◇No.28◇セレブの街の人達です
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不機嫌が服を着て歩く、を体現しているガリーナは、両腕を組んで、セレブの街を練り歩いていました。
お金でもあれば、買えるものをとにかく買いまくってイライラの解消が出来たかもしれませんが、ケチなグロスは、ガリーナにお小遣いを渡してくれていませんでした。
欲しいものがあれば自分に言うように——、それがグロスとの約束です。
これは、若くて美人なガリーナに大金を持たせ、他の男のところへ逃げてしまうのを懸念したグロスの考えでもありました。
ですが、結局、ガリーナは、近くを通りがかる金持ちの男を誘惑しては、お金を出させているのです。
今日も、カモになりそうな男を探そうと、セレブ街を見渡したガリーナは、向かいのショップの前にある時計台の下に、一際目を引くオーラを放つ長身の男を見つけました。
身体を覆いつくすようなロングの黒い毛皮のコートを羽織っていましたが、それでは隠し切れないスタイルの良さは、そばを通る男達とは違う次元の生き物のように見えるほどです。
毛皮のキャスケットを深くかぶっていても、整った綺麗な顔すら隠せていません。
顎髭からは、色気までもが溢れています。
それに、ガリーナは、その男に見覚えもありました。
彼は、最悪の世代として名を轟かせ、少し前まで王下七武海に君臨した海賊、トラファルガー・ローでした。
海賊に詳しくない女や子供だって知っている彼のことを、ガリーナは違う意味でよく知っていました。
数年前、まだ、前半の海にいた頃、身体の関係になったことがあるのです。
あの頃はまだ、ルーキーの海賊と呼ばれていた彼でしたが、それでも、かなりのやり手で、常に大金を懐に持っていました。
グロスと違ってケチでもなく、ガリーナが欲しいと言ったものは何でも買ってくれました。
恐らく、ダメだと言って、ガリーナが駄々をこねるのが面倒だったということなのでしょうが、理由が何であれ、自分の手に入れば構わなかったので、気にもなりませんでした。
見た目も良く、羽振りもいいローは、ガリーナがカモにした男の中で、一番の男でした。
一緒に街を歩けば、殆どの女が羨ましそうに振り返っていたのを今でも覚えています。
ガリーナにとって、最高の男だったのです。
ベッドでのテクニックだって一流で、危険な航海に出るローと別れてからしばらくは、他の男では、満足できなくなったほどでした。
いえ、もしかしたら今も、ローのときほど、ベッドの上で幸福を感じることはないのかもしれません。
(こんなところで出逢えるなんて、運命だわ。)
さっきまで不機嫌だったガリーナは、ローを見つけた途端に、ご機嫌に口の端を上げました。
世界に7点しかない毛皮のコートを手に入れ損ねた今、このタイミングだったから、余計に嬉しかったのです。
何でも買ってくれたローなら、絶対に買ってくれる自信がありました。
だって、ローの噂ならば、わざわざ聞こうとしなくても耳に入ってきます。
つい最近は、あのドフラミンゴを打ち負かしたローが、大金を持っていないわけがないとも考えていました。
それから、本当のことを言えば、ガリーナは、まだローが忘れられていなかったのです。
再会の場所がこのセレブの街だということも、ガリーナの心を躍らせました。
世界で一番可愛い自分に最も相応しい場所だと思っていたからです。
ガリーナは、ショップのウィンドウに映る自分を確認しました。
髪を整え、口紅を塗り直し、グロスに買ってもらったばかりのお気に入りのワンピースに皴がひとつもないことを確かめます。
(よし、私は今日も世界で一番可愛い。)
満足気に頷いたガリーナは、可愛い笑顔を作ってから、ローの元へ駆け寄りました。
ローは、時計台の柱に寄り掛かって、僅かに目を伏せ、眉間に皴を寄せて何かを考えているようでした。
その難しそうな横顔すら、魅力的に見えます。
チラチラと彼を見ている女達の視線にすぐに気がついたガリーナは、まるで自分のことのように自慢気になりました。
「ローっ!」
ガリーナが声をかけると、ローが顔を上げました。
久しぶりにローと視線が絡むと、ドキリ、とガリーナの胸は高鳴ります。
(あぁ、やっぱり、私が見た中で一番いい男だわ。)
ガリーナは、ときめく胸のまま、素直にそう思いました。
だって、世界で一番可愛いのは自分だというくらい絶対に、ローは世界で一番のいい男だと確信していたのです。
「会いたかったわ…!」
ガリーナは、ローに飛びつきました。
腰に抱き着き、背中に手をまわします。
そして、胸を惜しみなく押しつけながら、お得意の上目遣いでローを見上げました。
「ずっとね、会いたいと思ってたのよ?ローと別れてからすごく寂しかったわ。
でも、こんなところで逢えるなんて、私達ってやっぱり運命の赤い糸で結ばれてるのね。」
ガリーナは、大きな瞳で上目遣いをしながら、わざと多めに瞬きをして、長い睫毛をバタバタと羽ばたかせます。
腰に抱き着くガリーナを、ローは見下ろしていました。
目も合っていました。
だからこそ、必ずローは、また昔のように、自分の細い腰に手をまわしてくれると自信がありました。
ですが——。
「ロー、お待たせしました。ただいま戻りました。」
黒い毛皮のコートの向こうから、若い女が顔を出しました。
ガリーナは、腰に抱き着いたままの格好で思わず眉を顰めました。
(誰、この女。)
時代遅れな白いセーターと柘榴色のロングスカートを着こなす、ローとはあまりにも不釣り合いにしか見えないその女に、ガリーナは見覚えはありませんでした。
ローが船長をしているハートの海賊団には、女の船員が1人いたことを覚えていましたが、それとも違いました。
それに、ガリーナのことを目の敵にしていたなんとかというあの女の船員なら、再会した途端に、あの下品な口で悪口を捲し立てそうです。
あれから数年が経っているので、新しく女の船員が増えたということも考えられそうですが、船員達は揃いも揃ってダサい白のつなぎを着ていたので、その可能性はすぐに却下されました。
とりあえず、彼のことを呼び捨てにしているので、それなりに親しい仲であることだけは、凄く不愉快でしたがガリーナは認めざるを得ませんでした。
(でも、私の方が可愛いわ。)
ガリーナはふふんと鼻を鳴らしました。
どんな女だって世界で一番可愛い自分には敵うはずがない、とガリーナは自分に自信があったのです。
ですが、ガリーナと絡んでいたはずのローの視線は、呆気なく、その若い女の方へ向いてしまいました。
「迷子のガキの親は見つかったのか。」
「はい、ヒストリアのお友達が迎えに来てくれました。
誘拐と疑われてとても怒られましたが、誤解もとけたのでもう問題ありません。
———彼女は、ローのお友達ですか?」
ローと話しをしていた若い女が、ガリーナの方を向きました。
ガリーナは、腰に抱き着いている腕に力を込めました。
「えぇ、私とローは、昔からとーーっても深いオトモダチなの。
あなたは?ローの何かしら?」
抱き着いてるローの腰から離れたガリーナは、含みを持たせるような笑みを浮かべて言いました。
若い女が、どれだけローと親しくあろうが、絶対に恋人ではないと、ガリーナは自信がありました。
昔、ガリーナとローが身体の関係にあった頃、容姿も羽振りも良く、将来有望株の海賊だったローとなら恋人になってもいいと思ったことがありました。
そして、それをローにも伝えたのですが、答えはノーでした。
男女間の脆い愛を信じることも、続ける努力をすることも面倒だと考えているローは、恋人を作る気がそもそもなかったのです。
それに、ローは、自分の野望に女は不要どころか邪魔だとまで言ってのけたのです。
だから、世界で一番可愛い自分が誘っても落ちなかった男が、恋人は要らないという考えを改めて、こんなダサい女を恋人にするはずがないと思ったのです。
だから、わざと、目の前の女を煽るような言い方をしました。
女も嫉妬するほどの美貌とスタイルを持っていることは、ガリーナ本人も過去の経験からよく理解しています。
いつも、こうすれば、大抵の女は、ショックを受けて悲しそうな顔をしていました。
そうでなければ、プライドを傷つけられたと、悔しそうに唇を噛むかのどちらかです。
そんな女達の反応は、いつもガリーナを優越感にひたらせてくれました。
今回もそうなるはずでした。
ですが、目の前にいる女の反応は、過去のどれとも違っていました。
「そうですか。はじめまして、私はローの大好きな人です。」
「・・・・は?」
「私もローが大好きです。」
「はぁ???」
思いっきり仲を疑うような言葉を聞いておいて、目の前の女は、聞いたこともない自己紹介を始めました。
眉を顰めて、間抜けに口を開けるガリーナの反応も含めて、女の自己紹介が可笑しかったのか、堪らず、ローは軽く握った手で口元を隠して、ククッと喉を鳴らしました。
そんなローを、女が不思議そうに見上げました。
「何が可笑しいですか?」
「いや。」
ローは、口元を手で隠して、笑いを噛み殺していました。
どうして、大好きな人、という言葉を否定しないのか、ガリーナには全く分かりませんでした。
「悪ぃが、運命の赤い糸で結ばれたカモなら他をあたってくれ。
俺は今から、大好きな人と買い物なんだ。お前の相手をする暇はねぇ。」
ローは、おかしな自己紹介をした女の腰に手をまわしました。
そして、呆然としているガリーナの代わりに、ダサいファッションの女を連れて立ち去っていきます。
そんなローとすれ違う度に、女達が頬を染めて見送っていました。
一番気に入らないのは、女達と同じように、金持ちの男までも立ち止まり、頬を染めていたことです。
ギリリ———。
今の自分の状況を把握したガリーナは、憎々し気に爪を噛みました。
世界で一番可愛く、女磨きに余念のない自分を差し置いて、お洒落もせず、女磨きどころか着飾りもしないあの女が、ローを独り占して、女達に羨望の眼差しを向けられていることも、男達の好意の視線を向けられていることも、あの若い女のすべてが、心から許せなかったのです。
お金でもあれば、買えるものをとにかく買いまくってイライラの解消が出来たかもしれませんが、ケチなグロスは、ガリーナにお小遣いを渡してくれていませんでした。
欲しいものがあれば自分に言うように——、それがグロスとの約束です。
これは、若くて美人なガリーナに大金を持たせ、他の男のところへ逃げてしまうのを懸念したグロスの考えでもありました。
ですが、結局、ガリーナは、近くを通りがかる金持ちの男を誘惑しては、お金を出させているのです。
今日も、カモになりそうな男を探そうと、セレブ街を見渡したガリーナは、向かいのショップの前にある時計台の下に、一際目を引くオーラを放つ長身の男を見つけました。
身体を覆いつくすようなロングの黒い毛皮のコートを羽織っていましたが、それでは隠し切れないスタイルの良さは、そばを通る男達とは違う次元の生き物のように見えるほどです。
毛皮のキャスケットを深くかぶっていても、整った綺麗な顔すら隠せていません。
顎髭からは、色気までもが溢れています。
それに、ガリーナは、その男に見覚えもありました。
彼は、最悪の世代として名を轟かせ、少し前まで王下七武海に君臨した海賊、トラファルガー・ローでした。
海賊に詳しくない女や子供だって知っている彼のことを、ガリーナは違う意味でよく知っていました。
数年前、まだ、前半の海にいた頃、身体の関係になったことがあるのです。
あの頃はまだ、ルーキーの海賊と呼ばれていた彼でしたが、それでも、かなりのやり手で、常に大金を懐に持っていました。
グロスと違ってケチでもなく、ガリーナが欲しいと言ったものは何でも買ってくれました。
恐らく、ダメだと言って、ガリーナが駄々をこねるのが面倒だったということなのでしょうが、理由が何であれ、自分の手に入れば構わなかったので、気にもなりませんでした。
見た目も良く、羽振りもいいローは、ガリーナがカモにした男の中で、一番の男でした。
一緒に街を歩けば、殆どの女が羨ましそうに振り返っていたのを今でも覚えています。
ガリーナにとって、最高の男だったのです。
ベッドでのテクニックだって一流で、危険な航海に出るローと別れてからしばらくは、他の男では、満足できなくなったほどでした。
いえ、もしかしたら今も、ローのときほど、ベッドの上で幸福を感じることはないのかもしれません。
(こんなところで出逢えるなんて、運命だわ。)
さっきまで不機嫌だったガリーナは、ローを見つけた途端に、ご機嫌に口の端を上げました。
世界に7点しかない毛皮のコートを手に入れ損ねた今、このタイミングだったから、余計に嬉しかったのです。
何でも買ってくれたローなら、絶対に買ってくれる自信がありました。
だって、ローの噂ならば、わざわざ聞こうとしなくても耳に入ってきます。
つい最近は、あのドフラミンゴを打ち負かしたローが、大金を持っていないわけがないとも考えていました。
それから、本当のことを言えば、ガリーナは、まだローが忘れられていなかったのです。
再会の場所がこのセレブの街だということも、ガリーナの心を躍らせました。
世界で一番可愛い自分に最も相応しい場所だと思っていたからです。
ガリーナは、ショップのウィンドウに映る自分を確認しました。
髪を整え、口紅を塗り直し、グロスに買ってもらったばかりのお気に入りのワンピースに皴がひとつもないことを確かめます。
(よし、私は今日も世界で一番可愛い。)
満足気に頷いたガリーナは、可愛い笑顔を作ってから、ローの元へ駆け寄りました。
ローは、時計台の柱に寄り掛かって、僅かに目を伏せ、眉間に皴を寄せて何かを考えているようでした。
その難しそうな横顔すら、魅力的に見えます。
チラチラと彼を見ている女達の視線にすぐに気がついたガリーナは、まるで自分のことのように自慢気になりました。
「ローっ!」
ガリーナが声をかけると、ローが顔を上げました。
久しぶりにローと視線が絡むと、ドキリ、とガリーナの胸は高鳴ります。
(あぁ、やっぱり、私が見た中で一番いい男だわ。)
ガリーナは、ときめく胸のまま、素直にそう思いました。
だって、世界で一番可愛いのは自分だというくらい絶対に、ローは世界で一番のいい男だと確信していたのです。
「会いたかったわ…!」
ガリーナは、ローに飛びつきました。
腰に抱き着き、背中に手をまわします。
そして、胸を惜しみなく押しつけながら、お得意の上目遣いでローを見上げました。
「ずっとね、会いたいと思ってたのよ?ローと別れてからすごく寂しかったわ。
でも、こんなところで逢えるなんて、私達ってやっぱり運命の赤い糸で結ばれてるのね。」
ガリーナは、大きな瞳で上目遣いをしながら、わざと多めに瞬きをして、長い睫毛をバタバタと羽ばたかせます。
腰に抱き着くガリーナを、ローは見下ろしていました。
目も合っていました。
だからこそ、必ずローは、また昔のように、自分の細い腰に手をまわしてくれると自信がありました。
ですが——。
「ロー、お待たせしました。ただいま戻りました。」
黒い毛皮のコートの向こうから、若い女が顔を出しました。
ガリーナは、腰に抱き着いたままの格好で思わず眉を顰めました。
(誰、この女。)
時代遅れな白いセーターと柘榴色のロングスカートを着こなす、ローとはあまりにも不釣り合いにしか見えないその女に、ガリーナは見覚えはありませんでした。
ローが船長をしているハートの海賊団には、女の船員が1人いたことを覚えていましたが、それとも違いました。
それに、ガリーナのことを目の敵にしていたなんとかというあの女の船員なら、再会した途端に、あの下品な口で悪口を捲し立てそうです。
あれから数年が経っているので、新しく女の船員が増えたということも考えられそうですが、船員達は揃いも揃ってダサい白のつなぎを着ていたので、その可能性はすぐに却下されました。
とりあえず、彼のことを呼び捨てにしているので、それなりに親しい仲であることだけは、凄く不愉快でしたがガリーナは認めざるを得ませんでした。
(でも、私の方が可愛いわ。)
ガリーナはふふんと鼻を鳴らしました。
どんな女だって世界で一番可愛い自分には敵うはずがない、とガリーナは自分に自信があったのです。
ですが、ガリーナと絡んでいたはずのローの視線は、呆気なく、その若い女の方へ向いてしまいました。
「迷子のガキの親は見つかったのか。」
「はい、ヒストリアのお友達が迎えに来てくれました。
誘拐と疑われてとても怒られましたが、誤解もとけたのでもう問題ありません。
———彼女は、ローのお友達ですか?」
ローと話しをしていた若い女が、ガリーナの方を向きました。
ガリーナは、腰に抱き着いている腕に力を込めました。
「えぇ、私とローは、昔からとーーっても深いオトモダチなの。
あなたは?ローの何かしら?」
抱き着いてるローの腰から離れたガリーナは、含みを持たせるような笑みを浮かべて言いました。
若い女が、どれだけローと親しくあろうが、絶対に恋人ではないと、ガリーナは自信がありました。
昔、ガリーナとローが身体の関係にあった頃、容姿も羽振りも良く、将来有望株の海賊だったローとなら恋人になってもいいと思ったことがありました。
そして、それをローにも伝えたのですが、答えはノーでした。
男女間の脆い愛を信じることも、続ける努力をすることも面倒だと考えているローは、恋人を作る気がそもそもなかったのです。
それに、ローは、自分の野望に女は不要どころか邪魔だとまで言ってのけたのです。
だから、世界で一番可愛い自分が誘っても落ちなかった男が、恋人は要らないという考えを改めて、こんなダサい女を恋人にするはずがないと思ったのです。
だから、わざと、目の前の女を煽るような言い方をしました。
女も嫉妬するほどの美貌とスタイルを持っていることは、ガリーナ本人も過去の経験からよく理解しています。
いつも、こうすれば、大抵の女は、ショックを受けて悲しそうな顔をしていました。
そうでなければ、プライドを傷つけられたと、悔しそうに唇を噛むかのどちらかです。
そんな女達の反応は、いつもガリーナを優越感にひたらせてくれました。
今回もそうなるはずでした。
ですが、目の前にいる女の反応は、過去のどれとも違っていました。
「そうですか。はじめまして、私はローの大好きな人です。」
「・・・・は?」
「私もローが大好きです。」
「はぁ???」
思いっきり仲を疑うような言葉を聞いておいて、目の前の女は、聞いたこともない自己紹介を始めました。
眉を顰めて、間抜けに口を開けるガリーナの反応も含めて、女の自己紹介が可笑しかったのか、堪らず、ローは軽く握った手で口元を隠して、ククッと喉を鳴らしました。
そんなローを、女が不思議そうに見上げました。
「何が可笑しいですか?」
「いや。」
ローは、口元を手で隠して、笑いを噛み殺していました。
どうして、大好きな人、という言葉を否定しないのか、ガリーナには全く分かりませんでした。
「悪ぃが、運命の赤い糸で結ばれたカモなら他をあたってくれ。
俺は今から、大好きな人と買い物なんだ。お前の相手をする暇はねぇ。」
ローは、おかしな自己紹介をした女の腰に手をまわしました。
そして、呆然としているガリーナの代わりに、ダサいファッションの女を連れて立ち去っていきます。
そんなローとすれ違う度に、女達が頬を染めて見送っていました。
一番気に入らないのは、女達と同じように、金持ちの男までも立ち止まり、頬を染めていたことです。
ギリリ———。
今の自分の状況を把握したガリーナは、憎々し気に爪を噛みました。
世界で一番可愛く、女磨きに余念のない自分を差し置いて、お洒落もせず、女磨きどころか着飾りもしないあの女が、ローを独り占して、女達に羨望の眼差しを向けられていることも、男達の好意の視線を向けられていることも、あの若い女のすべてが、心から許せなかったのです。