが、世界的なデザイナーが集結して作った世界に7点しかない毛皮のコートです。
他人のものになってしまった途端に、もっと欲しくなった毛皮のコートが、もっともっと欲しくなりました。
それこそ、どんなに恐ろしい手段を使ってでも手に入れて見せると自分に誓うほどには、絶対に手に入れるつもりです。
ガリーナは、毛皮のコートを着ている女に近寄りました。
女は背中を向けていて、顔は見えません。
でも、顔が見えようが見えまいが、関係ありません。
服というのは、着る人を選びます。
そして、どんな服だって、世界で一番可愛い自分に着て欲しいに決まっているというのがガリーナの持論でした。
間違っているつもりもありません。
「ねぇ、あなた。」
ガリーナは、毛皮のコートを着ている女に声をかけ、肩に手を乗せました。
長い毛は柔らかくて、フワフワです。
きっと着心地も最高なのでしょう。
「はい、何ですか?」
毛皮のコートを着た女が振り返りました。
ガリーナは、とても驚きました。
振り返ったその女は、昨日、自分のことを『ローの大好きな人』だとふざけたことを言ったあの若い女でした。
「どういうことよ!?なんで、アンタがそのコートを着てんのよ!?」
ガリーナは、思わず怒鳴りました。
許せませんでした。
自分は、その毛皮のコートが欲しくて欲しくて、必死に街を歩き回っていていたというのに、その間、大嫌いなこの若い女が毛皮のコートを着ていたなんて、許せるわけがありませんでした。
「私のコートだからです。」
若い女は平然と答えます。
それがまた、ガリーナの怒りを買いました。
女の両肩を掴むと、強引に前後に揺さぶりながら怒鳴りつけます。
「だから、なんでアンタのコートになってんのよ!?
そのダッサいセーターとロングスカートに、そのコートが似合ってるとでも思ってんの!?
ふっざけんじゃないわよ!!」
「これは、ローが買ってくれました。
なので、私のものになりました。」
「・・・・・は!?」
ガリーナは、驚きと怒りで頭がおかしくなりそうでした。
確かにローは、欲しいと言えば、なんでも買ってくれました。
でも、どうして、普通には買えないようなありえない値段のするコートを、自分ではなくて目の前の女に買ってやったのか。
自分は、高すぎるからとグロスに買ってもらえなかったのに——。
まるで、自分の市場価値は、彼女よりも下だと言われているようで、屈辱的でした。
「とにかく、脱ぎなさいよ!!ローが買ったなら、それは私のコートよ!!」
「ダメです。これは、ローが私に買ってくれました。
大事にしろと言われたので、あなたにはあげられません。」
「うっさいわね!!これは私の!!絶対に私の!!
ローだって私のものなんだから!!」
「このコートは、ローが私に買ってくれました。私のものだと言われました。
そして、ローはものではないので、あなたのものでもありません。」
ガリーナは、女の髪やコートに掴みかかりながら、喚き散らしました。
ですが、彼女は、小さな子供がじゃれているくらいにしか思っていないような涼しい顔で、平然と言い返してきます。
熱くなっているのは自分だけだというのが、まるで馬鹿にされているようで、ガリーナの腸は煮えくり返りそうでした。
「調子に乗るんじゃないわよ!!」
ガリーナが右手を振り上げました。
頬でもぶっておかなければ、この怒りはおさまらなかったのです。
いいえ、頬をぶったところで、沸騰しきった怒りがおさまるとは思えませんでしたが、それくらいしないと気が済まなかったのです。
ですが——。
「おっと~。そこまでなー。」
振り落とそうとした右手の手首を、誰かに掴まれました。
その瞬間に、ガリーナの右腕はピクリとも動かなくなりました。
右斜め後ろから聞こえてきた男の声は、とても軽い言い方だったのに、手首を掴んだ手は、手加減を忘れたみたいに力づくで握りしめています。
このまま手首が千切れてしまいそうな痛みに、ガリーナは悲鳴を上げてしまいそうでした。
でも、大嫌いな女の前で弱いところは絶対に見せたくないというプライドでなんとか堪えます。
それでも、痛みに顔を歪め、ガリーナは、首だけを動かして右斜め後ろを見ました。
(やっぱり。)
PENGUINと描かれた帽子の下から覗く切れ長の目でガリーナを冷たく見下ろしていたのは、ハートの海賊団の幹部で、ローの右腕であるペンギンでした。
声を覚えていたわけではありませんでしたが、目の前の女がローと一緒にいたことを考えれば、彼女を守るように自分の手を掴んできたのが誰かなんて、考えるのも簡単すぎました。
ペンギンの後ろには、あの頃と変わらず、シャチとベポも一緒でした。
相変わらず、2人と1匹は一緒にいるようです。
でも、こうして、ローの右腕まで出て来て守られる姿まで目の当たりにしてしまうと、目の前の女がハートの海賊団の海賊達にお姫様のように扱われているようで、さらに腹も立ちます。
「あれ?お前、どっかで見たことある顔だな…。誰だっけ?
ペンギンは分かるか?」
「さぁ、知るか。」
「えー、どっかで見たことあると思うんだけどな~。」
シャチが、ガリーナの顔を覗き込んで首を傾げました。
自分は顔と名前を憶えているのに、どうでもいい男に自分が忘れられているというのは、ガリーナの高いプライドが許しません。
最低な屈辱でした。
「なまえ~っ!大丈夫だった!?
なんで、人間のメスに殴られそうになってたんだ!?」
ベポが心配そうに言って、女を抱きしめました。
白い熊の毛並みに毛皮のコートが埋もれると、まるで熊同士がじゃれ合っているみたいです。
大きな腕に抱きしめられたまま、女は首を傾げながら口を開きました。
「分かりません。ベポ達が来るのを待っていたら、
彼女からこのコートはどうしたのかと聞かれたので、
ローに買ってもらったと答えました。そしたら、怒られました。」
「コート?」
ベポが首を傾げました。
「は…っ、なしてよ…!!」
ガリーナが、強引に腕を振りほどこうとして怒鳴ると、ペンギンはあっさり手を離しました。
なまえと呼ばれた女は、ベポが抱きしめているからもう大丈夫だと判断したのでしょう。
それもまた、ガリーナを腹立たしくさせました。
「まぁ、なんでもいいけど。俺達の仲間に手を出したら、
女でもただじゃおかねぇからな。覚えてろよ。」
ペンギンが、ガリーナを見下ろして言いました。
ですが、ガリーナはピクリと片眉を上げます。
だって今、ペンギンは、この女のことを、キャプテンの恋人だとか女とかではなく、『仲間』だと呼んだのです。
「素敵なコートを着てたから少しからかっただけよ。
もしかして、そんなに華奢な彼女も海賊さんなの?」
ガリーナは、少し上目遣いで困ったように眉をハの字に曲げました。
伊達に最悪の世代の海賊の船で長年航海をしてきたわけではないペンギン達には、ガリーナの誤魔化しが効くわけがありませんでした。
そんなことは百も承知です。
ガリーナの目的は、もっと他のところにありました。
「なまえは俺達の仲間だ!俺の後輩なんだ!!」
ベポが威張ったように言いました。
ペンギンとシャチも、それを否定することはしませんし、他に説明を付け加える素振りもありません。
普通の船員なら、わざわざ、船長の恋人だと教えることはしないかもしれませんが、正直なベポや空気を読まないシャチなら口を滑らせそうです。
それがないということは、本当に、彼女は“ただの”ハートの海賊団の船員に過ぎないのでしょう。
ローの大好きな人、なんて大嘘だったか、もしくは彼女の大きな勘違いだったということです。
「へぇ~、そうなんだ。」
仲間同士で帰っていく背中を眺めながら、ガリーナは顎を擦り、口の端をニヤリと上げました。
欲しいものは、どんな手段を使っても手に入れるのがガリーナの生き方でした。
そして今、ガリーナが一番欲しいのはあの毛皮のコートで、人生で最も欲しいのが、ローです。
(待っててね、ロー。)
ガリーナは、自分を抱きしめるローを想い、恍惚の笑みを浮かべました。