◇No.29◇逃げるのはまだ早いです
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大事な話があるとローが言うと、カルラはすぐに頷きました。
家から飛び出そうとしていた夫婦も、昨日、自分達を命懸けで助けてくれた彼らを無下に出来ないと思ったのか、半信半疑そうではありましたが、一緒に空き家に戻ることを決めてくれました。
「昨日は本当にありがとうございました。
どうぞ。何も、おもてなしは出来ませんが…。」
申し訳なさそうに言って、カルラはロー達を空き家に招き入れました。
通されたのは、奥にあるリビングでした。
中には、空き家に逃げ込んでいた町の住人達がいて、壁に寄り掛かって座っていましたが、火の海に襲われた昨日よりも、悲痛な表情をしていて、まるで生気のすべてを悪魔に吸われたようでした。
ベッドの上では、エレンとミカサ、アルミンが身を寄せ合うようにして眠っていました。
昨日はいなかったグリシャも帰ってきていたようで、セレブ街の総合病院から追い出された怪我人の手当てをしていました。
でも、埃が舞い、カビ臭いリビングは不衛生で、とても処置をするのに最適な場所だとは思えません。
ですが、彼らにはもう、この空き家しか残っていなかったのです。
グリシャは、カルラ達からローのことを聞いていたらしく、すぐに立ち上がって、助けてくれたことを感謝し、迷惑をかけたことを謝りました。
「さっきの騒ぎは何だったんだ?」
ベポが、カルラと夫婦に訊ねました。
最初は言い淀んだ彼らでしたが、ローが話すように促すと、仕方がなさそうに口を開きました。
「出て行こうとしていたんです。」
最初に口を開いたのは、妻の方でした。
それに説明を付け足すように、旦那が、今日の昼間に起きた出来事を話しだしました。
「カジノオーナーのグロスが、土地の権利書を渡せば、
この島から引っ越す費用を出してくれると言いに来たんだ。」
「本当に最低な人です!!私達の町が海賊に燃やされたことを知って、
弱みに付け込もうとしているんです!!
ここまで、私達がどれだけ必死に町を守ってきたか…!!」
カルラが悔しそうに言いました。
ですが、その最低な策に乗って権利書を渡してしまおうとしていた夫婦は、居心地が悪そうにしながら、早口で続けました。
「どうせ権利書を持っていたって、あの町にはもう住めねぇよ…!
復興にどれだけ時間と金がかかると思ってるんだ…!」
「そうよ、もう諦めた方がいいに決まってる!!
あなただって、いつまでこんな寒いところに可愛い子供を閉じ込めておく気なの?」
子供のことまで持ち出されてしまったカルラは、とうとう何も言えなくなり、口を閉ざすしかありませんでした。
そういうことか——。
納得したように頷いた後、ローは、カルラに空き家に逃げ込んでいる大人達を一箇所に集めさせました。
そして、全員が集まったの確認してから、口を開きました。
「お前達が聞きたくもねぇだろうことを話しに来た。」
ローが言うと、グリシャ達の表情が険しいものに変わりました。
これ以上の地獄はやめてくれ——。
そんなことを訴えるような視線を幾つも感じましたが、ローは敢えて無視をして、偵察班のリーダーが調べた情報を伝えました。
すべてを話し終えた頃には、一度真っ青になった顔は、次第に怒りで歪み、赤くなっていました。
憎しみが増幅していくほどに、身体中に血が巡り、彼らに生気が戻って行くようでした。
「それは本当なんですか?」
グリシャが疑いの眼差しをローに向けました。
すると、ローはコートのポケットから数枚のメモと写真を取り出しました。
今朝、偵察班のリーダーに渡したのと同じものです。
そこにあったのは、巨大カジノのオーナーであるグロスとアッカーマン夫妻を殺害した海賊団との密会写真や、彼らが繋がってカジノでイカサマを行い、不正に稼いでいる証拠の資料でした。
それを見たグリシャは、驚き目を見開いた後、グッと唇を噛みました。
「アッカーマン夫妻の字です…。彼らが、これを調べていたということですか?」
グリシャがそう言うと、町の住人達は驚いた顔をして近寄ってきました。
そして、グリシャの手元にあるメモと写真を覗き込み、一様に目を見開きます。
「そうだろうな。
それは、あのガキの写真を探しに行ったときになまえが見つけて俺に持ってきたものだ。
この写真が入ってた箱の底に隠すように入ってたらしい。」
「はい、そうです。箱は必要かと訊ねたときに、ミカサの表情は変わりませんでした。
彼女もこの写真やメモの存在は知らないようです。」
ローに視線を向けられ、なまえが頷きながら言いました。
それを見ていたグリシャが、気づきたくもないことに気づき、ハッとしました。
「もしかして…、これがバレたから、アッカーマンさん達は、
殺されたんですか…?人身売買の為に襲われたんじゃなくて…?」
「ガキがワノ国出身の母親を売るという話を聞いたのは嘘じゃねぇだろうから、
自分の手は汚さずに、邪魔なアッカーマン夫婦を消そうとしたグロスの口車に、
バカな海賊が乗っちまったってところだと思う。」
答えたのは、ペンギンでした。
グリシャだけではなく、この町に残っていた他の男達も悔しそうに顔を歪めました。
そこには、驚きと、彼らへの感嘆、そして、懺悔。いろんな感情が混ざり合わさっているようでした。
「そして、うちの偵察班が、グロスとアッカーマン夫婦を殺した海賊団がまだつるんでるのを確認した。」
「え!?」
「奴らは、どんな手段を使ってでも今残ってる住人を町から追い出して
巨大カジノの拡大計画を遂行するつもりだ。
たとえば————、町を火の海にして住んでる人間ごと燃やし尽くすとかな。」
ローが言うと、町の住人達の顔から血の気がサーッと引いていきました。
そうです。昨日の火事はすべて、裏でグロスが手引きをしていたのです。
エレンは、偶々、海賊がガソリンを持ってやって来たところに出くわしてしまったにすぎません。
むしろ、彼に煽られた海賊達が、カッとなってその場でガソリンを撒いてくれたので、大人達がすぐに大火事に気づくことが出来たのです。
なぜなら、本来のグロスとの計画では、住人が寝静まった真夜中に、あの町は火の海になる予定だったからです。
あまりに衝撃的な事実にシンと静まり返っている中、カルラが呆然とした顔のままで口を開きました。
「それじゃあ…。」
カルラは震える声でそこまで言って、一度口を閉じました。
全員の視線がカルラに集まった頃、彼女はまた、小さく息を吸ってから続けます。
「あの火事は…、エレンの…、エレンのせいじゃ、ないんですか…?」
「あぁ。すべて、グロスの悪策だ。
むしろ、アイツのおかげですぐに火事に気がつけたことを感謝するんだな。」
「そう、ですか。そう…。エレンのせいじゃなかった。
エレンのせいじゃ…。」
よかった——。
カルラが最後にそう呟いた瞬間、彼女の大きな瞳からポロリと大粒の涙が零れ落ちていきました。
それが引金になったように、カルラは顔を両手で覆って泣き出しました。
カルラを守るように抱きしめたグリシャも、唇を噛み、必死に涙を堪えているようでした。
今までずっと、自分の息子のせいで、大切な町と大切な人達の帰る場所を奪ってしまったと苦しんでいたのでしょう。
「許せねぇ…!!許せねぇよ、あの野郎!!」
「あぁ、本当だ!!何が、引っ越しの費用を出してやる、だ!!
俺達の故郷を奪った張本人のくせに!!」
町の住人達が口々に怒鳴り声を上げます。
グロスのしたことは許せ難い犯罪行為です。
今すぐに海軍に連絡を——、と言い出した住人もいました。
ですが——。
「まぁ、待て。お前ら。」
奮起して今にも空き家を飛び出しグロスの元へ走ろうとしていた町の男達を、ローがなだめました。
ですが、彼らは、殺されかけ帰る場所まで奪われているのに、黙ってなどいられないと騒ぎ立てます。
そんな彼らを尻目に、ローは、近くのソファに深く腰掛けると、自信たっぷりに口の端を上げました。
「肥えた金の亡者を、馬鹿みてぇにふんぞり返るデカい椅子から
引きずりおろす策がある。」
ありえない——。
町の住人達は、想像もしない大きな話に、驚愕の表情を隠し切れません。
だって、グロスはこの島の一番の成功者です。
今や王のように君臨し、どんな横暴なことをされても、誰も陰口すら言えません。
そんな男をその立場から引きずりおろすなんて、出来るわけがありません。
もしも、それこそ海賊の口車に乗って、勝ち目のほとんどない賭けに出てしまって、失敗してしまったらどうなるのか。
愚問過ぎて、考えるのも恐ろしいことです。
でも、もしそれが出来るのなら——。
最初に覚悟をして、口を開いたのは、グリシャでした。
「それは…どんな策だい?」
「お前らはただ、逃げればいい。」
「え…?」
「土地の権利書も、アイツが欲しいというもん、全部くれてやれ。」
「な…!?何を言ってるんだ!?
この土地も、あの町も、私達の大切な帰る場所なんだ!!
アッカーマンさん達が命をかけて守ったものでもある!!絶対に渡せない!!」
ローのありえない策に、いつもは温厚なグリシャが、声を荒げました。
それに続けとばかりに、他の住人達も怒りだしました。
ですが、それだって、ローにとっては想定内です。
なまえやベポ達も、予想をしていた反応に、驚きも焦りもしていませんでした。
そして、自分達の船長が考えた作戦に間違いはないことも、絶対に成功することも、それが必ず町の住人達の為になることも、確信していました。
「ゴチャゴチャ言ってねぇで黙っておれに従え…。
取るべきイスは必ず奪ってやる。」
ローは、喚き散らす住人達にそう告げると、さらに続けました。
「今度は、お前達が、デカい椅子に座ってふんぞり返る番だって言ってんだよ。」
ニヤリ——。
ローが口の端を上げました。
悪魔のようなその笑みは、もうすでに、勝利を確信しているようでした。
家から飛び出そうとしていた夫婦も、昨日、自分達を命懸けで助けてくれた彼らを無下に出来ないと思ったのか、半信半疑そうではありましたが、一緒に空き家に戻ることを決めてくれました。
「昨日は本当にありがとうございました。
どうぞ。何も、おもてなしは出来ませんが…。」
申し訳なさそうに言って、カルラはロー達を空き家に招き入れました。
通されたのは、奥にあるリビングでした。
中には、空き家に逃げ込んでいた町の住人達がいて、壁に寄り掛かって座っていましたが、火の海に襲われた昨日よりも、悲痛な表情をしていて、まるで生気のすべてを悪魔に吸われたようでした。
ベッドの上では、エレンとミカサ、アルミンが身を寄せ合うようにして眠っていました。
昨日はいなかったグリシャも帰ってきていたようで、セレブ街の総合病院から追い出された怪我人の手当てをしていました。
でも、埃が舞い、カビ臭いリビングは不衛生で、とても処置をするのに最適な場所だとは思えません。
ですが、彼らにはもう、この空き家しか残っていなかったのです。
グリシャは、カルラ達からローのことを聞いていたらしく、すぐに立ち上がって、助けてくれたことを感謝し、迷惑をかけたことを謝りました。
「さっきの騒ぎは何だったんだ?」
ベポが、カルラと夫婦に訊ねました。
最初は言い淀んだ彼らでしたが、ローが話すように促すと、仕方がなさそうに口を開きました。
「出て行こうとしていたんです。」
最初に口を開いたのは、妻の方でした。
それに説明を付け足すように、旦那が、今日の昼間に起きた出来事を話しだしました。
「カジノオーナーのグロスが、土地の権利書を渡せば、
この島から引っ越す費用を出してくれると言いに来たんだ。」
「本当に最低な人です!!私達の町が海賊に燃やされたことを知って、
弱みに付け込もうとしているんです!!
ここまで、私達がどれだけ必死に町を守ってきたか…!!」
カルラが悔しそうに言いました。
ですが、その最低な策に乗って権利書を渡してしまおうとしていた夫婦は、居心地が悪そうにしながら、早口で続けました。
「どうせ権利書を持っていたって、あの町にはもう住めねぇよ…!
復興にどれだけ時間と金がかかると思ってるんだ…!」
「そうよ、もう諦めた方がいいに決まってる!!
あなただって、いつまでこんな寒いところに可愛い子供を閉じ込めておく気なの?」
子供のことまで持ち出されてしまったカルラは、とうとう何も言えなくなり、口を閉ざすしかありませんでした。
そういうことか——。
納得したように頷いた後、ローは、カルラに空き家に逃げ込んでいる大人達を一箇所に集めさせました。
そして、全員が集まったの確認してから、口を開きました。
「お前達が聞きたくもねぇだろうことを話しに来た。」
ローが言うと、グリシャ達の表情が険しいものに変わりました。
これ以上の地獄はやめてくれ——。
そんなことを訴えるような視線を幾つも感じましたが、ローは敢えて無視をして、偵察班のリーダーが調べた情報を伝えました。
すべてを話し終えた頃には、一度真っ青になった顔は、次第に怒りで歪み、赤くなっていました。
憎しみが増幅していくほどに、身体中に血が巡り、彼らに生気が戻って行くようでした。
「それは本当なんですか?」
グリシャが疑いの眼差しをローに向けました。
すると、ローはコートのポケットから数枚のメモと写真を取り出しました。
今朝、偵察班のリーダーに渡したのと同じものです。
そこにあったのは、巨大カジノのオーナーであるグロスとアッカーマン夫妻を殺害した海賊団との密会写真や、彼らが繋がってカジノでイカサマを行い、不正に稼いでいる証拠の資料でした。
それを見たグリシャは、驚き目を見開いた後、グッと唇を噛みました。
「アッカーマン夫妻の字です…。彼らが、これを調べていたということですか?」
グリシャがそう言うと、町の住人達は驚いた顔をして近寄ってきました。
そして、グリシャの手元にあるメモと写真を覗き込み、一様に目を見開きます。
「そうだろうな。
それは、あのガキの写真を探しに行ったときになまえが見つけて俺に持ってきたものだ。
この写真が入ってた箱の底に隠すように入ってたらしい。」
「はい、そうです。箱は必要かと訊ねたときに、ミカサの表情は変わりませんでした。
彼女もこの写真やメモの存在は知らないようです。」
ローに視線を向けられ、なまえが頷きながら言いました。
それを見ていたグリシャが、気づきたくもないことに気づき、ハッとしました。
「もしかして…、これがバレたから、アッカーマンさん達は、
殺されたんですか…?人身売買の為に襲われたんじゃなくて…?」
「ガキがワノ国出身の母親を売るという話を聞いたのは嘘じゃねぇだろうから、
自分の手は汚さずに、邪魔なアッカーマン夫婦を消そうとしたグロスの口車に、
バカな海賊が乗っちまったってところだと思う。」
答えたのは、ペンギンでした。
グリシャだけではなく、この町に残っていた他の男達も悔しそうに顔を歪めました。
そこには、驚きと、彼らへの感嘆、そして、懺悔。いろんな感情が混ざり合わさっているようでした。
「そして、うちの偵察班が、グロスとアッカーマン夫婦を殺した海賊団がまだつるんでるのを確認した。」
「え!?」
「奴らは、どんな手段を使ってでも今残ってる住人を町から追い出して
巨大カジノの拡大計画を遂行するつもりだ。
たとえば————、町を火の海にして住んでる人間ごと燃やし尽くすとかな。」
ローが言うと、町の住人達の顔から血の気がサーッと引いていきました。
そうです。昨日の火事はすべて、裏でグロスが手引きをしていたのです。
エレンは、偶々、海賊がガソリンを持ってやって来たところに出くわしてしまったにすぎません。
むしろ、彼に煽られた海賊達が、カッとなってその場でガソリンを撒いてくれたので、大人達がすぐに大火事に気づくことが出来たのです。
なぜなら、本来のグロスとの計画では、住人が寝静まった真夜中に、あの町は火の海になる予定だったからです。
あまりに衝撃的な事実にシンと静まり返っている中、カルラが呆然とした顔のままで口を開きました。
「それじゃあ…。」
カルラは震える声でそこまで言って、一度口を閉じました。
全員の視線がカルラに集まった頃、彼女はまた、小さく息を吸ってから続けます。
「あの火事は…、エレンの…、エレンのせいじゃ、ないんですか…?」
「あぁ。すべて、グロスの悪策だ。
むしろ、アイツのおかげですぐに火事に気がつけたことを感謝するんだな。」
「そう、ですか。そう…。エレンのせいじゃなかった。
エレンのせいじゃ…。」
よかった——。
カルラが最後にそう呟いた瞬間、彼女の大きな瞳からポロリと大粒の涙が零れ落ちていきました。
それが引金になったように、カルラは顔を両手で覆って泣き出しました。
カルラを守るように抱きしめたグリシャも、唇を噛み、必死に涙を堪えているようでした。
今までずっと、自分の息子のせいで、大切な町と大切な人達の帰る場所を奪ってしまったと苦しんでいたのでしょう。
「許せねぇ…!!許せねぇよ、あの野郎!!」
「あぁ、本当だ!!何が、引っ越しの費用を出してやる、だ!!
俺達の故郷を奪った張本人のくせに!!」
町の住人達が口々に怒鳴り声を上げます。
グロスのしたことは許せ難い犯罪行為です。
今すぐに海軍に連絡を——、と言い出した住人もいました。
ですが——。
「まぁ、待て。お前ら。」
奮起して今にも空き家を飛び出しグロスの元へ走ろうとしていた町の男達を、ローがなだめました。
ですが、彼らは、殺されかけ帰る場所まで奪われているのに、黙ってなどいられないと騒ぎ立てます。
そんな彼らを尻目に、ローは、近くのソファに深く腰掛けると、自信たっぷりに口の端を上げました。
「肥えた金の亡者を、馬鹿みてぇにふんぞり返るデカい椅子から
引きずりおろす策がある。」
ありえない——。
町の住人達は、想像もしない大きな話に、驚愕の表情を隠し切れません。
だって、グロスはこの島の一番の成功者です。
今や王のように君臨し、どんな横暴なことをされても、誰も陰口すら言えません。
そんな男をその立場から引きずりおろすなんて、出来るわけがありません。
もしも、それこそ海賊の口車に乗って、勝ち目のほとんどない賭けに出てしまって、失敗してしまったらどうなるのか。
愚問過ぎて、考えるのも恐ろしいことです。
でも、もしそれが出来るのなら——。
最初に覚悟をして、口を開いたのは、グリシャでした。
「それは…どんな策だい?」
「お前らはただ、逃げればいい。」
「え…?」
「土地の権利書も、アイツが欲しいというもん、全部くれてやれ。」
「な…!?何を言ってるんだ!?
この土地も、あの町も、私達の大切な帰る場所なんだ!!
アッカーマンさん達が命をかけて守ったものでもある!!絶対に渡せない!!」
ローのありえない策に、いつもは温厚なグリシャが、声を荒げました。
それに続けとばかりに、他の住人達も怒りだしました。
ですが、それだって、ローにとっては想定内です。
なまえやベポ達も、予想をしていた反応に、驚きも焦りもしていませんでした。
そして、自分達の船長が考えた作戦に間違いはないことも、絶対に成功することも、それが必ず町の住人達の為になることも、確信していました。
「ゴチャゴチャ言ってねぇで黙っておれに従え…。
取るべきイスは必ず奪ってやる。」
ローは、喚き散らす住人達にそう告げると、さらに続けました。
「今度は、お前達が、デカい椅子に座ってふんぞり返る番だって言ってんだよ。」
ニヤリ——。
ローが口の端を上げました。
悪魔のようなその笑みは、もうすでに、勝利を確信しているようでした。